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第26話 ライバル出現!?

20180217 更新2回目

            ※




「もぐもぐもぐ――」


 ニアによって運ばれてくる食事が、猛烈な勢いで吸い込まれていく。


「お、美味しいか?」


「もぐ! もぐ! もぐ!」


 食べながら頷くのは、さっきまで倒れていた少女だ。

 非常に端正な容姿でスタイルも良く、美人という言葉が似あう。

 少女……というよりは女性と表現する方が的確だろう。

 そんな美人の頬が、今はまん丸と膨らんでいる。


「会長、可愛いですわ。

 なんだか小動物を連想してしまいます」


「ボクも思った。会長はリスっぽいね」


 リスという動物を俺は知らないが、恐らく愛嬌のある生き物なのだろう。

 事実、この人が食事をしている光景は気持ちが和む。


「もぐもぐ! もぐ! っ――!?」


 急いで食事をしていた為、喉を詰まらせたようだ。


「お水です」


 ニアが直ぐ、コップに水を注いだ。


「ゴクゴクゴク! はぁ……」


 ニースは安らかな顔を見せた。

 なんとか危機を乗り越えたようだ。

 そんな会長を見守りつつ、俺たちも食事を進めた。


「ふぅ……ご馳走様でした」


 会長が手を重ね、幸せそうに表情をたゆませている。

 感情表現が豊かなタイプではないのかと思ったが、表情はとても素直だった。


「もう大丈夫か?」


「ええ。あなたは命の恩人ね」


 大袈裟過ぎる。

 ただ俺はここまで運んだだけだ。


「食事を提供してくれたのは、フィーだからな。

 感謝するなら彼女にしてくれ」


「……そうだったの。フィリス様、感謝いたします」


 俺に言われまま、黒髪の令嬢は素直に感謝する。


「別にこれくらいなんでもないよ。

 それより、会長は本当に空腹で倒れてたの?」


「あたしもそれが気になってたんです!

 本当の本当にただの空腹ですか?

 だとしたら今日の号外は――生徒会長、腹ペコでぶっ倒れる!? に、するつもりなのですが?」


 それはやめてやれ……。

 しかし、あまり生徒会長らしくない人だよな。

 そういう役職に就く人間というのは、もっと偉そうなイメージがあるんだがな。


「た……ただ、お腹減っていただけよ」


 腹ペコでぶっ倒れた事実が恥ずかしいのか、会長は照れていた。


「そっかぁ……。でも、事件じゃなくて良かったです」


 ミーナは意外な結末が残念そうだったが、何事もなかったことに安堵したようだ。


「……ところでニース会長。

 あなたの専属騎士ガーディアンはどこにいらっしゃるのですか?」


「僕も気になっていました。

 二―ス様の専属騎士ガーディアンと言えば、この学園の序列1位です。

 その専属騎士ガーディアンが、主君の傍を離れるなど……」


「え? あたしの専属騎士ガーディアンなんていつも傍にいないけど?」


「そ、それはミーナお嬢様のご命令だからではないですか!」


 まぁ、この新聞娘のような例外は置いておいて、普通は専属騎士ガーディアンが傍にいるんじゃないか? 俺とフィーなんてほぼ常に一緒にいるようなものだ。


「リンは悪くないわ。私が頼みごとをしているの」


 ニースが俺たちの疑問に答えた。

 主君の願いを叶える為に、専属騎士ガーディアンはどこかに行っているらしい。


「何を頼んだんだ?」


「……学園長室に選定の剣があると聞いたの。だから、それを持って来てほしいと」


 ああ、俺が放置しっぱなしの奴か。

 後で回収しなくちゃとは思っていたのだが……。


「会長はその剣をどうするつもりなの?」


「私は、それが本物か確認したいのよ」


 その黒い瞳に初めて意志が宿る。

 何か目的があるらしい。

 詳細を尋ねてみるか。と、俺が思った時だった。


 ――コンコン。と扉がノックされる。


「フィリス様、お食事中に失礼いたします。

 こちらにニース様はいらっしゃるでしょうか?」


 凛とした声が室内にまで届いた。


「……リンだわ」


 ニースが小さく微笑んだ。

 どうやら彼女の専属騎士ガーディアンで間違いないらしい。


「いるよ。どうぞ」


 フィーが言うと、ゆっくりと扉が開かれた。

 すると、そこには青髪の少女が立っていた。

 その両手は、布で包まれた長物を大事に抱えている。

 恐らくあれは選定の剣だろう。


「――失礼いたします!

 ニース様! ご無事でしたか!」


「ごめんなさい、リン。心配をかけたわ」


「どこに行かれたのかと探しました。

 それがしが戻るまでは、教室でお待ちくださいとお願いしたではありませんか」


「ごめんなさい……お腹が空き過ぎて耐えられなくなってしまったの」


「だからそれがしは、先に食事を済ますべきだとご提案したのです!」


「……今は反省しているわ」


 会長の謝罪を聞き、彼女の専属騎士ガーディアン諫言かんげんをやめた。


「とにかくご無事で何よりです。

 フィリス様をはじめ、ニース様を救っていただきました皆様方に感謝いたします」


 リンは膝を突き、最大の礼を伝えた。

 真面目で忠義に厚い少女なのだろう。


「ところでキミ、選定の剣を持ってくるよう会長に頼まれたんだって?」


 どうやらフィーも、会長の言葉が気になっていたようだ。


「左様でございます。

 学園長からは、こちらがフィリス様の専属騎士ガーディアンが抜いたものだと聞いております。

 勝手に持ち出した事、どうかお許しください」


 仰々しくリナは頭を下げた。

 どうやら俺が引き抜いたという事も知っているようだ。


「ははっ! 学園長もご冗談が好きなようだな。

 リン先輩、この男が選定の剣を抜けるわけがありませんよ。

 選定の剣は勇者の血族にのみ引き抜けると言われているんですから」


「むっ……。

 言っておくけど、ボクはエクスが引き抜いたところを見てるんだからね」


「ははっ! フィリス様までご冗談が過ぎます」


 ガウルは全く信じていないようだった。

 リンは俺に鋭い視線を向けた。

 敵意……は感じない。だが、その瞳には複雑な感情が宿っている


「待って。……選定の剣はあなたが抜いたの?」


「ああ、そうだぞ」


「……あなたは勇者様なのかしら?」


 まじまじと会長の黒い瞳が俺を見つめる。


「勇者かはわからないが、俺は勇者の息子らしい」


「はははっ! 貴様も面白いこと言うじゃないか」


「本当なら超特ダネなんだけど……」


 ガウルは愉快そうに笑い、俺の背中をバンバンと叩いた。

 ミーナは信じられないという表情だ。

 嘘ではないのだが、これに関しては俺も半信半疑だからな。

 信じてもらえなくても仕方ないだろう。


「……リン、その剣を彼に」


「かしこまりました」


 リンは刀身に巻かれていた布を取ると、俺に選定の剣を差し出してきた。


「なんだ?」


「……持ってみて」


 ニースは真剣な眼差しで俺を見つめている。

 何か理由があるのだろうか?


「わかった」


 疑問を感じたからこそ、俺は剣を受け取った。


「これでいいか?」


「……あなたが勇者様なら、その剣を使いこなせるはずよ」


「使いこなす? たとえば何をすればいいんだ?」


「選定の剣には鞘がない理由があるの。

 たとえばイメージするだけで、剣を出したり消したり出来るわ」


 出したり消したり?


「……意識してみるといいわ。

 剣を鞘にしまうイメージを、剣を鞘から引き抜くイメージを」


「イメージ……」


 言われるままに、俺は剣を鞘にしまうイメージをした。

 すると――しゅん!


「おお! 消えたぞ!」


 俺の手から剣が消えていた。

 そして鞘から引き抜くイメージをしてみると……――しゅん!


「おお、凄いぞ! ちゃんと剣が出てきた!」


 なんだかこの現象が面白くなり、俺は消したり出したりを数回繰り返した。


「凄い! 流石はボクのエクス! やっぱりキミは真の勇者なんだね!」


「……只者ではないと思っていましたが……まさか本当に勇者の家系とは……。

 わたし、驚きましたわ」


「うおおおおおっ! さらなる特ダネ!

 『薔薇姫の騎士は勇者様だった!?』

 よっしゃ! これはイケる!」


 フィーは喜んでくれているようだった。

 そして、セレスティアは感心したように俺を見つめ、ミーナは思いがけないネタとの遭遇にとんでもなく興奮している。


「ば、馬鹿な……。この男が本当に勇者だと言うのか……」


 ガウルはショックを受けたように目を丸めている。


「……ガウル、あなたも少し試させてもらったらどうかしら?」


「そ、そうですね! この男が勇者でないという証明してやります!」


 俺はガウルに剣を渡してやった。


「なるほど……これが選定の剣か。

 とてつもない力を感じる……」


 いや、その剣からはとてつもない力は感じないぞ。

 何か不思議な感覚はあるがな。


「ふっ……はああああああああああああああああああっ!!」


 ガウルは気合を込め、雄叫びを上げた――何も起こらなかった。


「何故だっ!?」


 悔しそうなガウル

 だが、何度試してみても無駄に終わる。


「はぁはぁはぁはぁはぁ……」


「ガウル、その呼吸音、変態みたいで気持ち悪いですわよ」


「ごはっ……」


 セレスティアの発言が決め手となり、ガウルはその場に崩れ落ちた。

 ほんと、仲いいなこいつら。


「彼のお陰で、エクスが勇者だってことははっきりしたね!」


「フィリス様のおっしゃる通りですわね。

 誰にでも出来るわけではないという証明になりましたわ」


 これもガウルのお陰だな。

 目覚めたら感謝しておこう。


「しかし、ニース。

 何故、お前は選定の剣の使い方を知っていたんだ?」


「……」


 ニースは何も答えない。

 だが、頬を赤くして熱っぽい瞳を俺に向けている。


「どうしたんだ?」


「……見つけた」


「え?」


 気付けばニースの顔が俺に近付いて来ていた。

 その瞬間、この場にいた者たちの時が一瞬止まる。

 俺も咄嗟のことで対応が遅れてしまった。

 彼女は唇を、俺の唇に寄せていった


「――だ、だめえええええええええええええっ!」」


 フィーが叫んだ。

 そして止まっていた時が動き出す。


「勇者様、その手を離して。……あなたにキスできないわ」


 ニースは真顔でそんなことを言っていた。


「キスって、急に何をするんだ?」


 少し反応が遅れたが、俺は右手で近付いてくるニースの顔を押さえた。

 そしてそのまま自分の顔から引き離す。


「あうっ……失敗してしまったわ」


「失敗じゃない。突然、びっくりしただろ」


「そ、そうだよ!

 いきなりキスしようなんて、どういうつもりなのさ!

 ボクだってまだしたことな――っ」


「あら? まだでしたか~。

 思ったほど、関係は進展していらっしゃらないのかしら?」


「姫様とエクスくんは、まだキスをしていないと……」


「め、メモを取るな!」


 フィーは大混乱中だった。

 だが、本当にニースの意図がわからない。

 三人の貴族生徒プリンセスが、姦しく騒ぐ中で、


「エクスくん、あなたは私の命の恩人よ」


 ニースは俺だけを見つめている。


「だからキスを?」


「……違うわ。それは口実。……あなたこそ、私の勇者様だからよ」


 そう言って小さな微笑を浮かべる。

 まだ出会って間もないが、ニースが勇者について何か知っているのは間違いなさそうだ。


「え、エクス、ここから離れるよ!

 会長ってば、可愛いリスさんだと思って気を抜いていたら、とんでもない食わせ者だよ!

 まさかエクスの唇を奪おうとするなんて……」


「あらあら? 会長はリスさんではなく、雌豹さんだったのですね?」


「そうね。……愛する人の前では特に、ね」


 ニースは狙いを定めたように俺に艶っぽい笑みを向ける。

 食事中の和やかな雰囲気とのギャップが凄く、今は妖しい雰囲気を放っていた。

 隙を見せれば、今にも襲い掛かって来るのではないだろうか?


「むぅぅぅぅぅ!」


 フィーが俺を守るようにくっ付き、会長を強く威嚇する。

 こんな調子のまま、昼休みは終わりを迎えたのだった。

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