第10話 騎士序列
20180209 更新4回目です。
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「申し訳ありません……。エクスさん……それにフィリス様も」
「このくらい気にしなくていいぞ。
なぁ、フィー」
「うん。あのまま放置は流石に可哀想だからね」
戦闘不能になったガウルを、俺は医務室まで運んでやった。
現在、決闘で大敗北を喫した男はすやすやとベッドで眠っている。
「しっかし、ここの生徒は友達甲斐がないよな。
そそくさと行っちまうんだもん」
「仕方ありませんよ。
正直、今回はガウルの自業自得ですから……。
それに皆さん、授業を休んで成績を落としたくはないでしょうからね」
友達と授業。
どちらを優先するかと言ったら、俺は友達を優先するが……この学園の生徒たちはそうではないらしい。
「授業って言うより、彼に負けて損をさせられたから怒っているのかもね。
何より首席の彼が決闘で負けたっていうのが罰が悪いよ……」
「首席が負けると問題があるのか?」
「『首席』が『決闘』で負けたのが問題かな」
フィーは二つの単語を強調した。
決闘で負けるということは、何かしらのデメリットがあるような口振りだ。
「……決闘の敗北は騎士序列に関わるんだ」
「騎士序列?」
何それ、カッコいい! 魔界で言うあれか? 四天王みたいなものか?
ちなみに魔界豆知識だが、四天王は魔族の中でも雑魚ばかりが集まっているので、実は大した称号ではない。
「騎士序列は基本、学園にいる全ての騎士の成績から決められるんです。
ただしそれ以外にもいくつか、騎士序列を変動させる手段があります」
俺の質問に答えてくれたのは、セレスティアだった。
「その手段が決闘というわけか……」
「正解。
エクスは彼に勝ったから、一気に騎士序列も大幅アップ。
何せいきなり、1年の首席まで駆け上がっちゃったわけだからね」
「だが騎士序列が上がることで、何か俺たちにメリットがあるのか?」
「騎士序列上位は、円卓剣技祭に出場する権利を得られるんだ。
これは学園の騎士たちにとって、とても名誉なことなんだよ。
その円卓剣技祭では、ユグドラシル大陸で最強の12人――円卓の騎士と試合をすることが出来るんだよ」
「最強と試合、か。それはいいな!」
勇者と顔を合わせた時、やり合う可能性もあるからな。
その前のウォーミングアップには丁度いいかもしれない。
「円卓の騎士の中には、かつて勇者と共に旅をしたって騎士もいるらしいよ」
「なんだと!?」
思わずググッとフィーに近付いてしまった。
狙ったわけではないが、思わず顔と顔が急接近してしまう。
「突然グッと来たから……キスされるのかと思っちゃった」
「す、すまん……!」
しゅばっ! と超速で後方に下がった。
フィーの蠱惑的な笑みは心臓に悪い。
ルティスとのガチ喧嘩でも、こんなにドキドキしたことはないというのに。
恐ろしいほどの緊張感だ……!?
「お二人はとても仲がよろしいのですね……」
「そ。だから取っちゃダメだよ?」
「ふふっ、念を押されてしまいました。
エクスさんは自身は興味深い方ですが、わたしは専属騎士の奪い合いはするつもりはありませんよ」
フィーとセレスティアは互いに、互いに笑みを交わす。
少しだけバチバチと稲妻のような物が走った気がした。
「ま……エクスは勇者のことが知りたいみたいだし、騎士序列の上位を狙ってみてもいいかもね」
「そんな回りくどいことをするよりもさ。
休日を利用して、円卓の騎士に会いに行ってみようと思うんだが……?」
「それは無理……というか、止めておいた方がいいと思う」
フィーの表情に、少しだけ影が差した気がした。
「何故だ?」
「彼らはキャメロット――ユグドラシルの王都にいるんだ。
だから滅多な事では会えないし、もし忍び込もうものなら処刑されちゃうよ」
処刑……か。
仮に円卓の騎士全員を相手にしても、負けるつもりはないのだが……。
(……フィーとの契約もあるしな)
魔族にとっては契約違反など恥じだ!
何より、彼女に迷惑は掛けたくない。
「それに……彼ら全員が常に王都にいるわけじゃないからね。
色々なお忍びでの任務もあるらしいから……」
「わかった……。
なら正式な権利を得て、キャメロットには行くとしよう」
「うん、それがいいよ。
エクスなら騎士序列上位どころか、一番にだってなれる!」
真っ直ぐな曇りのない瞳で、フィーは俺を見つめる。
その目に嘘はない。
俺の力を彼女は信じてくれているのだろう。
「なら暫くは、騎士序列を上げることを目標に学園生活を送るぞ!」
「OK! でも、僕の警護を忘れないでよね!
後、休日は一緒に町にでも出ようよ。
勇者の話とか、色々と聞けるかもしれないでしょ?」
「町か……」
勇者の話だけなら、一緒に行動する必要はないのだが……。
それでもフィーと一緒に町を巡るのは楽しそうだ。
「わかった! 次の休日だな!」
「うん!」
俺はフィーと休日の約束を交わした。
「医務室でデートの約束までなさるなんて……。
あの『孤高の薔薇姫』と言われたフィリス様が嘘のようです」
「そんなのは勝手に周りが呼んでいただけださ。
さ、エクス、もう行こうか。少し無駄話が過ぎちゃったよ。
とっくに授業も始まってる」
あまりその呼び名が好きではないのだろうか?
フィーは話を逸らすように席を立った。
「フィリス様、今から行かれるなら2時限目の授業に合わされた方がいいのでは?
先生には後日、わたしから事情を説明させていただきますから」
「……確かにそうだね。中途半端に授業を受けても仕方ないか。
理由も明確で今ならサボり放題。
じゃあボクはこっちのベッドで眠らせてもらうよ。
エクス、良ければ一緒に寝るかい?」
「い、いや……遠慮しておこう」
「ふふっ、照れてる? なら一緒に寝たくなったらいつでも入ってきてね」
そう言って、フィーがカーテンを開いた。
だが、
「え……?」
「んなっ!?」
「あら……」
全裸の女がベッドで寝ていた。
どこかで見た女だ……と思ったら、選定の洞窟で会ったティルクという女騎士だ。
フィーは急ぎカーテンを閉めて、バッと振り返った。
「エクス、見たでしょ?」
「見たんじゃない。見えたんだ」
「あらエクスさん、女性の肌を見てしまうなんて罪なお方ですね」
フィーとセレスティアが、笑顔で俺に圧を掛ける。
不可抗力!? 今の完全に不可抗力!!
「はぁ……もう。
あの女騎士、胸の当たりがちょっと気に入らないな。
エクスは大きいのと小さいのなら、どっちが好きなの?」
唐突になんですその質問!?
答えにくい! ものっすごく答えにくい!!
女の子が男に聞く質問じゃないよねそれ!
「僭越ながらわたしにも今後の参考にお聞かせください」
なんの参考だよ!
というか、キミたち見事なコンビネーションだね!
ダメだ、俺一人でこの二人の相手は指南!
「さ、さ~て……俺はやはり教室に戻ろうかな」
「専属騎士が、ボクを置いて行っちゃうんだ……」
「う……」
しゅん、と、拗ねた顔をされた。
正直、その顔はとても可愛らしい。
が、同時に俺が悪いことをした気がしてしまう。
違うぞ。ただ俺は危機回避をしようとしただけでな……。
「ふふっ、エクスが困った顔してる。
ボク、その顔好きかも」
拗ねていた顔が嘘のように、ニッと悪戯な笑みを浮かべた。
「か、からかわないでくれ」
会った時から思っていたが、フィーは物凄く綺麗な子だ。
でも少し子供っぽい一面があって、そのギャップが凄く魅力的に思う。
「ごめんね、エクス。
さて、それじゃあ本当に行こうか。
ベッドも使えないんじゃ休憩もできないもんね」
「寂しいですね。
どうせならもう少し、フィリス様やエクスさんとおっしゃべりしたいですけど。
普段はほとんどお話なんて出来ませんでしたし……」
「ま、また機会があればね……。
行こう、エクス」
「おう、それじゃあな。セレスティア」
「はい。
ガウルにはキツく言っておきますので、今後は仲良くしてあげてくださいね」
「ああ。少なくとも俺は、そいつの事を嫌いじゃないよ」
少しだけ、魔界の友達に似ている。
エリート意識が高いところや、無謀な戦いが好きなところとか。
自信過剰なところとか……主に悪い面ばかりな気もするが……。
「……安心しました。
それでは本日から学友としてよろしくお願いいたします」
柔和な笑みを浮かべるセレスティアに見送られ、俺たちは医務室を出て教室に向かった。
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