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第14話 学生寮での一時

20180211 更新1回目です。

           ※




 放課後、学園の生徒たちは大騒ぎだった。

 それは少し前に配られた号外が関係していた。


「なぁ、フィー。

 もしかしてミーナが授業に出ていなかったのは……」


 学園校舎に出た辺りで、俺はフィーに尋ねた。


「この号外を書いていたんだろうね……」


 お姫様は苦笑を浮かべる。


「でも、いい仕事をしてくれたよね。

 ほらこれを見て、ボクらのラブラブっぷりがしっかりと伝わるよ」


 何気に確保していたのか、フィーが号外を俺に見せた。

 う~ん……。

 情報源というよりは、娯楽感が強い記事だな。


「ところでフィー。

 俺たちは今、どこに向かっているんだ?」


「どこって、授業が終わったら帰るだけだよ」


「道理だな。聞くまでもなかった。

 が……俺はどこに帰ればいいんだ?」


 まだ住居の場所を聞いていない。

 一応、衣食住完備……って、言ってもんな?


「案内するから付いて来て」


「助かる」


 その後、俺はフィーを家まで送り届けよう。

 専属騎士ガーディアンだからな、そのくらいの事をするのは当然だ。



             ※




「ここが学園の寮だよ。今日からエクスが住む場所だ」


「これが寮!? 物凄く立派な建物じゃないか!?」


 一瞬、城かと思った。

 学園校舎よりも立派なんじゃないか?

 流石は貴族たちが通う学園だな。

 専属騎士ガーディアンが住む建物ですら、豪華絢爛だ。


「な~に、ぼけっとしてるの?

 早く入るよ」


「え? フィーも入るのか?」


「フィーもって……当然だよ。

 ボクもここに住んでいるんだから」


 なんだと? え~と、聞き間違えかな?


「もっと言うと、今日から同じ部屋に住むんだよ?」


「……ほんとか?」


「本当だよ」


 いやだってさ、ここに住んでるのは貴族のお嬢様方だろ?

 フィーなんてお姫様なんだろ?

 それが専属騎士ガーディアンだからと言って、一緒に住むというのは……。


「あ、もしかしてエッチなこと考えてる?」


「かかかかかかか考えてるわけないじゃん!」


 うちの皇女様が、ちょっと魅惑的な件について。

 誰か相談に乗ってくれる人はいませんか!


「エクス、キミは専属騎士ガーディアンだ。

 常に傍にいて、ボクの身を守らなくちゃいけない。

 それがキミのお仕事だよ!」


「な、なるほど……あくまで、警護の為ということだな」


「そうそう。

 ふふっ、今日からエクスとの生活が楽しみだなぁ~。

 ボクの方から、襲っちゃうかも……」


 何か不穏な声が聞こえた気がした。

 フィーの挑発的な微笑からは妖艶な香りがする。

 み、身の危険を感じてきた。


「さ、早く行こう」


「……お、おう!」


 き、きっと冗談だろうな。

 悪ふざけだ。

 そうに違いない。

 俺は自分を納得させ、意を決して寮の中に入った。




          ※




 寮は全10階。

 その最上階にフィーの部屋はあった。

 最上階には他にも何部屋かあるようだが、部屋と部屋との間隔はかなり広い。

 まだ部屋の中に入っていないが、室内は相当広いだろう。


「さ、入って」


「し、失礼します」


「なんだか他人行儀だな。

 自分の部屋なんだから、好きに使っていいんだよ」


 初めて歳の近い女の子の部屋に入るから、なんだか緊張してしまう。

 俺が入ったことのある女性の部屋は、ルティスくらいだからな。

 それを話したら、フィーにからかわれしまいそうだから言わないけれど。


「荷物は適当に置いてね」

「……凄い部屋だな」


 予想はしていたが、やはり部屋の中はとんでもない。

 芸術的な装飾品の数々が飾られている。

 魔王城にも様々な装飾品があったが、比べ物にもならないほど美しいものばかりだ。

 ルティスの部屋になど、勇者の絶望という酷い絵が飾ってあったからな。

 どういう絵なのかっていうと、魔王(ルティスに似ている)に勇者(らしき人物)が泣かされている絵だった。 


「その絵、好きなの?」


「いや、絵が好きというよりは、育ての親のことを思い出していた。

 あいつの部屋にもこういう絵が飾ってあったなってさ」


「育ての親……? じゃあエクスの本当の親は……?」


「ああ、俺は本当の両親を知らない」


 いや、正確には最近まで知らなかったか。

 父親は勇者らしいからな。


「……そうなんだ。

 でも、エクスは選定の剣を抜けたんだし、多分本当に勇者様の子孫なんだろうね」


「あ……」


 今、選定の剣の話題が出て思い出した。

 学園長室に置いて来てしまった剣を、まだ回収してない……。


「どうかしたの?」

「あ、いや……なんでもない」


 まぁ……でも、いいか。

 今のところは使う機会はない。

 まだ鞘もないしな。

 今度町に出た時に、あれに会う鞘を探してみよう。


「ねぇ、エクス。

 キミを育ててくれた人の話、聞いてもいいかな?」


「ああ、構わないぞ」


「じゃあ、こっちに来て」


 フィーはベッドに座り足を組んだ後、ポンポンとその隣を叩いた。

 どうやら隣に座れということらしい。

 促されるままに、俺はベッドに腰を下ろした。


 ――ふわり。


「うおっ! 柔らか!

 ここで寝たら寝心地が良さそうだな!」


「今日からキミのベッドでもあるんだよ」


 言われて周囲を見回す。

 ちょっと待ってくれ。

 驚愕の事実発覚! ベッドが……一つしかないぞ!

 まぁ、最悪俺は床で寝ればいいか。


「……え~と、ルティスの話だったよな」


「ルティスさんって言うんだ」


「ああ。

 あいつは色々と、とんでもない奴だ。

 一言で表すと……そう! 規格外という言葉が似合うな」


「規格外かぁ……うん、エクスを見てると、なんとわかるかも」


「俺なんて比にならないくらいだ!

 まず……」


 フィーに、魔王ルティスの伝説を聞かせた。

 指先一つで大地を割り、魔法を放てば大地を消し飛ばす。

 大喰らいだし、わがままだし、大好物のハチミツが取り合いになった時なんてもう酷い。


「デコピンの最大威力がもう凄くて! 俺は何度も泣かされたんだ!」


「あはっ、デコピンで泣かされるって、どんな痛いデコピンなんだよ」


「本当に魔王的な女だった」


「話を聞いているだけだと、伝承の魔王みたいだ。

 でも……エクスはルティスさんのことが好きなんでしょ?」


「好き……か。う~ん……」


 あまり考えたことがない話題だ。

 だが、そうだな。


「好きだな。

 俺は、ルティスの悪いところを沢山知っている。

 でも、その悪いところよりも多くいいところを言える。

 あいつは人を傷つけるような嘘を言わない。

 それに裏表もない。

 いつも真っ直ぐに俺と向き合ってくれた」


 育ての親ではあるが、友達に近い。

 でも、家族でもあるような、そんな存在だ。


「そっか……。羨ましいな」


 ルティスの話を聞いたフィーは、寂しそうに笑った。


「羨ましい?」


「ボクは家族――お父様とも仲がいいわけじゃない。

 それどころか……あまり話せた事もない。

 小さい頃くらい、だったかな?」


「そうなのか……」


「まぁ……どこの国の皇族も似たようなものだよね。

 皇帝はお忙しい方ですから……なんて、子供の頃は良くニアに言われたよ」


「……ニアとは、そんな昔からの付き合いなのか?」


「うん。

 彼女はボクがキャメロット城にいた頃に知り合ったんだ。

 その時からずっと、侍女をしてくれてるよ。

 もう随分と長い付き合いになるかな」


 フィーがいなくなった時の、ニアの慌てっぷりを思い出す。


「なら俺にとってのルティスが、フィーにとってのニアだな」


「ふふっ、そうかもね。

 友達……というのとは、ちょっと違うけど……うん、そうだね。

 エクスを除けば、ボクが唯一信じられる人かもしれないな」


 ニアの事を想うフィーは、今日一番の優しい顔を見せた。

 それだけのことでも、ニアという存在が、フィーにとってどれほど大切な存在かわかる。

 人は大切な人を想う時、自然に優しい笑顔になるものだから。


「ふふっ、なんだかしんみりしちゃったね。

 不思議だな。

 今日会ったばかりなのに、エクスにはなんでも話せちゃう。

 ボクはあまり、素直に自分を伝えられる方じゃないんだけどな……」


「話したいことがあったら、なんでも言ってくれ。

 それでフィーが喜んでくれるなら、俺は嬉しい」


「っ……も、もう!

 ボクがからかう時は、照れてばっかりなのに。

 そういうことは、素で言っちゃうんだから……」


 珍しく、フィーが赤くなっていた。

 でも直ぐに、


「……でも、ありがとう、エクス」


 フィーは満面の笑みを咲かせた。

 それは思わず目を奪われてしまうほど可愛い。


「エクス……」


 小鳥のような優しい声で俺を呼び、フィーは目を瞑る。

 え? ちょ!? こ、これって……。

 そ、そいうこと……だよな?

 でも、ちょっと待ってくれ。

 相手は国の皇女様だぞ?

 いいのか、俺、いいのか?

 だが……魔界にはこういう言葉がある。


 据え膳食わぬは魔族の恥じ!


 きっと、これがその時なのだ。


 フィーの唇が微かに震えている。

 バクバクする鼓動を感じながら、俺は……。


 ――コンコン。


 唐突のノック。

 どうやら、まだその時ではなかったらしい。


「……はぁ……またの機会、かな」


 瞑っていた目を開き、フィーは苦笑する。


「ニアかい? 入っていいよ」


「はい。失礼いたしました」


 許可の後、扉が開かれた。

 一礼してからニアが部屋に入って来る。


「エクスさんにお渡しする品が揃いましたので、お持ちいたしました」


「ありがとう。エクス、受け取って」


 俺はニアから革袋を受け取った。

 中には制服や授業で使う教科書などが入っている。 


「すまないニア。

 色々と準備してくれてたんだな」


「これもフィリス様の為ですから。

 制服のサイズを目算しておりますが、万一、合わなければお申しつけください」


 目算?

 それで大丈夫なのだろうか?

 俺はそんな思いと共にニアを見た。

 するとニアは『大丈夫です!』と伝えるように頷く。


「一度、着てみたらどうかな?

 それに、エクスの制服姿はボクが最初に独占したいからね」


 我が姫のお望みとあれば――と、俺が制服に着替えようと思ったのだが……。


「どこで着替えればいい?」


「ここでいいよ」


 迷わず即答!?


「せ、セクハラだ!」


「男の子でしょ?」


「男女差別だ!」


「はぁ……仕方ないな。

 そこの扉の先、お風呂になってるから脱衣室を使っていいよ」


 脱衣室があるのなら、最初から教えてくれ。

 俺は脱衣室に入ってパパっと着替えた。

 目算と言っていたが、サイズもぴったりだ。

 脱衣室を出て、フィーにその姿を見せる。


「うん! とても似合ってる。カッコいいよ」


「お似合いです。エクスさん。ただ……」


 何か問題があったのか、ニアが俺に迫って来た。

 そして首元に触れる。


「結び目を直しますね。

 ネクタイは、しっかりと結んだ方が美しいので」


 赤いネクタイに触れたニアが、ネクタイを締めなおしてくれた。


「はい、これでバッチリです!」


「ありがとなニア。

 鏡を見て締めればよかったんだが、適当にやってしまった」


「いいえ。

 フィリス様、いかがで――ふぇ!?」


 ニアが変な声を出した。

 どうしたのか? と、彼女の視線を追う。


「ラブラブカップルみたいなやり取りだね、今の」


「フィリス様誤解です!

 わたくしは、エクスさんがフィリス様のお隣に立っても恥ずかしくないようにと!」


「そいうことするなら、ボクがしたかったのに……」


 ツ~ンと、フィーは機嫌を損ねてしまった。


「す、拗ねないでくださいませ!

 わたくしは決して悪気があったわけでは!」


「エクスも鼻の下を伸ばしてたしさ……」


 飛び火した!?

 いや待て、それは誤解だぞ。


「も、もう! フィリス様ってば!

 あまり意地悪するなら、わたくしも拗ねますからね!」


 言われてばかりはなるものかと、攻勢に出たニア。

 やられてばかりの俺とは大違いだ。

 流石にフィーとの付き合いが長いだけのことはある。


「あははっ、ごめんごめん。

 冗談だから……さて、夕飯まで時間もあるし……ボクたちはのんびり過ごすつもりだけど、ニアもおしゃべりに加わるかい?」


「出来ればそうしたいのですが、まだ仕事が残っておりまして……。

 折角のフィリス様からのお誘いにも関わらず申し訳ございませんが……」


「いいよ。でも、時間が出来たら久しぶりに、ゆっくり話でもしようか」


「はい。喜んで……!」


 そして、ニアは一礼してから部屋を出て行った。

 ニアが出て行って直ぐに、フィーは立ち上がり机に置かれた何かを手に取った。


「……エクス。これを渡しておくね」


「これは……指輪?」


 だが、普通の指輪ではない。

 魔力……のような、不思議な力を感じた。


「これは、結合指輪コネクトリングって言うんだ」


結合指輪コネクトリング?」


 魔界では聞いたことがない名前だ。


魔法道具マジックアイテムの類いか?」


「それに近い物かな。

 この学園では、王侯貴族プリンセス専属騎士ガーディアンを持ったお祝いに、この結合指輪コネクトリングが渡されるんだ。

 でも、これはただの装身具じゃない。

 身につけた二人に特別な祝福を与えると言われているんだよ」


「祝福? どんな効果があるんだ?」


「それは人によって様々らしいけど。

 でも、基本的には専属騎士ガーディアンの能力が大幅に向上したり、結合コネクトした時に仕える特別な力もあるんだって。

 ボクは今まで専属騎士ガーディアンがいた事がないから、詳しくはわからないんだけど……」


 特別な力……か。

 なんだかとても興味深い。

 早速、試してみたくなった。


「指にはめてみてももいいか?」


「勿論! はめるのは、左手の薬指ね」


「何か意味があるのか?」


「最も強い効果を発揮するのが、左手の薬指らしいよ。

 後、個人的にそれが嬉しいかなって」


「わかった。

 どうせなら、効果が強い方がいいもんな」


「うん。じゃあ、はい」


 フィーが俺に手を差し出した。

 指輪をはめて。ということらしい。

 なんだか緊張する。

 結婚する……というわけでもないのだが、女性に指輪なんてはめたことないからな。

 俺はフィーの手を取り、左手の薬指に指輪をめた。


「じゃあ、次はボクの番だね」


 次は俺が手を差し出した。

 フィーの手が優しく触れる。ひんやりしていて心地いい。


「エクスの手は、いつも温かいね」


「フィーの手は、冷たいな」


「エクスに温めてもらう為に、冷たいのかもよ?

 ほら、ピタッ!」


「……本当にひんやりしてる」


「ふふっ、じゃあはめるね」


 ゆっくりと、フィーが俺の薬指に指輪をはめていく。


「……特に変化はないな?」


 何か強力な力が湧いて来る……という感覚もない。


「そうだね……。

 ボクとエクスなら、使いこなせると思ったけど……。

 実は結合指輪コネクトリングを使いこなせる学園生はほとんどいないんだ」


「そうなのか? 何がダメなんだろうな?」


「互いを深く理解し、信じあうこと。

 想いの力が、互いの想いを繋ぐ――なんて伝承の一説には残っているよ。

 それと……もしかしたら、なんだけど……この結合指輪コネクトリングが、学園支給のものではなくて、王家の指輪なのもいけないのかも」


「王家の指輪?」


「うん。これはユグドラシル帝国の皇族――フィナーリア家の者とその専属騎士ガーディアンだけが所持と使用を許される指輪なんだ」


「そ、それって……とても大切な物なんじゃないか?」


「うん。だからこそ強力な力を発揮してくれるんじゃ……なんて期待していたんだけどね。今のボクたちじゃ……まだ使いこなせないってことなんだろうね。

 ちょっと悔しいな」


 フィーがベッドにバタンと倒れる。

 長く美しい薄紅色の髪が揺れた。


「……まぁ、徐々にでいいんじゃないか?

 互いを信じ、深く理解し合う。

 きっと――俺とフィーなら、いつか結合コネクトできるさ」


「そう、だよね。

 うん! 焦っても仕方ない。

 ボクたちは、ボクたちのペースで進めばいいよね」


 ベッドから身体を起こすフィーは、暗く沈んでいた表情を明るく変えた。

 いつか結合コネクトは出来るようになるのか?

 その時に俺たちの関係はどう変わっているのか?

 まだわからないことだらけだけど……きっといつか、俺とフィーなら結合指輪コネクトリングを使いこなせる。

 そんな予感はしていた。

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