表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/104

第4話 入学試験

20180208 本日1回目の更新となります。

          ※




「学園長、入るよ」


 フィーはノックもせずに扉を開いた。

 人間界のマナーとしては、不要の産物なのか?


「んなっ!? ふぃ、フィリス様!

 入るならノックくらいしてくださいっ!」


 ノックは必要だったらしい。

 扉の中では、スラックスを履いている最中のおっさんがいた。

 現状、パンツ丸見えである。

 もしかしてこいつが……。


「学園長の下着姿なんて気にもしないよ」


「オレが気にするんです! ニア、キミからも注意してくれ!」


「この程度のことで、フィリス様にわたくしが注意など恐れ多いです」


 ニアさん、さっきフィーがいなくなったって泣き怒りしてたよね!?

 それとも危害がなければ問題ない的な感じなのか?


「全く……少しは恥じらいを持ってください」


 それには同意するぞ学園長。

 魔界の女の子であれば、頬を赤らめるどころか理不尽な一撃すらも待っていたところだ。

 しかし……この学園長、思ったよりも若いな。

 もっと髭面の爺さんをイメージしていた。

 まぁ、見た目で実力は判断できないか。

 ルティスのように見た目はロリだが実年齢不明な奴もいるわけだし。


「そんなことより学園長、ボク――専属騎士ガーディアンを決めたから」


 フィーは軽いノリで学園長に伝えた。

 すると、


「んなっ!? フィリス様、ついにお決めになったのですか!?」


 ニアに続き、学園長も驚愕していた。

 なんでさっきから、そんなに驚かれているのだろうか?


「うん、紹介するよ。

 ボクの専属騎士ガーディアンになるエクスだ」


 学園長の鋭い眼差しが俺に向いた。


「ふむ……なるほど、この者が……面構えは悪くない……。

 わかりました。

 しかしフィリス様、見たところ彼はこの学園の者ではありませんね?」


「そうだよ」


「ではフィリス様のお知り合いで?

 身分はどのような……?」


「さぁ?」


「さぁ? って、フィリス様、ふざけておられるのですか!」


「本当に知らないんだよ。

 エクスとはさっき会ったばかりだからね」


「さっき!? そんな人物を専属騎士ガーディアンに任命されたのですか!?」


「うん。

 エクスは命懸けでボクを守ってくれたんだ。

 すっごく強いし、うちの騎士候補生たちと比べたら一番だと思うよ」


「守った……ということは、フィリス様、まさかあなたは――!?」


「あ~、余計なことまで言っちゃった。

 ……ちょっと外の空気に当たろうとしたら……さっき、誘拐されそうになっちゃった」


 てへ。と、惚けて見せるフィーに、学園長は頭を抱えた。

 だが、学園長以上にショックを受けていたのはニアだ。


「フィリス様! わたしくしもそれは聞き捨てなりません!

 誘拐!? 誘拐されそうになったと!?」


「無事だったんだから別にいいだろ?」


「過程に問題があります!

 学園長! 今後のリスクを考えるなら、ここでエクス様をなんとしてもフィリス様の専属騎士ガーディアンにするべきです!」


 強く進言するニア。

 むむむ……と、学園長は頭を抱えている。


「……今まで専属騎士ガーディアンを拒んでいたフィリス様が、自ら望まれたというのは大きいな……。

 しかし疑うようで申し訳ないが、エクスが信頼に足る人物なのかはまだ計り兼ねる。

 フィリス様に近付く為に計略を施しているとも限らない……」


「エクスは信用できるよ。

 出自や身分は知らないけど、あの場でボクを助けてくれたんだから」


「し、しかし……身分と実力を兼ね揃えた信頼できる専属騎士ガーディアン候補なら他にも!」


「ボク、エクス以外の専属騎士ガーディアンなら付けないからね。

 それに内部の騎士見習いたちは、誰一人として信用も信頼もできないよ」


 フィリスは自分の決意が固いことを伝えた。

 再び学園長の眼差しが俺に向く。


「……エクス、オレはキミを信用してもいいのか?」


「フィーを守ればいいんだろ? その約束は必ず果たす」


 俺は学園長から目を逸らすことなく答えた。


「……嘘を吐いている者の目ではない、か」


「確認したいのだが、今問題になのは俺の身分と実力なんだよな?」


「うむ……そうだ。

 実力は勿論だが、気になるのは君の出自……。

 見たところ高貴な家柄ではないように思うのだが……」


 一応、魔王に育てられたので魔界の家柄は悪くない気がするが……。

 人間界ではそれは通じないだろう。

 寧ろ、それに関しては言わない方がいいかもしれない。

 なら、


「答える前に少し質問させてくれ。

 勇者について何か知っているか?」


「勇者? 唐突になんだ? オレは歴史の担当教師ではないが?」


「それでもいいから教えてくれ」


「エクス、ボクが教えてあげる。

 簡単に説明すれば、勇者って言うのは人族と魔族の戦争を終焉に導いた存在……要するに英雄だよ」


「英雄……? つまり偉いのか?」


「う~ん……そうだね。

 もし勇者が望むのなら、間違いなく爵位は与えられるだろうね。

 でも、勇者の消息については、詳しくは語られていない」


「生死不明か……」


 何か情報を得られると思ったが、そう上手くはいかないか。

 しかし、今欲しい最低限の情報は得られた。


「あの、エクス様。

 なぜ今、勇者の話を聞かれたのです?」


 ニアは俺の発言の意図を計り兼ねているようだった。


「ああ。実は俺、勇者の息子らしい」


「なんだと!?」「ゆ、勇者の息子!?」


 声を重ねて驚いたのは学園長とニア。


「ふふっ、さっきは魔界最強って言ってたよ?

 なのに今度は勇者の息子って……本当にキミは面白い人だね」


「嘘じゃない。俺は嘘は吐かない」


「……うん。

 なぜかわからないけど、エクスの言葉は嘘に思えない」


 俺の瞳を見つめ、フィーは優しい笑みを作る。

 そしてしっかりと頷いてくれた。


「……勇者の息子? ならば証明してみせてほしい」


「証明……?」


「勇者の血族ならば『選定の剣』を抜くことができるはずだ」


「選定の剣? なんだそれは?」


「勇者の血族のみが抜けると言われる剣だ。

 ここから東――10kmほど先にある『選定の洞窟』の最奥に、その剣は存在する」


「要するに入学試験ってわけだ。

 それを抜いてきたら、俺をフィーを専属騎士ガーディアンに認めてくれるんだな?」


「勿論だ。

 選定の剣を抜ける勇者の血族であれば、フィリス様の専属騎士ガーディアンとしても申し分ない」


「わかった。

 なら――直ぐに行ってこよう!」


「エクス!」


 早速向かおうとした俺の腕の裾を、フィーが掴んだ。


「ボクも連れてってよ。学園にいるよりは面白そうだ」


 ニコッと微笑を浮かべて、フィーが俺を見つめる。

 彼女の瞳は俺に、ここから連れ出して欲しい。

 そう訴えているようだった。


「わかった! どこへなりともだ!」


 だから俺はフィーを抱きかかえた。


「ちょ――お、お待ちくださいフィリス様!」

「フィリス様、今外に出られては授業に間に合いません!」


 二人は大慌てで扉を防ぐ。

 だが何も問題ない。


「じゃあ、行くぞ――」

「うん!」


 俺は学園長室の窓まで走り、フィーを抱いた状態で跳躍した。


「んなっ!? ここを何階だと思っている!?」

「フィリス様!? まさか、そんな……!?」


 俺の行動にニアと学園長は吃驚仰天。

 俺たちが自殺でもすると思ったのかもしれない。

 だが、


「――フィー、空を飛んだことってあるか?」


 俺は重力制御を使っていた。

 そして風を切り空を舞う。


「すごい……ボクたち、飛んでるんだ……」


 フィーは暫く黙って景色を眺めていた。

 二人で景色を見渡す。

 自然豊かな美しい大陸を、太陽が爛々と照らす。

 

「……なんだか……自分が住んでいる世界じゃないみたい。

 まるで世界が違って見える……どうしてかな?」


 フィーは穏やかな声音で囁く。


「エクスと一緒に、見ているからなのかな?」


 柔和で安心しきった表情を見せて、フィーは俺に尋ねてきた。


「……どうかな?

 でも……空から見る景色は……悪くないだろ?」

「うん! また見せてくれるかい?」

「ああ、勿論だ」


 そして俺たちは『選定の洞窟』に到着するまでの間、空の散歩を続けたのだった。

ご意見、ご感想をお待ちしております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ