表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/104

第43話 アームファイト

20180304 更新2回目

             ※




 しゅばっ!

 プレゼントを買い、俺は直ぐに戻ってきた。


「リン、ありがとう。助かった」


「流石はエクス殿、それがしの目では捉えきれぬほどの俊敏な動きでした」


 俺の感謝の言葉に、リンはそんな言葉を返した。


「エクス、用事は終わったの?」


「ああ、ごめんなフィー。

 俺の用事はもう大丈夫だ」


「ううん。

 でも、少しの時間で用事は済んだんだね。

 ボクに気を遣っているのなら、もう少しゆっくりしてきてもいいんだよ?」


「大丈夫だ。

 今日はもうはずっと、お前と一緒にいるからな」


「エクス……うん!」


 ただ一緒にいると伝えただけで、フィーはこれ以上ないほど嬉しそうに笑ってくれる。

 それだけで俺は、とても幸せな気持ちになってしまった。


「フィリス様、少なくとも私の前でイチャイチャはさせないわよ」


「むぅ……」


 ニースからの牽制が入り、フィーが少し残念そうに頬を膨らませた。


「ねぇねぇ! みんな! あっちで面白そうなことをやってるから見に行かない!」


 唐突に、ミーナが声を上げて指を向けた。

 町の中心に人だかりが出来ている。


「面白そうですわね。

 皆さん、行ってみませんか?」


 みんな、何の騒ぎかと気になったようで、ミーナとセレスティアに同意した。

 そして俺たちは、人だかりに向かって歩いて行く。


「ア~~~~~ムファイト~~~~~~……――レディ~~~~ッゴ~~~~~~!」


 何かが開始する合図と共に、男たちの雄々しい声が聞こえた。

 見世物かと思えば、なんと男たちが腕相撲をしている。


 ――バシン。


 決着は一瞬でついた。

 大柄で腕が太く、筋肉の塊のような男が、一瞬で負けた。


「さぁ、これで50勝目!

 この腕相撲アームファイトの無敗の王――いや、無敗の女王ランブルに挑戦するものはいないのか!?」


 細身の女の子が無表情のまま拳を掲げる。

 この女の子と負けた大男を見比べれば、簡単に覆せる筋力差でないことは一瞬でわかる。

 それでもこの細身の少女はあの大男に勝利したのだ。

 恐らく魔法を使ったか、生まれながらに何らかの加護を受けているのか。


「アームファイト? そんな競技があるんだね……」


「……私も初めて聞いたわ」


 フィーとニースは聞いたこともないような競技だったらしい。

 見た限り、やっていることはただの腕相撲だもんな。


「さぁさぁ! 他に力自慢はいないのかい!?

 天下に轟くアームファイター! ランブルに挑戦したいものはっ!

 今ランブルに勝てれば賞金は5000リラだ!」


 元締め兼審判を行っている女がそんなことを言った。

 さっきのカチューシャが1000個買えると思うと、とんでもない金額だ。


「ご、5000リラだと!?

 せ、セレスティア様……ちょ、挑戦させていただいてもいいでしょうか?」


 その金額に反応するガウル。


「あ~序列最下位になったガウルは、今月厳しいですものねぇ~……」


「な、情けない話ですが……どうか! 必ずや勝利してみせます!」


「あらあら……そうね。

 もしガウルが負けたら、今日の祝勝会はあなたが全額支出するという条件でどう?」


 あ、悪魔だ!

 悪魔の取引だ。

 ガウルをどこまでも追い込もうと、腹黒お嬢様が悪い笑みを浮かべている。


「ふっ、お任せください!

 必ずや素寒貧を脱出し、今日の祝勝会は僕が全額お支払いします!」


 勝てる保障もないというのに、お前はそんなことを言って大丈夫か?


「ならやってみるといいですわ~」


「ありがとうございます!」


 ガウルは自信満々に歩いて行く。


「これは面白いネタになりそうだなぁ~」


 ミーナの表情は、完全にガウルが負けることを期待していた。


『学園最低の騎士――小柄な女の子にも勝てず! ベルセリア学園の評判を地に落とす!』


 こんな記事を書くつもりに違いない

 ガウル……勝てよ。

 色々と不憫なガウルを、俺は心の底から応援した。


「僕が挑戦者だ!」


「おっと~~~~ついに来た新しい挑戦者!

 参加費は100リラだよ?」


「なっ!? 金を取るのか!?」


「当たりまえだよ!

 こっちは遊びでやってるんじゃないんだ!

 金がないならしっし!」


 元締めに手を払われた。


「ぐっ……」


 悔しさで歯噛みするガウル。

 俺はその表情を見て、一歩を踏み出す。


「100リラだ」


 そしてガウルの参加費を立て替えた。

 決してお金に余裕があるわけじゃない。

 だが……今日ばかりはこいつに勝ってほしいと思ったのだ。


「き、貴様……どういうつもりだ?」


「……お前に勝ってほしいと思った。

 理由はそれだけだ」


「エクス……お前……。今回ばかりは感謝する」


 ガウルの瞳は少しだけ涙に濡れていた。

 俺たちの友情に、観衆から大歓声があがる。

 今、この場は最高の盛り上がりを見せた。


「金さえ払ってくれるなら挑戦権は誰にでもあるよ!

 それじゃあ開始しよう!」


 台の上に挑戦者ガウルと女王ランブルが肘を立てる。

 そして、てのひらを握り合った。


「では~~~ア~~~~~ムファイト~~~~~~……――レディ~~~~ッゴ~~~~~~!」


 アームファイトが開始された。


 ――ドゴン!


「馬鹿なっ!?」


 ガウルは一瞬で負けていた。

 見事に手の甲が台に接触している。


「これで51勝目~~! 勝者は無敗の女王ランブル!」


 俺の賭け(ベット)は大損だった。

 だが、後悔はしていない。


「ガウル~。

 今日からあなたには、口だけガウルの二つ名を上げますわ~」


「セレスティア、本当に祝勝会は彼にお金を出してもらってもいいの?」


「それなら私も助かるわ」


「ガウル~、ありがとね~。

 奢ってくれる上に、あたしにネタの提供もしてくれて」


 貴族生徒プリンセスたちは容赦なかった。


「……敵わぬ相手に挑むなとは言わぬが、せめてもう少し善戦してほしいな」


「普段から訓練に励んでいる騎士が負けるというのは、なんだか複雑な気分です」


 同じ騎士として、リンとティルクは複雑な感情を抱いているようだ。


「……ガウル様、わたくしの分はお気になさらずに……」


 ニアだけはガウルに遠慮してくれていた。


「くっ……僕も騎士だ! そして男として二言はない! 借金してでも全額払う覚悟です!」


 だから、なんで妙に男らしいとこがあるんだお前は……。


「み、みんな、もう少し手加減してやっても……」


「だって彼、いつもエクスのことを悪く言うんだもん」


「私も彼は好きではないわ。

 理由はフィリス様と同じね。

 悪人ではないでしょうけれど……」


 俺はガウルに何を言われても、全く気にしていないのだが……

 まぁ、これ以上の話はガウルの傷を広げるだけだろう。

 ならばせめて……。


「……フィー、俺も参加してみていいかな?」


「勿論だよ。

 エクスならきっと、あのチャンピオンにだって負けないよね!」


「エクスくんが出るのなら、私、全力で応援するわ!」


「エクス殿の試合であれば、安心してみていられます」


「騎士の誇りにかけて、がんばってくれエクス!」


「おお! 今回はネタじゃなくて熱い記事が書ける予感!

 期待してるからね、エクスくん!」


「わたくしも、微力ながら応援させていただきます」


 フィーとニースだけでなく、みんなが俺を応援してくれた。

 そして俺は項垂うなだれるガウルに近付く。


「ガウル……」


「……敗者を笑いに来たか?」


「そんなわけないだろ。

 後は任せろ。

 お前の(かたき)はちゃんと取ってやる」


「エクス……!? 貴様って奴は……」


 ガウルが顔を上げた。

 いつもなら喧嘩腰なこの男も、今は戦いに向かう俺を見守っている。


「おっと、お兄さんも挑戦者かい?」


「ああ、100リラでいいんだよな?」


「勿論! さぁ――それじゃあ試合が始まるよ!

 皆さん、大注目!!」


 観衆の視線が一斉に集まる。

 俺は台の上に肘をついた。


「……あなた、強そう」


 顔を合わせると、ランブルが声を掛けてきた。

 表情の乏しい少女で、どこか無機質な感じがする女の子だ。

 年齢は俺たちよりも少し低いくらいだろうか?


「お前も結構強そうだな」


 近くで対峙して見た感じ、弱くはない。

 だが、正直なところ掴めないという感じだ。

 稀に力がはっきりしない奴らっているんだよなぁ。


「……ワタシは最強」


「へぇ、最強か」


 まぁ、アームファイト無敗らしいもんな。

 自信があって当然か。

 俺たちの会話はそれで終わった。

 互いに手のひらを握る。


「では~~~ア~~~~~ムファイト~~~~~~……――レディ~~~~ッゴ~~~~~~!」


 戦いが始まった。

 直後、ランブルが俺を倒そうと腕に力を込める。

 一瞬、俺の手が後ろに動いた。

 やはり結構強い。

 これならガウルが負けるわけだ。

 腕相撲の技術が桁違いだ。

 が、


「ふっ!」


 ――バン!!


 今度も勝負は一瞬だった。

 だが女王の勝利ではなく、挑戦者の勝利という結果に終わった。


「え……」


 審判であり元締めの女が唖然とした声を漏らす。

 女王の敗北が余程以外だったのだろう。


「勝ちでいいんだよな?」


「え……あ、はい。

 ちょ、挑戦者の勝利です……」


 呆然としたまま俺の勝利が告げられた。

 それから少しして……。


「「「わああああああああああああああああああああああああああっ!!」」」


 目を覚ましたかのように、観衆が大歓声を上げたのだった。


「……あなた、何者?」


 表情に乏しかったランブルが、初めて感情のこもった視線を俺に向けた。


「そうだな……」


 少し考えて、


「お前に勝ったんだから、最強かもな?」


 さっき言われた言葉を返した。


「……なら、いつか取り返す」


「そっか。

 じゃあ縁があればな」


 俺は賞金の5000リラを受け取った。


「ガウル、敵は取ったぞ」


「エクス……我が友よ!」


 俺が右手を差し出すと、ガウルはその手を取り固く結んだ。

 いつの間にかガウルに友達呼ばわりされていることには驚いたが、こいつは意外と義理堅い面もあるのかもしれない。


 そして俺たちは、フィーたちの下へ戻った。


「エクス、カッコよかっ――」


「とても素敵だったわ、エクスくん!」


 真っ先にニースが飛びついて来た。

 そこからはいつも通り二人のバトルが始まり……昼食の時間となった頃、俺たちは祝勝会の会場となる料理店に向かった。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ