第1話 魔界最強になった途端、人間界に強制送還されました。
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――ドガアアアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!
世界が崩壊するような轟音が響いた。
勿論、世界は崩壊していない。
ただ、魔界に存在する大陸が3つほど消し飛んでいた。
「くっ……わらわに膝を突かせるとはな……」
「少しは俺も、強くなっただろ」
しかし、その原因を作った戦いも終わりを迎えた。
「うむ……。
あの幼かった小僧が、ついにわらわを超えるとはな」
俺の目前で膝を突いていた金髪の幼女が立ち上がった。
そして、楽しそうにニマっと笑う。
ちなみにこの幼女――魔王ルティスは、俺たちの住むこの魔界で最も偉く、最も強いと言われている存在だ。
しかしこの通り、見た目は幼女なので舐められることも多いらしい。
「魔王継承戦は俺の勝ちでいいのか?」
「問題なかろう。
お主の実力は今のわらわを超えた」
魔王継承戦というのは、名前のままに次世代の魔王を決める戦いだ。
継承者候補の中でトップに立った俺は、ルティスに挑む権利を得た。
そして、魔王ルティスに挑戦し勝利したというわけだ。
「これで、今日から俺が魔王ってわけだな」
「エクス、それは違うぞ」
「違う?」
「魔界最強はお主のものだ。
が――魔王の座は譲らぬ」
「は?」
唐突にこいつ、何を言ってやがるのだろう?
「ちょっと待て!
魔王継承戦の契約を忘れたのか?
勝ったほうが魔王になるんじゃないのかよ」
「うむ、その通りだぞ。
だが、それは魔族に限ってのことだ」
「は……?」
「お主は魔族じゃないもん」
「え……うううううえええええええええええええええええええええええええっ!?」
おかしな絶叫が上がってしまった。
だが、そうなってしまうくらい衝撃だった。
だって俺は今まで、自分を魔族だと思っていたんだ。
「本当に俺、魔族じゃないの!?」
「うむ、魔族じゃないぞ。お前は人間だ」
「……マジで?」
「マジだぞ」
俺自身、ルティスが実の親でないことは知っていた。
本人から伝えられていたからな。
だが、16年間生きてきて……自分が人間であることを伝えられたのは初めてだった。
「ちょ、ちょっと待ってくれ!
だったらなんで魔王継承戦なんてやった!」
「それな。
実は勇者と約束してしまってな」
「勇者……?」
勇者ってのはあれか?
魔王と戦い魔界を消滅させかけたとかいう化物。
「ルティスは勇者と戦ったことがあるのか?」
「無論じゃ。
伝承の魔王は我だからな。
だが、奴はマジで化物。
本気のわらわと互角に戦えるのは、お前を除けば奴くらいだぞ」
ルティスにそこまで言わせるとは……勇者とはどんな恐ろしい怪物なのだろうか?
「だが、勇者の話が俺とどう関係しているんだ?」
「ああ。
その勇者がな、お前の父親じゃ」
「え……うううううえええええええええええええええええええええええええっ!?」
本日二度目の絶叫。
俺の父親は化物だったらしいです。
「って――流石に嘘だろルティス!?」
「いや、マジだよ」
「マジなの!?」
俺を見て、しっかりと頷く。
ルティスの真っ赤な瞳は一切、揺らいでいなかった。
「今まで黙っていて悪かった。
それに関しては謝罪しよう。
ごめ~んな。
だがなエクス、勇者も恐らく考えあってのことだろう」
「考え……? どんなだ?」
「いや、わらわは知らぬがな」
適当!?
この魔王、マジ適当!?
「だが、お前の親――勇者と約束してるのだ。
魔界最強になった頃に、人間界に送還して欲しいとな」
「送還!?」
しかも強制!?
せめて選択権は!?
「とにかく、理由は本人に会って聞け。
あいつの事だから、多分生きてる。
それじゃ、今からお主を人間界に送還するぞ」
「え、そ、送還!? ちょ、ちょっと待て!
俺は人間界の事は何も知らな――」
「行けばきっと、どうにかなる!」
無責任!?
この魔王、マジ無責任!?
「だがなルティス!
この俺が黙って人間界に行くとでも――」
「扉――世界を繋ぐ、扉が開く」
突如――背後から猛烈に吸引された。
慌てて後ろを見ると、ブラックホールが出来ていた。
やばっ、マジでこの吸引力やばっ!
なんとかその場で堪えようとしても、少しずつ吸い込まれてしまう。
「あの戦いの後だってのに、まだこんな力が残ってたのか……!」
「違う。
お主との戦いで魔力を相当失うのはわかっていた。
だからこれは――以前から準備しておいたとっておきの仕掛けだ」
にんまりと、悪戯な笑みを浮かべる魔王様。
準備しておいたなどと言うだけあって、この扉からは逃げられそうにない。
「……お主がわらわに勝たなければ、この仕掛けも使うことはなかったのだがな」
言って、ルティスが俺に一歩近づく。
「それじゃあな、エクス」
ルティスが伸ばした手が、俺の頬に優しく触れた。
そして、小さく微笑むルティス。
その顔は笑っているはずなのに、少しだけ寂しそうで……。
「ルティス……」
なんだかこれじゃ、最後の別れみたいじゃないか。
せめて、別れの前に俺も何か――
「えいや!」
「おわっ!?」
押された!?
こいつ、俺を押しやがった。
それが切っ掛けとなり、圧倒的な吸引力には逆らえず、俺の身体が浮き上がる。
「それじゃあな、間抜けな弟子よ。
もし魔界に戻れるようなら、リベンジくらいは受けてやろう」
「っ――このロリババァ!! 今度会った時はマジでリベンジしてやるからなあああああぁ!!!!」
その言葉がしっかりと届いたのかもわからぬまま、俺はブラックホールに吸い込まれてしまったのだった。
※
「……リベンジ……か。
エクス、また会える日を楽しみにしているぞ」
魔王ルティスに、リベンジの言葉は届いていた。
血の繋がりはなくとも、育てた息子との別れがちょっぴり寂しい魔王様である。
「……後でちょっとだけ、人間界に様子を見に行ってみようかな」
彼女、実はかなり過保護であった。
が、そんなルティスの想いをエクスは知る由もないのである。
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