第11話 初授業でツンツンされました。
20180210 更新1回目
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人間界ではどんな授業を受けられるのだろうか?
そんな期待を胸に、俺は教室の扉を開いた。
だが、
「フィリス様! どうして先生の授業をボイコットしたんですか!
先生は、先生は、とっても悲しいです~~~~~!」
教室に入ったフィーの姿を見た途端、女が大泣きした。
って、この人が先生なのか!?
「先生、泣かないでよ。
ちょっと事情があって教室を抜けてただけだから」
子供をあやす親のように、うちのお姫様が教師を慰める。
おかしな光景だが……他の生徒が微笑ましそうに見守っているのを見ると、このクラスでは珍しいことではないようだ。
「そ、そうだったんですか!
先生、とても安心しました!」
泣き止んだ!?
めっちゃ素直! この先生めっちゃ素直!!
根は優しい人なのかもしれない。
「あ……エクスくんですよね! 学園長先生から聞いてますよ!」
「そうか。よろしく頼むな。え~と……」
「ケイナ先生です! このクラスの教育担当ですよ」
この先生が教育!?
いや、『戦闘訓練を担当してます!』と言われるよりは納得できるな。
もしそうだったら、俺は驚愕に震えていただろう。
「制服や授業の道具は、今日中に用意できるそうです。
準備が整い次第、ニアさんが持って来てくれるそうですよ」
「わかった。
突然の事なのに対応してもらって助かる」
「ケイナ先生は、みんなの先生なのですから!
生徒の為にがんばるのは当然なのですよ!」
純真な笑み。
この人、眩しい!
なんだか俺には眩しすぎるよ!
後光でも指しているのだろうか?
全く裏表がない。
会話に駆け引きがない。
魔界で会ったことがないタイプだった。
「フィリス様は唐突にいなくなる方ですから、エクスくん、ちゃ~んと見守ってあげてくださいね!」
泣き虫なダメ教師なのでは? という第一印象から一転。
ケイナ先生は慈愛に満ちておられた。
少し前から思っていたが、魔界の住民たちの人間界に対する認識は、ちょっとズレがあるようだ。
人間は悪意に満ち、強欲な者が多い……というのが魔界での教育だったからな。
正にカルチャーショック。
フィーやセレスティアもそうだが、人族だろうと魔族だろうと、いい奴はいい奴なのだろう。
これは人間界に来たからこそ、知る事の出来た真実だった。
「さて、それでは授業を再開しますよ~。
あ、エクスくんの席は、フィリス様の隣に用意しておきましたので!」
席に向かって歩き出すフィーに、俺は付いて行く。
フィーの席は一番後ろ、扉側の席だった。
「はい、これが教科書。今日はボクと一緒に見ようね」
「ありがとな」
この学園で初めての授業が始まった。
授業は算術――計算を扱ったものだった。
水準としては魔界の義務教育以上のレベルだ。
が……そもそも、この学園は恐らく義務教育を終えた生徒たちが集まっている為、より高難易度の知識を学ぶことになるのは当然だろう。
(……しかし、眠い)
魔界でもそうだったが、俺は勉強は得意ではない。
一番好きなのは戦闘訓練に関わる授業だ。
後は歴史! 歴史は好きだ。
国の歴史を学ぶというのは、大きな失敗を繰り返さない事にも繋がる。
先人たちの知恵が詰まっているのだ!
だが、算術は好き嫌い以上に、眠くなってしまう。
「つんつん」
「おわっ!?」
頬に柔らかな感触。
フィーの人差し指が、俺のほっぺをツンツンしていた。
「どうしましたか? エクスくん?」
「あ、いや、すみません……」
先生に謝った後、俺はフィーに顔を向ける。
「ふふっ、うとうとしてた」
「さ、算術は眠くなるんだ」
小声で俺たちは会話をする。
「頑張って耐えて……眠っている時に敵が襲ってくるかもしれないよ?」
「安心しろ。俺は眠ったままでも戦いが出来る特技があるんだ!」
「わおっ! それは凄いね! でも、うとうとしてるエクスが可愛いから、ボクはちょっと意地悪したくなっちゃうかも」
「つまり、また寝そうになったら起こすと?」
フィーはいつもの小悪魔的な笑みを返した。
言葉はなかったが、それが答えなのだろう。
う~む……専属騎士は、大変な仕事だな。
眠気を必死で堪えながら、そんなことを思うのだった。
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