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第18話 強くなる想い

20180212 更新2回目です。

          ※




「お待たせ、エクス」


 お嬢様方が着替えを終えて部屋から出てきた。


「ボクの訓練着姿はどうだい?」


 その姿を見せるように、くるり。とその場で一回転。

 訓練着は動きやすさを重視してか上は白いシャツ、下はハーフパンツというラフな格好だった。


「似合ってるな。フィーはきっと、何を着ても似合う」


「ふふっ、後でエクスにだけ、特別な訓練着も見せてあげるね」


「特別な訓練着……?」


「うん! 楽しみにしててね」


 だが、小悪魔的微笑を浮かべるフィーを見て、俺はちょっとだけ嫌な予感を覚えた。


「じゃあ、行こうか」


 俺たちは訓練室に向かった。

 訓練室の中は、クラスの生徒全員が動き回っても問題ないくらい広い。

 室内で身体を動かすと聞いた時は違和感を覚えたが、これなら問題なさそうだ。


(……魔界の学園には、訓練室なんて上等なものはなかったからな)


 あっちでは、戦闘訓練は常に外。

 魔物たちが襲い掛かってくることもあり、まともな授業にならない事もあった。


 まぁ、それがまた実戦向きの戦闘訓練にもなるので、結果的には問題なかったわけだが。


 はっ!? そうか……なるほど。


 室内で訓練をする理由は、そういった妨害を回避する為か。人間って、賢い!


「授業を始めます!

 貴族生徒プリンセスはこちらへ」


専属騎士ガーディアンはこっちだ」


 早速、授業が始まった。

 貴族生徒プリンセス専属騎士ガーディアンが、それぞれの担当教官の下へと向かう。


「エクス、がんばってね! ボク、キミの活躍をちゃ~んと見てるからね」


「わかった。活躍できるよう善処する。

 だが、フィーも授業をしっかり受けるんだぞ」


「うん! がんばる! だからエクスも、ボクのことちゃ~んと見ててね」


「勿論だ」


 俺の言葉に嬉しそうに微笑むと、フィーはタタタと教官の方に走って行った。

 さて、俺も教官の下へ向かうとしよう。


「貴様に一つ忠告してやる。

 戦闘訓練を担当してくださっているのはマクシス教官は、キャメロットの騎士団に入っていたこともある実力者だ。

 あまりふざけていて逆鱗に触れれば制裁を受けることになるぞ」


「その騎士団というのは、円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)よりも強いのか?」


「はははっ! 貴様は馬鹿か?」


「馬鹿とは失礼な」


「あのな、円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)は王都キャメロットにとどまらず、このユグドラシル全土の中でも最強と言われる方々だぞ」


「なんだ。

 円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)よりも弱いのか」


「当たり前だ!

 円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)と比べたら、マクシス教官など小物もいいとこ――はっ!?」


 そこまで口にして、ガウルは口を閉じた。

 どうやらやっと、マクシス教官が鋭い視線が向けられている事に気付いたのだろう。


「……ガウル、誰が小物だと?」


「ひっ!?」


 マクシス教官は口をニヤっと開いた。

 笑顔を浮かべているようだが、その瞳からは「テメェ、ぶっ殺されてぇのか!」という殺気を放っている。


「申し訳ありません! 失言でした!

 おいっ、貴様のせいで怒られただろ! まさか僕を罠にハメる為にこの会話を!?」


「いや、お前が勝手に騒いだんだろ」


 ぐぬぬ! と、俺を睨むガウルだが、再びマクシス教官に鋭い視線を向けられると牙を収めた。


「はぁ……全く。

 授業を始める。

 いつも通り、2人1組になれ!」


 早速、担当教官から指示が飛んだ。

 ガウル辺りと組もうと思ったが、あいつは既に相手がいるようだ。

 どうしたものか? と考えていると、


「む……そうか。

 このクラスは1人、専属騎士ガーディアンが増えたんだったな」


 直ぐにその事に気付き、マクシス教官が俺の下へ駆け寄った。


「キミはエクス君だね。学園長から聞いているよ。

 では、今回はワタシが君の対戦相手になろう」


「マクシス教官、戦闘訓練は普通に戦えばいいのか?」


「ああ、そうだ。

 どこからでも掛かってくるといい」


 そう言って、マクシス教官は熟練の戦士の顔を見せた。


 これまで数々の修羅場を潜り抜けているのかもしれない。


 でもなぁ……見た目は強そうなんだけど、負ける気は全くしないんだよなぁ。


 大丈夫かな?

 まずは軽く様子見しておいた方がいいか?


「わかった。じゃあ、いくぞ。えいや!」


「――むっ!? ぐおっ!?」


 訓練開始直後、俺はマクシス教官の目前に移動し、鎧に向かって弱めのデコピンを打ち込んだ。


 が、教官は俺の行動が見えていたようだ。


 一瞬で防御姿勢を取り、驚異的な踏ん張りで、身体が吹き飛ぶのに耐えた。


「おお!? 流石は教官だ!」


 てっきり一撃でぶっ飛んで終わりだと思ったのに……騎士団は伊達じゃないんだな!


「んなっ!? い、今のは、一体……!?」


 教官はボゴッ! と、凹んだ自分の鎧を見て、激しい戸惑いを見せる。

 はっきりと俺の攻撃が見えたわけではないのかもしれない。

 いやぁ~でも、それでも嬉しいなぁ!

 ようやく少しは訓練になりそうな相手が見つかったぞ!


「少し手加減が過ぎたな。

 教官、次はもう少し凄い攻撃をするぞ」


「て、手加減!? 今ので、手加減だと!?

 ま、待て! どうやらワタシは今日、調子が悪いらしい。

 実は騎士団時代に膝に矢を受けてしまってな……」


「歴戦の戦士だからこそ負った痛手というわけか……。

 わかった、ゆっくり休んでくれ」


 バタバタバタバタと、教官は超ダッシュで女性教官の方に向かうと、何かを告げてから再びバタバタバタと、その場から去って行った。


 膝に矢を受けていたのではないのか?

 いや、生徒たちに心配を掛けぬよう配慮したのかもしれない。


「戦士の鏡のような方だな」


 マクシス教官か。

 ルティスを始め上位魔族と比べると力は弱いかもしれないが、立派な方だ。

 しかし、訓練相手の教官がいなくなったことで暇が出来てしまった。


 だからというわけではないが、俺はフィーに目を向ける。すると、ぴったりのタイミングで目が合った。その偶然に互いに微笑を浮かべる。


 貴族生徒は護身術の授業……と聞いていたが、俺たちと違い生徒同士で戦うという事はないらしい。

 お嬢様同士の訓練で互いに怪我をさせてしまっては、学園側の問題になるから……と危惧してのことかもしれない。


専属騎士ガーディアンのみんな、ちょっといいかしら?」


 貴族生徒プリンセスたちに、護身術を教えていた教官が俺たちを呼んだ。


「マクシス教官が腹痛で授業を抜けられるということなので、今回は授業内容を貴族生徒プリンセス専属騎士ガーディアンの合同授業に変更するわ」


 その提案は、生徒たちを戸惑わせるものだった。


「教官、合同授業の具体的な内容?」


 質問したのはガウルだった。


専属騎士ガーディアンの仕事は?」


「命を懸けて貴族生徒プリンセスを守る事です」


「そうね。じゃあ――やってもらいましょう。

 今回の行う合同授業は――貴族生徒の守護(プリンセスガード)よ」


 女性教官が貴族生徒の守護(プリンセスガード)のルールを説明した。


 貴族生徒プリンセス専属騎士ガーディアンは共に、同じ番号の書かれたゼッケンを張る。


 二つのゼッケンを専属騎士ガーディアンは守る。


 もし貴族生徒プリンセスがゼッケンを奪われたなら、その時点で敗北。


 専属騎士ガーディアンがゼッケンを奪われた場合は行動不能となるが、貴族生徒プリンセスが時間内まで生存した場合は勝利。


 こんな感じの、とてもシンプルなルールだった。


「折角だし、結合指輪コネクトリングも使用してみて。

 勿論、付けている生徒だけで構わないわ」


 教官の言葉に、ざわめきが起こった。

 どうやら、多くの生徒が結合指輪コネクトリングを付けていないらしい。

 俺とフィーも含めて3ペアほどだ。


「ガウル、お前も結合指輪コネクトリングをはめてないんだな」


「当たり前だ!

 あのセレスティア様が、そう簡単にお心を晒してくれるわけがないだろ!

 もし渡されたとしたら光栄ではあるが……お、恐れ多くてボクは……」


「大丈夫ですよ~ガウル。

 一生渡すことはありませんから」


「ひいいっ!?」


 セレスティアの圧が凄くて、ガウルは尻餅を突いていた。


「フィー、心を晒すっていうのはどういうことだ?」


「ボクたちが、結合指輪コネクトリングを渡すのは、心も身体も全てをさらけ出してもいい。そう思えた専属騎士ガーディアンだけなんだよ」


「はい?」


 な、なんですと?

 詳しい話を聞こうと思ったが、


「さぁ、それでは授業を始めますよ!

 全員、ゼッケンを胸元に付けて。

 はい……それじゃあ――貴族生徒の守護(プリンセスガード)――開始スタート!」


 教官が貴族生徒の守護(プリンセスガード)、開始の合図を出した。


 貴族生徒プリンセスと、専属騎士ガーディアンたちが一斉に動き出す。


 が、やはり貴族生徒の動きが問題だ。


 仲の深まっている専属騎士ガーディアンは、貴族生徒プリンセスの手を引いたり、お姫様抱っこで移動しているのに対して、


「せ、セレスティアお嬢様、僕から離れませんように!」


「わかっています。

 あ、直ぐにやられたら今日のお昼は抜きにしますからね」


「全力でやらせていただきます!」


 セレスティアとガウルのように、触れ合うことすら出来ていないペアもいる。

 この競技は専属騎士ガーディアンの実力は勿論だが、貴族生徒プリンセスとのコミュニケーションも重要に思えた。


「……ねぇ、エクス。ボクもして欲しいなぁ?」


「な、何を?」


 なんでうちのお姫様は、そんな甘美に囁くのだろうか?


「あれ、だよ」


「あ、あれ?」


「うん……あれ、したいなぁ」


 言われて俺はフィーの視線を追った。

 すると、


「ああ、お姫様抱っこか」

「うん!」


 最初からそう言ってください!


「よっ!」

「わっ! エクスは力持ちだね!」


 俺はフィーを抱えた。

 すると俺の首に両手を回して、フィーがギュッと身を寄せる。

 ふにゅ――と胸には柔らかい感触。


「わ、わざと押し付けてませんか?」

「違うよ、もっとくっ付かないとでしょ?」

「試合中! 今、試合中だから!」


 言っている傍から、攻撃に来た専属騎士ガーディアンに囲まれた。

 相手は3人。


「ガウルをやったお前と、1度戦ってみたかったんだ!」


「3体1で悪いが、ハンデだと思ってくれよ」


「フィリス様の専属騎士(ガーディアン)になるなんて、ずるいぞお前!」


 などと言っていたが、


「あ、悪い。

 もうゼッケン取ったぞ」


「「「え!?」」」


 彼らの胸元には、既にゼッケンはなかった。


「さっすがはボクのエクス!」


 フィーが俺の活躍を喜んでくれる。

 こういう素直な笑みを見せられると、頑張りたいって思うな。


「後は貴族生徒プリンセスの方だな」


 俺が貴族生徒プリンセスたちのゼッケンを奪おうとすると、


「エクス、ちょっと待って!」


「な、なんだ?」


 フィーから、突然の静止をくらった。


「彼女たちのゼッケンを取るの?」


「そ、そうだが……?」


「じゃあ、彼女たちの胸を触るってことだよね?」


「……ま、まあ、胸元にある以上は多少は触れることになるだろうな」


 正確には胸に触るではなく、ゼッケンに触るだが。


「ダメ! そういうのはボクのだけにして!」


「い、いや、待ってほしい、それだとゼッケンが取れないから勝ち目が……」


「よし! 触らずに取る手段を考えよう」


「無茶を言うな!?」


 とりあえず、貴族生徒プリンセスには手を出せなくなってしまったので、俺は専属騎士ガーディアンの無力化に動いた。

 行動開始して直ぐ、ほとんどのゼッケンを奪い去った。

 だが、途中で気付いてしまった。


(……しまった!? 他の専属騎士ガーディアンに、貴族生徒プリンセスたちのゼッケンを取らせれば良かったのでは!?)


 だが、既に俺を残す専属騎士ガーディアンは全滅。

 結果として多くの貴族生徒プリンセスはゼッケンを奪われることなく残ってしまい……。


「はい。終了ね。随分と勝者が多いみたいだけど……まぁ、たまにはこういう事もあるか」


 先生の半ば呆れた言葉と共に、合同授業は終わりを迎えた。




           ※




 訓練室を出ていく生徒たち。

 その中で俺とフィーだけがその場に残っている。


「フィー、行かないのか?」


「……あのねエクス。

 さっきの、結合指輪コネクトリングの事なんだけど……」


 言い辛そうに言葉を詰まらせるフィー。

 俺は少し前に彼女が言っていた言葉を思い出した。


『ボクたちが、結合指輪コネクトリングを渡すのは、心も身体も全てをさらけ出してもいい。そう思えた専属騎士ガーディアンだけなんだよ』


 そうだ。

 俺もその事について、詳しく話を聞きたいと思っていた。


結合指輪コネクトリングは、誰でもハメられるようなものじゃなかったんだな」


「うん……。

 でも、エクスが変にプレッシャーに感じることはないからね。

 ボクは、エクスにだったらって思ったから、結合指輪コネクトリングを渡しただけなんだから」


 フィーの碧い瞳が真っ直ぐに俺を見つめた。

 それだけで、彼女の真剣な想いは十分に伝わって来た。


「……それとも、やっぱりイヤかな?」


 俺を見つめるフィーが、途端に不安そうな顔をみせた。

 胸が締め付けられる感じがする。

 こんな顔をさせたくない。

 俺は、フィーには笑っていて欲しいと思うから。


「嫌なわけない。

 少し驚いたけど、フィーが俺のことをそこまで信頼してくれたことは嬉しい。

 だから、そんな不安そうな顔しないでくれ」


「……本当にイヤじゃない?」


「本当だ。俺はフィーに嘘は吐かない」


「うん!」


 フィーが俺に飛びついて、そのままギュっと抱きしめられる。

 胸の中で強くなっていく想い。

 この想いが何なのかはわからないけれど、俺は本当にフィーの笑顔をずっと守りたいと思った。




           ※




 それから昼休みと午後の授業を終えて――2日目の授業は全て終了した。

ご意見、ご感想お待ちしております!

次回は、休日回です。

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