第25話 事件発生!?
20180217 更新1回目
「は~い! 授業を始めますよ~!
今日は歴史の授業からです」
ケイナ先生がやって来て歴史の授業が始まった。
「え~と、今回からは魔王戦争の序章ですね。
だいたい1000年前の事……と言われていますが、過去の文献や伝承を参考にすると、もっと前の可能性もあるそうです。
これが人族と魔族の最初の戦争になります。
人間界と魔界の次元が切り離される前の話で――」
今日の授業は、過去に起こった魔王と初代勇者の戦いについての授業だった。
名前は書かれていないが、この魔王はルティスのことだろう。
あいつはめちゃくちゃ強いから、魔界でも長いこと世代交代が行われていない。
(……本来なら今頃、俺が後継ぎのはずだったんだがな)
16年生きてきて、今更人間だったなんて知らされるとは……。
でも、おかしいと思ってたんだ。
上位魔族と違って、俺は頭に角も生えてない。
子供の頃は角無しと馬鹿にされた事もあった。
(……人間なら、角は生えねえわな)
う~ん、納得。
ちなみに以前、
『ルティス、オレのツノはいつはえてくるんだ?』
こんな相談をルティスにしたら、どうやら俺がイジメられていると思ったのだろう。
『わらわの息子が傷付くような悪口禁止な』
子供たちを呼び出して、一人ずつデコピンを喰らわせていた。
俺を馬鹿にした子たちは、瞳を濡らしながら謝ってくれた。
正直、俺は少しだけ奴らに同情してしまったが、ルティスの優しさが嬉しくないと言ったら嘘になる。
(……ま、俺が人間なことはもう受け入れるしかない)
それが嫌だという気持ちはない。
が、勇者の目的については、早く理由を問い質したいものだ。
人生計画が随分と変わってしまったからな。
(……正直今は、それすら感謝したいくらいだけどな)
隣にいるフィーに目を向ける。
真剣な眼差しで黒板を見る彼女の横顔は、凛としていて美しい。
メモを取る為、その端正な顔を下げると長い髪がサラッと揺れた。
その髪を自然に掻き上げるフィーに、なぜかドキッとしてしまう。
ふと、フィーがちらっと俺を見た。
そして柔らかな微笑を浮かべてくれる。
「っ――」
ああ、今は授業! 授業中だ!
フィーに引き付けられてしまった意識を無理に戻す。
「ちなみにこの時、キャメロットから円卓の騎士も参加したと言われ、3日3晩に及ぶほどの壮絶な戦いが繰り広げられたそうです」
そういえば、勇者と円卓の騎士は、それなりに関係が深いのだろうか?
今回は初代勇者と言われる者の話だが、現役の円卓の騎士には、俺の勇者を知っている奴がいるかもしれないんだよな。
(……話を聞く為にも、序列を上げて円卓剣技会の出場権を得ておかないとな)
今のところ、勇者への手掛かりはそれしかないわけだし。
歴史の授業を受けながら、俺は今後の行動について考えていくのだった。
※
昼休みになり、俺たちは教室を出た。
目指すは学園の食堂だ。
ニアは既に、食堂の別室にて昼食の準備をしてくれているらしい。
「ところでボク、質問があるんだけどさ……」
「はい。なんでしょう、フィリス様?」
フィーの質問に答えたのはセレスティアだ。
「なんでキミたちが付いてくるんだい?」
「フィリス様と交友を深めようと思いまして」
「僕はセレスティア様の専属騎士ですので……」
「フィリス様とエクスくんに付いていけば、何か面白いネタが転がり込んでくるかなぁと」
現在、セレスティアとガウル、そして新聞部のミーナも一緒だった。
「はぁ……折角、エクスと二人で過ごす予定だったのに……」
「フィリス様、そんなこと言わずわたしと交友を深めましょうよ~」
すりすりすり――と、セレスティアがフィーに身体を擦り付ける。
「あ~もう! わかったからあまり寄らないでくれ」
「ありがとうございます、フィリス様」
フィーはその過剰なスキンシップに迷惑そうにしながらも、遠慮のないセレスティアに対して苦笑を浮かべた。
「そういえばミーナ、少し気になっていたことがあるんだが……」
「あたしに? どうしたの?」
「お前は専属騎士がいないのか?」
そう。この間、食堂でインタビューされた時から思っていた事なのだが、ミーナは専属騎士を連れていない。
「ううん、いるよ。
でも、ネタ探しに奔走してもらってるんだ」
「ネタ探し? 専属騎士の仕事はいいのか?」
「もしヤバい事があったら、直ぐに連れ戻す『手段』を用意しているから」
「なるほど……」
どんな手段なのかはわからないが、自分を守らせる事よりもネタ探しを命じるとは、流石は新聞少女だ。
「あ~何か面白いネタ、転がってないかなぁ……」
退屈そうに言うミーナだったが……そのネタは意外と直ぐに見つかる事となる。
――ガヤガヤガヤ。
食堂の前を取り囲む生徒たち。
混雑しているのかと思ったが、誰も中に入ろうとしない。
その様子を見て、ミーナは全身をうずうずさせた。
「うっはあああっ! 記者として今、ピキーンってきたっ! これは特ダネの予感!?」
速っ!?
ミーナは一瞬で人混みに突っ込んでいく。
「何があったんだろう?」
「確認してくるか?」
「エクスくん、そういう雑用はガウルに任せましょう」
「お任せください!」
セレスティアに命じられガウルが動いた。
なぜか嬉しそうなのは、主君に頼られたからだろうか?
だがガウルよ、それでいいのか!?
走っていくガウルの背中から、俺は少しだけ哀愁を感じてしまう。
「これは事件、事件だよ! 大事件だよ!」
「なっ!? 馬鹿な……こんなこと、あっていいはずが……」
喧騒の中、ミーナとガウルの驚愕がはっきりと聞こえた。
「円卓生徒会の――ニース会長が死んでるっ!」
ミーナの叫びに、生徒たちが激震する。
「……フィー、俺から離れるな」
「うん……」
ギュッとフィーを抱きしめる。
この中に、学園の生徒を狙う者がいるのか?
俺は全神経を集中して周囲を探る。
すると――グウウウウウウウ。
ケルベロスの唸り声のような音が、食堂の中から聞こえてきた。
「……? この音は……まさか……」
「何かわかったの?」
「ああ……多分、なんだが……」
俺はフィーとセレスティアを連れて、食堂の中に踏み入った。
すると黒髪の女生徒が倒れていた。
「なっ、貴様は馬鹿か!
なぜセレスティア様とフィリス様を連れてきた!
ここに襲撃者が潜んでいる可能性があるのだぞ!」
怒りを向けてくるガウルだったが……。
「いや、その心配はないと思うぞ」
「なに……?」
「エクスくん、どういうこと? 大事件発生じゃないの?」
事件性は全くないだろう。
そもそも、この女の子は死んでいない。
「おい、あんた……大丈夫か?」
「……あ、あうぅ……」
そして弱々しい声を上げた後……。
「……おなか……へった……」
最後の力を振り絞るように、そんな言葉を漏らす。
「ねぇ、エクス……ボクの勘違いじゃなければなんだけど……」
「……ああ、空腹で倒れていただけのようだ」
戸惑うフィーに答えてから、俺は倒れる少女を抱き起こした。
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