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第16部 口上が長いのはダメだよね。

20180211 更新3回目となります。

              ※




 次の日。俺の朝は――むにゅ。という感触から始まった。


(……なんだ? この素晴らしい感触は?)


 心地いい。ずっと触っていたくなる。

 指を動かすと、深く沈んで吸い込まれる。

 しかし弾力もあり、沈んだ指が跳ね返ってくる。


「んっ……んっ、あんっ! え、エクスぅ……朝からそんなに積極的なんて……ボク、身体が火照ってきちゃうよ」


「はい?」


 フィーの甘い声に、微睡まどろんでいた意識が全開放される。


「おはよう、ボクの専属騎士ガーディアン


「おは……おはあああああああっ!?」


 とんでもない声が出た。

 だが、それも仕方ないだろ……。


「ななななななななんで、なんで服を着てないんだ!」


「あれ? もしかしてエクス……昨日のこと、覚えてない?」


「昨日……?」


 あの後は、部屋に戻って直ぐに眠って……。


「……とっても、凄かったよ。

 ボク、壊れちゃうかと思った……」


 まさかの野生解放!?

 嘘だろ!?

 なに、どういうこと?

 まばたきの回数が自分でもわかるほど増える。

 高速! 俺は今、高速で瞬きしてる!


「既成事実……出来ちゃったね?」


「……」


 ふああああああああああああっ!

 思わず心の中で叫んだ。

 俺のそんな心境に気付いたのか、フィーがニコッと笑みを作る。


「な~んて、全部冗談。

 服は、熱いから脱いじゃった」


「冗談なの!?

 び、吃驚びっくりさせないでくれ!」


「ふふっ、ポカーンってしてたエクス、可愛かった。

 でも、キミがボクのベッドに入って来たのは本当だからね。

 寝惚けてたみたいだけど……」


「なん、だと!?」


 馬鹿! 俺の馬鹿! 今日から全身に拘束魔法を掛けてから眠ろう。


「さ、朝の準備をして学校に行こうか」


 2日目は、とんでもないスタートを切ったが、俺たちはサクっと準備して学校に向かった。




          ※





「いってらっしゃいませ、フィリス様、エクスさん」


 ニアに見送られ俺たちは寮を出た。

 俺とニアは互いに昨夜の事には触れていない。

 食事中、取り留めのない会話をしたくらいだ。


「ニア、学校でね」


「行ってくる」


 フィーは俺の手を取って歩き出す。


「……ねぇ、エクス。ニアと何かあった?」


「どうしてだ?」


「う~ん……?

 エクスに対するニアの態度が、昨日と少し違う気がしたんだけど……」


 鋭い。長い付き合いと言っているだけのことはある。


「もしかして、ニアにエッチなことしたの?」


「何故そうなる!?」


 軽口を言うフィーだったが、それでもニアのことがちょっと心配そうだった。

 だから、


「昨日の夜、少しだけにニアと話した」


 約束した秘密を除き、できる限りで昨日のことを伝えよう。


「夜に?」


「ああ、眠れなくてな。

 部屋に戻ろうとした時につまづいた彼女を支えたんだが……それを気にしてるのかもな」


「そうだったんだ……。

 狼さんに襲われなくて良かったねって、ニアに伝えておかないと」


 襲いません。

 狼であることは……完全には否定できないけれど。

 俺の理性はちゃんと持ってくれるかなぁ……。

 ガウルたち、他の専属騎士ガーディアンは、寮内でどう過ごしているのだろうか?

 後で確認させてもらおう。




          ※




 学園前に到着。

 だが、入り口には人だかりが出来ていた。


「何かあったのかな?」


 俺たちは少し離れた場所から様子を窺った。

 すると、人だかりが徐々に動き道を作っていく。

 その道を二人の生徒が歩く。

 一人は、貴族プリンセスで一人は専属騎士ガーディアンのようだ。


「おっは~、フィリス様」


 貴族の生徒がフィーに挨拶をした。

 大蛇を思わせる鋭い瞳で、全身から威圧感を放っている。


「フィー、知り合いか?」


「……ううん。誰……?」


「っ――……も、もう、フィリス様ってば、ひっど~!

 あ~しは、円卓生徒会のカーラ・フィリップ。

 覚えといてよ」


 自分が認識されていなかったことに腹を立てたのか、カーラは眉を下げ、苛立ちを見せる。


「ちょ~っとだけでいいからさ、あ~しの話を聞いてよ。

 うちの会長が、フィリス様には円卓生徒会に入ってもらいたいって言ってるのよね~」


「興味ないよ。

 だから入らない。

 用件がそれだけなら、もういいよね?

 行こう、エクス」


「おう」


 俺たちが学園校舎に入ろうと足を進めた。が、カーラとその専属騎士ガーディアンが、俺たちの前に立ちふさがった。

 そして、カーラは意地悪に頬を歪める。


「あのさ~、フィリス様。

 さっきからあ~しが下手に出てるからって、その態度はないんじゃない?

 一応、学園じゃこっちが先輩なわけだしさ」


 唐突に現れて、怒りだして、なんなんだこいつ?

 先輩だからといって、高圧的な態度に出ていい理由にはならないと思う。

 それともこれが人間界の流儀なのか?

 魔界流でいいなら、上限関係は実力主義。

 先輩後輩など些末な問題なのだが……。


「皇女様だからって調子に乗ってるみたいだけど、別にあ~しは無理に生徒会室に連れてったっていいんだけど?」


「好きで皇女になったわけじゃないし、皇女の立場を利用して、他人に迷惑を掛けたことはないよ」


「っ――だからあ~しは、そのデカい態度が気に入らないって言ってるんだよ!」


 カーラの手がフィーに伸びる。

 どうやら、彼女の髪を掴み上げようとしたらしい。

 が、


「おい、フィーにさわるな」


 俺は咄嗟に手を伸ばし、カーラの腕を捉える。

 勿論、締め上げたりしているわけじゃない。

 一応、こんなのでも貴族様らしいからな。

 怪我をさせて、フィーの責任にされでもしたらたまらない。


「っ――専属騎士ガーディアンごときが、あ~しに命令してんじゃねえよ!

 ――アーヴァイン! こいつをやれ!」


 カーラが怒声を上げて、専属騎士ガーディアンの名を呼んだ。

 すると、アーヴァインは命令に従うように、背中に背負っていた大剣を抜いた。


「悪いな、エクスとやら。

 これもカーラ様のご命令だ。

 ベルセリア学園、騎士序列第12位。

 戦慄のアーヴァイン・カーファイン、いざ――」


「あ、ごめん。

 話してる間に、攻撃しちゃった」


「は? 攻撃……?」


「気付いてないのか? 刀身を見てみろ」


「刀身……って――なんじゃこりゃあああああああっ!?」


 アーヴァインは目を見開いた。

 自らが手に持っていた大剣の刀身が細切れになって地面に落ちていたからだ。


「馬鹿な!? オリハルコンの大剣だぞ!?

 金属などよりも遥か強度の高いこの大剣が細切れ!?」


 強度が高い?

 いえ、めっちゃ柔らかかったですが……?

 あ、それと、口上を言ってる最中に攻撃してごめんなさい。


「だがまだだ! オレは負けていな――」


 しゃべりっている途中で、アーヴァインがその巨体を揺らした。


 ――バターン!!


 地面に倒れて動かない。

 完全に気絶している。


「え……?」


 ぽっかりと口を開くカーラ。

 なんでアーヴァインが気絶したのか、理解ができないのだろう。

 実は剣を細切れにするついでに、軽く脳天を揺さぶってやったのだ。

 効果が出るのが随分と遅かったが……それは、アーヴァインが鈍いからなのかもしれない。

 ダメージはほぼないし、後遺症になるような攻撃でもない。

 一応、最大限の手加減をしたつもりだ。


「は……? ぇ……え!? アーヴァイン!?」


 カーラがおろおろと狼狽うろたえる。


「先……進みたいんだけど、いいかな?」


「は、はははははい……! 勿論でございます!

 どうぞ、お通りくださいフィリス様!」


 さっきと態度が180度逆転!?

 情けなさ過ぎる! この女の為に戦ったアーヴァインが、かわいそうになってきた。


「エクス、行こう」


「ああ」


 こうして俺たちは、ようやく学園校舎の中に入れたのだった。


「なぁ……フィー。

 ちょっと疑問に思ったんだけど、序列12位を倒したってことは俺の騎士序列は上がるのか……?」


 教室に向かっている途中、疑問に思いフィーに確認を取った。


「……」


「フィー?」


「……エクス」


「うん? おわっ……」


 階段の影に入ると、フィーが俺を抱きしめてきた。

 その身体は少しだけ震えていた。

 俺は落ち着かせるように、フィーの頭を優しく撫でる。


「大丈夫だ」


「……」


 フィーは何も言わず、ギュッと俺を抱きしめる腕に力を込める。


「……大丈夫。

 あの女は、もう何もしてこないよ。

 それに、何があったとしても俺がフィーを守ってみせる」


「……うん。

 ごめん……どうしたんだろう、ボク……。

 いつもなら、こんなこと、なんでもないのにな……。

 頼れる人が出来たから、弱くなっちゃったのかな……」


 震えるフィーの身体を、俺は優しく抱きしめた。


「それでもフィーは、あの場から逃げ出さなかった。

 怖くても、自分の意志をちゃんと伝えられた。

 恐怖に負けず自分の意志を言葉に出来るのは凄いことだぞ!

 俺も昔は、ルティスに意見するなんて出来なかったからなぁ……」


 そしたらあいつは、言いたいことはちゃんと口に出して言え! と俺を叱咤した。

 お陰で今では、少し遠慮のない性格になってしまった気もするが……思いを口に出来るようになった事に関しては、あいつに感謝している。


「エクスにも……弱い頃があったんだ」


「そりゃそうさ。最初から強い奴なんていない。

 でも、今は強くなった。

 自信を持ってそう言えるくらいにはな」


 俺が微笑みかけると、フィーも笑い返してくれた。

 

「こんなボクを見ても、情けないとか、カッコ悪いとか、言わないんだね」


「情けなくもないし、カッコ悪くもない。

 それにこういう弱いところを、俺にだけ見せてくれるフィーは可愛い」


「っ……も、もう! こういう時だけ、キュンと来るようなことを言うんだから!」


「? ……思ったことを言っただけだぞ?」


「それでボクをキュンってさせるのはずるい!」


「ず、ズルいのか!?」


「ズルいの!」


 戸惑う俺を見て、フィーは笑ってくれた。


「……よし! 気持ちの切り替え完了!

 弱いボクは終わり。教室に行こうか!」


 フィーは俺から離れると、その手を引いた。

 強さと弱さ……フィーはそれがごちゃごちゃになっている。

 とても不安定な状態だ。

 もしかしたらそれは……俺が学園に来たせいなのだろうか?

 俺がフィーの専属騎士ガーディアンになったからなのかな?

 でもだとしたら……その責任は取ろう。


 専属騎士ガーディアンになって2日目の今日。

 俺は新たな決意を固めたのだった。

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