表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

52/104

第52話 試験終了

21080318 更新1回目

            ※




 貴族生徒プリンセスを教室に送った後、俺たちは訓練室に戻ってきた。


「貴様、随分と疲弊しているようだが、そんなことで午後の試験を受けられるのか?」


 話し掛けてきたのはガウルだ。

 見るからに俺が辟易していたのだろう。


「ガウル、ありがとう。

 体調に問題はないから、心配しないでくれ」


「勘違いするな。

 試験で僕に負けた時、それを言い訳に使われないか心配しただけだ」


 午後の試験は実戦訓練。

 1対1で試合を行い勝敗を決めるというシンプルなものだ。


「だが、俺たちが戦えるかはわからないだろ?」


「僕には確信があるのさ。

 貴様と試合をするのは僕しかいないとな」


 ガウルは自信満々だった。

 その理由を尋ねようとした時――訓練室の扉が引かれた。


「これより試験を始める。

 能力測定の結果に基づき対戦相手を決定した。

 今から順に発表するが、名前を呼ばれた者から試合を始めてもらう」


 室内に入ってきたマクシス教官が口を開く。

 だが、この場にやってきたのは彼だけではない。

 学園長もこの場に来ていた。

 円卓剣技祭前ということもあり、今年の騎士生徒の能力を自らの目で確認しに来たのかもしれない。

 そして、どうやら二人が実技試験の試験官を務めるらしい。


「ガウル・ジェニウス、前に出ろ」


「はい!」


 名前を呼ばれる元首席が、訓練室内の中央に足を運ぶ。


「1戦目からガウルか……」


「対戦相手は誰になるんだろうな?」


「恐らく円卓生徒会の誰かになるんだとは思うが……?」


 1年とは思えぬ堂々とした佇まいと、溢れる自信、何より能力測定で大きな結果を見せつけたこの男に、上級生たちも一目置いていた。


「対戦者は……アグワイト・フランナー」


 マクシス教官がその男の名前を呼ぶと、どよめきが上がった。

 同時にガウルの勘は大外れとなった。


「アグイト先輩とガウルが戦うのか!?」


「1年の元首席騎士とはいえ、相手が悪いな……」


 どうやらアグワイトというのはそれなりに知名度の高い騎士生徒らしい。


「ガウル、残念だったな。

 この序列5位のオレが相手なら、結果は出たようなものだ。

 降参するなら今のうちだぞ?」


 ガウルから少し距離を取り、向かい合った生徒――この男がアグワイトらしい。


「はぁ……残念ですよ本当に……」


 この挑発的な発言に対してガウルは大きく肩を落とす。


「そうそうか。

 まぁ、敗北が決定した戦いほど辛いものはないだろうからな」


「違いますよ先輩。

 僕は勝って当然の相手と戦うことに、がっかりしているんです」


 挑発……いや、その言葉は本音だったのだろう。

 だが――自信家の1年元首席の発言に、アグワイトの表情は怒りに歪む。


「無駄話はそこまでにしろ」


 一触即発の殺伐とした雰囲気の中、学園長は厳格な口調で言葉を紡ぐ。

 続けてマクシス教官が口を開いた。


「これより試合を開始する。

 攻撃手段は、致命傷に至るものを除き全て許可する。

 勝敗は相手の戦闘不能、もしくは降参宣言により決定する」


 簡単なルール説明の後、ガウルとアグワイトは距離を取り、互いに剣を構えた。


「では……決闘デュエル――スタート!!」


 そして、マクシス教官が試合開始の合図を告げた。





          ※




 数分後――。


「ぐっ……」


 ガウルの剣が序列第5位の騎士の首元に突き付けられていた。


「続けますか?」


「クソッ……オレの、負けだ」


 苦虫を噛み潰したような悔しそうな苦悶の表情を浮かべるも、アグワイトは自らの敗北を認める。


「アグワイトの降参宣言により勝者――ガウル」


 学園長の口から勝者の名前が伝えられる。

 そして騎士生徒たちは歓声を上げた。


「かなり見応えのある試合だったな!」


「1年が序列5位の騎士を倒しちまったぞ!?」


「これでガウルの円卓生徒会入りは確定か?」


 1年生が上級生、しかも序列第5位を倒すというのはかなり大番狂わせだったようだ。


「勝って当然と挑発したこと、謝罪させてください。

 流石は序列5位……油断していればこちらが危なかったです」


「……1年と舐めてかかった時点でオレの負けだ。

 ガウル……今後のお前の躍進に期待させてもらおう」


 試合の後、二人は互いの健闘を称え合っていた。

 完全に接戦ではあったが、ガウルの方が僅かに自力で上回っていたことや、精神的にも優位に立っていたことが、勝敗を決定付けたように思う。


「続けて試合を開始する――」


 その後、次々に騎士生徒たちの試合が行われていった。




           ※




 俺は試合を見ながら、自分の出番を待っていた。


(……対戦相手は誰になるのだろうか?)


 最初はリンになるのかと思っていたが、既に彼女は試合を終えている。

 それから、さらに時間は進んだ。

 名前を呼ばれていない騎士は、俺を除けばもういないだろう。


「うむ……これで全生徒の結果は出たな。

 これにて午後の試験を終了とする」


 そんなことを言ったのは学園長だ。

 だが待ってほしい。


「学園長、俺はまだ試合をしてないんだが……?」


「午後の試験を行う際、『能力測定の結果に基づき対戦相手を決定した』と伝えたな。

 つまり、そういうことだ」


「いや、どういうことだよ?」


 全く説明になっていない。

 今ので何をどう理解しろと言うのだ?


「つまり、全種目で測定不能を叩き出したお前と戦わせられる生徒はいない。午前の試験の時点で、エクスの序列1位は確定している」


 どうやら学園側の判断で決められていたようだ。

 しかし、この事態はあまりにも例外だったのだろうか?


「試合なしで序列1位決定!?」


「学園の歴史でこれまでに、そんな例外があったことが一度でもあるか!?」


 試験結果を待つことなく俺の序列1位確定が発表され、周囲の生徒たちは騒然となる。


「流石です、師匠!

 今日だけでいくつもの伝説を築いていますね」


「実力の差を考えれば当然の処置だろうな」


 ティルクとリン――二人の女騎士は、まるで俺を称えるような口振りだが、全員が理解を示すばかりではない。


「学園長お願いが――」


「――納得できません!」


 何かを言おうとしたガウルの言葉が、明らかに不満を感じさせる声音に掻き消された。

 そして、声を上げた騎士生徒が前に踏み出す。


「ジェスか……これは決定事項だ。

 どれだけ生徒が声を上げようと、覆ることはない」


「ならば貴族生徒プリンセスたちの声ならどうでしょう?」


 騎士生徒の発言に、学園長は眉をひそめ険しい表情を見せた。


「おれが専属騎士ガーディアンを務めるのは、過去には皇族とも繋がりのあった公爵家の令嬢です。

 学園長とて我が貴族生徒プリンセスの言葉は無視出来ぬでしょう?」


 この男の行動はまるで、魔王の威を借るゴブリンだ。

 自分ではなく他人の力をあてにしている。

 そんなことでこの男は、専属騎士ガーディアンとして貴族生徒プリンセスを守れるのだろうか?


「あんた……情けないとは思わないのか?」


「……情けない?」


貴族生徒プリンセスの力を盾にして脅しなんて、あんたにとって大切な貴族生徒プリンセスおとしめる行為だ。

 専属騎士ガーディアンとして情けないとは思わないのかよ?」


「……言うじゃないか。

 だが……お前だって同じだろ?

 今回の結果、皇女殿下が肩入れしているに決まっている!」


「は?」


 この男は何を言ってる?

 今の発言は、俺にとっては看過しかねるものだった。


「そうでなければ、測定不能などという結果が出るわけがない!

 あれは皇女殿下に頼まれて、学園側が仕組んだものなんだろ?」


「――おい貴様!

 その発言はフィリス様――いや、最悪は皇族全体への不敬罪に当たるぞ!?」


 言ったのはガウルだ。

 ジェスの無礼な言葉に対して、明らかに語調が強まっている。


「皇女殿下になんて無礼な事を!!」


「ジェス! 今すぐ謝罪しろ!」


 他の騎士生徒たちからも、非難の声が上がった。


「うるさい!

 どうせ皇女殿下に取り入って手に入れた序列1位の地位だろ!

 こいつは、フィリス様に随分と気に入られているようだからな。

 どう口説き落としたのかは知らないが、皇族とはいえ年頃の女だ。

 手籠めにしてしまえば、男の為になんでもするような――ひっ!?」


 突然、俺の目の前でフィーを罵倒した男が、ガタガタと震え出した。

 そんな男を見つめながら、俺はゆっくりと口を開く。


「……いいぞ。

 ならお前の望み通り、今直ぐ決闘をしよう」


 自分でもわかるほどの、強烈な殺気が漏れていた。

 フィーのことを何も知らないくせに、勝手な憶測を事実のように話すなんて決して許されることではない。


「……学園長、審判を」


 この場にいる者全員が、金縛りにあったように硬直している。

 その中で学園長だけがガクガクと頷く。


「よし許可も下りたな。

 それじゃあ始めるぞ――決闘開始デュエルスタートだ」


「ひ、ひい、は、はぁ……ふっ、ふー、ふー……ま、まって……」


 俺が一歩近づくだけでジェスは呼吸が乱れる。


「そうだ。

 ぶっ飛ばす前に、まずはフィーへの侮辱を今すぐ謝罪しろ」


 このままでは会話もままならなそうだと、俺は漏れだした殺気を無理に押さえつける。


「ふぅ、ふぅ……は、はい……ひっ……はい、はい! します、しますから…!」


「5秒以内だ」


「すすすすすすすみません、すみません、ごめんなさい、申し訳ありません。

 もう二度とフィリス皇女殿下を侮辱するような発言はいたしません。

 だ、だから、え、エクスくん、いや、エクス様……た、たすけてくだ――」


「もしフィーの前で今みたいな発言をしたら、本当に許さないからな」


 それだけ伝えて、俺は男に強烈な殺気を送った。

 ただそれだけで――バターン。

 ジェスは気絶してしまった。

 俺は、一切手を出していない。


「……はぁ」


 息を吐き、気持ちを落ち着け、怒りを抑えつける。

 昔、ルティスが言っていた。

 力だけではなく、感情の制御も完璧にこなせるようになって一流だと。

 これからはもっと、精神鍛錬を積まねばならない。

 特にフィーの事になると、俺は感情的になってしまうことが多いからな。

 これは今後の課題にしよう。


「他に、俺の序列1位に納得できない生徒はいるかな?」


 確認した上で、俺は念を押す事に決めた。


「この試験に貴族生徒プリンセスは関係ない。

 学園の序列は騎士生徒個人の実力で決まってる。

 それが納得できない奴がいるなら、俺はいつでも相手になる」


 異論を唱える者はいない。

 今はあのガウルですら、困惑した様子で俺を見ていた。


「よし……なら今回はもういいよな。

 学園長、俺に挑みたい奴はもういないそうだ。

 これで試験は終わりでいいか?」


 俺は学園長に話を振る。


「あ、ああ……そうだな。

 午後の試験もこれで終わりだ。

 結果は明日中に発表する。

 専属騎士ガーディアンは直ぐに貴族生徒プリンセスと合流するように」


 少しのトラブルはあったものの、こうして俺の初めての試験は無事終了したのだった。

 ……後々知った事だが、学園の序列12位までの騎士は、生徒たちによって二つ名が付けられてしまうらしい。

 

 そして、俺に付けられた二つ名は――姫様溺愛プリンセスラバー


 その直接過ぎる命名に俺は悶絶する事になるのだが……その日が来るのは暫く先の話である。

ご意見、ご感想をお待ちしています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ