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第20話 初めてのパンチと反省

20180213 更新しました。

「おい姉ちゃん、さっきは随分と舐めた事を言ってくれたじゃねえか?」


「そうだそうだ! 兄貴を誰だと思ってる!?」


「この辺りじゃ知らぬ者のいない大悪党、ティゴット様だぞ!」


 裏通りに入って直ぐ、不穏な男の声が聞こえた。

 俺とフィーは、物陰から少し様子を窺う。

 周囲に人の気配はない。

 だからこそ、こういう奴らが悪い事をするには丁度いい場所なのだろう。


「そ、それはお前たちが、あのご婦人に言い掛かりをつけていたからだ」


 その言葉に対して、言葉を返したのは女騎士ティルクだ。

 3人の男を前にして、恐怖したのか一歩後ずさる。


「言い掛かりだと? ありゃあの女が俺の肩にぶつかってきたんだ」


「お陰で兄貴の肩が折れちまったんだよ! ですよね、兄貴?」


「ああ、そりゃもういてーのなんのってな」


 兄貴と言われた厳ついおっさんが肩を押さえ、表情を歪める。

 だがその直ぐ後、「「「ひゃはははははは」」」と、男たちは大爆笑した。


「お前たち、さっきは腕の骨が折れたと口にしていただろ!」


「……う、うるせえ! 腕と肩どっちも折れたんだよ!」


 どうやら、骨が折れているというのは演技のようだ。


「さて、どうします兄貴? 言い掛かりを付けられた落とし前に、やっちゃいますか?」


「やっちゃうってお前、どっちの意味で言ってんだよ?」


「そりゃもう……」


 ひひひっ。と、笑いながら男たちはティルクに下卑た視線を向けた。


「っ……く、来るならこい! 私は騎士として、貴様らなんかに屈したりは――あひゃん! ふぐおっ!?」


 何もないところにも関わらず、ティルクは足を滑らせて地面に後頭部を激突させた。


「え? あ、あれ?」


「お、オレたち、まだ何もやってねぇよな?」


 まさかの状況に、流石の暴漢たちも戸惑っている。

 この女騎士、やはり間抜けだ。

 勇敢なのかもしれないが、あまりにも実力が伴って……いや、それ以前の問題だろう。


「ひひっ、だがよ兄貴。

 やっぱ、この女……いい身体してると思わねえか?」


「おお、そりゃオレも思ってたぜ。

 ま……こいつに邪魔されたせいで、あの女から慰謝料をぶんどれなかったからな」


「ひゃははっ、慰謝料って兄貴、怪我なんてしてねえじゃんかよ!」


 言質が取れた。

 どうやらこいつらは間違いなく嘘つきらしい。

 ならもう様子を窺う必要もないだろう。


「エクス――」


 フィーに声を掛けられるよりも少し早く、俺は行動に出ていた。

 さっと移動して、男たちの前に立った。


「――おいお前ら、こんな爽やかな日に気分が悪くなるような事をしてくれるな」


 折角の楽しい気分が台無しだ。

 フィーとの初めてのデートだったというのに……。


「なっ!? なんだテメェー!?」


「ど、どこから出てきやがった?!」


「きゅ、急に現れやがったぞこいつ!?」


 ただ早歩きしただけで、転移でも使ったような反応をされる。


「普通に歩いてただろ? 見えなかったのか?」


「嘘吐くんじゃねえ!」


「そうだそうだ!」


「この嘘吐きがっ!」


 う、嘘吐き呼ばわり!?

 歩いただけで嘘吐き呼ばわりされるとか、人生初だよ!


「お前たちこそ嘘つきだろ。

 こっちはティルクとのやり取りを、一部始終確認させてもらってるんだ。

 悪いが捕えさせてもらうぞ」


「捕える? おいおいこっちは男3人だぞ?」


「そっちはお前と、そこの上品なお嬢様だけみたいだな」


「兄貴、どうせならこの女もやっちまいましょうよ」


 暴漢魔たちがフィーに汚らしい目を向けた。

 イラッ――凄く、苛立たしい。


「言っておくけどさ。

 仮にキミたちが100人、いや、1000人いたってボクのエクスには勝てないと思うよ?」


 フィーの言葉を聞いたチンピラたちが、きょとん。とした。

 そして、


「ぶはははははっ!」


「流石は世間知らずそうなお嬢様だ」


 男たちが笑う。

 だが、俺も少し苦笑してしまう。


「フィー、それは俺を低く見すぎてるぞ。

 仮にこいつらが無限にわいて出てきたとしても、俺が負けることはない」


「ふふっ、そっか。ごめんね、エクス。次からは気を付けるよ」


 俺とフィーのやり取りを見て、男たちは笑い声を止めた。

 自分たちが馬鹿にされたと感じたのか、目を血走らせていた。


「は、はははっ、だったら試してやろうじゃねえか!」


「虚仮にしやがってよ!

 テメェをぶっ飛ばしたら、そこのお嬢様をめちゃめちゃにしてやらぁ!」


 は? めちゃめちゃ?

 フィーを?

 抑えきれない苛立ちが溢れてきた。

 あ……やばっ!? そう思った時には――俺の身体は動いていた。


「ぇ……」


 フィーを馬鹿にした男の口から、掠れた声が上がった。


「危ねぇ……なんとか当てずに済んだ……」


 寸でのところで止めはしたが、俺は人間界に来て初めて拳を振ってしまった。


「な、なんだよ、ビビらせやがって、寸止めか――」


 ――ドバアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!!


 その音は男たちの背後から爆音が轟く。

 俺が拳を振った結果が、一瞬遅れて現れていた。


「ぇ……?」


 全身を震わせながら、男たちがガチガチと首を揺らして背後を向く。

 拳を振った風圧で、男たちの背後に有った建造物がぶっ飛び、弾け、跡形もなく消滅してしまった。

 先に気配を察知して、周囲に人がないのは確認していたが……まさかこんな切っ掛けで力を暴走させてしまうとは……未熟。


「え、え……?」


 男たちの顔がゆっくりと俺に向く。

 そして恐怖に顔が歪んだ。

 今の現象を起こしたのが俺だと、この男たちも気付いたのだろう。

 先程までとは比べ物にならないほど全身を激しく震わせた。


「……反省したか?」


「「「ははははははははははい!!」」」


 まるで壊れた人形のように、男たちは何度もガクガクと首を振った。

 しかし……参った……。

 まさか建物を壊してしまうとは……。


「……フィー、すまない。建物を壊してしまった」


「……とりえあず、そこで倒れてる女騎士君を宿に運ぶついでに、衛兵さんを呼んでこよう。

 この暴漢魔たちを引き渡さないとね!

 壊しちゃった建物に関しては、持ち主を確認して謝るしかないかなぁ……。

 ただ、この辺りの建物は住民がいないはずだから、怪我人はいないと思うよ。

 あと……もしかしたらだけど、怒られるんじゃなくて感謝してもらえるかも」


 感謝される?

 なぜ物を壊して感謝されるのだろうか?

 ルティスに仕込まれた土下座で誤ろうと思っていたのだが……。

 だが、そんな俺の疑問も衛兵を呼んだことで直ぐに解けた。


「いやぁ~まさかティゴット一味を捕まえてくださるなんて!

 こいつらには町の人間にだけじゃなく、この辺りの人々は困らせられていたんですよ。

 指名手配もされているくらいだったので、本当に感謝いたします!」


 衛兵に大感謝された。

 さらに、


「後、この建造物は住む者もいなく、老朽化が進み取り壊し予定だったのです。

 ただ、この町ではそれに支出できる税金もなかったので、取り壊してくださってむしろ大助かりです! いやぁ、私も建物を壊すほどの魔法を見たかったですなぁ!」


 建物を壊したことまで感謝されてしまった。

 あ~良かった。

 どう許してもらおうかと思ってたんだが……。

 しかし、今日の事は反省だな。

 いくらフィーの事を馬鹿にされたからと言って、力を暴発されるのはマズい。


「問題ないならよかった。それじゃあ後は、この暴漢魔たちの事は頼むよ」


「はい、勿論です! しかし、流石はベルセリア学園の専属騎士ガーディアンですね。貴族生徒プリンセスには、大変なお手を煩わせてしまい……うん? ――!? あ、あなた様は!?」


 衛兵が目をひんく。


「だ、第5皇女……ふぃ、フィリス・フィア・フィナーリア様!?

 こ、この町ににいらっしゃっていたのですか!?」


 ああ、なるほど。

 皇女であるフィーが、この町にいる事を驚いてるのか。


「そんなに驚かないでよ。

 ボクだって町に遊びに来ることはあるんだから」


「も、申し訳ございません!

 しかしまさか、フィリス様がいらして下さっているとは!

 一言お声掛けして下されば、町の者たち総出でお出迎えさせていただいたのですが……」


 総出って……皇女の影響力凄いな。

 それともフィーが人気なのだろうか?

 

「いいよ。そんな大袈裟にしなくても」


「何をおっしゃいますか! フィリス様の母君はこの町の誉れ!

 もう十数年前になるでしょうが、私は忘れたこともありません!

 皇帝陛下と共に町を歩く皇妃こうひ様の美しいお姿を――」


 興奮した様子で衛兵は語り出す。

 もしかしてだが、フィリスの母親はこの町の……。 


「そういう話をしている暇があるなら、キミは自分の仕事を全うしなよ。

 ほら、彼らを連れて行って!」


 フィーは無理に話を戻した。

 あまり触れたい話題ではないのかもしれない。


「こ、これは失礼いたしました。

 年甲斐もなく、興奮してしまったようで……それではフィリス様、騎士様も失礼いたします。後日、ティゴット一味を捕えた報酬が出るかと思いますので、そちらはフィリス様名義で学園に送付させていただけばよろしいでしょうか?」


 おお! 報酬が出るのか。


「ボクは何もしてないよ。

 その報酬は、ティゴット一味を捕まえたエクスと、宿で眠っている騎士見習いがいるから、その子に渡してあげて」


「わかりました。でも報酬は分割してお二人宛にお渡ししますので!」


「フィー、いいのか?」


「うん! 何もしていないボクが貰うのはおかしいし、ボクの立場でお金を受け取ったらお父様にも迷惑が掛かるかもしれないからね……」


「そうか……」


 なら、その報酬でフィーにあの髪留めを……と思ったのだが。


「あ~衛兵さん。俺もその報酬はいいや」


「え!? ど、どうしてです?」


「建物を壊してしまったからな……そのお詫びというわけじゃないが、町の為に使ってくれ」


「で、ですが……ご説明した通り、取り壊す予定の建物なのですが……」


「う~ん……だとしても、許可も取らずに壊してしまったからな。

 順序が違うだろ。

 それと、他にも力になれることがあるなら手伝うぞ」


「ほ、本当ですか!? 町の財政的には色々と助かるのですが……」


 衛兵は遠慮がちにフィーを見た。

 第5皇女の専属騎士ガーディアンの力を借りる事に、躊躇とまどいを覚えているのだろう。


「エクスがいいなら、ボクは構わないよ」


「ああ、お詫びだからな」


 それと自分への反省だ。


「あ、ありがとうございます!

 では、直ぐに町長に連絡を取りますので、是非!」


 衛兵は暴漢たちを連れて、シュババババと走って行った。


「……ごめんな、フィー」


「え? 何が?」


「迷惑を掛けてしまった。

 それに折角のデートだったのに……余計な仕事を増やしてしまって……」


「気にしないで。元々、あの女騎士君を放っておけないって言ったのはボクなんだから……」


 フィーは怒ってはいないようだ。

 だが、それでも俺自身はちょっと申し訳なく思う。

 フィーの専属騎士ガーディアンとして、彼女に恥をかかせないように、今後は精進していこう。

 真面目にそんなことを考えていると、


「それにね、エクス」


 フィーは優しい笑顔を見せた。

 それは完全に不意打ちで、俺は目を奪われる。


「キミはボクの為に怒ってくれたんだろ?」


「それは……」


 言葉が詰まる俺をフィーは抱きしめた。

 そして、


「ありがとう、ボクの専属騎士ガーディアン

 怒ったキミを初めて見たけど、ああいう野性的な感じもボクは好きだよ」


 その言葉は『どんな俺でも受け入れてくれる』と、フィーが言ってくれている気がした。


「衛兵さんが戻ってくるまで、少しだけこの辺りを見ていようか。

 それだって立派なデートさ」


 俺から離れて、そして俺の手を取って、フィーは無邪気に笑った。

 なんだろう。目頭が熱くなる。

 悲しくもないのに、感情が昂って、涙が出そうだった。

 もっと、もっと、フィーのことを知りたいと思ってしまう。


「エクス、行こ」


「ああ」


 俺たちは少しのデートを楽しみ。

 それから衛兵さんが町長を連れてきて、町の不要物の取り壊しを手伝った。


「これで新しい店を出せるな!」


「こんだけ広々としてるなら、別の町にいる露天商を呼ぶのもいいんじゃないか?」


「みんな聞いた? フィリス様の専属騎士ガーディアンが、ティゴット一味も捕まえてくれたそうよ!」


 多くの人々の感謝の声と共に、町はさらに活気づいていく。

 そして、作業を終えた頃には夕刻になっていたのだった。

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