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第59話 マリンの隠れ家

20180601 更新1回目

 夕陽に染まる城下町は今も大きな盛り上がりを見せていた。


「いやぁ~フィリス様、可愛かったなぁ」


「私は可愛いといよりは凛々しい印象だったわ」


「馬車の中にベルセリア学園の制服を着た男子生徒もいたよね?」


「あ、いたいた!

 もしかして、あの人がフィリス様の専属騎士ガーディアンなのかな?」


 どうやら第5皇女と、その専属騎士の話題は尽きていないらしい。

 そんな中、俺たちは堂々と町を歩いて行く。

 もし傍でフィーが歩いているなどと知られたら、この場が大混乱するだろう。


「……変装してきて正解だったようね」


 俺たちを先導して歩くニースが微笑を浮かべた

 変装と言うほどでもないが、俺たちは私服で町を出ていた。

 ベルセリア学園の制服では目立ち過ぎる――ということで、ニースが適当に見繕ってきた服を着ることになったのだ。

 その辺り、魔法で気配を消せば済む話なのだが……。


『王都での魔法の使用は控えましょう。

 何が原因でトラブルが発生するかわからないもの。

 それにエクスくん――あなたは私たちの私服姿を見たくはないのかしら?』


 ということで、押し切られてしまった。

 それに、王都で魔法を使うべきではない……というのは一理あるからな。


「エクスくん、私の私服はどうかしら?

 普段、制服ばかり見ているから新鮮でしょ?」


「エクス、ボクはどう? 似合ってるかな?」


 俺の右腕にはフィー。

 左腕にはニースが寄り添っていた。


「二人とも似合ってるぞ」


 ニースの私服は黒を基調にかなり大胆な感じになっている。

 だが、イヤらしいという感じはしない。

 スタイルのいい彼女の姿を引き立てている為、美しい女性という印象を周囲に与えるだろう。


 大してフィーの私服は白を基調とした清楚な感じだった。

 落ち着いたデザインだからか、普段の彼女よりも少し大人っぽく見えた。

 何より変装の為に髪を括っているので、それが凄く新鮮だった。


「エクスくん、そこは三人と言ってくれないとダメよ」


 そう言ってニースは、少し後ろから付いてくるリンを見た。


「に、ニース様、それがしを数に含めるのはやめてください」


 話を振られてると、武士娘の頬が赤くなり俺から目を背ける。


「もちろん、リンも似合ってるぞ」


「っ……え、エクス殿……。

 そ――そ、某は周囲を警戒しておりますので!」


 リンは真っ赤になりながら話を逸らした。

 ちなみにニアはいつも通りメイド服のままだ。

 目立つから着替えるべきでは……と思ったのだが、皇族を含め裕福な者が多いこの王都では、メイドはそれほど珍しくないらしい。


(……しかし、さっきから視線が気になる)


 何故か町を歩く一部の者たちが目を向けているのだ。


(……もしかして変装がバレたのか?)


 俺はリンに視線を送ると、彼女も気付いていたのか頷いた。

 警戒を強めながら、町を歩いて行くと――。


「おい、見ろよ」


「ああ……あいつ美少女を何人も引き連れてやがるぞっ!」


 はい?

 なんと町の雑踏に混じってこんな声が聞こえてきた。

 もしかして、さっきから視線を感じていたのは……。


「クソッ! どっかの金持ちのボンボンか?」


 どうやら視線の正体は強烈な嫉妬心のようだった。


「……ふふっ、美少女をはべらせる気持ちはどうかしら?」


「そもそも、どうして会長がそんなにベッタリしてるのさ……!」


「あら? 別にフィリス様は付いて来なくていいのよ?

 大婆様には私とエクス君が会いに行くから」


「っ……そ、それはズルいじゃないか!」


 俺を挟んで火花を散らし合う二人。

 その様子を見ていた町の男たちは――さらに嫉妬の炎を燃え上がらせていた。


「と、とりあえず先に進まないか?

 モタモタしていては夜になってしまうだろ?」


 ここに居ては悪目立ちしてしまう。

 心の中で焦りつつ俺は提案した。


「そうね。

 大婆様が直ぐに見つかるかもわからないし……」


「……どういうことだ?」


「大婆様は複数の隠れ家を持ってるの。

 理由はいくつかあるけれど――主には仕事が面倒になった時に逃げ場所ね」


 皇帝直下の宮廷魔法師――マリン・テンプル。

 真面目な女性なのかと思えば、中々愉快な人物らしい。


「わたくしも聞いたことがあります。

 だからこそ、マリン様を見つけるのは非常に困難だと父が言っていました」


「ええ……親族の私が言うのもなんだけど、色々と変わっている人なのよ」


 ニアの言葉に頷くと、会長はマリンの伝説を聞かせてくれた。


 魔法道具マジックアイテムの製作を依頼した際、全く違う研究の為に資金を使い込んだとか。


 それが続いて一時期、国庫が尽き掛けたとか。


 彼女の為に造られた研究所が爆発で消滅したなどなど。

 切りがないくらいの悪名が次から次に出てくる出てくる。


「とんでもない人なんだな」


 呆れを通り越して感心してしまった。


「ボクはもっといい話を聞いたことがあるけどね。

 治療が不可能だと言われていた病気を治す為の薬を作ったとか」


「失敗中に、2割ほどは大きな功績があるわ。

 それに、悪人ではないのよ」


 ニースは苦笑しつつ答えた。

 だが、それだけ好き勝手やっても、未だに宮廷魔法師として皇帝に使えているのだから、実力者であることは間違いないだろう。

 以前聞いた話ではあるが、人間の身でありながら数百年の時を生きているというのも驚くべきことだ。


(……なんだか会うのが楽しみだな)


 人間界に来てから最もとんでもない人物に会うかもしれない。

 そんなことを思いながら暫く歩き……。


「確か……ここね」


 呟くようにニースが言って、建物と建物の間の隙間を通った。

 さらに進むと――建物の密集した先でちょっとした空間ができている。


「何もないみたいだけど……?」


 フィーは周囲を見回す。

 だが、俺は微力な魔力を感じ取っていた。


「……地下か?」


「流石はエクスくん。

 正解よ」


 言ってニースがトン、トン、トントントン――と、一定のリズムで地面を叩く。

 すると――魔法が解けたみたいに地下に繋がる階段が現れた。


「……か、隠れ家って聞いてたけど……これじゃ誰も見つけられないわけだね……」


「はい……。

 てっきり小さな一室でも借りているものだと思っていましたが……」


 フィーとニアは困惑したように苦笑していた。


「さぁ、進みましょう」


 ニースが魔法を使い小さな光の玉を出す。

 そして俺たちは地下階段を下りて行った。

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