第66話 立食パーティでの挨拶
20180704 更新1回目
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「おい、貴様!」
「……?」
食堂に入って直ぐ聞き覚えのある声が聞こて振り向いた。
「おお、ガウルか」
「尋ねたいことがある」
「なんだ?」
「……ヴィア皇女殿下の隣にいた騎士を、貴様は誰か理解しているのか?」
「ああ、ランスとか言う騎士か。
あいつがどうかしたのか?」
平然と言葉を返す俺に、ガウルは愕然とした様子で目を見開いた。
「あの方は――円卓の騎士であり序列第3位のランス・レイロット卿だぞ!」
「え? あいつ、円卓の騎士だったの?」
それも序列3位というのは驚きだ。
「やはり知らなかったのか!?」
「ああ……だけど、意外と大したことないんだな。
円卓の騎士って……」
大陸最強の十二騎士と聞いて楽しみにしていたのだが、単純な実力ではランスは実力的に上級魔族にも劣るように思えた。
(……いや、待てよ?)
円卓の騎士は、勇者の遺産……というのを持ってるんだったか?
「なぁ、ガウル。
もしかして円卓の騎士が強いんじゃなくて、勇者の遺産が強いんじゃないか?」
「おい貴様、強がりも大概にしておけ!
慢心も行きすぎれは死ぬことになるぞ!」
その言葉、ガウルにそのまま返してやりたい。
だが、フィーがあの場を穏便に済ませようとしたのには合点がいった。
俺の心配をしてくれたというのは勿論だが、あのまま争いになれば円卓剣技祭どころではなくなっていただろう。
円卓剣技祭前に、円卓の騎士が一人欠けてしまうわけで……フィーや俺に向く目は良くも悪くも厳しいものになるだろう。
「聞いているのか貴様!」
声を荒げてガウルが俺に詰め寄ってきた。
こいつ、どこまで近付いてくるつもりだ? というくらい目前まで接近しても足を止め――。
「ガウル……近付き過ぎですよ」
「あぐっ……」
セレスティアは手を伸ばしてガウルの襟を引っ張った。
首が絞まったのか表情が歪む。
「あなたはエクスくんにキスするつもりですか?」
「……キミ、随分とエクスに絡んでくると思っていたけど、そういうことだったの?」
「違います!
ただ僕は、あまりにも世間ズレしているこの男に常識というものを教えようとしただけです」
恐らくガウルは危惧したのだろう。
正式な場でもなく、円卓の騎士に喧嘩を売って無事でいられると思っているのかと。
「ガウル……心配してくれるのはありがたいが――」
「僕は心配などしていない!」
即否定された。
が、俺は構わず言葉を続ける。
「もしもの話だが……お前はもしディアが、セレスティアを辱めるような発言をしたら、何もせず黙っているのか?」
「? ……もしそのようなことがあれば僕は主の誇りを守る為、決闘を申し込むだろう。 相手がたとえ円卓の騎士だろうとな」
やはりガウルも俺と同じだ。
フィーに掛けられた嗜虐姫の発言をガウルは知らない。
あの場での言葉は小声で、フィーにだけ聞こえるようにこっそりと伝えられたものだからだ。
「ま、そういうことだよ」
「……?」
首を傾げるガウル。
どうやら俺の発言の意図がまだわからないらしい。
「うちのガウルが鈍くてごめんなさい、エクスさん」
セレスティアは俺に苦笑を向けた。
どうやら彼女は意味を理解したようだ。
「第三皇女は清廉潔白で、白薔薇のように穢れがないという噂を聞いていましたが……一面だけを見て、人の真相を理解したつもりになってはいけませんね」
そんな噂が流れるくらい、あの嗜虐姫は外面がいいのかもしれない。
内面は信じられないくらい醜いだろうけどな。
「……さっきの話はもういいだろ?
気分が落ちちゃうよ。
エクス、早く食事にしよう。
ボク、お腹ペコペコなんだ」」
「も、申し訳ありません。
おい! そこの給仕、今すぐフィリス様にお食事をお持ちしろ!」
物凄い勢いで頭を下げた後、ガウルは給仕に声を掛けた。
「いいよ。
自分の分は自分で取ってくるからさ」
この食堂はホールのようになっていた。
丸型のテーブルには沢山の料理が並んでいた。
椅子がないところを見ると、どうやら立食形式のようだ。
「ただの夕食会というよりはパーティみたいだな」
「これは円卓剣技祭に出場する生徒の労いも兼ねているからね。
それに貴族生徒も一緒だから、ホテル側も気合が入るんだと思うよ」
並んでいる料理はどれも豪華なものばかりだ。
見ているだけで食料が掻き立てられる。
「フィリス様、エクスさん……わたくしは料理をお取りしてきますね」
ニアは俺たちに気を遣ってくれたようで、料理が並ぶテーブルに向かった。
「ついでに毒味もしておかないと」
そんなニアの呟きが耳に入った。
フィーを取り巻く状況を考えれば、過剰過ぎる心配……ということもないだろう。
「え~……食事会が始まったばかりで申し訳ないが耳を傾けてほしい」
食堂の奥から学園長の声が聞こえた。
生徒たちの視線が一斉に向く。
「円卓剣技祭の代表は前へ」
どうやら挨拶でもさせられるらしい。
「エクス、行ってきて」
「……わかった」
フィーの許可を得て俺は学園長の下へと向かった。
俺、リン、ガウル――馴染みのメンバーも含めた、ベルセリア学園の序列1位~12位までの代表者たちが並んでいく。
「ここにいる12人の生徒が学園の代表として明日――円卓剣技祭に臨むことになる。
彼ら全員死力を尽くし最高の試合を見せてくれることだろう!」
それから暫く学園長の長い話が続き、
「が、学園長……そろそろ」
流石に長すぎると感じたのか、ケイナ先生が耳打ちした。
「むっ……そうか。
では最後に代表生徒に一言、挨拶をしてもらおう」
って、挨拶なんてあるのか!?
全く聞かされてないんだが……。
「まずは序列1位のエクスくんから……」
間髪入れずに話を振られる。
こうなれば、思うままに言うしかないだろう。
「……なぁ、学園長」
「なんだね?」
「円卓剣技祭では、代表生徒が試合をしたい円卓の騎士を使命できるんだったよな?」
「ああ」
「全員と戦うことはできるか?」
「は……?」
まるで放心したように呆然と俺を見つめる学園長。
「どうなんだ?」
「さ、流石にそれは無理だ。
1対1でも代表生徒が胸を借りるようなものだからな。
仮に先んじて申請しても許可はおりないだろう……」
「そうか……」
どうせなら全員まとめて倒せば、皇帝の心象も良くなるのではと思ったんだが……無理なら仕方ない。
「なら抱負を一言。
俺は円卓の騎士序列1位に試合を申し込むつもりだ。
それが受け入れられるなら必ず勝つ。
以上だ」
再び静寂。
もしかして、話し終わってないと思われたのだろうか?
だが、直ぐにパチパチと拍手の音が聞こえる。
奏でてくれたのはフィーとニース、ニア、リン、ティルク――俺の実力を信じてくれているみんなだった。
それに続き、他の生徒たちから拍手の音が室内に響いた。
※
生徒たちにとって、エクスの言葉は夢物語のように思っただろう。
ドグマ盗賊団を討伐したことや、定期試験で規格外な記録を叩き出したことからエクスの実力はある程度は認知されているのだが、流石に大陸最強と称えられる円卓騎士に勝てるはずもない……というのが共通認識だ。
が、その認識が間違っていることを、この時の彼らはまだ知らない。