第31話 深まる二人の仲
20180222 更新1回目
※
直ぐにフィーに追いつくと、
「フィー、待ってくれ」
俺は彼女に呼びかけた。
「……エクス」
その場でフィーは立ち止まる。
だが、彼女は振り返ってはくれなかった。
「……ご、ごめんね。
急に飛び出して……」
フィーの声は震えていた。
振り返ろうとはせず、顔を見せてはくれない。
「……また、不安にさせてしまったか?」
「っ――ち、違うよ。
ぼ、ボクはキミを信じてるもん!
不安なんて……ぼんとに、ごめんね。
は、早く部屋に戻ろう」
それだけ言って、フィーは再び歩き出した。
今は結合指輪も、何も伝えてくれない。
でも、だからこそ――俺は伝えなくちゃいけない。
俺たちの関係をはっきりとさせる為にも。
※
部屋に到着。
夕陽の光が窓に入り込んでいた。
もう直ぐ、夜の帳も下りてくるだろう。
「陽も落ちてきたな。
電気を――」
「――エクス」
ギュッ――と、背中越しに、フィーの温もりを感じる。
でも、その身体は震えていた。
「……ボク、本当は怖かった」
「フィー?」
「エクスのこと信じてるのに、キミの想いを感じていたはずなのに……会長がキミに近付くたびに、イヤな気持ちになった」
俺は抱き締められたまま振り返った。
フィーの瞳は涙で溢れていた。
「不安で不安で仕方なかった。
エクスのこと、会長に取られちゃうんじゃないかって。
もしキミが、ボクの傍からいなくなったらどうしようって……」
あの時から、俺の想いは変わっていない。
フィーのことが好きだ。
でも、俺は何もわかってなかった。
もし俺がフィーの立場だったら、もし他の男が彼女に近付いてきたら……不安にならないわけがない。
「もし本当に、エクスと会長が結ばれることが運命なのだとしたら……そんなことを考えると、ボク、エクスと離れ離れになっちゃう……」
運命……先代の勇者――俺の父親には未来を見通す力があるとニースが言っていた。
だが、だとしても俺は今の自分の気持ちを変えることはできないだろう。
もしそれが運命だとしても、フィーを悲しませる運命なら絶対に変えてみせる。
「ごめんな、フィー」
「エクスぅ……」
俺はフィーを抱きしめた。
「ごめん、ごめんね。
エクスのこと、信じるって言ったのに……信じてるはずなのに、それでもボク、怖かったんだ」
「いいんだ。俺が悪いんだよ。
もう不安にさせないって言ったのに、フィーのことを、一番大切にしたい女の子を、こんなにも不安にさせた」
腕に力を込めて、でも優しくフィーを守るように、抱き締め続ける。
すると、震えていた彼女の身体が少しずつ落ち着きを取り戻していく。
そのまま俺は、フィーの瞳を見つめた。
涙で濡れた瞳に熱が混じっていく。
フィーのことが愛おしくて仕方ない。
言葉だけじゃなく、俺の想いを全部伝えたい。
「俺は――フィーのことが好きだよ」
「エクス……ぁっ!?」
自分の気持ちを伝え、俺はフィーの唇を奪った。
それは互いの唇が触れるだけの優しいキス。
ただそれだけの事でも、胸の中が熱くなっていく。
フィーへの想いは、もう強くなるばかりだ。
だから俺は、
「――フィリス、俺の恋人になってくれるか?」
確かめたかった想いを言葉に乗せて伝える。
「……ボクでいいの?」
「フィーしかいない」
「ボク、会長みたいに綺麗じゃないよ?」
「そんなことない。
フィーは可愛いし、綺麗だよ」
「胸も大きくないよ?」
「大きさなんて関係ない。
フィーだから好きだ」
「エクスぅ……」
「フィー」
俺たちはもう一度、唇を重ね合わせた。
先程よりも少しだけ長いキスをして、唇を離す。
「はぁ……ぁ……」
「っ……あ……」
互いに息を止めていたせいで、呼吸が乱れてしまった。
こういう時、息は止めなくていいのだろうか?
「ごめん、下手だったよな?」
「そんなことないよ。
エクスのキス、ボクはすごく好き。
大好きな気持ちが溢れてくる」
「フィー……」
「もう一回、して」
熱で潤んだフィーの瞳。
赤く染まった頬。
溢れて俺に伝わってくるようなフィーの想い。
全部が愛おしくて、俺はもうフィーの全てが欲しくなって、また唇を重ねた。
ちゅっ、ちゅぱっ、れろっ……。
「んっ……あっ……ぁ……」
熱く甘い吐息がフィーの唇から漏れる。
触れるだけじゃない。
互いの舌を絡め合う、深いキスを俺たちは交わす。
俺のしようとすること全てを、フィーは受け入れてくれる。
「エクスぅ……、好き、大好き」
フィーの髪を撫でながら、俺は彼女の唇を味わい続けた。
愛おしい気持ちが止まらない。
もっと、もっとフィーが欲しい。
「フィー……」
俺はそのまま、フィーをベッドに押し倒した。
「……エクス」
フィーの身体が少し強張ったのがわかった。
そんな彼女を安心させたくて、俺は柔らかなフィーの薄紅色の髪を撫で続けた。
「一生、お前を大切にする」
「ボクも、永遠にエクスを愛し続ける」
「今からフィーの全部を、俺のものにする」
「うん。ボクの全部をエクスにもらってほしい」
互いに見つめ合う。
もう俺にはフィーのことしか見えていない。
フィーも俺のことだけを見つめ続けている。
互いの瞳に、互いの姿だけが映る。
「きて……エクス」
目を瞑るフィーに、俺は再びキスをした。
舌を絡めながら彼女の制服を脱がして――。
――コンコンコン、ガチャ。
不意に扉が開いた。
そうだ。
そういえば俺たち、鍵を掛けて――。
「フィリス様、エクスさん、夕食の準備を――ふぁっ!?」
ガチャ―ン!!
食器が割れる音がした。
俺たちだけだった世界が異音が混じる。
「し、しししししし失礼しました!!」
バターン!
ニアは目にも止まらぬ速度で部屋を飛び出した。
今まで見たことがないほどにその動きは速い。
あれなら俺といい勝負なんじゃないだろうか?
「ぁ……」
「え、えと……」
互いに目を合わせ、
「あははっ」
「ぷっ、ふふふっ」
俺とフィーは苦笑しあう。
「……また、次の機会、かな?」
「うん。そう、だね」
なんとなく、機会を逃してしまった。
食器は割れて床には料理が零れている。
ニアには悪いことをしてしまった。
「でもね、エクス。
ボクはいつでもいいから……待ってるから。
エクスがボクを欲しくなったら、ボクはいつでもキミを受け入れるから」
「フィー……」
あ~ダメだ。
そんな上目遣いで照れながら言われたら、今すぐにでも俺はフィーを……。
「……じ~」
飛び出したかと思っていたニアが、俺たちの様子を窺っている。
「ニア……空気を読んで」
「で、ですが、わ、わたくしはフィリス様のことが心配で……」
「わかってるから。
食器、片付けてもらってもいい?」
「か、かしこまりました。
そ、それと……変なタイミングで入ってしまって申し訳ありません……」
ニアは本当に申し訳なさそうな顔をしていた。
だが、鍵を掛けていなかった俺たちも悪いからな。
「……あのさ、もしフィーが嫌なら……」
俺はある言葉を伝えようとした。
『エクス、女の子には優しくしないとダメだぞ』
同時に、ルティスの言葉を思い出す。
でも、それでも……今の俺にとって一番大切な女の子はフィーだから。
「ニースにちゃんと自分の気持ちも伝えて、今後はあまり話をしないようにしてもいいんだぞ?」
それがニースを傷付けることになるかもしれないけど、それでも俺はフィーが大切だから。
「ありがとう、エクス。
会長に気持ちを伝えてくれるのは嬉しい。
でも、話をしないっていうのはダメ」
予想外なことに、フィーは俺の意見を受け入れなかった。
「だってもし好きな人と話も出来なくなっちゃったとしたら、それだけですごく悲しいもん。
辛くて考えるのもイヤになっちゃうくらい。
会長がエクスを好きな気持ちは本当だと思うから……だから、それはダメ」
「フィー……」
「でもね……それでもボクはやっぱり、エクスと会長が話していたら、辛くなったり、寂しくなったり、イヤな気持ちになったりしちゃうと思うんだ。
だからその時は、ボクのこと抱きしめて、キスして……エクスの好きを伝えて」
「ああ……勿論だ」
そして再びキスをする。
今度は軽く触れるだけの、でも互いの気持ちをしっかりと確かめ合えるような、そんな優しいキスをした。
「フィー、好きだよ」
「エクス、ボクも大好き」
ちなみにこの時、一番真っ赤になっていたのはニアだったいう事実を、俺たちは知らない……。
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