第68話 フィーの応援
20180710 更新1回目
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俺とフィーは部屋に戻った。
順番んいお風呂に入り、その後はベッドで寄り添いながら過ごしている。
王都に来てから、ようやくゆっくりと二人の時間を過ごせていた。
「エクス……」
囁くような優しい声音で、フィーが俺の名を呼ぶ。
「どうした?」
「呼んでみただけ」
俺が顔を向けるとフィーは満面の花を咲かす。
それが心の底から可愛くて、俺の胸は締め付けられる。
「フィー」
「なに?」
「呼んでみただけだ」
「もう……真似しちゃヤダよ……」
自然に笑みを浮かべ合う俺たちは抱きしめ合う。
フィーの温もりが心地いい。
ただ傍にいるだけなのに不思議なほど安らげる。
「ずっとこうしていたなぁ……」
フィーとの関係が深まっていくことが関係しているのか、少しずつ結合指輪の力が強くなっている。
はっきりとは聞こえなくても、互いを思う気持ちはしっかりと伝わっていた。
「そうだ!
エクス……明日の試合に向けてボクがキミを応援しちゃう!」
「応援?」
「うん! 試合の手助けはできないけど……キミの身体を癒しちゃう!
エクス、ベッドにうつ伏せになって」
楽しそうなフィーに促されて、言われるままに俺は身体を倒した。
そして、柔らかな何かが俺の身体に触れる。
もみもみ――と、腰の辺りが揉まれた。
「おわっ――」
「あ……くすぐったかったかな?」
「いや……」
どうやら皇女様はマッサージをしてくれているらしい。
正直、そこまで身体は疲れていないのだけど……。
「もみもみ、もみもみ……どうエクス? このくらいの力なら痛くない? もうちょっと強いほうがいいかな?」
「大丈夫……ちょうどいいくらいだよ」
「良かった。じゃあ、マッサージを続けるね」
でも、折角の好意なのだから受け取っておこう。
フィーが俺の為に一生懸命になってくれているのだ。
「エクスはリラックスしててね」
「ああ、ありがとうフィー」
それからフィーのマッサージは続いていく。
「エクスの身体……すごく引き締まってるね。
こうして触れてると、服の上からでもわかるくらい……」
「そうか?」
「うん……やっぱり男の子なんだよね……」
「……フィーの身体は柔らかいよな」
「え……?」
「あ――いや、変な意味じゃなくて……!?」
「ふふっ、そんな慌てなくていいよ。
ボクのこと……女の子って意識してくれてるんだよね」
「っ……あ、当たり前だろ」
「嬉しい。でも、今日はエッチなのはなしだからね。
勿論……エクスが望むなら別だけど……」
「そ、それは……」
甘い囁きに脳裏が痺れる。
鼓動が早くなっていく。
「――な~んてね。ふふっ、ドキドキした?」
「……した」
「ふふっ、ごめんね。照れてるエクスが可愛くて、からかいたくなっちゃった」
うつ伏せになっていてよかった。
きっと今、顔が赤くなっている。
こんなところフィーには見られたくない。
もしかしたら、何か悪戯されるのかな? なんて思っていたけど、どうやら今日は、そんなつもりはないらしい。
「ねぇ……エクス。
明日の試合、無茶はしないでね。
ボクの為にがんばってくれるのは嬉しいけど……試合の結果よりもボクはキミのことのほうがずっと大切だから」
「フィー……大丈夫だ。
無茶なんてしないよ……。
そうだ! 約束する。フィーが安心して見られるような試合をするって」
「安心……って、円卓の騎士と試合をするって聞くだけで、ドキドキだよ」
「なら……そうだな。――怪我一つせずに勝ってみせるよ」
少し考えて俺はそんな提案をした。
これもフィーを安心させる為だ。
「本当……?」
「ああ。
もしも約束を破ったら、フィーのお願いをなんでも聞く」
「わかった。
ボク、信じてるからね。
約束破ったら……その日はず~っとボクを抱き締めていること!」
そのくらいならお安い御用だ。
あれ? でも……ず~っとって、風呂の時とかも……?
少し疑問に思ったけど、
「あ――マッサージ、再開するね」
俺が無傷で勝てばいいだけどなので、問題はないだろう。
(……しかし、これはすごく気持ちいいなぁ)
マッサージのリラックス効果なのか、自然と瞼が重くなっていく。
マズい……このままでは絶対に眠ってしまう。
俺は念の為、無詠唱で部屋の周囲に防御魔法をかけた。
これで、今は……少しだけ……。
※
「エクス……?」
ボクはマッサージしながら大好きな彼の名を呼ぶ。
すると、
「zzz……」
可愛らしい寝息が返ってきた。
「眠っちゃったんだ……」
きっと疲れていたんだろう。
当然だ。
馬車での襲撃から、さっきの夕食会までほとんど休む間もなかったんだから。
「エクス……いつもボクを守ってくれてありがとう」
眠る彼に寄り添い、その横顔を見つめる。
エクスはすごく安らかな顔で眠っていた。
「このまま……ボクも眠っちゃおうかな?」
うん。
そうしよう。
決めて彼にくっ付き、瞳を閉じる。
「あったかい……」
大好きな彼の温もりに包まれながら、幸せな気持ちでボクは眠りについたのだった。
※
そして、円卓剣技祭当日の朝を迎えた。