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第5話 選定の洞窟

20180208 更新2回目

        ※




「……ここが選定の洞窟か」


 洞窟の周囲には苔が広がっている。

 入口は狭く人が2人並んで入るのがやっとというところだ。

 外から軽く除いてみたが、中は暗く何も見えなかった。


「ボクも入るのは初めてだから少し楽しみだな。

 盗賊の住処になっていたりして」


「俺はどちらかと言うと、ゴブリンでも出てきそうだと思ったな」


「ゴブリンか……。

 人間界と魔界が切り離されてから、魔物はあまり見かけなくなったって聞くけど、エクスは見たことがあるの?」


「あるぞ。

 何度も見たことがあったわけじゃないがな」


 魔界は弱肉強食の世界だが、ゴブリンは繁殖能力の強い為、弱い魔物でも種族が完全に途絶えることはなかった。


「へぇ……そうなんだ。

 地域によってはまだいるんだね。

 どういうモンスターなの?」


「う~ん……そうだな。

 俺が見た奴はよわっちかった」


 子供の頃に魔界の友人たちと魔王ごっこをしていた時、たまたま一匹のゴブリンを見掛けた。

 だが、弱い魔物は魔界では生きていけない。

 多分、他の強い魔物に殺されてしまう。

 本来なら情けを掛けるべきではないが、俺たちはそれを可哀想だと思ってしまった。

 情けなど掛けるべきではない。

 それはわかっているが、掛けてしまった。

 そして俺たちはゴブリンを鍛え上げた。

 ゴブリンの英才教育だ。

 弱肉強食の世界で生き抜くには強くなるしかない。

 そのかいもあってか、今ではそいつはドラゴンを軽く屠れるくらいの力を手に入れて、なんとかやっていけている。


(……懐かしいなぁ、ゴブ丸。

 それにあいつら、俺が人間界にいるって知ったらどんな顔をするだろう?)


 ゴブ丸のことを思い出した流れで、魔界の友人たちのことを思い出した。


「どうしたの?」


「友達のことを思い出してた」


「友達? そう、エクスは友達がいるんだね」


「フィーにはいないのか?」


「うん、いないよ」


 迷いなく、フィーは即答した。

 まるで最初から答えを決めていたみたいだ。


「なら、俺が最初の友達だな」


「……エクスはボクの専属騎士ガーディアン

 だから、友達とはちょっと違うかな」


専属騎士ガーディアンは友達になっちゃいけないのか?」

「そういうわけじゃないよ。

 でも……ボクは友達は要らないんだ」


 今度は答えに迷いがあった。

 どうしてそんなことを言うのか?

 俺は疑問に思ったが……。


「エクス、早く入ろうよ」


 話を逸らしたいのか、フィーはそんなことを言った

 ならば俺もこれ以上は聞かない。


「わかった。

 でも、先頭は俺だからな」


「うん、エスコートはお願いするね。

 でもさ、真っ暗だけど大丈夫……?」


「問題ない」


 その発言と同時に、俺は燈火ランプライトという魔法を使用した。

 すると、手持ちランプのような形状の物体が生まれて宙を舞う。


「へぇ……見たことがない魔法だな。

 光の初級魔法、光球ライトと似た感じだね」


光球ライト? 俺はその魔法を知らないな?」


 魔界と人間界では、教わる魔法が少し違うのかもしれない。

 だが、効果が似た魔法があってもおかしくない。

 なにせ魔界に伝えられる魔法だけでも、数億種類はあるらしいからな。

 魔王ルティスでも、その全てをマスターしているわけではないと言っていた。

 俺もだいたい30万種類の魔法が使える程度だ。


「地方によって、伝えられている魔法が違うのかな?」


「そんなところかもな。

 これで準備も整った。

 行くとしよう」


「ちょっとした冒険だね。

 わくわくしちゃう!」


 選定の洞窟に入る。

 緊張感のない冒険ではあるが、それでもフィーは楽しそうだった。




          ※




 燈火ランプライトが洞窟の闇を払う。

 洞窟の中はお世辞にも綺麗とは言えない。

 中は思っていたよりも広いが、岩壁や地面には苔が生えている。

 選定の剣などと言う大層な物があると聞いていたが、あまり神聖な感じはない。


「本当にここに、選定の剣なんてあるのか?」


「それは間違いない思うよ。

 勇者が魔界と人間界を切り離したって話の続きになるんだけど。

 その後、魔王討伐の際に使用した剣を選定の洞窟に突き刺した。

 ここまでが勇者の伝承として記録されているから」


 洞窟を進みながら、フィーは続けて選定の剣について説明してくれた。


「選定の剣はね、勇者自身が使っていた剣なんだ。

 役目を終えると、勇者たちはその剣を選定の洞窟に戻す。

 そして次代の勇者の訪れを、この場で選定の剣は待ち続ける」


「剣が勇者を選ぶっていうのは、なんだか変な話だな……」


「伝承って御伽噺みたいなものだしね。

 物語みたいに、少し面白おかしく書かれてるところはあると思う」


「実は誰でも抜けるものだったりしてな」


「でも、数多くの騎士たちが挑戦して剣を抜けなかった。

 そんな逸話も残ってるんだ」


 おかしな話だ。

 たとえどれだけ深く刺さっていようと、無理に抜くことは出来るはずだ。

 それでも抜けないのなら、抜き方を知らないとか、何か理由があると考えたほうが自然だ。


(――はっ!?)


 まさか勇者の奴か!?

 魔界最強になった俺にビビって、その選定の剣とか言うのにヤバい呪いを掛けてるんじゃないだろうか?

 なんだ?

 強力な弱体化か!?

 デス系の呪術という線もあるな。

 もしくは吸収ドレイン

 いや――まさか勇者自身が待ち伏せして、不意打を狙ってるんじゃ?


(……はっ、面白いじゃないか!)


 これは勇者から俺への挑戦に違いない!

 どんな仕掛けがあろうと突破してやるよ!


「ふふ、ふふふふふ――」


「エクス、なんだか楽しそうだね?」


「ああ。

 この先、面白くなるかもしれな――うん?」


 洞窟の奥に、眩しいくらいの光が見えた。

 あの輝き方は、自然の光ではない。

 燈火ランプランプと同じく、魔法による光だ。

 まさかあそこで勇者が待ち構えているのか?

 だとしたらいい度胸だ。

 ワザとらしいくらい、自分の居場所を主張している。


「フィー、俺から離れないでくれ。

 あそこにいる奴は、とんでもない化物かもしれない」


「化物……?

 もしかして本当に魔物がいるの?」


「いや、多分いるのは『魔王』以上の化物だ」


「そんな奴がこの選定の洞窟にいるんだ。

 なら、早速行く?」


 あれ? 全く怖がってない?

 寧ろ、好奇心旺盛な様子でわくわくしている。


「怖くないのか?」


「怖がる必要あるの?」


 言ったフィーが微笑む。

 彼女の目は、何があっても守ってくれるんでしょ? と、語っていた。

 まだ出会って間もない俺をフィーは信じてくれている。

 なら、


「――ないな。

 お前の専属騎士ガーディアンは最強だ」


 その信頼には結果で応えよう。

 決意を固め先に進む。


「ふん! ふ~~~~~~~ん!」


 変な声が聞こえてきた。

 それは女性のものだ。

 もしかして、あそこにいるのは勇者じゃないのか?


「エクス、女の子みたいだけど……?」

「そのようだな」


 さらに近付くと、白い甲冑に身を包んだ女性の姿が目に入った。

 銀髪を振り乱しながら、その女は何かをしている。


「くっ……ど、どうして、なぜだ!」


 何か悪戦苦闘中のようだ。


「ふ~~~~~ん! ぬううううううっ! にゃああああっ!」


 すごい叫び声だ。


「ふしゃああああああっ~~~~~!!」


 これは大山猫リュンクスの威嚇に似ているな。


「……エクス、どうやら猫がいるみたいよ」

「そうだな。化物じゃなく、大山猫リュンクスだったようだ」


 俺とフィーはその女の奇怪な行動を眺めながら、暫く観察を続けた。


「ど、どうして抜けないんだ! 抜きたい! 頼む、私に抜かせてくれ!」


 抜く?

 この女騎士、もしかして選定の剣を抜くつもりなのか?


「ふにゅううううううう!」


「おい、あんた」


 力いっぱい、女騎士が何かを引っ張ったのと、俺が話しかけたのは同時だった。


「え……ひやあああああああああああああっ!?」


 タイミングが悪かったのか、女騎士は再び奇声を上げた。

 そして急に声を掛けられて驚愕したのか、スポンと引っ張っていたものから手を離してしまう。

 すると、ゴロゴロゴロゴロ~~~~~~と、俺たちの立つ場所まで転がって来た。


「……う、ううう……」


「だ、大丈夫か?」


 痛そうに顔を顰める銀髪の女が心配になり、俺は声を掛けて手を差し出そうとした。

 しかし直ぐに目を逸らす。


「う~ん……なるほどね。

 純白の女騎士はレースの黒い下着か。

 見た目に反して、結構だいたんだね」


 フィーが解説してくれたが、銀髪の少女はゴロゴロと転がった勢いのせいか、下着が丸出しになっていた。


「え……ふ、ふにゃあああああああ!? み、見るんじゃない!」


 指摘されて、女騎士は慌てて下着を隠した。

 なんだか慌てだしい奴だ。


「キミ……見たことがあるな。

 確か、ベルセリアの騎士候補だよね?」


「え……はわっ、はわわわわわわわわっ!

 あなた様は、フィリス様ではありませんか!?」


 どうやらフィーは、この騒がしい女騎士を知っているようだ。


「……キミ、名前は? こんなところで何をしているの?」


「わ、私は、ティルクと申します!

 こ、ここに来た理由は……」


 答えにくいのか、女騎士は顔を顰める。

 一体、何をやっていたのだろうか?

 そう思い、俺はさっきまで女が立っていた場所に目を向けた。


「……あれは?」


 地面に突き刺さる一本の剣。

 多分、あれが選定の剣だろう。

 強力な力を感じないが、不思議なほどに目を引き付けられた。

 なんだろうか?

 どこか懐かしい感じがする。

 それは俺が、勇者の息子だから……なのだろうか?


「お前、選定の剣を抜こうとしていたのか?」


「うぐっ……なぜバレた!?」


「いや、一目瞭然だろ」


 こいつはもしかして、おバカさんなのかな?


「ぐっ……なんだその目!

 貴様もわたしのこと、こいつおバカさんなのか? とか思ってるんだろ!」


「おお! 凄いな、心が読めるのか?」


「うあああああ、やっぱりか!?」


 自分で言っておいて、涙目になっている。

 いや、しくしく泣き出していた。


「はぁ……なんだか騒がしい子だな。

 この際、なぜ選定の剣を抜こうとしていたかについては聞かないよ。

 キミ、授業に遅れないように、もう戻った方がいいんじゃない?」


「はっ!? 選定の剣に夢中で忘れていました。

 ですが……フィリス様は……?」


「ボクは彼が選定の剣を抜くのを見届けて戻るよ」


 フィーに目を向けられ、俺は歩き出し、選定の剣の前に立った。

 正直、ただ地面に突き刺さっている剣なら簡単に抜けそうだ。

 見たところ……何か仕掛けがあるようにも見えないし、特殊な魔力の波動も感じない。


「ふぃ、フィリス様! あの者は誰なのです?

 なぜ選定を引き抜きに?」


「なんでも、魔界最強で勇者の息子らしいよ」


「ゆ、勇者!?」


 背後からフィーとティルクの会話が聞こえた。

 あまり待たせるのも悪いか。

 俺は剣の柄に触れた。

 やはり何も起こらない。

 そしてゆっくりと力を込めて手を引く。


「……抜けないな」


 もっとスッ――と、抜けると思った。

 なんていうか選ばれた者だけがスマートに抜ける剣。

 そんな風に考えていたのは間違いだったようだ。


「ふ、ふん! なんだ抜けないではないか!

 勇者の息子など嘘を吐いたのか?」


「まぁ……待てよ。少し――本気出すからさ」


 俺はほんの少しだけ、『力』を解放することにした。

 ルティスとの戦いのせいで、かなり消耗したせいもあって全力の0.01%にも満たない力だったが、それでもさっきまでと比べて10000倍ほどは能力値が向上しただろう。

 そして剣の柄を持ち、思い切り引っ張る。


「よっ――っと!」


 ――ボガ~~~~~~~~~~~~~~~~~ン!!


 爆音と共に、俺は選定の剣を引き抜いていた。


「え、ふうええええええええええええええええええええええええっ!?」


 世界の終焉を見たような顔で、ティルクは俺が引き抜いた選定の剣を見ている。

 だが、驚くのも無理はない。


「なるほど、これじゃ抜けないはずだな」


 選定の剣が突き刺さっていた地面は、実は超巨大な岩石だった。

 つまり今、選定の剣が突き刺さっていた地面には大穴が開いた状態になっている。


「あはっ、あははははっ! もう最高!

 本当に選定の剣を抜いちゃうなんて! やっぱり、エクスは面白いなぁ!」


「ふぃ、フィリス様、この者は本当に勇者の……?」


「さぁ? でもさっき言い忘れていたことがあるよ。

 彼は魔界最強で、勇者の息子で――それと今日からボクの専属騎士ガーディアンになったから」


「ふぃ、フィリス様の専属騎士ガーディアンって――え、ふえええええええええええええっ!?」


 洞窟の中で、ティルクの声が木霊となり反芻する。


 そう。

 選定の剣を抜いたことで入学試験はクリア。

 俺がフィーの正式な専属騎士ガーディアンになる事が決定した。


「元々そのつもりだったけど、今日からよろしくね、ボクの専属騎士ガーディアン

「ああ、任せろ」


 満足に微笑むフィーの目を見て、俺はしっかりと頷き返したのだった。

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