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第10話 騎士序列

20180209 更新4回目です。

         ※




「申し訳ありません……。エクスさん……それにフィリス様も」


「このくらい気にしなくていいぞ。

 なぁ、フィー」


「うん。あのまま放置は流石に可哀想だからね」


 戦闘不能になったガウルを、俺は医務室まで運んでやった。

 現在、決闘で大敗北をきっした男はすやすやとベッドで眠っている。


「しっかし、ここの生徒は友達甲斐ともだちがいがないよな。

 そそくさと行っちまうんだもん」


「仕方ありませんよ。

 正直、今回はガウルの自業自得ですから……。

 それに皆さん、授業を休んで成績を落としたくはないでしょうからね」


 友達と授業。

 どちらを優先するかと言ったら、俺は友達を優先するが……この学園の生徒たちはそうではないらしい。


「授業って言うより、彼に負けて損をさせられたから怒っているのかもね。

 何より首席の彼が決闘で負けたっていうのが罰が悪いよ……」


「首席が負けると問題があるのか?」


「『首席』が『決闘』で負けたのが問題かな」


 フィーは二つの単語を強調した。

 決闘で負けるということは、何かしらのデメリットがあるような口振りだ。


「……決闘の敗北は騎士序列ランクに関わるんだ」


「騎士序列?」


 何それ、カッコいい! 魔界で言うあれか? 四天王みたいなものか?

 ちなみに魔界豆知識だが、四天王は魔族の中でも雑魚ばかりが集まっているので、実は大した称号ではない。


「騎士序列は基本、学園にいる全ての騎士の成績から決められるんです。

 ただしそれ以外にもいくつか、騎士序列を変動させる手段があります」


 俺の質問に答えてくれたのは、セレスティアだった。


「その手段が決闘というわけか……」


「正解。

 エクスは彼に勝ったから、一気に騎士序列も大幅アップ。

 何せいきなり、1年の首席まで駆け上がっちゃったわけだからね」


「だが騎士序列が上がることで、何か俺たちにメリットがあるのか?」


「騎士序列上位は、円卓剣技祭に出場する権利を得られるんだ。

 これは学園の騎士たちにとって、とても名誉なことなんだよ。

 その円卓剣技祭では、ユグドラシル大陸で最強の12人――円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)と試合をすることが出来るんだよ」


「最強と試合、か。それはいいな!」


 勇者と顔を合わせた時、やり合う可能性もあるからな。

 その前のウォーミングアップには丁度いいかもしれない。


円卓の騎士(ナイトオブラウンズ)の中には、かつて勇者と共に旅をしたって騎士もいるらしいよ」


「なんだと!?」


 思わずググッとフィーに近付いてしまった。

 狙ったわけではないが、思わず顔と顔が急接近してしまう。


「突然グッと来たから……キスされるのかと思っちゃった」


「す、すまん……!」


 しゅばっ! と超速で後方に下がった。

 フィーの蠱惑的な笑みは心臓に悪い。

 ルティスとのガチ喧嘩でも、こんなにドキドキしたことはないというのに。

 恐ろしいほどの緊張感だ……!?


「お二人はとても仲がよろしいのですね……」


「そ。だから取っちゃダメだよ?」


「ふふっ、念を押されてしまいました。

 エクスさんは自身は興味深い方ですが、わたしは専属騎士ガーディアンの奪い合いはするつもりはありませんよ」


 フィーとセレスティアは互いに、互いに笑みを交わす。

 少しだけバチバチと稲妻のような物が走った気がした。


「ま……エクスは勇者のことが知りたいみたいだし、騎士序列の上位を狙ってみてもいいかもね」


「そんな回りくどいことをするよりもさ。

 休日を利用して、円卓の騎士(そいつら)に会いに行ってみようと思うんだが……?」


「それは無理……というか、止めておいた方がいいと思う」


 フィーの表情に、少しだけ影が差した気がした。


「何故だ?」


「彼らはキャメロット――ユグドラシルの王都にいるんだ。

 だから滅多な事では会えないし、もし忍び込もうものなら処刑されちゃうよ」


 処刑……か。

 仮に円卓の騎士全員を相手にしても、負けるつもりはないのだが……。


(……フィーとの契約もあるしな)


 魔族にとっては契約違反など恥じだ!

 何より、彼女に迷惑は掛けたくない。


「それに……彼ら全員が常に王都にいるわけじゃないからね。

 色々なお忍びでの任務もあるらしいから……」


「わかった……。

 なら正式な権利を得て、キャメロットには行くとしよう」


「うん、それがいいよ。

 エクスなら騎士序列上位どころか、一番にだってなれる!」


 真っ直ぐな曇りのない瞳で、フィーは俺を見つめる。

 その目に嘘はない。

 俺の力を彼女は信じてくれているのだろう。


「なら暫くは、騎士序列を上げることを目標に学園生活を送るぞ!」


「OK! でも、僕の警護を忘れないでよね!

 後、休日は一緒に町にでも出ようよ。

 勇者の話とか、色々と聞けるかもしれないでしょ?」


「町か……」


 勇者の話だけなら、一緒に行動する必要はないのだが……。

 それでもフィーと一緒に町を巡るのは楽しそうだ。


「わかった! 次の休日だな!」


「うん!」


 俺はフィーと休日の約束を交わした。


「医務室でデートの約束までなさるなんて……。

 あの『孤高の薔薇姫』と言われたフィリス様が嘘のようです」


「そんなのは勝手に周りが呼んでいただけださ。

 さ、エクス、もう行こうか。少し無駄話が過ぎちゃったよ。

 とっくに授業も始まってる」


 あまりその呼び名が好きではないのだろうか?

 フィーは話を逸らすように席を立った。


「フィリス様、今から行かれるなら2時限目の授業に合わされた方がいいのでは?

 先生には後日、わたしから事情を説明させていただきますから」


「……確かにそうだね。中途半端に授業を受けても仕方ないか。

 理由も明確で今ならサボり放題。

 じゃあボクはこっちのベッドで眠らせてもらうよ。

 エクス、良ければ一緒に寝るかい?」


「い、いや……遠慮しておこう」


「ふふっ、照れてる? なら一緒に寝たくなったらいつでも入ってきてね」


 そう言って、フィーがカーテンを開いた。

 だが、


「え……?」


「んなっ!?」


「あら……」


 全裸の女がベッドで寝ていた。

 どこかで見た女だ……と思ったら、選定の洞窟で会ったティルクという女騎士だ。

 フィーは急ぎカーテンを閉めて、バッと振り返った。


「エクス、見たでしょ?」


「見たんじゃない。見えたんだ」


「あらエクスさん、女性の肌を見てしまうなんて罪なお方ですね」


 フィーとセレスティアが、笑顔で俺に圧を掛ける。

 不可抗力!? 今の完全に不可抗力!!


「はぁ……もう。

 あの女騎士、胸の当たりがちょっと気に入らないな。

 エクスは大きいのと小さいのなら、どっちが好きなの?」


 唐突になんですその質問!?

 答えにくい! ものっすごく答えにくい!!

 女の子が男に聞く質問じゃないよねそれ!


「僭越ながらわたしにも今後の参考にお聞かせください」


 なんの参考だよ!

 というか、キミたち見事なコンビネーションだね!

 ダメだ、俺一人でこの二人の相手は指南!


「さ、さ~て……俺はやはり教室に戻ろうかな」


専属騎士ガーディアンが、ボクを置いて行っちゃうんだ……」


「う……」


 しゅん、と、拗ねた顔をされた。

 正直、その顔はとても可愛らしい。

 が、同時に俺が悪いことをした気がしてしまう。

 違うぞ。ただ俺は危機回避をしようとしただけでな……。


「ふふっ、エクスが困った顔してる。

 ボク、その顔好きかも」


 拗ねていた顔が嘘のように、ニッと悪戯な笑みを浮かべた。


「か、からかわないでくれ」


 会った時から思っていたが、フィーは物凄く綺麗な子だ。

 でも少し子供っぽい一面があって、そのギャップが凄く魅力的に思う。


「ごめんね、エクス。

 さて、それじゃあ本当に行こうか。

 ベッドも使えないんじゃ休憩もできないもんね」


「寂しいですね。

 どうせならもう少し、フィリス様やエクスさんとおっしゃべりしたいですけど。

 普段はほとんどお話なんて出来ませんでしたし……」


「ま、また機会があればね……。

 行こう、エクス」


「おう、それじゃあな。セレスティア」


「はい。

 ガウルにはキツく言っておきますので、今後は仲良くしてあげてくださいね」


「ああ。少なくとも俺は、そいつの事を嫌いじゃないよ」


 少しだけ、魔界の友達に似ている。

 エリート意識が高いところや、無謀な戦いが好きなところとか。

 自信過剰なところとか……主に悪い面ばかりな気もするが……。


「……安心しました。

 それでは本日から学友としてよろしくお願いいたします」


 柔和な笑みを浮かべるセレスティアに見送られ、俺たちは医務室を出て教室に向かった。

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