第13話 号外!
20180210 更新3回目となります。
※
「全く……とんだ大喰らいだな貴様は……」
食後の休憩中。
テーブルに置かれた皿の山を見たガウルは、呆れるように言った。
「ボクは沢山食べる男の人って好きだな」
「わたしも男性らしくていいと思いますわ」
「おいメイド! もっと食事を持ってこい! 丼でだ!」
こいつ、本当に調子いいなぁ……。
ニアが持ってきた料理に、ガツガツ喰らいついている。
「エクス、まだ食べるかい?」
「いや、もう満足だ。とても美味かった。
食事で至福を感じたのは生まれて始めてだ!」
「大袈裟だなぁ……。
でも、この学園の食堂は最高級の食材を使っているから、中々食べられる料理じゃないのかもね」
「……最高級……。
なんだか高そうなものをご馳走になってしまった……」
「エクスのお陰で食券がいっぱいあるんだから、気にしなくていいよ。
キミのお陰で手に入ったようなものだからね」
「ぐっ……ぼ、僕に勝って得た食券でただ飯ぐらいとは……!」
「キミ、第5皇女に対して失礼じゃない?」
「はっ!? い、今のフィリス様に言ったわけでは!?」
俺に対しては上から目線だが、お嬢様方に対しては本当に弱いようだ。
「折角、キミの分も出してあげようと思ってたのに、そんな気分じゃなくなっちゃった」
フィーは機嫌を損ねてしまったようだ。
「ガウル……あなた食券を購入するお金はあるの?」
「セレスティア様、これでも僕は1年首席です。
それなりの給料を得ています」
「元首席、でしょ?
決闘のペナルティには財産没収もあったわよね?」
「はっ!?」
つまり、今のガウルは文無しになってしまったようだ。
口をぽっかりと開き、今にも魂が飛び出しそうになっていた。
う~ん……やはりどこか憎めない奴だなぁ……。
「今頃、円卓生徒会の連中がキミの部屋にある物を強制徴収してるかもね」
円卓生徒会? というのは、魔界で言うところの魔族会だろうか?
成績優秀者が集まって、学校の方針を決めるんだよな。
『エクス先輩、次は東の学園を制覇しちゃいましょう!』
こんな事を言っていた後輩が懐かしい。
ちなみに俺が通っていた魔界で通っていた学園は魔界に存在する全ての学園の統一を成し遂げたのだが……それはまた、別の話である。
ちなみにその頃の俺の称号は、魔界番長だった。
魔王と比べると、だいぶ格が下がるので今思うと恥ずかしい。
「はぁ……仕方ありませんね。わたしが出しておいてさしあげます」
「セレスティアお嬢様!? ありがとうございます! ありがとうございます!」
ガウルは涙目で大感謝だった。
「セレスティアは優しいな」
「貴様、お嬢様に色目を使うんじゃない!」
「ガウル、払いませんよ?」
「申し訳ありません!」
しゅばっ! と頭を下げるガウル。
切り返し早いなぁ……。
「さて、少し休憩もしたしそろそろ行こうか」
「あら? わたしはもう少し皆さんと談笑したいのですけど?」
「もう十分だよ。エクス、ニア、行こうか」
俺たちが席を立とうとした――その時だった。
バン! と勢いよく扉が開いた。
「なんだ!?」
瞬間、ガウルはセレスティアを守るように前に出る。
(……へぇ、身体を張ることは出来るんだな)
突然の自体にも臆せず対応したガウル。
まだまだ実力は足りていないが、咄嗟に行動できるのは日頃の訓練の賜物だろう。
「は~~~い! 失礼します! 騎士新聞の取材、取材ですよ~~!」
だが、現れたのは刺客ではない。
殺気を放っていたわけでもなく、気配を隠していたわけでもないからな。
「せ、生徒新聞……? って、ミーナお嬢様!?」
ガウルは直ぐに警戒を解いた。
どうやら知人らしい……が、とんでもない元気娘が現れたな。
オレンジのショートヘアーで、活発な印象のある女の子だ。
って、あれ……?
「あ……お前、賭けの元締めじゃないか!」
「ありゃ? 気付いてたんだ……あの状況でやるなぁ!
流石は学園期待のニューフェイス!」
いや、普通気付くぞ。
あれだけ大騒ぎで、クラス中に賭け事を持ち掛けてたんだからな。
「あ、一応自己紹介しておくね!
あたしはミーナ・マクレイン!
騎士新聞部に所属してるんだ!」
そう言って、嫌味のない微笑を俺に向けた。
悪い奴ではなさそうだ。
しかし……お嬢様が新聞……なんというか、イメージが付かない。
魔界にも新聞はあるのだが、ロック鳥という巨大な鳥が毎朝配達してくれるのだが、様々な情報が載った出版物だ。
ここの魔族と、あそこの魔族がやりあった……みたいな情報が簡易的に、面白くおかしく書いてある。
どちらかと言えば、娯楽的な要素が強い代物だった。
「彼女のご実家は出版社でもあり、多くの出版物を扱う書店も経営されています。
ユグドラシル全土に数多くの店を構えているのですよ」
「偉そうに聞こえるけど、元々はただの新聞屋。
それが売れに売れて、ここまで大きくなっちゃった成り上がり。
気付けば爵位までもらっちゃうくらいにはね」
セレスティアの説明に、ミーナ自ら補足を加える。
なるほど……ただの新聞屋ではないんだな。
だが、なんとなく凄い金持ちなのはわかった。
「……自己紹介はいいけど……キミ、ここがどこか理解してる?」
「皇女様! そんな不機嫌そうな顔しないでください!
これも騎士新聞部のお仕事なんですから~!」
ここは一部のお嬢様が入室を許された特別な一室。
当然、ミーナは許可を得てはいないようだ。
「はぁ……全く。
一応、話を聞くけど、取材っていうのは、ボクのエクスに?」
「勿論です! 入学初日、突如現れ首席を倒した期待の新人!
しかもフィリス様の専属騎士!
こんな取り上げないわけにはいきません!」
ミーナは猛烈な情熱を発した。
この野次馬根性、正に新聞記者に向いている。
「……まぁ、エクスがボクの専属騎士だって広めるには、騎士新聞も悪くないかな。
まだ上級生たちも知らないだろうからね」
「おっしゃる通り! あたしが記事にすれば、バッチリ全校デビューです!
フィリス様が、た~いせつな専属騎士であるエクスくんを独占していること、全校生徒に伝えちゃいましょう!!」
「キミ、いいこと言うね!
エクス、全校生徒たちにドカーンとデビューしちゃおう!
ボクの専属騎士だってアピールはバッチリしてね!」
「あ、ああ……」
だが、俺は何をどうすればいいのだろうか?
「昼休み終了まで時間がありませんね!
では早速、エクスくんにインタビューを!」
それから昼休みが終わるギリギリまで、俺とフィーはミーナの取材を受けた。
ちなみにセレスティアとガウルのコメントも、一部に記事には載るらしい。
※
騎士新聞! 号外!
『1年首席、薔薇姫の専属騎士に完全敗北!』
まだご存知ない方も多いでしょう!
なんと本日、孤高の薔薇姫――フィリス・フィア・フィナーリア様が専属騎士を選ばれました!
そして騎士新聞部では、薔薇姫を見事に射止めた専属騎士――エクスくんへのインタビューに成功しました!
「エクスくん、フィリス様を射止めた切っ掛けは?」
「誘拐犯からフィーを助けたんだ」
なんと!? 既に愛称で呼び合うほどの仲。
警護対象と専属騎士は時に恋愛感情に結び付く……なんて話もございますが、お二人の関係はどこまで進まれているんですか?
あたしはそんな遠慮のない質問をぶつけました。
「もう身も心も繋がっているよ」
なんとびっくり!? フィリス様自らがお答えくださいました!
「え、いや、そのニュアンスなんだか少し違和感があるんだが?」
「これでいいの!」
などというインタビュー中のイチャイチャ! これには学園内だけではなく、ユグドラシルの王都キャメロットも驚愕なのではないでしょうか!!
しかし、単純な恋愛感情だけでフィリス様は専属騎士を選ばれたのか……と言えば、そんなことはないのです!
これも最新の情報ですが――本日早朝、1年の騎士首席であるガウル・クロフォードくんが、ある人物に決闘を申し込み大敗北を喫しました。
そう――その人物こそがフィリス様の専属騎士、エクスくんなのです!
入学初日で1年の騎士序列のトップに立った彼のこれからを騎士新聞――そしてあたしミーナ・マクレインも注目していきたいと思います!
※
放課後――この新聞は号外として配られた。
ちなみに隅っこの方に、
『首席から転落、エリート専属騎士の今!』
という記事もあったのだが、そちらは機会があれば語らせてもらうとしよう。
※
この新聞が配られた少しあと。
「へぇ……ガウルくん、負けちゃったんだ。
ざ~んねん。
彼には折角、円卓生徒会に入ってもらおうと思ってたのになぁ……」
とある一室で、ある会議が行われていた。
「どうする……? このエクスって子、うちに入れる?」
「本人が入りたきゃでいいんじゃねえか?」
「まずは意志を解いてみては?」
現在行われている会議の内容は、一年首席のガウルを倒した男――エクスを円卓生徒会に所属させるかどうか……。
「お嬢様方はいかがでしょうか?」
凛とした声の騎士が尋ねた
この場にいるのは、学園ベルセリアの上位貴族と、その専属騎士たちだ。
彼らは『円卓生徒会』と呼ばれ、学園内で一定の権力を有しており、大きな権力を持っている。
「この機会に、フィリス様が生徒会に入ってくださればいいのですが……」
「あ~しもフィリス様と話してみたいわ~。
あの方って、他人を寄せ付けない感じだから、ほっとんど話したことないのよね」
生徒間での問題は基本的に決闘によって解決する事となっているが、それではどうしようもないような事件――そういった問題に対処するのが円卓生徒会の仕事だ。
彼らによって学園の秩序は維持していると言っていいだろう。
「会長は……?」
あるお嬢様が尋ねた。
会長――それはこの学園の生徒の頂点に立つ貴族。
「……私? ……そうね。なら、面白くなる方でいいわ」
「ははっ! それは会長らしいなぁ!」
苦笑が部屋の中に響く。
こんな感じで優雅に楽しく会話をしているが、彼女たちが想像しているよりも遥かに、エクスは化物級だったりするのだが、それをここにいる者達が知るのは、もう少し先の未来だった。
ご意見、ご感想をお待ちしております。