第27話 権力発動
20180218 更新1回目です。
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授業にやって来たケイナ先生の顔には、明らかな戸惑いが浮かんでいた。
理由は二つ。
一つは、教室内の雰囲気があまりにも重いということ。
もう一つは、クラスに異物が混ざりこんでいる為だろう。
「あ、あの~……これはどういう……?」
「どうぞ、お構いなく」
ケイナ先生の質問に、俺の隣にいる女性が即答した。
ちなみにだが、それはフィーではない。
「会長! 自分のクラスに戻りなよ!」
「フィリス様はご存じなかったかしら?
今日からここが私のクラスになったの。
ほら、こうして席もあるでしょ?」
「それはついさっき、キミたちが持ち込んだものじゃないか!」
授業が始まる少し前に席を運び、ニースは俺の左隣に設置した。
ちなみにリンは教室の後方で待機している。
「それに会長は3年生でしょ! 学年が違うじゃないか!」
フィーとニースの視線がバチバチとぶつかり合う。
「そうだったかしら?
エクスくんへの愛の力で、学年の壁を超えてしまったのかもしれないわね」
「意味わかんないよ!
それに、生徒会長が学園の規則を無視するのはどうかと思うけど?」
「なら、生徒会の権力を利用して規則を変えるわ」
「職権乱用じゃないか!」
「フィリス様は甘いのね。
使える物はなんでも使わないと、大切な者を取られてしまうかもしれないわよ?」
「なっ、なぁっ……」
ニースは余裕のある笑みを浮かべる。
対してフィーは攻められっぱなしで言葉を失ってしまった。
舌戦では会長が一枚上手のようだ。
「ねぇ……勇者様、私からあなたに渡したいものがあるの」
黒髪の令嬢は、艶やかな笑みを浮かべ俺を見つめる。
「渡したいもの?」
「ええ。今取り出すから、少し待っていて」
取り出す……っておい!?
ニースはシャツのボタンを外しだした。
クラス内の全生徒の視線が、黒髪の令嬢に集まる。
特に男子生徒たちは凝視だった。
専属騎士とはいえ、彼らも男なのだろう。
「お、お主たち! ニース様のお身体を見るんじゃない!!」
教室の後ろで主を見守っていたリンが怒りを発露させると、その威圧感にやられたのか男子生徒たちは直ぐに顔を背けた。
ちなみに、リンが怒りを向けた相手に俺が入っていたのは言うまでもない。
「お、お前、急に何をしてるんだ!?」
「いくらなんでも、はしたなすぎるよ!」
「勘違いしないでほしいのだけれど、服を脱ごうとしているわけじゃないわよ。
今、必要な行為をしているだけなのだけれど?」
首を傾げ、ニースはシャツのボタンを外す手を止めた。
「ボクにはそれが必要な行為には見えないよ!
どう考えても、ボクのエクスを誘惑しようとしてるじゃないか!」
俺の身を守ろうとしているのか、フィーが俺の身体を引き寄せてギュッと抱きしめて来る。
――ふにゅっ。
ふぃ、フィーさん? 完全に当たってますよ。
「っ……こ、皇女殿下が男性にそんな身体を寄せるなんて、あなたの方こそはしたないんじゃないかしら?」
微かにだが、ニースの表情に動揺が見えた。
そしてフィーはそれを見逃さなかった。
隙を見つけたとばかりに、小悪魔はニヤッと微笑む。
「ボクとエクスは『互いに想い』を確かめ合った『深い仲』だからね!
このくらい自然に出来ちゃうのさ」
フィーは自分の匂いを付けるように、そのまま身体を擦り付けてくる。
それはまるで、俺が自分の物だと主張するような行為だった。
「っ……や、やるわね、フィリス様。
でも私だってそれくら出来るわ」
ふにゅ――今度は反対側から柔らかい感触。
ニースさん! 妙なところで対抗しないで!
「んなっ……き、キミ! 離れなよ! ボクのエクスだぞ!」
「まだキスもしていないのに、自己主張が過ぎるんじゃないかしら?」
「き、キスなんていつでもできるからね!
ボクとエクスは恋人同士なんだから」
「こ、恋人!?」
まさかの恋人発言に、ニースはさらに激しい動揺を見せた。
「ふふんっ。ね、エクス。
ボクたち『互いの想い』を確かめあった『深い仲』だもんね」
先程のように、フィーは一部の語調を強めた。
「ああ、それは間違いない」
確かに結合指輪を通じて、互いの気持ちを確かめあったのは事実だ。だが、恋人になったか……と、言われるとはっきりさせていない。
この事については、ちゃんと自分の口からも伝えなくては……。
「え、エクスくん!?
ま、まさか本当に……い、いえ……そんなはずないわ!
落ち着くのよ私。
こんな事で惑わされてどうするの!」
ニースは深呼吸して、自分のペースを取り戻していく。
「会長、もう負けを認めたら?
ボクとエクスの仲に入り込むのは無理だと思うよ?」
「いいえ、そんなことないわ。
勿論、エクスくんが私を嫌っていて、もう絶対に近寄ってくるなと言うのなら話は別だけれど。言われたらイジけて、部屋で一日中泣きながら引き籠ってしまうほど、ショックを受けてしまうかもしれないけれど」
仮に思ってても、それ完全に断れない雰囲気出してるよね!?
人生背負わせる気満々だよね!?
「か、会長は卑怯だ!
優しいエクスがそんなこと言えるわけないだろ!」
「あなただって卑怯よ! 身体を使って私の勇者様を篭絡しようだなんて!」
「キミだってエクスにキスしようとしたじゃないか!」
二人のプリンセスが争う中で、
「じゅ、授業を聞いてください~~~~~~~!」
授業が全く進まず泣き声を上げる。
さらに、教室中の専属騎士の敵意? のような感情が俺に向いていた。
特にガウルは凄い。怨念がオーラのようになっていた。
『なぜあの男ばかりなぜあの男ばかりなぜあの男ばかりなぜあの男ばかり』
こんな声が聞こえてくるくらいだ。
「……と、とりあえず休戦して授業を受けないか?」
このまま授業妨害にあっていては、ケイナ先生があまりに不憫だしな。
「エクスがそう言うなら……」
「エクスくんが言うのなら……」
二人の声が重なる。
そして一瞬、二人のプリンセスは視線を交差させると、ふんっと互いに顔を背けたのだった。
(……放課後は……静かに過ごせるかなぁ……)
なんて思っていたのだけれど、当然のように俺の願いは叶うことはなかった。
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