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第48話 円卓剣技祭について

20180311 更新1回目


            ※




 円卓剣技祭――それは年に1度、ユグドラシル大陸の王都キャメロットで開かれる武の祭典。

 ベルセリア学園の序列12位までの生徒は、この場で大陸最強と言われる12人の騎士、円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)に挑戦する権利を得られる。

 皇族を始め、国の有力者の多くがこの祭事に足を運ぶ為、試合に出場することは騎士生徒にとっては大きなほまれと言われているそうだ。


「円卓剣技祭で活躍すれば、騎士としての躍進にも繋がるんですよ~。

 もしかしたら、キャメロットの騎士団に入隊できるかもしれませんね~」


 こんな説明をしてくれているのは、俺たちの担任であるケイナ先生だ。

 開催が近付いていることもあり、今日は円卓剣技祭についての特別講義が行われている。


「でも、それが騎士生徒にとって最高の栄誉なのかと言えば、先生はそうは思っていません。

 騎士団に入ることはエリートの証などと言われていますが、道は人それぞれですからね」


 そしてケイナ先生は騎士の進路について話し出した。

 優秀な成績を収めた騎士生徒の中でも、町や村の衛兵になる者もいるそうだ。

 貴族生徒プリンセスに気に入られ、そのまま専属騎士ガーディアンを続ける者もいるらしい。


(……俺の目標は騎士になることよりも、フィーの傍に居続けることなんだよな)


 彼女が皇女である以上、ただの騎士では周囲に認めてもらうことは出来ないだろう。

 もし俺が円卓の騎士になれれば、皇帝は俺とフィーの関係を認めてくれるだろうか?


(……まぁ、まずは円卓剣技祭に出場するところからだな)


 後は勇者おやじの情報を得られればいいのだが……まぁ、そっちはついででいいか。

 今、俺にとって一番大切なのはフィーのことだからな。


「結局、道は人それぞれですからね。

 でも選べる選択肢が多いに越したことはないです!

 次の試験で最終的な序列が決まりますから、騎士生徒の皆さんは頑張ってくださいね!」


 最後にはこんなエールが送られて、円卓演技祭の特別講義は終了した。




         ※




 ここ数日、学園では円卓剣技祭の話題で持ちきりだった。

 それは俺たちも例外ではない。

 今も食堂で昼食を取りながら、その話をしているところだ。


「円卓剣技祭は、序列12位までの騎士生徒に参加権利があるんだよな?」


「そうだよ。

 現時点で序列1位のエクスは、ほぼ出場権を得られたようなものだね。

 キミの試合になったらボク、全力で応援するからね!」


「ありがとう、フィーの為にも絶対勝つからな」


「うん! でも怪我をしないように気を付けてね。

 もしエクスに何かあったらボク……」


「大丈夫だ。

 俺はフィーを悲しませるようなことはしないよ」


「エクス……」


 見つめ合うだけで、愛しい気持ちが溢れてきてしまう。

 それは俺だけじゃなく、フィーも同じだろう。

 彼女の瞳は潤み、頬は熱を帯びている。


「……もぐ、二人の世界を作るのは、もぐ……あなたたちの、もぐもぐ……固有能力なのかしら?

 ここには、もぐ……わたしたちもいることを、もぐもぐ……忘れないでほしいのだけれど? ごくり」


 ニースの言葉で、俺たちは意識を引き戻された。

 その声音は、淡々としているようで苛立たしさが混じっていた。


「い、今まで凄い勢いで食事をしてたくせに……急に会話に割り込んでこないでよ」


「食事はもうおしまいよ。

 お腹も満たされたし、今からエクスくんを誘惑することにするわ。

 どうせならここでする?」


 ちょんと首を傾げ、俺に対して蠱惑的に微笑む生徒会長が、そのまま俺の身体に腕を回して、身体を押し付けてきた。


「な、何をするつもりなんだよ!

 それとエクスから離れて!」


 このままニースにされるがままになっていては、またフィーを不安にさせてしまう。

 それはダメだ。

 俺からもう一度、自分の想いをはっきりとニースに伝えよう。


「ニース、誘惑するような行為はやめてくれ。

 俺が一番大切にしたい女の子はフィーだから、これ以上、彼女を不安にさせたくない」


「照れなくてもいいのよ、エクスくん」


「いや、照れてるんじゃなくて本心なんだが」


 だが、ニースは俺の発言を軽くかわす。


「なら受け入れられないわ。

 それにこうして胸を押し付けると、あなたの鼓動が伝わってくるわよ?

 エクスくん、ドキドキしてるじゃない。

 私のこと、少しは可愛いと思ってくれてるのでしょ? それとも私のことが嫌い? 全く好意はない?」


「き、嫌いなわけじゃないが……」


 艶のある色気たっぷりの笑みを向けられて、俺は思わず目を逸らしてしまった。

 これじゃ動揺してみるみたいじゃないか。


「会長の聞き方はずるいよ!

 嫌いなんてキミを傷つけるような言い方、エクスが出来ないのわかってるでしょ?」


「嫌いでないなら可能性は大いにあるわね。

 あ〜照れて目を逸らしてしまうなんて、エクスくん、可愛いわ。

 食欲を満たしたせいか、ますます次の欲求を満たしたくなってしまうわね。

 今から医務室のベッドを借りに行きましょうか」


「が、学園で何を考えてるんだよ!

 欲求に忠実過ぎるよそれは!」


「あら? お腹が満たされたら、自然と眠くなるじゃない。

 それとも、フィリス様はベッドで眠ること以外を想像したのかしら?」


「っ……か、会長は本当に意地悪だ!」


 フィーが頬を染め口を閉ざす。

 見事に思考誘導されてしまったことを恥ずかしく思っているようだ。


「フィリス様ってからかうと可愛いからイジメたくなるのよね。

 ベッドの上でも可愛いのかしら?」


「きゅ、急に何を言うんだ!?」


 フィーが会長の次の一手を警戒する中、


「フィリス様も、ニース様も可愛いですわ~。

 愛する男性を振り向かせようと頑張る姿は、見ていて微笑ましくなってしまいます」


 セレスティアが口を開き、ぽわぽわとした表情で俺たちを見守っている。


「……ふん、いいかエクス。

 貴様が調子に乗っていられるのも今のうちだぞ。

 円卓剣技祭の前に、最終的な序列決定する為の試験がある。

 序列1位の貴様とて、その試験でミスを犯せば大きく序列を下げることになるだろうからな」


 続けてガウルがそんなことを言った。

 序列を上げるには決闘か、試験で好成績を収める必要があると、以前聞いたことがあったのを思い出した。


「ガウル、ありがとう。

 助言してくれてるんだな」


「き、貴様に礼を言われることではない!

 いいかエクス、油断してボク以外の騎士に負けるんじゃないぞ!」


 なぜか焦りながら、ガウルは顔を背けた。


「エクス師匠の実力ならば、試験は問題ないでしょう。

 剣技祭当日は、私もご活躍を楽しみにしています!」


 あの祝勝会の一件以来、ティルクは俺を師匠と呼び続けている。

 これに関しては言ってもやめない為、もう諦めていた。


「リン先輩の代表選出もほぼ決定ですし、剣聖――レイラ・ペイン卿と試合をする機会が得られるのでないでしょうか?

 その試合が私は楽しみです!」


 興奮した様子の女騎士から、聞きなれない人物の名前が口にされた。


「エクス殿はともかく、それがしは油断は出来ぬ立場だ。

 勿論、レイラ卿から薫陶を受ける機会があるのなら、これほど光栄なことはないがな」


「レイラって人も、円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)なのか?」


 先程から名前の出てくる騎士について、俺は尋ねた。


「はい。

 第12騎士――剣聖レイラ・ペイン卿。

 円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)で唯一の女性騎士です」


 いつものように冷静な口調で話すリンだが、その瞳は輝いておりレイラに対する尊敬が窺える。


「リンの憧れの騎士なのよね?

 部屋にレイラ卿を特集した雑誌がいっぱい置いてあったもの」


「なっ!? に、ニース様!?

 ど、どうしてそれを知っているのですか!?」


 目を見開き、リンはおろおろと狼狽うろたえる。

 凛々しい女剣士がここまで激しく動揺するのを、俺は初めて見たかもしれない。


「この間、あなたの部屋に遊びに行ったときに、まるで恋する乙女のような熱い眼差しでレイラ卿の特集を読んでいるのを見たのよ。

 珍しく隙だらけだったわよ? 私が来たことにも気付かないくらい、雑誌に夢中だったようね」


「~~~~~~~~っ!?」


 今にも顔から湯気を上げるのではないか? というほど、リンの顔は真っ赤に染まった。

 そんな恥ずかしがることはないと思うが、彼女にとっては知られたくない事実だったのかもしれない。


「へぇ~、リンさんはレイラ卿のファンなのかぁ。

 なら今度、うちで特集を組む時に会談してみる?

 どっちも容姿端麗でカッコいい女性って感じだから、性別に関係なく読んでくれる読者は多いと思うんだよね」


 流石は出版社の社長令嬢だ。

 その会談を実現させられるような口振りで話す辺り、やはりこの学園にいる貴族生徒はとんでもない権力者の娘ばかりなのだろう。


「あ、ありがたい申し出ではありますが、恐れ多いです。

 何より、武人とは剣で会話を交わすもの」


「わかった。

 じゃあ後でお父さんに聞いてみるね」


「ミーナ様!? それがしは恐れ多いと言ったはずですが……?」


「だってリンさん、凄くレイラ卿と話したそうなんだもん」


「っ……そ、それは……」


 そわそわしてしまう辺り、実はゆっくりと話をしてみたいのかもしれない。

 だが、円卓の騎士で唯一の女性ということであれば、リンやティルクが気にするのも当然だろう。


「と、とにかく!

 それがしはまず、円卓剣技祭の代表になる為に奮闘するつもりです!

 今はそれ以外のことは考えられません!」


 真面目なリンらしい回答だった。


「え、エクス殿が試合をしてみたい円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)は誰なのですか?」


 話題を変えたかったのか、リンが俺にそんな話を振って来た。


「円卓剣技祭では、生徒が戦う円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)を指名できるのか?」


「要望が必ずしも叶うわけではないですが、こちらから打診をすることは可能です」


「……なら俺は、一番強い奴と戦いたいな」


 勝てば間違いなく皇帝の目にも止まるだろうし、謁見できる可能性も高まるだろう。

 後はどうやってフィーとの関係を認めてもらうかだが……俺にできるのは、誠心誠意、気持ちを伝えることくらいだ。

 もしその時だめだとしても、少しずつでも認めて貰えるように頑張って行くしかない。


円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)は皆、最強の称号を持っていますが……中でも実力者と言われるのは、第1騎士――騎神ラグルド・ガラテン卿です」


「ラグルド卿はお父様の近衛騎士でもあるんだよ。

 高潔な精神を持ち、騎士として忠義に厚い。

 大陸中の騎士が手本とすべき人物だと聞いたことがある」


 その言葉にリンは頷いた。

 続けて口を開いたのはニースだ。


「私も大婆様からラグルド卿の話は聞いたことがあるわ。

 もう数十年以上も、第1騎士の座を守り続ける怪物だと言っていたわね。

 さっき、リンが実力者と言っていたけど、円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)でも別格の存在らしいわよ。

 訓練で円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)を数人相手にしても、優勢だったと聞いたことがあるもの」


 騎士の神とたとえられるだけの事はあるようだ。

 それほどの実力者なら、個人的にも戦ってみたい。


「ら、ラグルド卿はそれほどの騎士なのですか!?

 なら、もしエクス師匠が勝ったとしたら……」


「エクスくんは直ぐにでも、円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)に任命されるでしょうね」


「学生が円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)に選ばれたら、歴史に名を残す快挙だよね~。

 その時は真っ先にわたしに取材させてね!」


 円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)になることで、少しでも皇帝にも認めてもらえるなら、その誘いは受けたいところだ。


「ふん……貴様が円卓の騎士など100年早い!!

 とにかくまずは、試験を乗り越えることを考えろ!」 


 それはガウルの言う通りだ。

 まずは一歩ずつ進んで行かなくては。


「ガウル、それはあなたにも言える話ですわ~。

 今のままでは序列12位になれるかも怪しいですわよ?」


「ご、ご心配なく!

 セレスティアお嬢様の専属騎士ガーディアンとして、このガウル……必ずや結果を残してみせます! 決して恥はかかせません!」


「それは無理ですわ~。

 だってわたし、ガウルが専属騎士ガーディアンというだけで、恥ずかしいですもの~」


「がはっ……そ、それは、叱咤激励と受け取らせていただきます」


 ふらふらになりながらも、前向きな言葉を返すガウルの姿はとても眩しかった。


「エクス殿……試験が始まる前に、それがしに修行を付けてはくださいませんか?

 ニースお嬢様と、フィリス様のお時間もいただくことになり、大変恐縮なのですが……もし可能であれば……」


「師匠! 私もお願いします!

 序列12位に入るのは難しくても……私も今より強くなりたいのです!」


 リンとティルクの騎士コンビが真摯な眼差しを俺に向けた。

 こんなに真剣にお願いされては断るわけにはいかないだろう。


「わかった。

 フィー、少しだけ放課後に時間をもらってもいいか?」


「うん、ボクは大丈夫だよ!

 その間はエクスたちの訓練を見守ってるね」


「私も構わないわ。

 訓練の後、エクスくんを癒してあげる」


「そ、そういうのはボクの役目だから!

 会長はリンを気遣ってあげなよ!」


 二人のプリンセスのバトルが始まりそうになったところで鐘の音が鳴り、昼休みは終わりを告げた。


 それから一週間――リンやティルクたちとの訓練は続き、ついに試験当日の朝を迎えた。

ご意見、ご感想をお待ちしております!


活動報告にもかかせていただきましたが、読者の皆様の応援で書籍化が決定いたしました!

本当にありがとうございます!

今後もがんばって更新していきますので、変わらぬ応援をよろしくお願いいたします!

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