第45話 宴もたけなわ
20180306 更新1回目
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祝勝会は盛り上がり続ける中。
「えくしゅ~!」
「な、なんだ?」
顔を真っ赤にしているティルクが、席を立ち俺に近寄ってきた。
なんだか様子がおかしいが……。
「お、女騎士くん? キミどうしたんだい」
「お前、まさか酒でも飲んだのか?」
「にょんでない!」
そう言っているが、この女騎士は明らかによろよろだ。
「エクス殿、どうやらティルクは……肉の香り付けに使われていた微量の酒で酔ったらしい……」
「マジか?」
そんな微量の酒で酔える奴を俺は初めてみた……。
「えくしゅ~! わらひは、おまえに……いや、あなたにいいたいことが、ありゅ!」
ふら、ふら――ずるっ!
ティルクは俺に向かって倒れ込んできた。
「お、おい……」
俺は女騎士の身体を支える。
ガチャッと彼女の鎧が身体に当たった。
「酔い覚ましの魔法道具でもあるといいのだけど……流石にそこまで都合がいい物はないわね。
何か薬はあったかしら?」
ティルクは自分の鞄を確認する。
色々と準備をしてきてくれたようだ。
「大丈夫か?」
「らいじょうぶら……! えくしゅ~」
立ち上がるのかと思えば、ティルクは上目遣いで俺を見つめる。
酔っているせいか女騎士の頬はほんのりと上気していた。
今まで意識していなかったが、こうして間近で見るとティルクはかなり美麗な顔立ちをしている。
さらにスタイルも学園で1番と言って過言ではないのだから、実は相当モテるにではないだろうか?
十分すぎるほどに、魅力的な女の子だと感じる。
「……女騎士くん、立てるかい?」
「あまりエクスくんに迷惑を掛けないで頂戴ね……」
フィーとニースが立ち上がり、ティルクを支えて立たせようとする。
なんだかんだで、二人とも面倒見がいい。
「お、お嬢様方、そんなことは某がさせていただきます」
慌ててリンが駆け寄って、ティルクの腕を取った。
だが、ティルクは俺にしがみつき離れようとしない。
唇をへの字にして、何か伝えたいのに伝えられない、そんな顔をしている。
「どうしたんだ? 俺に何か言いたいことがあるのか?」
「……わらしは、わらしは――えくしゅに、つたえたいことがありゅ!」
ティルクの目は真剣だった。
酔っぱらってはいるが、決してふざけているわけじゃない。
「……ちょ、ちょっと、まさかこの流れって!?」
「これは、思わぬ伏兵ということかしら……?」
女騎士の身体を支えていたフィーとニースが、彼女の言葉を待つ。
二人はなぜか、ティルクを警戒しているようにも見えた。
「ま、まさか……あれを言うつもりなのか?」
リンの呟きが聞こえた。
この女剣士は、ティルクから何か聞いているのだろうか?
「わらしは……わらしは、あのひから、おまえにたしゅけられてから、ずっとずっと――」
そして――ティルクの顔が、俺の顔にぶつかりそうな距離まで接近してきた。
「――おまえにあこがれていりゅ!」
こんなことを言ってきた。
「き、きしとして、おまえにどうけいをだいているりゅのだ!
えくしゅ~~、おめがいら! わらひを、わらひを――でしにしてくれ!!」
「弟子……って、あの弟子か? 師匠と弟子的な?」
俺が聞き返すと、ティルクはコクンと頷いた。
「そ、そういう話だったのか……ボクはてっきり彼女がエクスに告白でもするつもりかと……」
「わたしもよ、フィリス様。
思わぬライバルが出現するかと思ったわ……」
フィーとニースがほっとしたように息を吐いた。
「わらひは、しんけんだ! えくしゅのでしになりたいんら!」
ティルクは不安そうに俺を見つめる。
出来ればティルクの想いに応えてやりたいが……。
「いきなり弟子にしてくれと言われてもな……」
俺自信、まだまだ未熟者だ。
勿論、戦闘能力に関しては最強だという自負がある。
しかし、他者を指導するとなれば話は別だ。
最強の戦闘能力を持った人間が、最高の指導者であるなんて理屈は成り立たない。
ティルクはもっと、指導者として経験のある者に教えを請うべきだろう。
「……悪いがお前の師匠にはなれない」
「どうしてもか……?」
上気して赤くなっていたティルクの頬が、すっかりと元の色を取り戻す。
酔いが醒めてきたのかもしれない。
「そんな悲しそうな顔をしないでくれ。
師匠にはなれないが、今後はお前の訓練に付き合うくらいはするぞ?」
「い、いいのか?」
「お前の必死な気持ちは伝わったからな。
勿論、一番はフィーの警護を優先させてもらうぞ。
だが、俺が手伝えることがあるのなら手伝うからな」
俺が伝えると、美しいな女騎士の頬が再び上気した。
「エクス師匠!
やはりあなたは私の憧憬だ!
その強さ、優しさ、高潔さ――全てを持っている最高の騎士だ!」
「……師匠って、だから弟子はとらないと……」
「弟子じゃなくてもいい! 私は勝手にそう呼ばせてもらう!」
そ、それって周りの目から見たら、ティルクが俺の弟子ってことにならないか?
「エクス殿、この流れでなんですが……某も、ティルクと共に稽古を付けていただいてもいいでしょうか?」
「それは構わないが……まさかリンまで俺を師匠とか呼ぶつもりじゃないよな?」
念を押すようでなんだが、俺は弟子を取るつもりはない。
リンは勿論、それをわかってくれているよな?
「そ、某も、呼ばせていただいてもよろしいのでしょうか?」
なんて嬉しそうな顔をするんだ!?
リンの目がピカピカに輝いていた。
「頼むからやめてくれ……。
さっきも言ったが、訓練を一緒にするのは構わないからな」
「ありがとうございます。
エクス殿と稽古させていただけるなど、身に余る光栄です。
某は一層、精進させてもらいます!」
「リン先輩、これから私と先輩と――そして師匠の三人で日々邁進していきましょう!」
「うむ!」
二人の女騎士は、今後の互いの成長を誓い合った。
「師匠と弟子――立場を利用して美人騎士を篭絡した最強騎士の日常!?
エクスくん、号外はいつでも出せるようにしておくからね!」
やめて! ミーナさん、それ絶対やめて! ただでさえ、クラス内の男子生徒から憎しみが向けられてるんだぞ!?
「もしかしたら、師匠と弟子という関係から憧れは愛情になり……という可能性もあるかもしれませんわね!」
セレスティア! お前まで何を言ってるんだ!?
あとガウル! 血の涙を流しながら俺を睨むのはやめろ!
そのうち血液不足でぶっ倒れるぞ!
「リンとティルクが、エクスくんの弟子になるななんてね。
でもいい機会じゃないかしら?
二人も騎士を続けるのなら、もっと強くなる必要があった。
勿論、私も成長しなければならないわ。
二度とあんな情けない姿を晒さない為にも……」
「……ボクも……もっと強くなりたい。
力では役に立てないかもしれないけど、エクスの心の支えになれるようなパートナーになりたい」
宴もたけなわという状況で、ニースとフィーが抱えている胸のうちを話す。
ドグマという最低最悪の盗賊を討伐したものの、みんなにとって反省も多く、沢山の課題が見つかった依頼だったに違いない。
だが、人は成長するものだからな。
一歩一歩、前に進んでいく気持ちさえあれば今よりも理想の自分に近付けるはずだ。
みんなが歩み続けていくのなら、俺も出来る限り力になりたいと思う。
「……さて、そろそろいい時間かしらね?
暗くなる前に店を出ましょうか」
盛り上がり続けた祝勝会は、こうして終わりを迎えたのだった。
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