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第49話 試験開始直前

20180313 更新1回目

            ※




 俺たちは学園に行く準備を済ませた。


「エクス~、そろそろ行く?」


「そうだな。

 あ……フィー、襟のリボンが少し曲がっているぞ」


 いつも、ビシッと整った格好しているフィーにしては珍しい。


「本当? なら、エクスに直してほしいなぁ」


 甘えるような上目遣いで、フィーが俺を見る。


「そのくらいならお安い御用だ」


 リボンに優しく触れて、位置を調整する。


「うん、これで大丈夫だ」


「ありがとう、エクス。

 なんだかこういうのも、恋人らしくていいよね」


 柔和な笑みを浮かべるフィー。

 こういう優しい日常は、とても大切な時間だ。

 フィーが俺に笑顔を向けてくれるだけで、幸せな気持ちでいっぱいになる。


「そういえば……エクスっていつもネクタイをしていないよね?」


「あまり好きじゃないんだ。

 首が絞められるような感覚というか、窮屈な感じがどうにも慣れなくて」


「確かに、ちょっと苦しい感じはあるかもね。

 でも、お父様に謁見する時は、身だしなみには気を付けた方がいいかもしれない」


 流石に皇帝の前では身なりは整えるつもりだ。

 服装でフィーの恋人として、相応しくないと判断されたらイヤだからな。


「……こういのは、普段から気を付けてないとダメだよな。

 専属騎士ガーディアンがだらしないんじゃ、貴族生徒プリンセスの印象まで悪くなってしまう」


「学園では、そこまで気にしなくても大丈夫だよ。

 少しラフな格好をしているくらいの方が、エクスは似合ってるよ。

 でも円卓剣技祭には、国の重鎮も多く観戦しているから……」


「やはり今のうちから気をつけるべきだな。

 ……早速、ネクタイをしてみようと思う」


 魔界時代にも、ネクタイなんてほとんどしたことがなかった。 

 完全に結び方を忘れているかもしれない。

 今のうちに練習しておくべきだろう。


「エクスがよかったらなんだけど……ボクが、ネクタイを結んであげてもいいかな?」


「勿論だ。

 頼んでもいいか」


「うん、任せて!」


 机の上に放置しておいたネクタイを取ってフィーに渡す。

 すると俺の恋人は身体を寄せて、ネクタイを首に回し優しく結んでくれた。


「……どう、苦しくないかな?」


「大丈夫だ。ありがとな、フィー」


「ううん。

 エクスさえよければ、これから毎日してあげたいな」


 俺がしてもらったことなのに、フィーはとても幸せそうに笑みを浮かべる。


「なら俺も、これから毎日フィーのリボンを結んでいいか?」


「本当? ボク、ずっとエクスと恋人らしい事がしたいって思ってたから、とっても嬉しいなぁ」


 フィーが俺に満面の笑みを向けてくれる。

 それだけで俺の心は、優しくて温かい想いが溢れてきて、おかしなくらい胸を締め付けられてしまう。


 幸せなのに苦しくなるなんて、人の感情は複雑に出来ているけど、それでも間違いないのは、この日常が俺にとって、かけがえのないものだということ。


「今日は試験だから少し早めに出ようか」


「わかった。

 俺はともかく、フィーを遅刻させるわけにはいかないからな」


 不思議な余韻を胸に残しながら、俺たちは学園に向かった。




         ※




 ベルセリア学園の試験は、貴族生徒プリンセスと騎士生徒で内容が異なるらしい。

 貴族生徒プリンセスが行うのは筆記試験。

 これは要するに学力試験のことだ。

 普段の勉強成果が数字として出る為、お嬢様方にとっては気の重いイベントの一つだろう。


 対して騎士生徒が行うのは実技試験。

 やることは能力測定、そして実戦訓練と聞いている。

 騎士生徒にとっては自分の力を試す絶好の機会に違いない。


「では皆さん、試験がんばってくださいね!

 騎士生徒は直ぐに訓練室に移動ですよ。

 遅刻は厳禁ですからね!」


 朝のホームルームが終わり、ケイナ先生は教室を出た。


「それじゃあ行ってくるな」


 俺は立ち上がると、試験に向かうことをフィーに伝えた。


「行ってらっしゃい!

 大変かもしれないけど、応援してるからね、エクス」


「俺も、フィーが試験を乗り切れるように祈ってるからな」


 教室を出る前に、互いにエールを送り合った。


「リン、心配はないと思うけれど悔いの残らないようにね。

 あなたにとっては最後の円卓剣技祭なのだから」


「ありがとうございます、ニース様。

 今日ばかりは自身の為に全力を尽くさせていただきます」


「序列12位以内に入れるようなら、お祝いしてあげますわ。

 ガウル、がんばるのですよ」


「ありがたき幸せ!

 このガウル、必ずや円卓剣技祭の出場権を手に入れてみせましょう!」


 貴族生徒プリンセスに鼓舞された後、騎士生徒たちは訓練室に向かう為、教室を出て行く。 


「さぁ、エクスくん。

 行きましょうか」


 そんな中、なぜか貴族生徒プリンセスであるニースが立ち上がった。


「行くって……どこにだ?」


「そんなの勿論、訓練室に決まってるじゃない」


 当然のことのように言っているが、ニースは試験を受けないつもりなのだろうか?


「まさかとは思うけど、会長はサボるつもりなの?」


「フィリス様、あなたは試験を受ける事と、エクスくんの活躍をこの目に焼き付けておく事、どちらが大切だと思っているのかしら?」


 勿論、自分の試験を受けることが大切だろう。

 わざわざを俺を見守る必要などない。


「そんなの、エクスの活躍に決まってるよ!」


 いや、フィリスさん!?

 そこは自分の試験って言わないとダメなところでは!?


「なら、あなたも一緒にサボればいいじゃない?

 そして実力試験を見に行くのよ!」


「……で、でも……ボクが試験をサボるのは……。

 皇女としての立場もあるし……」


「大丈夫よ! 私は生徒会長だけどサボるもの!

 大婆様が宮廷魔法師だけれど、気にせずサボるもの!」


 全然大丈夫じゃないだろ!?

 ニースは自信満々に言ってるが、試験をサボった時のペナルティとかだってあるんじゃないか?

 このままでは、本気でフィーが惑わされかねない。


「二人とも、ちゃんと試験は受けるんだ。

 終わった後ならいいが、サボったら叱るかもしれないからな」


「え、エクスくんに叱られる!?

 それはそれで……魅力的な提案ね!」


 なんで微妙に頬を染めてるんだこの会長さんは!?


「……会長、やっぱり試験は受けないとダメだよ!」


 対してフィーは、徐々に冷静さを取り戻していく。


「フィリス様は、エクスくんに弱すぎるのではないかしら?

 相手が好きな人でもいいなりはダメよ! ちゃんと自己主張はするべき!」


「間違った事なら、ボクもしっかり意見を言うけど、今回のはそうじゃない。

 エクス、ありがとう。

 今みたいに、もしボクが間違った事をしそうになったらちゃんと叱ってね」


 反省をしつつも、はにかむフィー。


「今のは叱るほどでもないけどな。

 もし俺が間違った事をしたら、フィーも叱ってくれるか?」


「うん。

 エクスのことが大切だからこそ、ボクはちゃんと言うから」


 フィーは迷いなく答えた。

 同時に俺は、ルティスが言っていた言葉を思い出した。


 他人の為に怒れる者は中々いない。

 それは自分を傷付ける事になるからだと。

 だから、心から自分の為に怒ってくれる人がいたのなら、絶対に大切にしなければならないと。


 もし俺がフィーに叱られるような事をしてしまったら、その時は猛省しよう。

 きっと叱られた俺以上に、辛い想いをしているだろうから。


「……ありがとな、フィー。

 もしもの時は頼む」


「うん! 後、会長のことは任せてね!

 ボクがしっかり試験を受けさせるから!」


 そう言って、フィーはガシッ! とニースの身体を捉える。


「……あ~、わかったわ。

 今回は我慢して試験を受けるわよ。

 自他共に認めるエクスくんの妻が、試験をサボって最下位なんて、あなたの評判を落としかねないものね」


 何やらニースがおかしな発言をしたが……もう否定している時間も惜しい。

 もう既に俺以外の専属騎士ガーディアンは教室から去っていた。


「話の途中ですまないが、俺は行くからな。

 二人とも頑張れよ!」


「エクスもね、それと、怪我はしないように注意してね!」


「あなたなら心配はいらないと思うけど、応援しているわ!」


 二人の応援に後押しされ、俺は教室を出て訓練室に向かった。




            ※




「全員、揃っているな」


 厳格そうな顔つきの男が訓練室に入って来た。

 確か……マクシス教官だったか?

 久しぶりに顔を見た気がする。

 騎士団にいた頃の古傷は、もう大丈夫なのだろうか?

 膝に矢を受けてしまったと言っていたが……。


「マクシス教官、膝は大丈夫か?」


 試験の前だったが、俺は心配になり声を掛けてしまった。


「!? え、エクス君だったな。

 なんでも騎士序列1位になったそうだね」


「俺のことよりも、膝の傷は大丈夫なのか?」


「ま、まだ痛むが……教官としてこの程度で根を上げていられんよ」


 なんと素晴らしい気構えだ。

 正に戦士の鏡。


「流石はマクシス教官だ。

 痛みに堪えながら俺たちの試験をするのは大変だと思うが、よろしくお願いします」


「う、うむ!

 序列1位のエクス君にとってはあまり面白くない課題かもしれないが頑張ってくれたまえ。

 それと円卓剣技祭で活躍した際には、このマクシスの指導があってこそ成長できたと伝えてほしい」


「わかった。

 戦士としての気構えを学んだと伝えておきます」


「感謝するぞ、エクスくん!

 キミなら大活躍間違いないだろうからなっ!

 これでわしの評価に繋がれば、特別ボーナ……ごほん。

 とにかく、よろしく頼む」


 マクシスは満足そうに頷いた。 


「それでは、試験を開始する。

 まずは能力測定からだ!」


 教官の言葉と共に実力試験が始まった。

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