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第36話 迷宮を進んだ先に

20180227 更新1回目

           ※




 そして、俺とフィーが暫く進んだ先で、


「あうっ……」


 くぐもってはいたが、女性の声が耳に届いた。


「エクス、今の声は……」


「ああ」


 短く答える。

 場所はかなり近い。

 俺たちは急ぎ、声が聞こえた方向に向かった。


「おらっ!」


「うぐっ……」


 パン! ――と何かが叩く音が聞こえ、小さな呻き声が響く。


「やめろ! お母さんをイジメるな!」


「黙れクソ餓鬼! テメェもぶん殴られてぇのか!」


 ガン! カラカラと何かを蹴飛ばす音が聞こえる。


「お嬢ちゃん、大人しくてたほうがいいぜ。

 こいつは、女子供も平等に殴っちまうんだ」


「っ……や、やだぁ……」


「やめて! その子に手を出さないで! やるならわたしを殴りなさい!」


「ははっ、言われなくても、今からいくらでもなぶってやるよ!」


 パン! と弾くような音が聞こえる。


「うぐっ……」


 女性が痛みに呻いたのがわかった。

 はははっ! と、男たちは笑い声を漏らす。

 盗賊団の団員だろうか?

 話し声から察するに敵の数は二人か?


「エクス、そこの扉だ」


 迷宮の中に鉄扉てっぴを見つけた。

 俺はその扉に手を掛けた……ガチャガチャとドアノブを回すが、鍵が掛かっているの開かない。


「あん? おい、扉の外から何か聞こえなかったか?」


 取っ手を回す音が聞こえたのか、中の男が反応を示した。

 鍵が掛かっているんじゃ仕方ないな。

 よし、扉を『開く』のは諦めよう。


「フィー、こっちに来てくれ」


「わかった」


 俺はプリセンスの手を引いて、自分の左隣に移動させた。

 ここなら、フィーに怪我をさせる心配はないだろう。


「さて――こんなもんかな」


 取っ手を引く手に少し力を込めた。


 すると――バガッ、バアアアアアアアアアアン!!


 豪快な音が迷宮に響く。

 それは、俺が鉄扉をまるまるぶんどってしまった音だった。


「え……?」


 唖然として口をぽっかりと開く男の顔が見える。


「よう」


 一言だけの軽い挨拶をして、俺は鉄扉を誰もいない通路にぶん投げた。


「あ、あなた方は……?」


 四肢を拘束された村人たちが、目を見開き俺たちを見つめる。


「村長から依頼であなたたちの救援に決ました。

 皆さんは、怪我はしてないませんか?」


「村長が!?」


 声を上げた女性の頬は赤く腫れていた。

 この男たちに叩かれた後だろうか……?

 だが、助けが来たことに安堵したように涙を零す。


「全員、直ぐに助けるからな!

 苦しいかもしれないけど、もう少しだけ待っててくれ」


 俺は鎧を纏った厳つい顔の男二人に視線を向ける。


「な、なんなんだお前!

 どうやってこの魔法の扉を開きやがった!?」


「か、鍵がなけりゃ絶対に開かないはずだぞ!」


「いや、開けてなかったらぶんどったんだ。

 お前らも見てたろ?」


 盗賊団の一人にありのまま起こった事を伝える。


「こ、この鉄扉をお前がぶっ壊したってのか?」


「そうだ。

 もう無駄話はいいか?」


「あん?」


「正直、俺はお前らに腹が立ってる」


「腹が立ったからなんだって――がっ」


 話していた男が――バタンと倒れた。

 盗賊団とはいえ、こいつらは三下のようだ。

 戦闘力は、学園の専属騎士ガーディアンと比べれば間違いなく低い。

 他の団員の実力もこの程度なら、ニースとリン、ニアの三人であれば問題なく制圧できそうだ。


「さて、あと一人だな」


「くそっ――」


 焦りに表情を歪め、もう一人の盗賊が逃げようと駆け出す。


「逃がすと思うか?」


「エクス、待って!

 そいつは気絶させないでほしいんだ。

 いくつか聞いておきたいことがある」


「それもそうだな」


 折角なので得られる情報は引き出させるとしよう。

 俺は逃げる男に拘束魔法バインドを使った。

 光の輪が男の身動きを封じる。


「おわっ!?」


 ズゴッ――と、四肢を拘束された男はその場に倒れ込んだ。


「さて……いくつか話を聞かせてもらうか」


「はっ! テメェらに教えることなんて――」


 ――パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!


 俺が強めにデコピンすると、倒れる男の視線の先で地面が抉れた。


「話してくれるよな?」


「へ、へい! オレァ、なんでも話させていただきますぜ!」


 ブルブルと震えながら、盗賊は笑みを浮かべる。

 切り替えの早い奴だった。


「じゃあキミは暫くそこで大人しくしてて。

 エクス、先にみんなを助けよう!

 待ってて、みんな! 直ぐに拘束を解いてあげるから」


 フィーの優しい声音と笑顔で、村人たちは安堵の声を漏らした。


「お姉ちゃん、お兄ちゃん、ありがとう!」


「なんとお礼を言えばいいか……」


 囚われていた人々は、俺たちに感謝の言葉を口にした。


「皆さんが無事でよかったです。

 デント村の方はこれで全員ですか?

 他に囚われている方は……?」


「村の者はこれで全員です。

 もしかすると、他に囚われている者がいるかもしれませんが……」


 妙齢の女性が言って、下っ端盗賊を見た。


「ほ、他にはいません!」


 下っ端は即答した。


「嘘を吐いても、部屋を見て回ればすぐにわかることだよ?

 万が一、キミが嘘を吐いていたら……」


 フィーがこちらに視線を向けたのに合わせて、俺はデコピンの構えを取る。


「ひいいいいいいいいっ!?

 お、オレァは絶対に嘘は吐いてません!

 だ、だからデコピンはやめてくれえええええっ!」


 涙の叫び声が聞こえた。

 どうやらデコピンがトラウマになってしまったらしい。

 少し可哀想なことをしてしまっただろうか?


「……OK。

 エクス、(さら)われた人たちはこれで全員だよ。

 後は会長たちと合流して、盗賊団のボスを捕えれば依頼クエスト完了だけど……」


 言い淀むフィー。

 彼女が悩んでいることは俺にもわかった。


「盗賊団との戦闘に村の人たちを巻き込めないわな」


「うん。

 それに心の問題もあるよ……。

 だからまずは、みんなを村に連れ戻すのが一番だと思う」


 村人たちに気配遮断の魔法を使えば戦闘を避けることは可能だろう。

 だが、囚われていた者たちの気持ちを考えるならフィーの言う通りだ。

 こんなところに監禁されれば、不安も募っているはずだ。

 ニースたちのことは心配だが、今優先すべきは村人たちの救出だろう。


「……わかった。

 みんな――少し離れててくれ」


 言って部屋から出ると、俺は迷宮の壁に向けて手を伸ばした。

 そして――


「ふっ!」


 軽く拳を振る――と、音もなく迷宮の天井から壁までを消し飛ばした。

 薄暗かった迷宮の中に、まるで希望のような温かい光が差し込む。


「よし、見晴らしが良くなったな」


 壁が綺麗に消滅しているお陰で、外の森までしっかりと見える。


「お外だ!?」


「お兄ちゃん、今なにやったの?」


 パンチで壁を消滅させました。

 なんて言っても、きっと信じてもらえないだろう。


「みんな、今から脱出するぞ!

 手を繋いでくれ! 絶対に離しちゃダメだからな!」


 言われるままに村人たちは手を繋ぐ。

 そして俺は重力制御グラヴィティを使った。

 ふわっ――と、みんなの身体が浮かび上がる。


「うわぁ! すっご~い! あたしたち浮かんでる~!」


「そ、空を飛んでるの!?」


 大なり小なり驚く声が上がった。


「そうだぞ。

 村に戻るまで空の旅だ!

 じゃあ――飛ぶからなっ!」


 重力制御を使い俺たちは町まで移動した。

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