第6話 契約完了! 魔界最強で勇者の息子は、専属騎士になりました。
20180208 更新3回目
2018209 床に選定の剣を置く描写を追加。
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選定の洞窟から出た後。
重力制御による跳躍で、俺たちはサクッと学園に戻って来た。
すると学園の庭園に目立つ格好の少女が一人。
「あ、ニアだ……」
「フィリス様~~~~~~~~~!!」
ニアがこちらを見る。
すると、泣きながら、猛烈ダッシュでフィーに迫って来た。
少し前にも見た光景だ。
「ご無事で、ご無事で何よりです~~~~~!」
「そんなに泣かないでほしいな。
ニアはいつもボクを心配しすぎだよ。
それに今回は行き先も伝えたでしょ?」
「ならばわたくしもお供させてくださいませ!
エクスさんも、まさか窓から飛び出されるなんて!」
「安心しろニア! あの程度は朝飯前だ!」
「褒めてませんよ! それにあれで朝飯前なら、わたくし気絶しますわ!」
なんだ、見事な跳躍と褒められているのかと思った。
「それよりもニア。学園長はどこ?」
「学園長室で頭を抱えておられます。
フィリス様に何かあったら自分は辞職だと嘆いておられます」
もしかして、あの学園長は情けない人なのだろうか?
「はぁ……。
この学園の責任者の癖に、本当にメンタルが弱いんだから……」
「知っているぞ! そういうの、豆腐メンタルと言うんだろ?」
「トウフ……って、なに?」
「わからん! だが、ルティス――あ~俺の育ての親が教えてくれた。
すごく柔らかくて、少しの触れると凹んでしまう食べ物だそうだ」
「なるほど……だから、メンタルが弱い人を指す言葉というわけだね。
エクスは物知りなんだね!
流石はボクの専属騎士だ!」
俺の話を聞いて、フィーは笑ってくれた。
彼女は俺の話を楽しそうに聞いてくれるから、話していて楽しい。
「専属騎士と言えば……もしかして、エクスさんが持っていらっしゃるのは?」
「ああ、選定の剣だ」
俺は持っていた白銀の剣をニアに見せた。
ちなみに刀身が突き刺さっていた岩石は、地面に叩き付けて砕いてきた。
その光景を見た女騎士ティルクは、なぜかあわあわして気絶した。
今は俺の背中で眠っている。
「これが選定の剣……勇者の剣」
ニアは目をパチパチとさせて、刀身を見つめていた。
見た目は重厚感のある剣だが、持った感覚はとても軽い。
古くから使われているはずなのに、刀身はピカピカで錆び一つない。
特に大きな力も感じないが、やはり不思議な感覚のある剣だった。
「本当にエクスさんは勇者の……」
「息子なんだろうね」
まぁ、かなり無理矢理引き抜いた感じもあるんだが、抜いたもん勝ちだなよな。
「じゃあ学園長のところに行こうか。
あ、それとニア。
エクスの背負ってるその子、医務室にでも連れてってあげてよ」
「かしこまりました」
ニアさんにティルクを預ける。
彼女は俺がティルクを背負っている理由については聞かなかった。
「じゃあ再び学園長室へ、だね。
今度は言い訳させないよ」
※
「という感じで、抜いてきたぞ」
「ぁ……ぁ……」
学園長室で選定の剣を見せると、学園長はまるで戦闘民族でも見たかのように掠れた声を出した。
「これで文句ないよね?
今日からエクスをボクの専属騎士にするよ」
「で、ですが……これが本物なのかどうかは……」
「選定の洞窟に行ってみるといいよ。
剣がなくなってるから……それと、騎士候補生のティルクも、エクスが剣を引き抜くところを見てる」
「むむむ……」
黙り込む学園長。
そんな学園長を見て、フィーは『どんなもんだ!』という顔を俺に向けた。
「……まさか、本当に勇者の血族が現れるとは……」
しかし、最終的には学園長は納得したようだ。
「わかりました。
入学に関する面倒な点は全てこちらで対処します。
ですので今からフィリス様たちは契約を……」
「わかった」
契約……か。
「聞きたいのだが、それは書面的なものか?
それとも儀式的なものか?」
「どちらもだけど、面倒なのは学園長がやってくれるそうだから。
今からするのは儀式的なほうだね」
ごくり。俺は思わず固唾をのむ。
魔界にも様々な契約が存在する。
中には違反すれば死ぬことになる危険なものだってある。
だからこそ――このまま契約を結べば、俺は決してフィーを裏切れることは出来ない。 いや、勿論最初から裏切るつもりなどはない。
が……俺はルティスのせいでどうにも契約にはトラウマがあった。
それは……早食いで負ける度に、デザートのハチミツを奪われるというものだ。
(……あいつの胃袋はマジで宇宙だ)
戦いを挑む度に、俺は負けて、デザートを奪われた。
『いいかエクスよ。魔界は弱肉強食なのだ! 悔しければ強くなれ!』
教育の一環とか言ってたが、あいつは絶対に自分がハチミツを舐めたかっただけだ!
「エクス、どうしたの? なんだか緊張しているみたいじゃない?」
「いや……大丈夫だ。
俺はフィーを絶対に裏切らない。
だから、デザートを取るのはなしで頼むぞ!」
「デザート? よくわからないけど、デザートならいくらでも食べさせてあげるよ」
「なんと!? ハチミツはあるか!?」
「ハチミツだろうと、ケーキだろうと、果物だろうと、お好きな物を」
天国!? もしかしてここ契約天国!?
リスクのない契約なのだろうか?
「じゃあ始めるよ。
エクス、その場に膝を突いて」
俺は言われるままに膝を突き、床に選定の剣を置いた。
一体、どんな契約を結ぶことになるのだろうか?
「では見届け人は――ベルセリア学園長『クワイト・クワンナ』が務めさせていただきます』
学園長、そういう名前なのか。
「神聖ユグドラシル帝国第5皇女――フィリス・フィア・フィナーリアは、ベルセリア学園騎士候補生エクスを、専属騎士に任命します」
皇女!?
フィーはお姫様だったのか……。
「……」
「エクスくん、一言」
「え……?」
学園長に言われて、俺は思わず顔を上げた。
すると、苦笑するフィーの顔が見える。
「エクス、キミがボクの任命を受けてくれるかどうか。
それを答えてくれればいいんだ」
「なら、答えは出てる。
専属騎士として俺はフィーを守ると誓う」
何度目かの誓い。
だが、これは儀式的な場での正式な発言だ。
「では騎士候補生エクス――目を閉じて」
俺は目を閉じた。
これで契約は終わったのだろうか?
そう思った時だった。
(……え?)
額に――何か柔らかい感触を感じた。
「よし、これで契約完了!
学園長、エクスはボクと同じクラスでいいよね?」
「御心のままに」
「よし! じゃあ行こう! 今からならギリギリ授業にも間に合う!」
膝を突く俺の手を引いて、フィーは学園長室を飛び出した。