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第21話 ちょっと世界を救ってくるわ

20180214 更新1回目です。

             ※




「フィー、陽も随分と落ちてきた。そろそろ帰るか?」


 今から町を出れば、陽が暮れる前には寮に着く。

 時間的にいい感じだろう。


「……ねぇ、エクス。

 最後に付き合って欲しいところがあるんだけど、いいかな?」


 迷うような間があった。

 何か気になることが……あ、そうか。


(……寮を出る前にニアと話していた件か?)


 途中で合流するって言ってたもんな。


「……なぁ、フィー。もしかして、俺がいない方がいいのか?」


「ううん。

 ごめん、ボクの迷っている気持ちが、エクスには伝わっちゃったんだね」


 フィーは優しく笑った。

 そして一呼吸置いた後、俺の目を真っ直ぐに見つめた。


「だけど……やっぱり、キミには来てほしい」


 彼女の眼差しから決意に似た想いが伝わる。

 きっとフィー自身、しっかりと考えて決断したことなのだろう。


「わかった。

 フィーが望むなら俺はどこにだって付いていく」


「うん」


 俺たちはどちらからでもなく、自然に手を繋ぎ、共に歩き出した。

 徐々に人気はなくなり、町の人々の声も聞こえなくなっていく。

 そして、町のはずれ……裏通りよりも遥かに寂れた場所に到着した。

 正方形の石……のような物が、そこには複数横並んでいる。


「フィリス様……お待ちしておりました」


 その場所では既に、ニアが待っていた。

 手には白い花束を持っている。


「ごめん、ニア。少し待たせちゃったかい?」


「いえ。わたくしも先程、到着したばかりですので」


 一礼するニアから、フィーは花束を受け取った。


「……ありがとう、ニア。

 この辺りでは、ティルの花はないから、手に入れるの大変だったでしょ?」


「この程度の事、大変などではありません」


 ニアは辛そうな顔で微笑んだ。

 そしてフィーとニアの視線が、立ち並ぶ石の一つに向いた。

 その石の多くには人の名前だろうか? 文字が書いてあるのだが、フィーたちが目を向けている石にだけ、何も書かれていない。 


「……フィー、これは……?」


「突然で驚いたよね。これは、ボクのお母様のお墓なんだ」


 やはりそうなのか。……だが、おかしい。

 他と違い、この墓だけ何か違和感が……。


「お母様……紹介するね。

 彼は、ボクの専属騎士ガーディアン

 エクスって言うんだ」


 母の墓で、フィーは報告を済ませる。

 そして、持っていた花束を墓の前に置いた。


(……あっ、そうか!)


 俺はやっと違和感の原因に気付いた。


「エクス……どうして、お母様の墓石にだけ名前が書かれていないかわかる?」


「偽物の墓だからだろ?」


 俺は答えた。


「え……?」


「っ――」


 俺の答えたが予想外だったのか、フィーは呆気に取られる。

 同時に、微かにだがニアの表情が揺れた。


「……な、何を言ってるんだよ!

 なんでエクスまで、お母様を侮辱するような事を言うの?

 名前も書かれていないお墓だけど、偽物なんて、そんなわけないだろ!

 ボクは真面目に話をしてるんだよ!」


 フィーの表情に怒りが混じる。

 それはいつもの拗ねた感じや、冗談とは違う。

 本当に俺に対して苛立ちを感じていた。

 フィーが俺にこんな怒りを向けるのは初めてで、少しだけ胸が痛くなる。


「エクス、ボクのお母様は皇族だと認められていなかったんだ!

 下賎な田舎の町娘が、権力を求めて皇帝に媚びへつらって、まるで娼婦のようだと罵られていた。

 そんなお母様をお父様は守ってさえくれず、最後には皇族の恥だと暗殺されたんだ!」


 鬱屈としていた感情を爆発させるように、フィーは止まらぬ叫びを上げる。

 俺は初めて、彼女の抱えていた闇に触れた。


(……そうか)


 フィーが学園で人を寄せ付けようとしないのは、専属騎士ガーディアンを持とうとしなかったのは、他人を信じることが出来ないから……。


 学園内にも敵はいるかもしれないと……自分も母親のように暗殺されるかもしれないと、恐怖しているから。


 だからフィーは……学園とは関係ない、キャメロットの人間でもない、完全な部外者の俺を、専属騎士ガーディアンに任命したんだな。出会ったばかりの俺に頼られなければならないほど、フィーの心は追い込まれていたんだな。


 今まで気付くことの出来なかったフィーの弱さが、触れる事すらも躊躇ってしまうような感情が、どんどん流れ込んでくる。

 これは、結合指輪コネクトリングの効果なのか?


「お母様は皇族として名乗ることも許されないまま、ただお墓だけが与えられた。

 この町の人は、お母様を誉れと言ってくれるけど、お母様が亡くなられた事すら知らないんだ……」


 ずっと溜め込んでいたんだな。

 辛い気持ちを……悲しい気持ちを……。

 でもフィー、お前の知っている事実は……真実とは違うんじゃないか?


「……フィー」


 俺はこの墓を偽物だと言った理由を伝えようとした。

 だが、


「っ……ご、ごめん。ボク、何を言ってるんだろ。

 ……こんなの、キミに八つ当たりしてるのと同じだ……」


 俺の視線から逃れるように、フィーは顔を背けた。

 その瞬間、フィーの感情が、強い恐怖が伝わってくる。


『やだ、やだよ、このままじゃエクスに嫌われちゃう』


『ボク、イヤな子だと思われちゃう』


『そんなのやだ。どうしよう、どうしたら?』


 恐怖に怯えたフィーが、後退りこの場から立ち去っていく。


「フィー、待って――」


「来ないで!」


 パン――と、鈍い音がなる。

 俺の伸ばした手を、フィーが拒絶した。


「ぁ……」


 その行動にフィー自身が驚くように目を見開く。

 フィーの言葉と行動は、本当の想いじゃない。

 それは伝わっていたはずなのに、信じられないくらいの動揺が心に走る。


「……ボク、最低だ」


 そう言ったフィーの顔は、見たことのないくらい悲しい顔だった。

 フィーは俺から逃げるように走り去っていく。


「ま、待ってくれ……話を――」


 伸ばした手はフィーには届かない。

 そして彼女は、フィーは俺から逃げるように走り去っていった。


「フィリス様!? エクスさん、早くフィリス様を――」


「……――ニア、お前は知ってたんだよな? この墓が偽物だって事を……」


「っ……!?」


 ニアが息を呑んだ。

 その表情には明らかな動揺が浮かぶ。


「後で理由を聞かせろ。フィーにもちゃんと説明しろ。

 理由次第じゃ……俺は皇帝含め――フィーを悲しませた奴ら全員を許さない」


 それだけ伝えて、俺はフィーを追いかけた。




           ※




 フィーは直ぐ見つかった。

 人が行き交う町の中で、一人だけ立ち尽くしている。

 通行人たちは奇異の目で、そんなフィーを見ていた。


「フィー!」


 今にも壊れそうなくらい、ボロボロな彼女を俺は優しく抱きしめる。


「エクス……」


 掠れた声でフィーが俺の名前を呼ぶ。


「……ボク、最低だよね。

 ……キミと一緒にいたら、またキミを傷付けちゃう」


 フィーの目からはポロポロと涙が零れている。

 俺が悲しませた。

 俺がフィーを傷付けた。

 同じだよ、フィー。

 俺もフィーを傷付けるのが怖いよ。

 でも、それでもさ……。


「フィーは最低なんかじゃない。

 俺は色々なフィーが知りたい、フィーをもっと理解したい」


 泣きはらし赤くなった瞳を、フィーが俺に向けた。


「傷付いて、傷付けあってしまうことがあるかもしれないけど、それでも俺はフィーの事が大切だから、だからもっと――フィーを知りたいんだ」


「……ボクはエクスの思ってるような女の子じゃないよ。

 もっと弱くて、イヤなところもいっぱいあって……。

 いつかボクはキミを、キミの心を、もっともっと傷付けてしまうかもしれない」


「そのくらいじゃ俺は傷付かない。

 それよりも、フィーがそんな悲しい顔をしてる方が辛い」


 どうしたら、俺の気持ちを伝えられるだろう。


「……もしボクが泣いてばかりいるような女の子だったら? 人のことを悪く思うような、性格の悪い女の子だったら?」


「それはフィーだけじゃない。俺だって、誰だってそうだ。

 泣くこともあれば、悪い気持ちを抱くこともある。それが普通だ。

 俺はフィーに、完璧なんて求めてない。自分の理想像を押し付けたいわけじゃない。

 ありのままのフィーがいいんだ」


 フィーを安心させてやりたい。


「ボク……怖いよ。

 ボクの全てを受け入れて、好きになって欲しいって思う。

 でも……キミが好きだから、嫌われたくないから怖いんだ」


「今、こうして新しいフィーを知ることが出来るこの瞬間、どんどんフィーを好きになってるのに、どうやったら嫌いになれるんだよ?」


 言葉では伝えられない事も含めて、この気持ちを伝えたいと、俺は彼女の手を取った。 そして自分の胸に押し付ける。

 結合指輪コネクトリングがもし、大切な人との感情を繋げるものであるなら、今だからこそフィーに俺の想いが伝わってほしい。


「フィー、伝わるかな?」

「エクス……」


 左手の薬指にはめている結合指輪コネクトリングが、うっすらとだが光を放った。 互いを想う感情が伝わっていく。

 俺とフィーが、互いをどれだけ大切に思っているかが、伝わっていく。


『エクスのことが好きだよ』


 フィーの心が俺に伝わる。


『フィーのことが好きだ』


 俺の心がフィーに伝わる。


『ボクの方が、もっとエクスのことが好きだよ』


『俺の方が、もっとフィーのことを好きだ』


 その声はどんどん大きくなっていく。


『もっと色々なフィーが見たい。

 いいところも、悪いところも、全部受け入れる』


『うん。ボクの全部をエクスに見てほしい。

 全部を受けれいれてほしい』


 互いの感情が抑えきれなくなって爆発してしまいそうになる。

 今この場で互いの全てが欲しくなる。

 この瞬間は本当に一瞬のことだったのかもいれないけど、間違いなく俺たちは結合コネクトしていた。

 そして、結合指輪コネクトリングはその役目を終えたかのように、小さな輝きを消した。


「……伝わったろ?」


「うん……伝わった。ボク、やっぱり弱虫だ。

 エクスになら全てをさらけだしていいと思ってたのに、それを怖がってた」


 言って、フィーがはにかんだ。

 彼女の弱い部分。

 触れられた事のない、見られたくない心を、俺にだけ触れさせてくれた。


「ボクの全て受け入れたいってエクスの気持ちが、こんなボクでも好きだっていうエクスの気持ちが、いっぱい溢れてきた」


「フィーが俺をどれだけ好きでいてくれるかも、ちゃんと伝わった」


「っ……ボク、恥ずかしいよ……」


 いつもは小悪魔のように俺を誘惑するフィーが、今はただ照れて、真っ赤になって、何も言えなくなっていた。

 もっとフィーの恥ずかしがる顔がみたい。

 俺はそんな衝動に駆られた。


「フィーは俺のことが大好きなんだよな」


「っ……それは……」


「今、ギュッと抱き締めて欲しいって思ってるだろ?」


「~~~~~~」


 ただでさえ照れていたフィーの頬が、より熱を帯びていく。

 こんなフィーをもっと見たい。


「ば、バカ! エクスのバカ! イジワル! もう知らない!」


 フィーはプイッと顔を背ける。

 そんな彼女の全てが、愛おしくて仕方なかった

 もっと、フィーを知りたい……でも、その前に……。


「フィー」


「……なに?」


「ごめん。可愛いフィーが見たくて、イジワルした。

 でも……仲直り……してくれるよな?」


「……うん!」


 今度はフィーから、ギュッと俺を抱きしめて、


「エクス、ボクと仲直りしてください」


 フィーの涙はもう止まっていて、優しい笑顔を返してくれた。


「それとさ、フィー。

 さっきのこと、怒らずに聞いてほしい」


 ちゃんと伝えなくちゃいけない。


「お母様の……お墓のこと、だよね?」


「ああ。ちゃんと説明するから、だから聞いてほしい」


「うん! もう……逃げたりしないから」


 フィーが決意を固めた――その時だった。


『あ~、あ~、エクス、聞こえるか? わらわだぞ!』


 幻聴だろうか?

 ルティスの声が聞こた。


「エクス……今、何か聞こえなかった?」


「え? フィーにも聞こえたのか?」


「うん、女の人の声が……」


「じゃあ……幻聴じゃない?」


『幻聴ではない! ようやく繋がった!

 貴様の座標いちを探すの死ぬほど苦労したぞ!

 次元を超えた念話テレパスは初めてだったこともあるが、このわらわにとってすら、とんでもない難易度の高さだ……』


「って、ルティス!? マジでルティスなのか!?」


「え? ルティスさんって……エクスの育ての親だって言ってた?

 この声の人が……」


『む? エクスの他に、もう一人と繋がったか。

 次元を超えて念話(テレパス)を成功させるとか、やっぱりわらわって凄い!』


「は、初めてまして。フィリスと言います。

 えと、エクスとはその……」


『あ~自己紹介は後にせよ。

 次元超えの念話テレパスは魔力の消費が半端じゃない上に、もうあまり時間がない』


「時間がってなんのことだ? くだらないようなら、後にしてくれ。

 こっちも色々と忙しいんだ」


『突然ですまぬと思っておる。が、今は我慢して聞くがよい!

 人間界崩壊の危機だ! つまり放置すればお主ら全員死ぬ!』


 人間界崩壊? なに言ってんだこいつ?

 俺とフィーは思わず目を合わせた。


『実はお主を人間界に送ったゲート――ブラックホールあるだろ?

 あれな……今も消えてないんだわ……』


「だからなんだ? それならそっちで対処してくれ」


『いや、こっちでも色々と対処しているんだが……。

 ほらあれ、なんでも吸い込むだろ?』


 確かにあれは圧倒的吸引力だった。

 俺もあっという間に吸い込まれたからな。

 ルティスとの戦いで力を大幅に失っていたとはいえ、不覚だった。


『でな、お主がいなくなったことで、新たな魔王継承権を巡ってこっちの奴らがドンパチやっておって、それがまた遠慮のない戦いなのだ。

 わらわもそれなりの強度の結界を張っておったのだが、その結界がある魔法に貫かれてしまって……』


「長い! 言い訳はいいから要点だけ伝えろっ!」


『あ~~~~すまぬ!!

 実は超特大級の魔界玉が、ブラックホールの中に吸い込まれた!!』


 魔界玉か……。

 あまり使うことはないが、それは俺の得意魔法の一つだ。

 魔界中のありとあらゆる欲望を集め、それを力に変えることの出来る魔法だ。

 欲望を集めていくと、そのエネルギーが大きな太陽を形作っていく。

 まぁ、色は黒いんだけどな。


「で、それがなんだ?」


『そろそろ、人間界に落ちる!!』


 そうか。

 超特大級の魔界玉が……って――はあああああああああああああああああああああああっ!?


『すまぬ! マジすまぬ!

 わらわが眠ってる間に、ブラックホールに吸い込まれたと連絡がきた』


「寝るなよ! 徹夜で頑張れよ!」


『ブラック企業の社長かお主は!! 魔界労働基準局に訴えるぞ!

 わらわだって頑張ったのだ! で、その魔界玉だが、まともに落ちたら、人間界が消し飛ぶくらいの威力だ。だから、人間界崩壊の危機だ!!』


「危機だ!! じゃねえよっ!」


『わらわに怒るな! 継承者候補のバカエリートに言え!』


 やりやがったのは、あの戦闘バカエリートか!!


「――って、おいルティス! 早速、空が歪んでるぞ!」


『始まったか……』


 巨大な暗黒が空を覆い、ユグドラシル大陸に深い影を落とした。

 恐らくその瞬間、この大陸に住む全ての人々が天空を見上げただろう。


『もう時間がないな。すまぬが、後は頼むぞ。

 これは借りにしといてくれ。もしお主が困った事があれば、わらわが助けてやるから』

 助けるなら今手を貸せ……と言いたいところだが、んなこと言ってる暇ない。

 フィーのいるこの世界を消滅なんてさせてたまるかっ!


『ああ! 奴らまた面倒なことを――すまぬ、それじゃ切るからな、エクス!』


 プツン――と念話テレパスが切られた。


「エクス……」


 フィーが不安そうな顔で俺を見つめる。


「大丈夫だよ、フィー」


 俺はフィーを安心させてやりたくて、彼女の頭を優しく撫でた。

 その間にも世界を消滅させるかのように、空が裂けていく。

 黒い暗黒の塊が姿を見せ――ユグドラシル大陸を闇に覆っていく。


「フィーの為なら俺は、なんだって出来る気がするんだ。

 だから――俺を信じてくれるか?」


 こんな時になんだけど、いやこんな時だからこそ――俺はフィーの言葉が聞きたかった。


「……うん! 信じるよ! ボクはキミの気持ちを知っているから、もう迷わずにキミを信じることができる! ボクの専属騎士ガーディアンは無敵だ! 誰にも負けない! どんな障害からだって、ボクを守ってくれる! 他の誰が信じてなくたって、ボクはキミを信じられる! だから――この世界を、この世界に生きる人を、ボクを守って、エクス!」


 紡がれたフィーの言葉が、その想いが、俺の心を満たしていく。

 結合指輪が小さな煌めきを放つ――フィーの言葉を俺の力に変えていく。

 俺を信じてくれるフィーの想いがあれば、俺は――なんでだって出来る。


「――じゃあ、ちょっと世界を救ってくるわ」


 重力制御グラヴィティを使用して俺は全力で跳躍した。

 世界を壊す暗黒が迫る。

 だが、全く恐怖はない。

 空中で静止して、俺はその場に留まると拳を握った。


「フィーのいるこの世界を――」


 腰を捻り、腕を引き――迫り来る魔界玉に拳をぶち当てた。

 そして――人間界に来てから初めて、俺は全力を解放する。


「――壊しにきてんじゃねえええええええええええええええっ!!」


 超巨大な暗黒が――世界を崩壊させる悪意が消し飛んでいく。

 だが、魔界玉を消し去るだけじゃ意味がない。

 消し飛ばすべきは―――人間界と魔界を繋ぐこの次元の歪み。

 だったら、


「ぶっ飛べええええええええええええええええええええええ!!」


 パアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!


 俺が拳を振った衝撃は、次元の歪みごと空を裂いた。

 次元の歪みという天変地異を消滅させたその衝撃が、別の天変地異を起こし、沈みかけた太陽が再び顔を出す。

 大陸を覆っていた影は消え、世界中を太陽の眩しい輝きが照らす。

 この時――その光を見た人々は、奇跡が起こったのだと理解した。

 だが、その奇跡を起こしたのが、一人の少年であることを知っているのは、たった一人の少女だけ。

 

(……はぁ……)


 フィーのいるこの世界を、俺はちゃんと守れたようだ。

 安堵しながら、俺はゆっくりと地上に戻る。


「エクス!!」


 大切な人の笑顔が俺を待っていた。


「見ててくれたか、フィー」


「うん! 見てたよ! ずっと見ていた! キミが世界を救うところを!

 感じていたよ! ボクを守ろうとしてくれた想いを!

 エクスは英雄だ! 間違いなく真の勇者だ!」


「違うよ。今の俺は英雄でも勇者でも、魔界最強でもない。

 俺はフィーの専属騎士ガーディアンなんだから」


「――エクス~~~~~~~っ!」


 抑え切れない想いと共に、フィーが俺の胸に飛び込んできた。

 そのままギュッと、抱きしめ合う。

 フィーの笑顔を守れた事――それは俺にとって、100万の人々に功績を称えられる事なんかよりもずっと、誉れ高い事だった。

ご意見、ご感想をお待ちしております!

次回は、ニアの抱えている秘密に迫ります。

本編関係ありませんが、

https://mypage.syosetu.com/mypageblog/view/userid/657774/blogkey/1959994/

よろしければ、バレンタインデーのショートストーリーをどうぞ。

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