第50話 測定不能の男
20180314 更新1回目
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俺たち騎士生徒は腕輪が渡された。
装備する事で教官の持つ試験資料という本に、結果が自動で記録されるらしい。
これは学園の為に、王都の宮廷魔法師マリンが作った魔法道具だそうだ。
「まずは50m走だ。
呼ばれた者は白いラインに並べ」
この測定は、魔法で身体能力を強化してはいけないらしい。
「準備はいいな。
それでは――レディ……ゴー!!」
マクシスの合図で、横並びになった生徒たちが一斉に走り出す。
「パロットが5秒8。
ウェルは5秒9……」
マクシス教官が生徒たちにタイムを伝え、彼らは自分の記録に一喜一憂していた。
「どんどん行くぞ。
――ガウル・ジェニウス」
「ふんっ、僕の番か」
元1年首席は自信に満ち溢れた様子で白いラインに立つ。
「――リン・サミダレ」
続けてリンも呼ばれた。
さらには序列12位――アーヴァイン・カーファインの名前を上がる。
「元序列1位のリン先輩に、1年の元首席のガウル、序列12位のアーヴァインもいるぞ!」
実力者揃いのこのカードは、生徒たちの注目を集めていた。
「この中なら、やはりリン先輩が圧勝か?」
「どうかな?
騎士としての実力は高くても、身体能力で女というハンデがあるぞ?」
とある生徒の発言に、リンの瞳が微かに揺れる。
性別で下に見られたことに不快感を覚えたのかもしれない。
それがこの女剣士に火を付けたのか、絶対に勝ってみせるという決意が彼女の瞳からは溢れていた。
「準備はいいな?
それでは――レディ……ゴー!!」
「っ!」
教官の合図に合わせて、リンは最高のスタートダッシュを決めた。
少し遅れてガウルがその背中を追う。
だが、徐々にリンとガウルの差は開いていき、1着はリン、2着はガウルでフィニッシュとなった。
「おお! とんでもないタイムが記録されたぞ!
リンくんが4秒3、ガウルが4秒8秒だ」
手に持っている試験資料を見ながら、マクシス教官が驚愕する。
「リンくんの記録は過去3年以内であれば1位。
数百年続くこの学園の歴史でも23位だ!
ガウルも歴代52位という好記録だ!」
この場にいた生徒たちからも歓声や感心、どよめきが漏れた。
「クッ……流石はリン先輩だ」
だが、今の成績にガウルは納得していないようだった。
「お主の記録は大したものだ。
某が1年の頃の記録よりいいタイムだぞ」
悔しそうな元1年首席を、女剣士は称えた。
「ふんっ、まだまだこれからですよ!
最後には僕が勝たせてもらいます!」
「望むところだ」
格上の先輩に対しても、強気な姿勢を崩さないガウル。
これは、この男の長所の一つだろう。
自信過剰過ぎるという意味では欠点にもなるのだが……騎士生徒の中であれば、ガウルは間違いなくトップクラスの才能と実力を持っているようだ。
「皆、かなりの好記録だな。
5秒台がこれほど多くいると思わなかった。
中でも今年の専属騎士は粒揃いだな」
50m走でガウルの記録を超える生徒は、リンを除けば今のところ誰一人いない。
数百人以上の生徒がいる中で、これは大したものだろう。
「……次は――エクスくん」
最終組で俺の名前が呼ばれた。
「あの1年、リンに勝ったっていう編入生だろ?」
「見物だな。
果たしてどれほどの実力なのか……」
騎士生徒たちの注目が俺へと集まっていくのがわかった。
「現序列1位で、フィリス様の専属騎士なんだよな?
……おれ、あの方のファンだから羨ましいよ……」
「お前もだったか。
あれだけお美しく、凛々しく聡明でお優しいともなれば当然か。
学園の3大美女の中でも一番ファンが多そうだよな」
「孤高の薔薇姫と言われていたあのかたが、最近はよく笑うようになられたようだが、それはあの男の影響なのだろうか?」
話題がフィーへと変わり、同時に男たちの怨嗟が俺に向けられた。
その中に、ガウルの猛烈な嫉妬が入っているのは言うまでもない。
「よし、全員並んだな」
俺たちの様子を確認した後、マクシスが腕を上げた。
「それでは――レディ……ゴー!!」
始まりの合図と共に教官が腕を振り下ろした直後、俺は50m先の白いラインに立っていた。
ゴールまで遅くても1秒かかっていないだろう。
「ぇ……?」
唖然とした声を漏らしたのは誰だったのだろうか?
刺のように突き刺さってきた嫉妬心はどこかに霧散し、この場にいる者たちの目が信じられないと語っている。
「マクシス教官、俺のタイムは?」
「あ……ああ、そ、そうだな。
い、いや、すまない。
エクスくんが消えたかと思ったら、そっちにいたもんでな……。
ま、まさか試験中に居眠りをしてしまうとはな……はははっ。
え~と……記録されたタイム……――はあああああああああっ!?」
教官の口から、訓練室に響き渡るほどの大絶叫を上がった。
「どうしたんだ?
まさか記録されてないのか?」
「き、記録はされてるんだが……」
「なら何を驚いてるんだよ?」
「そ、それが……タイムが0秒と記録されているんだ……」
ざわざわ……と、ちょっとした騒ぎが起こる。
「ぜ、0秒?」
「た、確かに……オレの目には消えたように映ったけど……」
「もしかして、ずるしたんじゃねえか?
魔法を使ったとか」
なんと心外な。
ルールは全部守っているぞ。
「それは違うぞ。
何らかの違反行為があれば腕輪の色が変化するし、そもそも試験資料にデータが記録されることはない」
弁明してくれたのはリンだった。
彼女は俺がルール違反をするはずがないとわかってくれているようだ。
当然、俺の腕輪の色に一切の変化はなかった。
「え、エクスくん、すまないが……もう一度は走ってもらってもいいか?」
「ああ」
そしてもう一度、俺は50mを走った。
が、
「ぜ、0秒……。
す、すまない……もう一度……」
それから3回走らされ、最終的には――
「そ、測定不能!? うちょだろ……」
何故か嘘と発音できないマクシス教官。
この状況に混乱しているのかもしれない。
「測定不能ってこの場合どうなるんだ?」
「……これは腕輪では記録出来ないほどの身体能力という扱いになるそうだ」
「つまり順位は?」
「測定不能を叩き出した生徒は今まで存在しない。
つまり……エクスくんの記録は測定不能で歴代1位だ」
生徒たちが唖然とする中、
「流石はエクス師匠だ!
わたしの尊敬する偉大な騎士はやはり凄い!」
「エクス殿ならば当然とすら思えるな」
ティルクは目を輝かせながら嬉しそうに、リンは納得の面持ちながら憧憬を込めて俺を見つめる。
「と、とにかくこれで最初の種目は終了だ!
次は反復横跳びをしてもらう」
気を持ち直した教官が、唖然とする生徒たちに指示を出す。
ちなみに能力測定の最終的な結果だが、俺は受けた5つの種目全てで測定不能、全種目歴代1位の記録を叩き出してしまった。
「師匠、お疲れ様です!」
「やはりエクス殿はとんでもない方だ。
これほどの記録を叩き出してしまうとは……」
二人の女騎士が感心する後ろで、多くの騎士生徒は魂の抜けた顔をしていたのだが、それが何故なのかは全くわからなかった。
「……食事休憩の後は、実戦訓練に移るからな。
皆、遅れることのないように!」
こんな調子で能力測定は終わり、昼休みとなった。
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