第19話 デートで深まる二人の仲――そして事件発生!?
20180212 更新3回目です。
放課後になって直ぐ、俺たちは学園校舎を出た。
「エクス、明日の約束覚えてるよね?」
帰り道を二人で歩いていると、フィーが俺の一歩前に出て、窺うように首を傾げる。
「明日?」
何か約束していたか?
記憶を探る。
思い当たるとすれば……。
「もしかして、休日に町に出ようって話のことか?」
「そう! 明日は休日だからね。
エクスとボクの初デート!」
自分の胸にポンと手を当て、フィー笑顔の花を咲かせた。
嬉しくて仕方ない! という、彼女の気持ちが伝わってくる。
だが、こんな嬉しそうなフィーに申し訳ないが、俺は人生初デートだ。
正直な話、ちょっと緊張してしまう。
折角なので楽しい1日にしたいが、デートって何をすればいいんだ?
(……失敗しないか、激しく不安だ!)
もしフィーに初デートと言ったら……がっかりされてしまうだろか?
だが、ここは正直に伝えておいた方がいいかもな。
「なぁ……フィー。その……」
「うん? どうしたの? もしかして都合が悪かったとか?」
「いや、違うんだ。
その……実は俺はその……今まで女の子とデートしたことがなくて……」
なんだ、なんで俺は、こんな告白してるんだ!?
恥ずかし過ぎて、思わず顔を伏せてしまう。
きっとフィーをがっかりさせたに違いない。
「へぇ~、そうなんだぁ~」
だが、フィーの声が弾んでいた。
これはもしかして、からかわれるパターン!?
恐る恐る、俺は顔を上げると……。
「じゃあ、エクスの初デートの相手はボクってことだ」
あれ? からかわれない?
「嬉しいよ。ボク、キミの初めてをもらっちゃうんだね」
「~~~~~っ!?」
ドキッ――自分でもわかるくらい、胸の鼓動が強くなり、顔が熱くなった。
おかしい、なんだ!? なんだこれ!?
「それとね、エクス。ボクも明日が初めてのデートなんだ」
「あ……そ、そうなのか?」
「そ。だから――ボクの初めても、エクスにもらわれちゃうって事だよ」
「~~~~~っ!!?」
ドキン! さっきよりも強く、胸の中が弾ける。
フィーの魅惑的な表情に、俺は魅了されてしまう。
その甘い声に、心を掴まれていく。
「ふふっ、明日がとっても楽しみになっちゃった」
そして最後には、いたずらっぽく笑う。
大人なようで、子供らしい。
フィーはとてもアンバランスだ。
女の子って……こういう者なのかな?
魔界の女の子たちは暴力的で、フィーみたいな子はほとんどいなかったから、どうにも免疫がない。
「さ、帰って明日の準備をしようか!
今日は早めに寝て、早起きしていくからね!」
明日が待ちきれない。と、フィーが俺の手を引いた。
折角の初めてのデートだからな。
フィーを笑顔に出来るように、なんとか頑張ってみよう。
※
そして次の日。
初めての休日にして、初デートの朝を迎えた。
今日を楽しみにしてなのか、フィーは昨夜は直ぐに眠ってしまった。
そのお陰もあり俺もこの間に比べて、しっかりと休むことが出来た。
「ねぇ、エクス。どれがいいと思う? エクスの好みはどれ?」
「どれも可愛らしいと思います」
そして早朝、なぜかフィーの服選びを手伝わされている。
ただ服を選べばいいだけなら、気も楽なのだが……。
「本当に? だったらちゃんとボクを見て答えてよ」
俺の座っているベッドに、フィーが身体を寄せた。
すると、ふわっとベッドが揺れる。
ベッドの上で、フィーは両手と両膝を突いた状態で、俺の顔を覗き込んできた。
だが、俺は思わず目を逸らす。
「い、いや……見てって、だって……」
見れるわけない。
ちらっと目を向けるだけで、フィーの白い肌が目に入る。
今、フィーは服を着ていないのだ。
し、下着は……多分、付けていると思うが……。
「もしかして恥ずかしいの? お風呂で、ボクのを全部を見たくせに」
「あ、あれは不可抗力だ!」
「ふふっ、仕方ないな。ちょっと待ってて……」
フィーがベッドから離れた。
そして、ス~っと肌に布が通る音が聞こえる。
「ほらっ! これなら平気でしょ!?」
「やっと服を着てくれたか……って――なんだそれ?」
「昨日、約束したでしょ? 特別な訓練着を見せてあげるって。
それがこれだよ」
訓練室に向かう前に、確かにそんな約束をした。
だが、なんだこの服は……本当に訓練着なのか!?
上は普通の白いシャツだ。
昨日の訓練着と変わらない。
しかし、そのまま目を下げていくと、その露出の多さに驚く。
膝から下が出ているくらいなら驚きはしない。
だが、この服は太腿の上の方まで露出している。
紺色で下着のような形で……これをデザインした奴は正気か!?
「どう?」
「ど、どうって……」
「ふふっ、どうしたの?」
「そ、その……」
俺が答えに窮していると。
「……エクスのエッチ」
「なんでそうなる!?」
そして楽しそうにフィーは笑って、部屋に備え付けられている鏡の前に立った。
「さて、じゃあ本格的に服選びだ!
エクスが一番、可愛いと思ってくれるように、ボクをコーディネイトしてよね!」
正直、本当にどれも似合っていると思うのだが……フィーとあれこれ話しながら、一緒に彼女の服を選んだのだった。
※
そして衝撃の事実。
「フィリス様、外出される際は特別な事情がない限りは学園の制服を……という校則がございます」
ニアさん!?
それ、もっと早く言って~~~!
部屋にやってきたニアから衝撃の発言だった。
「あ、そうだったんだ。残念だな」
にしし。と子供みたいに笑うフィー。
「まさかフィー、知ってたのか?」
「さぁ? どうかな?
でも、エクスの好みが色々わかって、とっても充実した時間だったよ」
俺は気苦労の多い時間だったよ。
まぁ……俺も楽しかったけどさ。
「準備も終わったようですので向かわれますか?」
「そうだね。行ってくるよ。ニアも後で……」
「はい……。勿論でございます」
なぜか二アが、少しだけ複雑な表情を浮かべた。
だがそれも一瞬で、直ぐに一礼して部屋を出ていく。
「……? 今日はニアも来るのか?」
「後で、少しだけ合流してもらう事になってる。
それまでは、二人切りでデートを楽しもう」
こんな感じの朝を終えて、俺とフィーは町に向かった。
※
「本当にいいのか?」
「うん! こうして景色を見ながら、エクスと二人で町まで歩きたいからね」
町まで重力制御で飛んでいくか? と、尋ねたが、フィーは歩いて町に行くことを選んだ。だが俺自身、それもなんだかデートっぽくていいと思う。
「あ~今日は陽射しも温かくて、気持ちいいね」
う~ん! と、フィーが伸びをする。
そんな彼女を見ていたら、俺もならって伸びをしていた。
確かに今日は気持ちいい。
こんな日はこうして散歩をするのも悪くない。
いや、散歩をするべき日だった。
「この世界は、本当に綺麗だよな」
魔界出身の俺は、この美しい大地を見るだけで心が洗われそうだ。
魔界だったら一歩進めば毒沼にハマってる。
「道に毒沼がないって、本当に歩きやすいんだな!」
「ふふっ、普通は毒沼なんてないよ。
だけど、この辺りが綺麗っていうのは本当にその通りだよね。
ボクもここは、とても好きな場所なんだ……。
自然に溢れていて、緑もいっぱいで、田畑がこ~んなに広がってる!」
前を歩くフィーが振り返って、両手を広げた。
「ここは……こんなにものどかな場所なんだよね。
少し離れた場所に行くだけで、見える景色はぜんぜん違うものになる。
毎日いろいろな場所で、いろいろな事が起こってる。
でもここは、毎日がのどかで、幸せな日常を過ごせるんだろうね」
「フィー?」
まるで何かを懐かしむような、フィーはそんな顔をしていた気がする。
でも、直ぐにその顔は消えて。
「……ごめん。あまりにもいい場所だったから、ちょっと感動しちゃった。
さぁ、町まではもう少し歩くからね!」
そう言うと、フィーは俺の隣に立って、手を繋ぎ一緒に歩く。
「今はボクとエクスは、同じ場所にいて、同じ景色を見てるんだよね」
「ああ、同じ時間を共有してるってことだな」
繋いだこの手が、俺たちが一緒にいる証だ。
「それってさ、とても凄いことだよね!
ついこの間までは、この世界にエクスがいる事をボクは知らなかった。
でも、キミと出会って、今同じ時間を共有してるんだもん!
ボクの人生の中で、それはきっと二度とない幸運で、奇跡のような出来事だ」
俺もフィーの事を知らなかった。
そもそも、俺はこの世界にすらいなかったんだ。
ルティスに人間界に送還されなければ――いや、勇者が俺をこの世界に送還しろとルティスに伝えていなければ……こんな奇跡はあり得なかった。
(……そういう意味では、勇者には感謝かもな)
俺をこっちに送った意図も、顔をすらも知らない、そもそも本当に血が繋がっているかも怪しい……でも、この事に関しては本当に感謝だ。
「エクス、ボクはキミに会えて、今ここでキミと一緒にいられて幸せだよ」
「俺もフィーと出会えて、こうして一緒にいられて幸せだ」
短い時間だったけど、俺たちは確かに、互いに同じ想いを感じていた。
※
町に到着すると、所狭しと並ぶ露天商と交渉をする買い物客や、談笑にひたる町人たちの姿が見えた。
雑踏の音にまぎれながらも、人々の活気溢れる声は消えることはない。
「賑やかないい町でしょ?」
「ああ、みんな楽しそうだ」
「う~ん! 楽しそうなみんなを見てたら、もう我慢もできないよ!
エクス、行こう! ボクたちもい~っぱい楽しもう!」
楽しそうに町を歩く人々の中に、俺たちも交じっていく。
露天商を見て歩きながら、俺たちは他愛のない話を楽しむ。
ただそれだけの時間なのに、今まで感じたことのないくらい、胸が温かくなっていく。
初めてのデートの不安なんて、もうすっかりなくなっていた。
「あ、これ可愛いね」
露店で売られている装飾品に、フィーが反応を示した。
それは女性用の白い髪留めだ。
「お嬢様、こちらのカチューシャが気に入られましたか?」
「うん。でも……ボクには似合わないかな?」
「そんなことないだろ。きっと良く似合うと思うぞ」
「お嬢様さえよろしければ、是非付けてみてください」
店員がフィーに髪留めを渡す。
「う~ん……じゃあ折角だから、少しだけ」
フィーはそれを手に取って、その髪留めを付けてみた。
「エクス、どう……かな?」
「うん、やっぱり似合うな。フィーの綺麗な髪がより引き立つ感じがする」
「そ、そうかな?」
頬を染めるフィー。
素直に可愛いと思う。
店員も同じことを思ったのか、微笑ましそうな顔を俺たちに向けている。
「彼氏さん、良ければお嬢様に、お一ついかがですか?
お安くしておきますよ? 5リラくらいでどうでしょう?」
「……あ~……出来れば買ってやりたいのだが、すまん金がない」
「え……!?」
驚愕する店員。
こんなに安いのに買えないの!? と、その表情が訴えている。
「あはは……ごめんねお姉さん。
もし機会があったら、買わせてもらうよ。
だから今日はこれで……」
「そ、そうですか……是非、またいらっしゃってください」
女性が申し訳なさそうに頭を下げた。
う~ん……文無しなのが恨めしい。
フィーの為に買ってやりたいが……。
何かこの町で金を稼ぐ手段はないだろうか?
「――あれ? エクス――あの子って?」
「うん?」
意外なものを見たのか、フィーの声音が少し高くなった。
彼女の視線の先を追う。
少し離れた位置から、長身の女性が男たちと共に路地裏に入っていくが見えた。
「あれ? もしかして、選定の洞窟で会った女騎士?」
名前は確かティルクだったよな?
「あんなところで何をしてるんだろう?
表通りならともかく、裏通りの方にお店なんてないはずだけど……」
「……俺の予想だと、なんだか面倒な事にあの子が巻き込まれてるんじゃないかって気がするんだが?」
「ボクも全く同じことを思ってたよ……」
俺とフィーの視線が交差する。
どうする? と互いに目で相談……。
そして、
「……ああ、もう。
折角のデート中だっていうのに……でも、ボクの大好きな町で悲しい思い出を作ってほしくないからね。
おの女騎士君の様子を見に行ってみようか。
エクス、悪いけどもし困っていたら助けてほしい」
フィーのお願いに俺は頷いた。
その前に、俺はお姉さんにコソッと耳打ちをした。
「あのさ……お姉さん。
その髪留め、取り置きしておいてもらっていいか?」
「それは勿論、構いませんよ。
折角の一点物ですから、どうせならお似合いのお嬢様にお渡ししたいので」
よし。交渉成立だ。
最悪は給料日後になるかもだが、必ずフィーにプレゼントしよう。
「……よし! フィー、行こう!」
「うん!」
そして俺たちは、女騎士ティルクの様子を窺う為、裏通りに向かった。
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