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第62話 運命の変化

20180619 更新1回目

 マリンの態度から察するに、あの出会いは偶発的な出来事ではないのだろう。


(……一体、何が狙いだ?)


 俺が考えていると、


「さてさて……聞きたいことは色々とあるとは思うけど立ち話はなんだ。

 まずは私の部屋に案内しよう」


 こちらの考えを読むかのように、マリンは口を開き飄々とした顔で笑った。

 そんな彼女に俺は、何か違和感を覚える。

 まるでこの世の者ではない……というか、どこか浮世離れした雰囲気がそんな風に錯覚させるのだろうか?


「アイン、ツヴァイ、ドライ――ダンジョンのトラップを一時的に全解除」


「「「イエス、マスター」」」」


 どうやら、この自動人形オートマタたちがトラップの管理もしているようだ。

 具体的な原理はわからないが、魔力による遠隔操作が可能なのかもしれない。


「では、迷わないように付いてくるのだよ」


 言ってマリンは俺たちの返事を聞かずに歩きだした。


「はぁ……相変わらずマイペースなんだから」


 ニースが溜息を漏らした。

 俺たちに残された選択肢は彼女に付いて行くということだけだった。




              ※




 ダンジョンの中は入り組んではいたが、それほど歩くことなくマリンの『部屋』に到着した。


「散らかっていてお恥ずかしい限りだけど……適当に掛けてほしい」


 言葉通り室内は非常にごちゃごちゃしている。

 マリンの隠れ家であり実験施設でもある為だろう。

 奇妙な色をした薬品だったり、恐らく魔法道具マジックアイテム? と思わしきものや、大量の本や紙が乱雑に置かれていた。


(……うん?)


 床に散らばっていた1枚の白い羊皮紙が目に入り、俺はそれが少し気になった。

 見覚えのない文字が並んでいたからだ。

 ユグドラシル大陸の外――の言語なのだろうか?

 なんでこんなものが……?


「気になっているみたいだね。

 それは異国の文字なんだ」


「つまり別の大陸……ということか?」


「……まぁ、そんなところかな」


 逡巡するような間の後、マリンは答えた。

 一瞬、寂しそうな表情を見せた気がしたのだが……多分、それは気のせいだろう。


「さてさて、まずはお茶をれて――と言いたいところだけど、今は侍女が出払っていてね」


「……大婆様、侍女を雇ったの?」


 ニースは怪訝そうに尋ねた。

 マリンが侍従メイドを雇うというのは、それほどまでに信じられないことなのだろうか?


「雇ったというか『作った』という感じだけどね」


「ああ……そういうことなら納得だわ。

 つまり自動人形オートマタ家政婦メイドの代わりをさせているのね」


「まぁ……ね」


 マリンの言葉には少し含みがあった気がする。

 少し気にはなったが、


「そんなわけで久しぶりのお客様をもてなすことはできないが、質問にはしっかり答えさせてもらうよ。なんでも聞いてくれたまえ」


 マリンは直ぐに話題を切り替えた。

 聞くべき事はいくつかある。

 それを大きくまとめると、


1.ニースの口にしていた『運命』について。

2.勇者の行方。

3.皇族の権力抗争に伴う城内の現状。

4.フレンダリの町で露天商として俺たちに接触してきた理由。


 こんなところだろう。

 まず優先して確認すべきは、フィーの身を守る為に必要になる情報だな。

 そう考えた俺は、まず3の内容から確認したいとフィーに伝えようとしたのだが、


「フィリス様、エクスさん――申し訳ありませんが、まずはわたくしが質問の機会をいただいてもよろしいでしょうか?」


 ニアが言った。

 彼女は王都にいる間、フィーを守る為にマリンの協力を得たいと言っていたからな。

 その話をするつもりだろう。

 俺とフィーは返事の代わりに頷いて見せた。

 それを確認すると、ニアはマリンに視線を向けた。


「……マリン様、お初にお目に掛かります。

 わたくしはフィリス様の侍従を務めておりますニアと申します」


「ああ、きみのことは知っているよ。

 ギリアスの娘だろ?」


 マリンの言葉にニアが頷いた。

 ギリアスというのはニアの父親の名前なのだろう。

 以前、皇帝直属の侍従を務めていると聞いたことがある。


「実は王都に向かう直前――フィリス様を乗せた馬車が襲撃を受けました」 


「……ああ、そのことか。

 今、王都はフィリス様とエクスくんの話題で持ち切りだからね。

 民の為に大盗賊団を討伐した皇女と専属騎士――二人の活躍は英雄譚のように広まって、国民の人気は爆発中さ。

 そして当然、キャメロット城の皇族たちの耳にもその噂は届いている」


 宮廷魔法師は淡々と答えた。

 フィリスが襲われたことなど既にわかっている……と言った感じの口振りだ。

 やはり、キャメロット城内は今も苛烈な権力抗争が続いているのだろう。


「……つまり皇位継承者の中に――フィリス様の暗殺を企てた者がいると?」


「そうだね。

 というか、それしかないだろ?」


 隠そうともせず堂々とマリンは答えた。

 フィーは複雑な表情を見せる。

 想定していたとはいえ、実際に言葉にされればショックも大きいだろう。


「マリン様は襲撃者をご存知なのでしょうか?

 ならば教えてください。

 一体、誰がフィリス様を……?」


「誰が……?

 ニアくんは面白いことを聞くな」


 そんなことを言う割に、マリンの声は平坦なままだ。

 

「そもそも誰がなんて些末な話さ。

 皇位を狙う継承者全てが、フィリス様を狙っていると考えたほうがいいよ」


 質問したニアではなく、宮廷魔法師はフィーに目を向けた。


「……皇帝になるつもりはない――と伝えたところで、お兄様やお姉様はボクを放っておいてはくれないんでしょうね……」


「残念ながらね。

 少なくとも私が見てきた数百年で平和的な解決がなされたことはない。

 まぁ、権力者の争いとはどこの世界でも常にそういうものさ」


 非情な宣告にも取れるが……そんな現実をマリンは見てきたのだろう。


「……大婆様には……フィリス様が戦果に巻き込まれる【未来】が見えているの?」


 ニースが口を挟んだ。


「仮に見えていなかったとしても、これは長い歴史が証明してきたことだからね。

 ただ予言するのであれば――フィリス様が王都にいる間、つまり円卓剣技祭の期間中に間違いなく仕掛けてくるよ」


「――そこまでわかっているのなら、どうか、どうかお願いいたします!

 どうかフィリス様を守る為に協力していただけないでしょうか」


 マリンの予言を聞いた直後、ニアは深く頭を下げた。

 なんとしてもフィーを守りたい。

 彼女の言葉と真摯な態度からは、そんな想いが伝わってくる。

 だが、


「私が手を貸す必要があるのかい?」


 マリンは苦笑し首を傾げた。

 さらに続けて、


「――フィリス様にはエクスくんが、この世界で最強の勇者様が付いているじゃないか。 彼がいるなら私の手など必要ないと思うけどな?」


 そうでしょ? と尋ねるように、マリンが俺を見た。


「エクスさんの実力は理解しています。

 ですが万全を期すという意味でも――どうか!」


「エクスくんの実力を正しく理解していたら、そんな言葉は出ないはずなんだけどな……」


 人間界に来てから、俺は一度も全力で戦ったことはない。

 だからマリンも俺の実力は知らないはずだ。


「まぁ、ニアくんが心配性なのはわかったよ。

 そこまで言うのなら【可能な限り】は協力しよう。

 ただ私の行動には【優先順位】があるから、常に当てにはしないでほしい」


「あ……――ありがとうございます!」


 あくまで口約束ではあるが――それでも協力を取り付けられたことで、ニアは一安心したようだった。


「それと……わかっているとは思うけど、陛下の手を借りようとは思わないでね。

 無理に接触すれば、それこそ他の皇位継承者に余計な誤解を与えかねない」


「……わかってます。

 少なくともボクのほうから会いにいくつもりはありません」


「そうか。

 じゃあこの話はこれで終わりにしよう。

 他に何か聞きたいとはあるかい?」


 マリンの協力を得るのと同時に、王都の状況や城内の各皇族の動きはわかった。

 なら次は――


「あの……」


 言って、フィーが俺の手をギュッと握る。


「会長が――ニースさんから聞いたことがあります」


 そして勇気を振り絞るように、皇女プリンセスが話を切り出した。


「ニースから?」


「大婆様――運命の話よ。

 私と勇者様が結ばれるって言うね」


「ああ、何かと思えばそのことか」


 ニースに言われて思い出したのか、マリンが小さく相槌を打つ。


「……それは本当なんですか?」


 再びフィーが尋ねた。


「あ~……そのことなんだけど……」


 マリンにしては歯切れが悪く口を閉ざす。


「大婆様、こんな時だから遠慮もあるのだろうけれど――フィリス様にはっきり伝えてあげてほしいわ。

 私とエクスくん――二人が結ばれることで生まれる子供がこの世界を救う。

 それは絶対的な運命なのだと」


 ニースは自信に満ち溢れた表情を見せた。

 幼少の頃より彼女はマリンに【運命】の存在を聞かされていたらしい。

 だからこそ、俺と結ばれることに一切の疑問を感じていない。


「あ~……実に言い辛いのだけど……」


 マリンが口を開くと、緊張からなのかフィーの身体が強張った。

 俺は大丈夫だ……という思いを伝えるように、彼女の手を握り返す。

 仮に【運命】などというものが存在しているとしても、二人なら乗り越えられる。

 強い気持ち胸に俺たちはマリンの言葉を待った。

 だが、


「ニース、すまない」


「……? どうかしたのかしら?」


 突然、マリンはニースに頭を下げた。


「実はあの運命、変わってしまったみたいなんだ」


「え……?」


 続けて大婆様マリンの言葉を聞いたニースは、目を丸めて唖然とした声を漏らす。


「変わった……って、どういうことですか?」


 宮廷魔法師が発した言葉の意味がわらからず、皇女様は慌てて尋ねた。


「私が数年前に予知していた未来――その未来では、エクスくんが学園に来て最初に出会うのはフィリス様ではなかったんだよ」


「そ、そうなんですか?」


 予想外の発言にフィーの声が裏返る。

 正直、俺も事態が呑み込めないのだが、


「ああ……ニースにも伝えてあったが、本来の運命ではエクスくんはニースの専属騎士ガーディアンを務めることになったんだ。

 でも――エクスくんとフィリス様が出会ったことで、世界にズレが生じてしまった」


「つまり……今は別の未来が生まれたってことなのか?」


「まだあやふやだけれど、私が予知していた未来は今はない。

 だから……エクスくんと絶対に結ばれるはずだった未来は変わってしまったんだ」


「……お、大婆様……?

 それはまた酷い冗談だわ。

 私を驚かせようとしているのかしら?」


「違うよ。

 お前には以前から伝えていただろ?

 勇者の剣を抜く前にキミは勇者に出会うってさ。

 でも……実際はどうだったかな?」


「そ、それは…………」


 俺が剣を抜いたのは間違いないが、選定の洞窟に共に言ったのはフィーだった。

 本来の未来ではあれはニースとやっていたことだったのか?


「予知した未来通りに世界は進んでいないんだ。

 運命は変わってしまった。

 それがさらに大きなズレになるか、【世界の強制力】が働き小さなズレで済むのかは確定していないようだけど……」


「な、なら……私とエクスくんが結ばれる可能性もあるということなのね?」


「まぁ……限りなく低い確率かもしれないけどね」


「そ……そんな……」


 力なくふらつくニース。


「お、お嬢様!?」


 慌ててリンが彼女の身体を支えた。


「あ、あう……」


「お、お気を確かに!!」


 ガクン。

 リンに支えられてはいるものの、ニースは力なくその場に膝を付いた。


「に、ニース様! ニースお嬢様! 戻ってきてください!」


「お、おい、ニース。

 大丈夫か……?」


 運命を信じ続けた彼女だからこそ、その変化に耐えきれなかったのだろう。」


「……リン。

 すまないが、ニースを寝室に連れて行ってやってくれないかい?

 ベッドに寝かせてやってほしい」


「は、はい!」


 武士娘は主である少女を抱えて寝室に向かった。


「さて……この話は一旦、終わりにするとしよう。

 次の質問にいこうか」


 あまりにもショックを受けたニースを不憫に思ったのか、マリンは話題を変えることにしたようだった。

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