第67話 パーティの終わり
20180707 更新1回目
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俺たちの挨拶の後、賑やかな夕食会が続いた。
貴族生徒と専属騎士、騎士見習いと教師陣を合わせて数百人はいるだろう。
「え、エクスさん……明日の試合、頑張ってくださいね。
わたくし、応援していますわ」
「怪我はされないように注意してくださいね。
フィリス様の専属騎士であるなら、」
「ああ、ありがとな」
フィーと共にのんびりと夕食を……と思っていた俺だが、さっきからこんな調子で、貴族生徒たちにに声を掛けられていた。
明日の円卓剣技際に向けて選手たちを鼓舞することが目的のパーティ……ということもあって気遣ってくれているのだろう。
「サミダレ、キミの武運を祈っている。
明日の試合学園の生徒としての誇りを見せてくれ」
「少しでも善戦できるよう努力するつもりだ」
「ガウル、お前もがんばれよな」
「言われずとも結果を残してみせるさ」
リン先輩やガウルも次から次に応援に来る生徒たちに答えていた。
「エクス師匠~! リン先輩~!」
続けて俺の下へティルクがやってきて……。
「ぬわっ!?」
ずっこけた。
そのままバフッ……と俺の胸元に顔を埋める。
「大丈夫か?」
「あ、す、すみま……」
俺が声を掛けると、少しドジな見習い騎士が顔を上げた。
すると時間が止まってしまったみたいに俺の目を見つめる。
「おい、どうしたんだ?」
「え、えと……あの……」
ティルクの表情が赤く染まっていく。
あまりにも真っ赤になってしまったので、熱でもあるのか心配になるくらいだった。
そんなティルクに、
「お、女騎士くん……不慮の事故だったのはわかるよ。
でも、そろそろエクスから離れてくれないかな?」
「そうね。
その豊かな胸を男性に押し付け続けているのは、どう考えても健全ではないと思うのだけれど?」
フィーとニースは口元に笑みをたたえつつ、敵を牽制するような鋭さのある声を向ける。
「はっ!?」
見習い女騎士は慌てて俺から身体を離した。
「ティルク……流石にドジが過ぎるぞ」
「リン先輩、すみません」
「謝るなら某ではないだろ?」
「は、はい。エクス師匠、申し訳ありませんでした」
深々と頭を下げるティルク。
どうやら、本気で反省しているようだ。
別にこのくらいなら謝るようなことでもないと思うが、一応のケジメだろう。
「俺は大丈夫だぞ。でも、気を付けるんだぞ」
「は、はい!」
俺が謝罪を受け入れると、ティルクは安堵したようだった。
「それでどうしたんだ?
俺とリンを呼んでいたみたいだけど……?」
「は、はい!
私も皆さんと同じです!
明日、試合に出場されるエクス師匠とリン先輩に一声掛けたくて……」
どうやらティルクも、俺たちを応援しようとしてくれたようだ。
「おい、おかしいだろ?
僕の名前が抜けているぞ!」
「……ついでにガウルも……」
「つ、ついで!?」
ガクン……と肩を落とすガウルの肩を、セレスティアはポンポンと叩いた。
「私、感動しました。
まさか円卓の騎士を――それも序列一位に勝つと宣言されるなんて!
みんなの前で円卓の騎士に勝つと宣言したエクス師匠の堂々たる姿は、目を閉じれば直ぐにでも思い出せます!」
興奮した様子で語るティルク。
そんな大したことを言った覚えはないのだが……。
「ああいう時……私は臆病になってしまうんです。
だから師匠は流石です。
私、師匠はきっと勝って信じてますから!」
ぐぐっ! と、ティルクは俺に迫って……きそうになって、自重していた。
フィーやニースの視線を気にしたのだろう。
以前から夢中になると周囲が見えなくなる悪癖があったが、それも少しずつ改善されてきているようだ。
「ありがとうな、ティルク。
お前の期待に応える為にも必ず勝つよ」
「はい!」
感謝を伝えると、彼女は心底嬉しそうな笑みを返してくれた。
「ふん……貴様があの騎士王に勝てるものか」
「騎士王?」
「貴様まさか、第一騎士の異名も知らぬのか……?」
呆れるように口を開くガウルだったが、俺は円卓の騎士序列1位の名前を思い出した。
「ああ、確か……ラグルド・ガラテンだったっけ?
そんな異名があるのか」
「試合相手の情報も知らぬとは……これでは勝ち目はないな」
「そんなことありません!
エクス師匠ならきっと勝ちます!」
むっとした様子で唇を尖らせるティルクに続き、
「女騎士くんの言う通りだよ。絶対にエクスが勝つ」
「そうね。エクスくんが負ける要素があるかしら?」
フィーとニースに口を揃えて反論した。
すると逃げ腰になるガウル。
「しかしガウルの気持ちもわからなくはないです。
円卓の騎士の名は某たち騎士を目指す者にとって憧憬であり力の象徴、他国にとっては絶望と畏怖の象徴とまで言われた方たちですから……」
だが、リンはフォローするように口を開いた。
彼女の神妙な表情は、円卓の騎士に対する様々な感情を映しているようだった。
「ふふ~ん! みんな、円卓の騎士について話してみるみたいだね!」
そこに新聞娘のミーナがやってきた。
「良かったら明日の試合に向けて、円卓の騎士の情報を提供しちゃうよ!
あたしの独自の情報も入ってるけど信憑性は高いよ~!
リン先輩が心から尊敬してるレイラ・ペイン卿のとっておきの情報も教えちゃう!」
「な、なぜ某の名を出すのだ!」
あわてふためくリン。
だが、そんな彼女のことなどおかまいなく、ミーナは勝手に話を進める。
「知りたいみたいだね……」
そして新聞娘はニッコリと微笑む。
何かを企んでいるような顔だった。
「その様子だと無料ではないようね」
「変なお願いなら即お断りさせてもらうよ」
自らの専属騎士を守るように、ニースとフィーが返事をする。
「勿論、交換条件はありなんだけど簡単なことだよ!
円卓剣技祭のあと、エクスくんとリン先輩に取材をさせてほしいんだよね。
それもうちの新聞部独占! 他社の取材は絶対に受けないって条件でどう?」
「そ、そんなことでいいのですか?」
ならば一向に構わないとリンの表情が語っていた。
「俺も構わないぞ」
「OK!
フィリス様とニース会長も構いませんか?」
ミーナが尋ねると、二人も同意した。
「ではでは――円卓の騎士についての独占情報を!」
そして新聞娘はポケットからメモ帳を取り出して話し始めた。
※
円卓の騎士は大陸最強と認められた十二人の騎士に与えられる称号である。
他国との紛争において、彼らの立った戦場は常勝不敗であり大陸統一の大きな原動力になったそうだ。
以降、平和と安定をもたらす象徴として円卓の騎士は存在し続けた。
現在の構成メンバーは、
・第一騎士――騎士王ラグルド・ガラテン
騎士王の名のままに全ての騎士の頂点に君臨する存在。
その実力は円卓の騎士の中でも圧倒的で、大陸の全騎士が束になっても敵わぬほどと言われ、皇帝の剣として国家の支柱となっている。
また不老の騎士とも言われその姿は青年の頃から変わっていないが、実年齢は百歳を超えるらしい。
勇者カリバと共に魔王討伐の旅をしたパーティメンバーの一人であり、親友であったと、彼の武勇を紡ぐ吟遊詩人たちは語っている。
・第二騎士――天災アルト・ドラリア
円卓の騎士で最も謎に包まれた存在。
公の場に姿を現さないことから、実は序列八位は空白なのではないか……と囁かれている。
……が、ミーナの情報では第一皇子の専属騎士を務めているらしい。 真偽は不明。
・第三騎士――狂騎士ランス・レイロット
普段は生真面目な騎士らしい騎士という印象の人物ではあるが、敵対する者であれば女子供に関わらず一切の容赦ない。
その戦いを見た者は敵味方関係なく戦意を喪失するほどと言われており、戦いに勝利する為ならば手段は厭わない。
円卓の騎士の中でラグルドを除けば最も武勲を上げている。
第三皇女の専属騎士を務めていとで国民の間では有名で、甘いマスクの為か女性ファンも多い。
・第四騎士――闘者レット・モラトリアム
最年少で円卓の騎士に任命された闘いの天才。
僅か十二歳で近衛騎士となり、その数年後には円卓の騎士を除き彼の相手をできる者がいなくなったほど。
身体能力がずば抜けていることもあるが、多彩な魔法を扱えるのも彼の強みの一つ。
国の重鎮たちの間ではラグルドを超える存在と目されており、未来の第一騎士候補と期待を掛けられている。
その容姿がラグルドに似ていることから、彼の親族なのではないか? という噂が飛び交っているらしい。
・第五騎士――血盟者ユミル・ハイランダー
過去に血の盟約を、キャメロットの初代皇帝と結んだ一族の末裔。
盟約が破られれば一族に死をもたらすと言われているが、その代償に戦闘能力が大きく向上しているらしい。
この盟約が結ばれたのは数百年以上前になる為、効力は弱まってきているようだが、忠義に厚いハイランダーは今日に至るまで歴代皇帝と深い絆で結ばれており、彼らは忠義の騎士とも呼ばれている。
・第六騎士――無剣ローエン・ルアド
無剣というのは剣を持たぬという意味ではない。
無数の剣を召還する特殊な力を持っていることから、与えられた名前だそうだ。
彼の召喚する剣は全て特殊な力があるらしく、魔法剣士と呼ばれる。
剣の効果について詳細はわかっていないが、属性を宿した剣の存在は確認されているらしい。
・第七騎士――剛の騎士オルビス・カルバート
騎士のエリート家系の出身であり、兄弟で円卓の騎士に任命された天才。
成人男性の身長ほどある大剣を振り回す豪快な姿と、地を割るほどの怪力から剛剣のオルビスとも言われる。
荒々しい戦術をとることもあり、対人戦闘よりも対軍戦闘を得意としている。
熱血漢で面倒見がいいことから騎士たちの信頼は厚い。
・第八騎士――柔の騎士フィルズ・カルバート
カルバート兄弟の弟。
兄であるフィルズとは対照的に多彩な剣術で相手を翻弄する戦術家で、対人戦闘を得意とする。
ちなみに兄との対戦成績は九十九勝一敗と圧倒的だが、兄弟仲は良好らしい。
フィルズ自身は兄を非常に尊敬しているそう。
クールな性格で口数は少なく、あまり笑みを見せないが……記者が写真に収めた彼の姿は信頼する兄に柔らかな笑顔を向けるものだった。
その写真が載った雑誌は女性読者が十倍に膨らみ、フィルズのファンを大量に増やしたそうだ。
第九騎士――断罪者スカイ・ライア
またの名を処刑人と言われている。
彼と敵対した者は必ず首を跳ねられることから付けられた異名。
武器は鎌のような形をした大剣で勇者の遺産の一つらしい。
決して無差別に剣を振るわけではなく、彼が剣を抜くのは国に仇名す罪人のみ。
第十騎士――皇族の盾ポアロ・グリスティン
平民から円卓の騎士にまで抜擢された唯一の存在。
そのサクセスストーリーは民からも大人気で彼を主人公として小説が出るほどなのだが、一部の貴族の間では出世の為ならどんな卑劣なこともやる人物……と蔑む者がいる。
これは平民が第一皇女の専属騎士を務めていることが原因らしく、実際のところはただの妬み。
ポアロ自身は非常に人当たりが良く情に厚い。
また殺生を好まぬ彼は剣を持たず代わりに盾を持ち、その攻守一体の変わった戦術で一部の円卓の騎士からも一目置かれている。
第十一騎士――戦巧者デュエ・クウェール
少し特殊な経歴を持つ騎士。
親が国の宰相であり、幼少の頃からその後を継ぐ為の英才教育されていた。
そんな彼がなぜ騎士になったのかは不明。
戦闘術では他の円卓に劣る彼ではあるが、戦略家としての実績から円卓の騎士に任命さる。
ただし、円卓の騎士に比べて劣るというだけで一般的な騎士と比較すれば実力は圧倒的。また円卓の騎士の中で唯一、皇帝から勇者の遺産を複数与えられている。
第十二騎士――剣聖レイラ・ペイン
キャメロットの歴史上、初めて円卓の騎士に任命された女性騎士。
第一騎士ラグルドが彼女の剣技は人間の域を超えていると評するほどで、目にも止まらぬ速さの剣撃は閃光と譬えられている。
序列の騎士で最下位ではあるが、戦闘能力は円卓の中でも上位とされる。
彼女は地位や名誉には興味がないが、第2皇子の推薦によりこれまでの功績と実力が認められ、皇帝により円卓の騎士として任命された。
人目を惹くほどの美麗な容姿から、民の間では皇子との恋仲が噂されている……が、レイラ自身は男嫌いらしいので、事実無根の可能性が高い。
※
「って、感じだね」
ミーナは話を終えた。
「不明点も多いんだな」
「円卓の騎士と顔を合わせられる機会は少ないからね。
でも、うちの記者が集めた信憑性の高い情報だよ」
「ま、まさか……レイラ様が第二皇子と恋仲?
いや、そんなはずない。
剣に命を懸ける騎士であるならば、恋にうつつを抜かしている暇など……で、でも事実ならめでたいことでもあるわけで……」
「り、リン……そんな心配しなくてもいいんじゃないかしら?
事実無根の可能性が高いとあるわけだし……」
頭を抱えるリンを見て、ニースは苦笑を浮かべていた。
「本当は、もっと根も葉もない噂もたくさんあるんだよ。
レイラ・ペイン卿はその端麗な容姿を利用して円卓の騎士に任命された……とか」
「そんなわけありません!」
「い、いや、それはわかってるんだけどね。
たださ、情報を集めていると無責任な噂話をよく耳にするわけ。
先に伝えた情報はこちら側で精査した上で伝えたものだから」
「そ、そうでしたか。
ミーナお嬢様、大きな声を上げてしまい申し訳ありませんでした」
「いいのいいの。
もっと酷い話だってあるんだから……たとえば――」
そんなことを言った後、ミーナは慌てて口を塞いだ。
何を焦っているのかフィーに視線を向ける。
「どうしたのさ?」
「え、え~と……」
「ボクがいたら言いづらいことなの?」
「あ~……その……」
「気にしなくてもいいから話してみてよ」
「は、はい。
たとえば――第3騎士ランスと第三皇女ヴィアが夜な夜な城のメイドに嗜虐的な行為を繰り返しているとか……」
「……」
「すみません……本当に根も葉もない噂なんで……」
「謝らなくていいよ」
正直なところ、あの嗜虐姫なら有り得なくはないと感じてしまう。
恐らくフィーも同じように感じたのだろう。
だが、その騎士も一緒にというのは考えづらいし……一国の皇女が噂が広まるような無責任な行為をするだろうか?
「多分……皇位継承者同士が足の引っ張り合いをする為に流した嘘だと思う」
少し逡巡した後、フィーが答えた。
十分ありえる話だろう。
「そ、そうですよね……。
ま、まぁ、今のところ話せる情報はこんなところだから。
エクスくん、リン先輩……約束忘れないでよね!
じゃあ、あたしはもうちょっと調べ事があるから!」
バイバイと手を振って、ミーナはそそくさとこの場を去って行った。
※
暫くして人波が引いた頃、
「ぐっ……なぜ僕の応援をしてくれるのは男ばかりなんだ……」
隣にいるガウルがそんなことを嘆く。
貴族生徒がこちらに来るたびにキメ顔を作っては、自分と話にきたわけではないと知ると気の毒になりそうなほどの悲しみに染まっている。
「貴様、調子に乗るなよ!」
「いきなりなんだ?」
「僕よりも多くの貴族生徒に応援されているからな。
優越感に浸っているのだろ?」
劣等感を丸出しな発言をするガウル。
真顔でそんなこと言うあたり、とんでもない男である。
「ガウル、醜い発言はおやめなさい」
「そんなだから、貴族生徒は声を掛けにくいんじゃないの?」
「せ、セレスティア様、フィリス様まで!?」
二人の言葉にガウルはショックを受けたようだ。
が、
「それに……わたしはあなたを応援していますよ。
それでは不服ですか?」
「!? セレスティア様が……僕を応援!?」
主である少女の言葉に劣等感丸出しだった男の表情にやる気が満ち溢れていた。
「何かおかしいですか?」
「滅相もございません。
このガウル、必ずや円卓の騎士に勝利……いや、引き分け……いえ、最悪は負けたとしても善戦してみせます!」
徐々に目標が下がっていた。
「そこは勝つでいいんじゃないか?」
「馬鹿者! 主に嘘を吐くことなどできるものか!
相手はあの円卓の騎士だぞ!
僕も全力で戦うつもりだが……果たして勝負になるか……」
夕食会の前に会ったヴィアの騎士――ランスが序列3位という話だが、確かにあの男の実力はガウルよりも遥かに上だろう。
だが将来的に手が届かないというレベルではないように思う。
ガウルの戦闘センスはベルセリア学園の騎士生徒の中では抜きん出ている。
本人の今後の努力次第だが、卒業するころにはリンを超えることも可能だろう。
「今は勝てなくても、お前なら将来……円卓の騎士くらいにはなれると思うぞ」
「っ……ふんっ。そんな当然のこと口にされるまでもない」
「ガウルったら、素直じゃありませんのね……。
本当はエクスくんに認めてもらって嬉しいのでしょ?」
「なっ!? せ、セレスティア様、それは大きな誤解です」
「はいはい。
ところでガウル……あなたは明日の試合、誰を指名するつもりなんですか?」
「指名を受けていただけるなら、僕は柔の騎士フィルズ・カルバート卿に」
「第八騎士のフィルズ様ですか……」
「はい。円卓の騎士との試合は貴重な経験になると思っていますが、騎士として戦術を学ぶという意味で最も適した相手だと考えています。
あの方の剣は僕の理想とする形に近いので」
ガウルなりにしっかりと考えてのことらしい。
以前、リンも第十二騎士で剣聖と言われるレイラと剣を交わしたいと言っていたが、出場する生徒には目標とする騎士がいるのかもしれない。
「あなたが決めたのなら、私はそれでいいと思います。
でも……怪我をしないように気を付けて」
「はっ!」
主に一礼するガウル。
その二人の姿はまるで、物語に出てくるような容姿端麗な騎士のようだった。
今更ながら、ガウルは黙っていれば非常に美形だ。
口を開くとかなり残念になるが……。
「エクス! 僕は当然、善戦してみせるが、貴様も恥をかかぬようしっかりと戦略を練るのだな!」
「……まぁ、普通にやっても負けないと思うんだけどな」
「ふんっ、その強がりだけは大したものだ」
そんな捨てセリフの後、
「エクスくん、明日の試合応援するからね!」
「ガウル、一瞬で負けたりするなよ~」
再び生徒に声を掛けられる俺たち。
「だから、なぜ僕の応援は男ばかりなんだ!?」
悲しい悲鳴を上げる専属騎士に、セレスティアは恥ずかしそうに頬を染めたのだった。
それからタイミングを見計らったように、
「エクスくん、話してばかりで食事をしていないでしょ?
はい、あ~ん」
ニースが俺に身体を寄せて食事を口に運ぶ。
「ちょっと会長!
それは今から、ボクがエクスにしてあげようと思ってたんだぞ!」
「エクス師匠、リン先輩、お二人の為に、私がお料理を持ってまいりました!」
フィーとニース、そしてティルクが互いに顔を向け合う。
「ちょっと! 女騎士くん! なんでキミまで割り込んでくるんだ!」
「そうよ! あなたはそこで素振りでしてなさい!」
「え……こ、ここでですか!?
それに、師匠たちが何も食べていらっしゃらなかったので、お腹を空かせていると思ったのですが……」
「ならあなたはリンと二人で食べてなさい!」
「うん、女騎士くん、それがいいよ!
それと念の為言っておくけど、エクスにあ~んをしていいのはボクだけだからね」
「あ、あ~ん!? わ、私は決してそんなつもりは――」
あわてふためくティルク。
そんな三人の女子生徒の様子を見て、リンは苦笑し、セレスティアは期待の眼差しを向ける。
他の女子生徒たちもなぜかワクワクしたようにこちらを見ていたのだが、逆に男子生徒からは怒りと憎しみの籠った視線を感じたのだが、気のせいだと……。
「貴様、いい気になるなよ!」
ガウルの怨恨が聞こえてしまったので、どうやら気のせいではないらしい。
同時に、ガウルが男子生徒ばかりに応援されていた理由がなんとなくわかった気がした。
それから暫くの間は、フィーたちと食事を続けて――楽しいパーティの時間は終わりを迎えた。