第29話 序列1位との決闘
20180220 更新1回目
※
俺たちは決闘を行う為、訓練室の前までやって来た。
「はっ! やぁっ!」
中からは勇ましい声が聞こえる。
どうやら先客がいるようだ。
「……場所を変えるか?」
「問題ないんじゃないかしら? とりあえず入ってみましょう」
訓練室の扉を開く。
すると銀髪の女騎士が訓練用の剣で素振りをしていた。
その動きに合わせて、肩にかかった髪がサラサラと揺れている。
「ティルクじゃないか」
俺が呼ぶと、
「……? エクス? はっ――フィリス様に、ニース様も!?
そ、それに、リリリリリリン先輩!?」
何故かリンを見て、ティルクは愕然としていた。
この騎士候補生の少女とリンは、明らかな面識があるらしい。
「お主は訓練か。
日々、研鑽を積んでいるようで何よりだ」
「あ、ありがとうございます!」
ティルクの目がピカッと輝き、満面の笑みを見せた。
同じ女騎士として、リンに憧憬を抱いているのかもしれない。
「あなた、相変わらず制服ではなく鎧を身に付けているのね」
「はい! 私は騎士です! 騎士が鎧を纏うのは当然のこと!」
生徒会長の前で校則無視を誇らしげに語るティルク。
流石にこれはニースも注意するだろう。
「訓練中は構わないけれど、せめて座学は制服で受けなさい」
「ニース様は私に騎士の誇りを捨てよというのですか!?
それは死ねと言っているのと同じです!」
絶望的な表情を見せるティルク。
だが、校則がある以上は仕方ないだろう。
「なるほど。
確かに騎士に鎧を着るなというほうがおかしいわね。
正当な理由があるのなら許可しましょう」
「許可するのか!?」
「校則はいいの!?」
俺とフィーは思わず突っ込んでいた。
「仕方ないわ。
騎士が鎧を着るのは当然だもの」
ニースは淡々と答えた。
「流石はニース様だ。
そのお心遣いに感謝いたします。
ところで……先輩方はなぜここに……?」
ティルクは思い出したかのように尋ねた。
「某は、これから決闘を行う事になった」
「なるほど決闘ですか……――って決闘っ!?
騎士序列1位であり、学園最強の騎士であるリン先輩が、誰と決闘なさるのです!?」
部屋中に響く絶叫を上げるティルク。
それに対して、フィーとニースの視線が俺に向いた。
「ま、まままままままさか……エクスですか?」
「そうだ。某はエクス殿と決闘する」
「んなっ……!?」
再び愕然とするティルクが、ガクガクと首を揺らしながら俺に目を向けた。
「エクス、やめておけ! 大怪我を負うぞ!」
「なんでだ?」
「なんでだだと!? 馬鹿かお前は!」
「突然の馬鹿扱い!?」
バタバタバタバタと、ティルクは俺に詰め寄ってきた。
「キミ、ボクのエクスになんてこと言うんだよ!
あと距離が近いから!」
「全くね。
私のエクスくんを馬鹿扱いなんて許せないわ」
「はうっ!?
も、申し訳ありません、フィリス様。
あと、なぜニース様まで!?」
フィーとニースに睨まれた女騎士は、飛びのくように俺から離れた。
だが、続けて口を開く。
「で、ですが……ご無礼を承知で申し上げます。
もしリン先輩と戦いになれば、エクスはただではすみません!」
どうやらティルクは、俺を心配しているようだった。
「私はエクスが選定の剣を抜いたのを見ました。
きっとこの男には、何か不思議な力があるのだと思います。
でも、だとしても、リン先輩と勝負になるとは思えないのです」
あぁ、なるほど。
ティルクはリンの実力をよく理解しているわけか。
そして、決闘を止めたくなるほどリンは強いと。
「エクス、よく聞け。
リン先輩は学園の騎士序列1位――その二つ名は無敗の剣王。
このベルセリア学園に入学してから、1度も戦いに敗れたことのない学園最強の騎士なんだ」
「そうなのか」
「だからお前は、なぜそんなにも冷静なんだ!
フィリス様からも決闘をやめるよう言ってくだいませんか?」
「女騎士くんが心配してくれてるのはわかった。
でも、ボクはエクスが負けるとは思えない。
寧ろ、会長の専属騎士のほうが心配なくらいだ」
「フィリス様……」
ティルクはそれ以上は何も言わなかった。
フィーの俺に対する強い信頼を感じたのだろう。
なら俺は、その想いに答えるだけだ。
「……さて、じゃあやるか」
「うむ。
手加減なし――本気でいかせてもらおう」
少し距離を取り、俺とリンは対峙する。
「ジャッジは私が務めるわ。
決闘は学園のルール基づき行います。
殺しは禁止。
勝敗は相手の戦闘不能、もしくは敗北宣言により決定とします」
審判はニース。
そして俺たちをフィーとティルクは見守る。
「では……――決闘、開始!」
ニースの合図と同時に、俺とリンの決闘が始まった。
「参る!!」
リンは、ガウルのように俺が武器を持たない事への不服を口にしなければ、序列12位のような無駄に長い口上もない。
試合開始と同時に、俺に向かって疾駆する。
彼女の動きは想像以上に速く、一瞬で距離を詰めてきた。
「――はっ!」
直後、リンの剣が抜かれた。
その剣速はまるで光のようだった。
恐らくは必殺の一撃であったのだろう。
相手がこの学園の専属騎士であれば、一撃で致命傷に至っていたに違いない。
「よっ!」
ガシッ――と、リンが薙いだ剣を俺は左手の指先で摘まんだ。
「なっ!? リン先輩の居合を指で!?」
驚いたのはティルクだ。
今の攻撃は居合というらしい。
他の騎士が使っている剣と形状が違うのと関係しているのだろうか?
「この程度では届かぬか」
リンは、自分の攻撃が防がれた事に驚いてはいない。
掴み取られた剣を捨て、腰に携えたもう一本の剣を抜いた――かと思えば、既に俺の首を落とそうとその剣が迫ってくる。
だが、それでも遅い。
「無駄だぞ」
俺はもう一本の剣も、反対の手を動かして指先で摘まむ。
リンの攻撃を止めたことで、俺は左右の手を交差させる事となった。
「目に見える一撃じゃ、俺には当たらない」
仮に当たったとしても、この程度の攻撃ではダメージはないだろう。
ルティスをはじめ魔界でトップクラスの戦闘力を持つ魔族の攻撃は、そもそも目に映らない。
直感を頼りに攻撃を避けるという異常な戦闘になる。
繊細な戦いが苦手な俺など、ルティスとの戦闘ではほぼノーガードで殴りにいく状態が続いたくらいだ。
「……だが両手は塞がった」
「なに?」
「――刀剣無双」
俺の頭上に円を描くように、無数の剣が召喚された。
「穿て!!」
叫び、リンは剣を捨て俺から距離を取る。
直後――召喚された無数の剣が一斉に射出された。
――ダダダダダダダダダダダダダダ!!!
一撃一撃がまるで大砲のような轟音を響かせ、途切れる事のない剣の乱射が俺を襲う。
切り刻むというよりは、穿つという言葉が相応しい攻撃だった。
その砲撃は次第に激しさを増し、訓練室の床を抉り深い穴を作っていく。
抉られた床から飛び散った砂埃が煙のように舞い、俺の姿を覆っていく。
「……」
リンは睨むように、『俺が立っていた場所』を凝視し剣を構えた。
腰に携えていた剣は残り1本。
これが彼女の最後の武器だ。
「……なぁ、いつまでそっちを見てるんだ?」
「!?」
彼女の背後から声を掛けた瞬間、居合が俺を襲った。
その攻撃をデコピンで弾くと宙に剣が舞う。
「……全力は出し切ったか?」
「勇者の力とはこれほどか……」
宙を舞ってい剣が、ギンッと鈍い音を立て床に突き刺さる。
「……某の負けだ」
リンは自らの力量が俺には到底届かないという事を理解したようだ。
力の差を理解できるだけの実力が、彼女にはあった。
ガウルやアーヴァインよりは遥かに強いのも納得だ。
「……騎士序列1位リン・サミダレの降参により、勝者――エクス!」
そして俺の勝利がニースの口から告げられた。
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