表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/104

第57話 権力抗争!?

20180430 更新1回目

           ※




 ガタガタ、ガタガタ――客室が小さく揺れていた。

 窓から見える景色がどんどん流れていく。

 実は馬車に乗るのは初めてだったので、少しだけワクワクしていた。


「それにしても……とんでもなく豪華な客室ね。

 流石は皇族専用と言ったところかしら?」


 馬車に乗ってから、最初に話を切り出したのはニースだった。

 室内は広く5人乗ってもまだ余裕があるほどだ。

 一般的な馬車と比較すれば、かなり広々としているだろう。


「ボクも、こんなすごいのに乗るのは初めてだよ」


「……そうなのですか?」


 リン先輩は意外そうに口を開いた。


「王宮にいた頃は外出するなんてこと滅多になかったからね」


「へぇ……そうなの。

 なんだか意外ね。

 日々、皇族として勉強を重ねていたということかしら?」


「学ぶことは多かったかな。

 一応、ボクも第5皇女って肩書があるからね」


 謙遜した物言いと共に、フィーは苦笑する。

 自分が皇族であることを、彼女は快く思っていないのだろう。

 権力抗争などに巻き込まれた結果、辛い想いをしてきたのだ。

 簡単に受け入れることはできないだろう。


「重そうな肩書ではあるけれど、ないよりはマシではないかしら?」


「……そうだね。

 デント村に行った時は、初めて皇族で良かったと思えたな」


 言われて俺は、盗賊団を討伐した依頼クエストを思い出した。


「あの時のフィーは間違いなく、立派な皇女様だった。

 村の人々もすごく励まされたと思うぞ」


 彼女の言葉はデント村の人々に勇気と元気を与えたはずだ。


「エクス……ありがとう。

 でも、ボクはただ必死だっただけだから」


 フィーは優しく笑った。

 だがその表情はどこか自信がなさそうだ。


「皇族は国を、そして民を導いていく立場にあります。

 その影響力は絶大なのです。

 たった一言で未来を変えてしまうほどに」


 ニアの言うように、皇族としての立場は軽いものではないだろう。


「わかってる。

 だからこそ、皇族としての自覚を持った行動を心掛けるつもりだよ。

 下手なことをして、悪目立ちしたくないからね。

 王都にいる間は特に気を付けないと」


 従者からの言葉を諫言と受け取ったのか、フィーはこんなことを言った。


「……その……フィリス様」


 ニアは重々しく口を開いた。

 だが、次の言葉が出て来ない。

 何か言いたそうにしているが、口をつぐんでしまう。


「……ボクに伝えたいことがあるんだよね?」


 それは聞く必要もないくらい明らかだった。

 皇帝からの手紙を受け取った時点で、ニアの様子は明らかにおかしかった。


「私とリンをこの馬車に乗せたのも、それが関係しているのでしょ?

 そろそろ本題に入りましょう」


「……手紙の件ですよね?」


 ニースとリンが話を切り出す。

 するとニアは小さく頷き返し、


「……あの手紙には現在の王都の状況が記されていました」


 手紙を俺たちに見せてくれた。




        ※




 書かれていた内容は、俺とフィーについてだった。

 ドグマ盗賊団を討伐したことが切っ掛けとなり、ユグドラシル帝国第5皇女――フィリス・フィア・フィナーリアとその専属騎士ガーディアンの活躍が、大陸中に知れ渡っているらしい。


「デント村を救った姫君とその騎士に、民は英雄の訪れではないかと感情を昂らせている。……って、これ本当なの?」


 手紙に記述された一部をフィーが読み上げる。


「それだけじゃない。

 フレンダリの村で暴漢を捉えたとか、俺がアームファイトのチャンピオンに勝ったこと、選定の剣を抜いたことまで書かれてるぞ」


「人から人へ……噂ってあっという間に広がるんだね……」


 噂というには情報が正確過ぎる気もするな。

 まるで見てきたかのようだ。


「……ですが、ニア殿。

 これの何が問題なのですか?」


 リンが疑問を口にする。

 内容的には朗報と捉えることもできるだろう。

 だが、


「皇位継承権の問題かしら?」


 察しのいいニースは、直ぐに問題を理解したようだ。


「……ニース様のおっしゃる通りです」


「どういうことです?」


「ボクの皇位継承権は下から数えた方が早いんだ。

 だから順当にいけば、ボクが皇帝になることはない。

 継承権の上位が次期皇帝になるわけだからね」


 フィーが状況を説明する。

 当事者である彼女自身が、一番現状を理解しているだろう。


「でも、民の期待がボクに向いたことで、次期皇帝に押すものが出てくるかもしれない。 それは兄上や姉上たちからすれば、面白くはないよね」


 表情を暗くするフィー。

 同時にリンは状況を理解したようだ。


「皇位継承者を決める争いに巻き込まれる可能性がある。 

 そういうことでしょうか?」


「ボクにその気がなかったとしても……ね。

 そうでしょ、ニア」


 諦念すらも感じさせるフィーの言葉に、ニアは悲痛な面持ちで頷いた。


「フィリス様を利用しようとする者もいれば、権力抗争の邪魔になる前に対処しようと考える者も出てくるはずです。

 そして円卓剣技祭で王都に来ることが知れているのなら、既に何らかの策略が練られている可能性も高いはずです」


「王都は敵陣も同然ってわけだね……」


 フィーは冷静に状況を受け止めていた。


「申し訳ありません。

 もっと早く状況を掴めていれば、対策を練ることもできたのですが……。

 わたくしはフィリス様の従者失格です」


 深々と頭を下げるニア。

 沈痛な雰囲気が室内を満たした。


「ニアが謝ることじゃないよ。

 それにボク自身、今の状況をそれほど悲観的には捉えてないんだ」


 侍従の主である皇女様は、前向きな言葉を口にした。


「ニアが心配する気持ちはわかるよ。

 でも、落ち込んでいても仕方ないでしょ?」


「で、ですが……」


「それにね、ニア。

 子供の頃とは違うんだ。

 今、傍にいてくれるのはキミだけじゃない」


 言って、フィーはこちらに顔を向けた。

 俺を見つめる碧い双眸からは、強い信頼を感じる。


「ボクの傍にはエクスがいてくれる」


 フィーは笑みを浮かべて、俺の手をぎゅっと握った。


「フィリス様……」


「頼れる人がいる。

 ボクの傍には最強の専属騎士ガーディアンがいるんだ」


 全く不安がないと言えば嘘になるだろう。

 皇女としてのこれまでの境遇を考えれば、本当は怖くて仕方ないはずだ。

 だから、


「そうだ。

 心配することなんて何もないぞ。

 専属騎士ガーディアンとして、そしてフィーの恋人として、どんなことからも必ず守る」


 俺ははっきりと口に出した。

 少しでも二人の不安を和らげるために。


「俺はフィーに笑っていてほしい。

 フィーが大切に思う人たちみんなにも、笑ってほしい。

 だから、その為の努力は惜しまない」


「エクス……」


「エクスさん……」


 フィーとニアが同時に俺を見つめた。

 決していい加減な想いではないことは、きっと伝わったはずだ。


「こんな時なのに……ボク、嬉しすぎて、胸がキュンってなっちゃった」


 頬を上気させたフィーが、瞳を熱っぽく濡らす。

 二人きりだったなら、抱き締め合っていたかもしれない。


「優しいのね、エクスくん。

 素敵よ……流石はわたしの勇者様」


「え……?」


 しかし次の瞬間、俺はニースに引き寄せられていた。

 ボフッ――と、彼女の胸部に頭が押し付けられる。


「な、なにをするんだ」


 俺はなんとか顔を上げた。


「強くてカッコ良くて、でも初心ウブなのね。

 顔が赤くなっちゃってるわよ?」


「かかかかかか会長!!」


「何かしら?」


「え、エクスに変なことするのはやめてよ!」


「エクスくんが素敵だったから、愛してあげたくなっただけよ?

 別に変なことではないわよね?」


「ひ、人前で胸を押し付けるなんて、ふ、普通はしないでしょ!」


「あら?

 人前で発情していたあなたがそれを言うの?」


「は、はつ……――し、してないから!」


「嘘ね。

 エクスくんに優しくされて、男らしい言葉を向けられて、あなた絶対に抱かれたいと思っていたでしょ?

 少なくとも私なら思うわ」


「そ、それは……って――ぼ、ボクは会長と違うの!」


 フィーさん?

 今の間はなんだったのでしょうか?


「その様子では図星みたいね。

 あのままあなたを放置していたら、この客室の中がどんな卑猥なことになっていたか」

「ボクたちは円卓剣技祭が終わるまでは、そういうことはしない約束なの――って、何を言わせるんだ!」


 ニースのペースにハマり、フィーはどんどん自爆していく。


「と、とにかくエクスを離すんだ!」


「いやよ。

 発情姫の隣に彼を座らせておけないわ!」


 プリンセスたちは席を立ち、俺の腕を引っ張り合った。

 ガタガタバタバタと客室が揺れる。


「せ、整備された客室の中とはいえ、馬車で暴れるのは危険です」


「リン様のおっしゃる通りです。

 冷静になってください」


 従者たちに止められ、二人のお嬢様は睨み合いを続けつつも争いを止める。

 そして次第に落ち着きを取り戻していった。


「……エクスくん。

 あなたが優しいのは知っているけれど、あまりお姫様を発情させないようにしてね」


「エクス。

 会長の言うことを真に受けないでね。

 隙あらば、危険な毒牙でキミに向けようとしているから」


 表面上笑顔のまま、言葉の応酬は続いていた。

 が、悪いことばかりではない。

 もう暗い雰囲気はどこかに吹き飛んでいたのだから。


「冗談がお上手なフィリス様に、私がどれだけエクスくんを愛しているか語ってあげたいところだけど……その前に聞くべきことがもう一つあるのよね」


「……それはボクも思ってたよ」


 二人のプリンセスがニアに顔を向ける。


「ニアさん……私たちを馬車に乗せた理由を、あなたの口から聞いてもいいかしら?」


「……はい。

 一つは信頼できる協力者を得ることです」


「先生方ではいけないのかしら?」


「聡明なニース様なら理解されているのではないでしょうか?

 ベルセリア学園は国が運営しているのです。

 既に他の皇位継承者の息がかかっている教師がいると考えてもおかしくはないでしょう」


「なるほど。

 学園内で協力者を得ようとする場合、まだ生徒のほうが安全だと考えたのね。

 とはいえ、私とリンに出来ることは限られているわ」


「表立って協力を得たいわけではないのです」


「ああ……そういうことね」


 ニースは納得したように頷いた。


「あなたは、大婆様の協力を得たいのね」


「おっしゃる通りです。

 陛下から信頼も厚いマリン様ならば、フィリス様の力になっていただけると考えております。

 その上でご協力いただきたいのです」


「具体的には何をすればいいのかしら?」


「いえ、マリン様の『居場所』を教えていただけないでしょうか?

 宮廷魔法師マリン・テンプルは、見つけ出すことすら困難な方だと聞いております」


「いくつも隠れ家のある人だからね」


「血縁者であるニース様なら、それをご存知なのでは?」


「全てを知っているわけではないわ。

 それに、会ったところで大婆様が協力してくれるかわからないけれど……」


 ニースの視線が、フィーに移った。


「……元々フィリス様を連れて、大婆様に会いに行く予定ではあったのよね。

 だからそのついでに話をしてみるのは、あなたたちの勝手よ」


「ありがとうございます、ニース様」


 積極的にというわけではないが、会長も協力してくれるようだ。


「ニア殿は、お嬢様が断るとは思っていなかったのではないですか?」


「……はい。

 協力を得られる勝算はありました」


「へぇ……それはどうしてかしら?

 一応、フィリス様は私の恋敵になるのだけれど?」


「なればこそです。

 フィリス様に対する感情はともかくとして、ニース様がエクスさんを想う気持ちは偽りないと信じていました」


「どういうこと?」


「エクスさんを悲しませるような決断、ニース様がなさわけがございませんから」


「っ……あなた、私が思っていたよりもイヤな女ね」


 意表を突かれたのか、ニースの表情が動揺で歪む。

 彼女自身がこんな顔を見せるのは、かなり珍しい気がした。

 対してニアは頭を下げる。


「まぁ、いいわ。

 最低限の協力はする。

 それと勘違いしないでほしいのだけれど、私はフィリス様のこと結構好きなの」


「会長……」


 ニースの想いに感激したのか、フィーの瞳は少しだけ潤んでいた。


「特に困惑した顔とか、泣きそうになった時の顔とか、可愛くてたまらないもの。

 もっと意地悪したくなってしまうわ」


「ちょ!?

 お礼を言おうとした途端、そんな最低な発言しないでよ!」


「お礼を言うくらいなら、エクスくんと一晩過ごさせてもらえないかしら?」


「それとこれとは話は別だから!」


 再び騒がしくなる客室。

 こんな調子で話をしているうちに、あっという間に王都に到着できるのでは……と思っていたのだが――。


「うん?」


「エクス、どうかしたの?」」


「何か……――来る」


「え?」


 強大な気配が信じられない速度で近付いて来るのがわかる。

 魔王ルティスほどではない。

 だが間違いなく……人間界に来てから最も強い。

 俺は急ぎ馬車全体を包み込むように防御壁を多重に展開した。

 瞬間――


「ヒヒーン!!」


「ブルルルルルル!!」


 ザザザザザアアアアア!!

 地面を引き裂くような音が聞こえ、馬車が急速に速度を落とす。

 俺はフィーの身体を抱きしめ衝撃に備える。


 ドガドガドガドガ――ガタアアアアアアーーーーーーン!


 馬車を衝撃が襲った。

 何かしらの攻撃を受けたか、張っておいた防御壁が2枚貫かれ、客車が大きく揺れる。 その直ぐ後に、馬車は止まった。


「何があったのです!」


 リンが大声を出して、状況を確認する。


「も、申し訳ありません。

 と、突然、目前に人が現れまして……な、何かされたようにも感じたのですが……」


 馬車の御者ぎょしゃをしていた騎士の声音は、戸惑いに満ちていた。

 どうやら何をされたのかも気付けなかったようだ。


「き、貴様、轢き殺されたいのか!」


 そして騎士は声を荒げる。

 だが、返事は聞こえない。


「……フィー、ちょっとこの中で待っていてくれ」


「エクスは……」


「安心しろ。

 直ぐに戻って来る。

 だから絶対にこの中から出るんじゃないぞ」


「エクスくん、わたしはサポートに入るわ」


「いや……ニースもここで待機していてくれ。

 ニアとリンは、フィーとニースの護衛を頼む」


「承知しました」


「はい、お任せください!」


 皆、直ぐに指示に従ってくれた。

 特にリンとニアは理解していたようだ。

 自分たちでは、この先の戦いで足手纏いになるということを。


「――エクス」


「うん?」


「気を付けて!」


「ああ」


 俺はフィーの頭を撫で急ぎ客室を出た。




        ※




「……何か言ったらどうだ!

 この馬車にはやんごとなき方が乗っておられるのを知っての狼藉か!?」


 馬車を出て直ぐに響いたのは、詰問するような騎士の声だった。

 同時に違和感があった。

 外が静かすぎるのだ。

 後続を走っていたはずの馬車が見えない。

 そして、俺は視界を前に向ける。


「……」


 視界の先には不思議な柄の仮面を付けた人間がいた。

 男なのか、女なのかは判断できない。

 しかし片手剣を構え俺に向ける。


「あんたがやったんだよな?」


「……」


 答えはない。

 だが、俺が感じた強大な気配は間違いなくこいつだ。

 しかし、どうにも違和感が拭えない。


「話せないのか?」


「……」


 どうやら会話をする気はないようだ。

 が……この仮面がフィーを狙っているのは間違いないだろう。

 わざわざ皇族専用の馬車に攻撃を仕掛けてきたのだから。


「来ないならこっちから――」


「っ!」


 仮面の男? は俺に向かい疾駆してきた。


「速いな」


 だが、まだ目で追える速度だ。

 ルティスをはじめ上位魔族に比べれば欠伸あくびが出る。

 振られた剣を半身を逸らすことで軽く避けた。

 が……直後に仮面の姿がブレたかと思うと、避けたはずの剣の刀身が俺の身体に迫ってくる。


「へぇ……」


 ――ザンッ。

 振られた刃から旋風が舞い、斬撃が俺の身体を切り裂いた。

 しかし刀身には血の一滴すら付いてない。


「面白い技を使うな」


 陽炎のようにフワッと俺の姿が消える。


「でも、俺も似たようなことならできるぞ」


「!?」


 俺の声に反応して仮面が振り向く。

 そして、顔面に目掛けて拳を振り下ろした。

 だが、感触はなく攻撃がすり抜ける。

 殴ったはずの仮面は、立っていたはずの位置から数歩後ろにいた。


「自分の分身を出せるのか?」


「……」


 言葉はない変わりに、数十もの分身が俺を取り囲んで行く。

 なら、


「どれだけ分身を出せたとしても、まとめて攻撃すれば同じことだぞ」


 俺は右手を上げる。

 すると無数の光の槍が顕現した。


穿うがて!」


 その言葉に呼応して、無限の雷光が仮面に降り注いだ。

 槍に貫かれた分身は崩れ落ちるように倒れ伏し、一体、また一体と姿を消していく。


「実体はいないのか?」


 分身を消し去っていく中で、魔法が地面を穿つ。

 すると、その度に世界が揺れる。

 空間に亀裂が走った。


「ああ、そういうことか」


 どうやら俺たちは、結界の中に閉じ込められていたようだ。

 たった一瞬でこれほど大規模な魔法を展開するなんて……。

 恐らく魔法ではない。

 何らかの魔法道具マジックアイテムを使ったのだろう。


「だが、種さえわかればなんてことない」


 俺は雷光の出力を上げて、結界に向けて放ち続けた。

 すると世界は大きく振動して、パリーン! とまるでガラスが割れるような音を響かせて崩壊した。


「な、なにがどうなってるんだ?

 自分は夢でも見ていたのか……?」


 御手ぎょしゃを務める騎手は戸惑いながら、周囲を右往左往している。


「さて、実体は……」


 気配は直ぐにわかった。

 視界の先――数十メートル。

 俺に反応して、大きな気配が動く。

 仮面は背を向けて逃げ出した。

 判断は悪くないが、


「遅いんだよ」


 疾駆すると、一瞬で仮面の実体に追いついた。

 頭を掴み、そのまま地面に叩き付ける。

 そして、俺は拳を振り上げた。


「終わりだ」


 拳を叩き込もうとした時、仮面は何かを握りつぶした。

 途端にその姿が、気配すらも、完全に消えていた。


「……魔法道具マジックアイテムか?」


 地面に残る砕け散った欠片から、強烈な魔力を感じた。


「……逃走用に所有していたのか?」


 ニースの話では、転移系の魔法道具マジックアイテムはかなり貴重らしい。

 それを持っていたということは……やはり敵は国の権力者だろう。

 つまりフィーはもう……。


「権力抗争に巻き込まれてるわけか」


 ニアの危惧していた通りの結果となった。

 王都に着く前に、今後の指針を決める必要があるだろう。


「お~い、どうした?

 何かトラブルがあったのか?」


 後続の馬車が追いついて来たようだ。

 どうやら結界の中にいた時間は、それほど長くはないらしい。


「あ、い、いや……」


 御者である騎士は、さっきの出来事を呑み込めずにいる。


「とりあえず馬車を走らせよう。

 あまり遅れるのはマズいだろ?」


「そ、そうだな。

 フィリス様の到着を陛下をはじめ、皇族の皆様が心待ちにしているはずだ」


 今頃、暗殺の失敗を嘆いてる奴はいるかもな。

 受け身に回ってばかりいるよりも、王都にいる間にこちらから攻めてもいいかもしれない。

 フィーを守る為の最善を俺は考えるのだった。




           ※




 それから客車に戻ると、直ぐに馬車は走り出した。

 中では俺を心配したフィーに抱きしめられたり、ニースの誘惑を受けたり色々とあったのだが……。


 先程あった出来事について話をしながら、今後の指針を固めている間に、ユグドラシルの王都キャメロットに到着した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ