第17話 ガウルへの相談
20180212 更新1回目です。
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3時限目の授業中。
現在、睡眠不足なこともあり猛烈に眠い。
フィーが悪戯をしてくるので、眠らずに済むのはありがたいのだが……。
「……はむっ!」
「うおっ!?」
「エクスくん、またですか?
急に奇声を上げるのは禁止だと言いましたよね!」
「す、すみません……」
ケイナ先生に謝った後、フィーに目を向けた。
「ふふっ、エクスって、耳が弱いんだ?」
「ななななな……!」
フィーは俺の耳を噛んだのだ。
甘噛みだったが、それが余計に変な余韻を残している。
「エクスさえよければ、ボクにもしてくれていいよ」
出来るわけがない。
意志表明の為、俺がそっぽ向くと、「残念……」という声音が俺の耳に届いた。
「フィリス様、ここの問題は解けますか?」
「はい」
こんな風に授業中はふざけているのに、フィーは勉強ができた。
どんな難しい問題でも正解してしまう。
授業面ではフィーは、間違いなく優等生だ。
「は~い、それでは3時限目の授業はおしまいで~す。
次の授業は貴族生徒は護身術で、専属騎士は戦闘訓練になります!
遅れないように訓練室にゴーですよ」
長い座学の授業が終わり、やっと身体を動かせる。
専属騎士は貴族生徒と共に授業を受けるせいか、座学の授業が多いのが辛いところだ。
「フィー、訓練室はどこにあるんだ?」
「ちゃんと、案内するよ。
でもその前に……貴族生徒は別室で訓練着に着替えるから、まずはそこまで移動だね。専属騎士は外で待機だよ。ボクだけを見るならいいけど、他の子も着替えるから、見ちゃダメだよ」
見ないし、そんな度胸もない。
「あらあら、今日も仲がよろしいのですね。
ちなみにエクスさん、わたしは見られても構いませんよ」
俺とフィーが話しているところに、セレスティアが起爆剤を投下。
それに真っ先に食いついたのはガウルだった。
「貴様! 仮に許可を得ても、セレスティア様の着替えを覗き見ようものなら、その瞬間、我が宝剣の錆びにしてやるからな!」
「見んわ!」
「貴様! 許可をいただいたうえで見ないだと!? セレスティア様に失礼だろ!」
「お前がどんな答えを求めてるか聞かせてくれ!?」
ガウルは忠犬の如く噛み付いてくる。
「昨日の今日で、二人もすっかり仲良しね」
「ははっ、セレスティア様はご冗談がお好きなようだ」
それには深く同意だ。
「キミたち、そんな馬鹿話をしにきたのかい?」
「いえ、本題は別にあります。
お二人とも、朝からまた随分と派手にやったそうで」
「朝……?」
「貴様が円卓生徒会の序列12位――アーヴァインを倒したと、学園中に広まっているぞ。
これを見ろ、既に号外が配られている」
号外だと?
言われて俺はその新聞を見た。
『戦慄散る!? 薔薇姫の騎士エクス! 序列12位を圧倒!』
こんなタイトルと共に、新聞には記事を書いたミーナの名前が載っていた。
「あいつ、今日も教室にいないと思ったら、こんな物を書いていたのか……」
「ミーナさんは高い目標のある女性ですから。
素敵ですよね、目標に邁進する女性って」
だからと言って、授業を休んでいいのだろうか?
いや、それは俺が考えても仕方ないことだな。
しかし……序列12位を倒したというのは、号外にするほど凄いことなのだろうか?
「……ガウル、序列12位っていうのは、この学園で12番目に強い騎士ってことか?」
「序列が騎士の強さ。その考え方で間違いない……が、現在は序列2位が空席になっている。
その為、アーヴァイン先輩は学園で11番目の実力者と言っていいだろう」
あれで11番目か……。
この学園の層の薄さを感じてしまう。
「序列は先輩の方が上でも、俺が戦った感じではガウルの方が実力は上だと感じたな」
「ふんっ、わかっているじゃないか。
僕の実力なら、序列7位以上は固いだろう。
次の試験の時には、僕たち1年の飛躍で序列も大きく動くだろうさ」
「自信たっぷりなガウルですが、彼は現在1年の専属騎士のワーストワンなのです」
「んなっ、セレスティアお嬢様っ!?」
うわ……エグい。
セレスティアってば、結構エグい!
言っちゃった!?
ガウルが死んじゃいそうなこと言っちゃった!
このお嬢様、優しそうに見えて毒舌なところもあるんだな!?
「お~い、ガウル~、口から出てる魂を戻せ~」
「――はっ!?」
ガウルがハフハフして、大急ぎで魂を吸い戻した。
「お、お嬢様! なぜそのようなことを!」
「ガウルが上から目線で、エクスくんに話すからよ。
そういう傲慢なところ、反省してほしいわ」
「ぐっ……貴様のせいだぞエクス! セレスティア様に怒られたじゃないか!」
「フィー、今の俺が悪いと思うか?」
「エクスは何も悪くないよ。
全部、彼の自業自得」
「んなっ!? フィリス様まで!? ……って――んっ!?」
「今度はなんだ?」
ガウルは一人でも騒がしい男だ。
「き、貴様、そ、その指にはめているのは!?」
ガウルは、俺の左手薬指を見て目を丸めた。
「まぁ……! それは王家の指輪ではありませんか!
フィリス様、エクスくんにお渡ししたのですね」
「……そうだよ。
ボクは、エクス以外には考えられないからね」
微笑ましそうなセレスティアから、フィーは顔を背けた。
その頬は少し赤くなっている。
「こ、結合指輪を渡されるだけでも、想像を絶する事態だというのに……フィリス様が、まさか王家の指輪をお渡しするなんて……」
愕然とするガウル。
一体、何を驚いているのだろうか?
「……もういいでしょ? 行こう、エクス」
「あらあら、ガウル。わたしたちも行きますよ」
「ふぃ、フィリス様が、フィリス様が……」
「いつまでショックを受けてるんです?
契約、解除されたいんですか? ビリケツ君?」
「はっ!? も、申し訳ございません!!」
背後で、明らかな上下関係が見えるやり取りがあった。
そこには、お嬢様と専属騎士……という以上の何かがある気がするのだが、詮索するのはやめておこう。
魔界にはこういう言葉がある。
落とし穴の中のメデューサってな。
俺は自ら、逃げ道のない場所に突っ込むような真似はしないのだ。
※
貴族生徒たちは、現在着替え中。
俺たち専属騎士は、部屋の外からその警護に当たっていた。
「貴様、わかっているな?」
「わかってる、わかってる」
さっきからガウルは、俺ばかりに注意を向けている。
それよりも警護対象であるセレスティアに気を配ってもらいたい。
「あ……そうだ。ガウル、相談がある」
「……相談?」
「貴族生徒の警護って大変だよな。特に夜が」
「夜……? まぁ、夜盗の襲撃でもあったなら面倒ではあるが?」
「いや、そうじゃなくてさ。……眠れなくないか?」
「なるほど……フィリス様の専属騎士という重責、そのプレッシャーで眠ることも出来ないか。
貴様にも、殊勝なところがあるじゃないか。
だが、きちんと休んでおくのも専属騎士の務めだ」
「……流石は首席だった男だな。
あの状況化で平然と休めるのか……」
「当然だ!」
俺の中でこの男の評価が急上昇した。
凄すぎるぞガウル!
お前はセレスティアと同じ部屋、同じベッドで平然と眠れるのか。
化物だ……ガウルこそが、本当の勇者なんじゃないだろうか!?
「ガウル、お前は凄いやつだな!」
「ふんっ、そんな当然のことを言うな」
「当然ときたか!
俺ならセレスティアと同じ部屋、同じのベッドで眠るなんてきっと無理だ!」
「……なに?」
「いや、だからセレスティアと同じ部屋、同じベッドで眠る――」
「同じベ――ばばばばばばば馬鹿か貴様はっ!!」
「いや、だってお前が今、その状況でも、しっかり休むのは専属騎士として当然だと……」
「そんなわけあるかっ! 不敬にもほどがあるぞ!
貴族生徒と僕たち専属騎士は、寮内までは一緒だが部屋が違うだろ! 隣の部屋……ということで、確かに緊張はするが……」
え? あ、あれ?
「……そう、なのか」
「……貴様は昨日、どこで寝たんだ? 野宿でもしたか?」
俺の発言を訝しむガウル。
これって、もしかして……同部屋って、俺だけ?
あの部屋だけ特別ってことか……?
だが、何にせよ……
「……ガウル。俺はお前が羨ましい。
主に睡眠時間的な意味で……」
「は……? なにを言ってるんだ? とにかく、睡眠時間は大切だからな!
自己管理くらいはしっかりしろよ!」
全くその通りだが、俺の眠れない日々はまだまだ続きそうだった。
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