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究極の選択

作者: 紫ヶ丘

若干BL臭がするかも?




──助けて!

助けてもう一人のボク!

お願い!

このままじゃボクの居場所がなくなっちゃう!

お願い!

どうかボクを助けて!!──



像の前で必死に祈る少年。

目の下にあるくまが印象的で、どこかで見たことがあるような不思議な感覚がした。

誰に似ているんだっけ?

そう思った瞬間目が覚めた。


顔を洗いに洗面所に向かうと謎はすぐに解けた。

俺だ。

鏡に映る俺に似ているのだ。

現在二十歳の俺を若返らせたら多分あの少年になる。

目の下のくまもお揃いだ。

何ですぐにわからなかったんだろ?



「……ん?つーことは俺に助けを求めてるってことか?」



夢の中の少年は金持ちのお坊っちゃんって感じだった。

多少目がはれている気はしたが、見えるところに傷はなく肌艶もいいので栄養面は問題なさそうだった。

このままじゃ居場所がなくなるってことは離婚とか再婚をきっかけにネグレクトを受けているのか?

それとも他のこと?



「──助けろって言われても夢のことだしなぁ」



顎をさすれば髭の感触。

薄いのに確かな存在感のある髭をじょりじょりと剃刀で剃りつつ電動シェーバーが欲しいと切に思う。

仕送りとバイトだけではどうしても手が出ないのだ。

金があるなら飯に回したい貧乏学生である。

バイト増やそうかな?


パンとコーヒーで朝食を済まし、パパッと身支度を終えていざ出陣。

都会の通勤ラッシュは恐ろしいがバスに乗るより電車の方が早いのだ。

まだ日によってラッシュ時間を避けられるからいいものをこれが毎日だったらキツいだろうな。

俺やっぱ地方に帰ろ。

──仕事見つかったらだけど。







「────で、なぜこうなる?」



(ごめんなさい。でもボクじゃどうにもならないんだ。お願いお兄さん、ボクを助けて!)



鏡に映る夢の中の少年。

その中にいる俺。

いや、逆か。

体の主導権は俺にある。

ということは少年の体を乗っ取った俺の中に少年がいるんだな。


少年の名はシャル。

年齢は15。

本当はもっと長いけど舌噛むからシャルで許してもらった。

すまん。



(気にしないで。仲良くなったみたいで嬉しいから)



そう言ってもらえると助かる。

とにかくどうしてこんなことになっているかの説明をしよう。

俺は地下鉄の出入口の階段を踏み外して気づいたらシャルの体を乗っ取っていた。

気を失っていなければ何らかの異変もなく、本当に気づいたらここにいた。

シャルが話しかけてこなければ乗っ取った事にもなかなか気づけなかったかもしれない。

流石に場所が違うことには気づいたと思うけどな。



──それよりこれからどうするか、だな。

シャル、一年ほど前から誰かと会うと目の前に妙な文字が出て、訳のわからないうちにその文字が消えて相手が不快になって立ち去ってしまう、を繰り返しているんだったよな?



(うん。書いてあることは分かるんだけど、それをどうしたらいいかがわからなくて。──でもお兄さん、助けてと願ったボクが言うことじゃないけど、こっちに来た原因を探さなくていいの?)



あー、だって探してすぐ見つかる気がしないし、どうせなら違う世界を楽しみたいじゃん?

それに足を踏み外したくらいじゃ多分俺死なないし。

今まで自転車とバイクと人力車にはねられたけど生きてるからな。


あ、はねられたって言ってもドーンッじゃなくてドンッだから。

自転車は後ろから、バイクは酔っぱらい運転で前から突っ込んで来て、人力車は客が重くて制御不能になっていたところを横からぶつかられた。

受け身を習ってなきゃヤバかったけど、こうして無事にピンピンしてる。

良かったらシャルにも教えてやるよ。


だから気にすんな。

乗り掛かった船だ、俺に出来ることなら何とかしてやる。



(……ありがとう。お兄さんが来てくれて本当に良かった)



良いってことよ。

ところでシャル、話だけじゃいまいち分からないから誰かと会いたいんだけど適当な相手いないか?



(──そうだね、時間的にそろそろボク付きの従者が起こしに来るはず。乳兄弟でルネール──ボクはルネって呼んでるんだけど、最近あまり上手くいってないんだ)



え?

そろそろ来るのか?

じゃあ俺ベッドに戻った方がいいよな?

寝巻きで歩いてたら不味いだろう?



(ううん、どちらでも気にしないと思う。悲しいけど、もうボクなんかどうでもいいみたいなんだ)



そうなのか?

まぁとりあえず戻るわ。

普段どんな感じか見てみたいし。



(うん。お兄さん、よろしくお願いします)



コンコンコン


あ、ノック三回なんだ。

どうする?

返事した方がいいのか?



(ううん、寝たふりをしてて)



了解。

何かちょっとドキドキするな。

どっきりの仕掛人になったみたいだ。



「シャルシャルルシャールルル様、起きてらっしゃいますか?」



寝たふり。

寝たふり。

乳兄弟ってことはルネも15?



(うん、同い年だよ。──以前はお兄さんのようにシャルと呼んでくれてたんだけど今はこの呼び方ばかり)



コンコンコン



「シャルシャルルシャールルル様、起きてください。──はぁ、失礼します」



今思いっきりため息吐いたな。



(うん。……実はね、先週仕事だから起こしに行くけど本当はしんどいから行きたくないと話しているのを聞いたんだ。ボクこの一年、何とかしようと色々試してみたんだけど空回って失敗ばかりだった。


でも、ルネだけはボクの味方だって思ってたんだ。今はぎくしゃくしてるけど、絶対にボクを見放さないって。だって従者になってくれたときどんな時でも一生ボクの味方だって言ってくれたんだよ。


一番仲のいいルネがあんなことを言うんだよ?父さまや母さま、それに兄さまがボクの事をどう思っているか考えるだけでも怖かった。


だからボクお兄さんに助けを求めたんだ。一人じゃないって、誰かに悩みを聞いてもらいたかった。だから神殿で祈った。もう一人のボクがいるなら今こそ助けてって)



そっか。

お前も大変だったんだな。

まぁそんなに気にすんなよ。

シャルが呼んだから来たかわかんねーんだしさ。


それよりさ、シャルは神殿でもう一人のボクって呼び掛けてたよな?

あれどういう意味なんだ?

確かに俺の顔はシャルそっくりなんだけど、シャルはその事知らないわけじゃん?



(それはね、この世界には自分と同じ顔をした人がもう一人いて、絶体絶命の時に祈ったら助けに来てくれるって言い伝えがあるんだ。初代国王陛下が窮地の時に密かに他家へ養子に出されていた双子の弟が助けに来てくれたっていうのが元になっているらしいけどね)



へぇ、双子の弟か。

助けに行くなんてよっぽどの人格者だな。

恨んでてもおかしくないのに。



「シャルシャルルシャールルル様、朝です。起きてください」





〈ルネールが起こしに来ました!〉



①まだ眠いよ、もう少し寝かせて。


②おはようルネ。いい朝だね。


③…………うるさいなぁ。


④ルネ、お前はボクのために死ねるか?




(お兄さん!これだよ!こういうのが毎回出るんだ!あれ?でも今日は4つある。いつもは3つなのに……)



いや、ちょっと待て。

これゲームの選択肢じゃね?

うわ、十秒カウントダウン始まったし!

は?声が出ない!?

どうすりゃいいんだ!?

お、色が変わった?

指でフリックが解除か!

は?

選ぶだけじゃダメなのか!?

あーもう!

迷ったときはダブルクリックだ!



「ルネ!お前はボクのために死ねるか!?」



シーン



ちがーう!

誰が④を選んだよ!?

②にしたのに何で勝手に動いた!?



(──ごめんなさい。その、ボクもちょっと動かしちゃった)



えっ、動かせんの?

てかどうすんだよ!?

ルネールが驚いていますって出てるじゃねーか!

つーかこれマジでゲームっぽいな。

仲の良さとか見れるんじゃね?



(……仲の良さ?ちょっと見るのが恐いかも)



お約束ならステータスとか言えば見れるんだけどな──ってマジか。




ルネール・ネルノ


状態:混乱


年齢:15


性別:男


職業:執事見習い


新密度:27/200




ひっく。

新密度ひっく。



(…………ごめんなさい)



いや!

いやいや!

別にシャルを責めてないから!



「──シャルシャルルシャールルル様、それはどういう意味でしょうか?」





〈ルネールからの質問!〉



①質問に質問を返すなんてルネらしくないね。


②ごめん、ちょっと寝ぼけちゃった。


③やっぱりね、答えられないと思った。ルネ、明日から起こしに来なくていいよ。





(今度は3つだ。どうするお兄さん?)



シャル、後で作戦練ろう。

だからここは俺に任せてくれないか?



(うん、わかった。お願いするね)



「やっぱりね、答えられないと思った。ルネ、明日から起こしに来なくていいよ」



「──理由をお聞きしても?」



んっ?

選択肢が出なければ普通に声が出るみたいだな。

こっからアドリブ!



「──わからないのか?部屋に入る前のため息、面倒くさそうな態度、この間はボクを起こしに行くのがしんどいとこぼしていたじゃないか。──ご覧の通りボクは起きた。準備は自分でするから早く出ていってくれないか?」



「シャルシャルルシャー「出ていけと言っているんだ」──承知、いたしました」



綺麗に一礼して出ていくルネ。

新密度27の割にショック受けてる感じだったな。




キラキラリンッ



〈ルネールとの好感度が+5されました!〉




+5されました、か。

やっぱこれゲームっぽいな。

効果音付きだし。



(お兄さん、ゲームって何?)



ああ、ゲームっていうのは選択肢を選んで新密度を上げてエンディング、つまり恋人同士になったり親友になったり、冒険者になったり家業を継いだり、ものによっては王様になったりする、俺の世界の娯楽の一種なんだけど──あー、どう説明すれば良いもんかな。



(──ううん、大丈夫。ルネの反応で何となくわかった。相手好みの文字を選んで仲良くなるってことだよね?お兄さんが来てくれて本当に良かった。ボクじゃ返事の仕方もわからなかったから)



いや、俺もたまたま出来ただけだ。

それにしても選択肢一つ選ぶのにも大変だな。

まず選択肢全体を切るようにフリックすると選択肢が選べる状態になる。

次に上下に動かして番号を選択。

最後にその選択肢をダブルクリックするとその言葉が勝手に出てくる。

しかも十秒の時間制限付き。


これゲームを知らない奴からすれば鬼畜仕様だよな。

少なくとも最後にダブルクリックは止めてやれよ。

それとも誤差動を防ぐための措置なのか?

どちらにせよ、意味不明だな。



(お兄さん、そろそろ着替えなきゃ。朝食は家族と一緒に食堂で食べるんだ)



わかった。

クローゼットの中のを適当に選んで着たら良いのか?



(うん)



うーわ。

何このひらひら祭り。

俺の顔にこのフリルとかあんまり似合わなくね?

あ、いやいや!

シャルは俺ほど人相悪くないから大丈夫だけどな!

目の下のくまも全然薄いし!



(お兄さんもくまがあるの?)



あるぞ濃いーのが。

無駄に色白だから目立つ目立つ。

いつもはコンシーラーっていう化粧品で隠してるけどな。

シャルはまだ若いからしっかり栄養をとってたっぷり睡眠を取れば多分薄くなると思うぞ。



(──薄くなって欲しいなぁ。あの選択肢っていうの?それが出るようになってからなかなか寝付けなくて。このままじゃ一人きりになる、ボクがいても誰も気にしなくなるんじゃって思ったらすごく怖くて。──だからお兄さんが来てくれたとき驚いたけど本当に嬉しかった)



そっか。

そう言ってもらえると俺も嬉しいぞ。

よし、この一番シンプルなやつにする。

シャル、ベストも着た方がいいか?



(そうだね。ベストを着た方がきちんと見えるから余計なお小言は言われなさそう)



シャルは家族とあんまり仲良くないのか?



(うん。父さまも母さまも兄さまの事ばかりなんだ。……でも貴族って大体そうだって聞くよ。家を継ぐ者とそれ以外は明確な差をつけるのが当たり前なんだって)



──いいところの坊っちゃんぽいと思ってたけどシャルってやっぱり貴族なのか。

俺は一般人だから貴族の事はまったくわかんねーけど何か寂しいな。



(うん。でもボクにはルネが居てくれたから。──あの選択肢の選び方がわかったからまた昔みたいに仲良くなれるかな?)



なれるさ。

乳兄弟は伊達じゃない。

よし、じゃあまずはルネとの関係修復するか。

それから徐々に皆と仲良くなろう。

なーに、俺とシャルなら何とかなるさ。

一緒に頑張ろうな!



(うん!)







******







それから約一年、俺とシャルの名コンビは頑張った。

三ヶ月くらいでシャルも体の主導権を握れるようになったんで一気に楽になったな。

それからはほぼ任せっきりだ。


どこの悪徳伯爵夫妻だと突っ込みたくなるシャルの両親と甘やかされまくったせいで鼻持ちならない感じのシャル兄、お前ら雇われの身だよな?と聞きたくなるくらい態度のでかい使用人達ともルネとの関係修復が上手くいったことで何とかそれなりの関係を築けるようになった。


この選択肢が何故出るかはわからないままだが、いくつかわかった事もある。

まずは人によって好感度の上がり具合が違う。

ルネは比較的上がり安いがシャルの家族は上がりにくい。

俺は相性の良し悪しじゃないかと思ってるけど本当のところはわからない。


次に仲良くなってくると選択肢の出る回数が減る。

この一年、ルネとのやり取りで選択肢が出る事はほぼなくなった。

シャルの家族や使用人達には相変わらず出るのにだ。

その事から、もしかすると選択肢は自転車の補助輪みたいなもので、補助輪がなくても自転車に乗れる、つまり自分だけで大丈夫と何らかの存在──ゲームでいうゲームマスターみたいな役割が判断すると出なくなるのではないか?と俺は考えている。

まぁこれも本当のところはわからない。


後はチェーンクエストっていうのか?それが発生するとその人物に関連のある選択肢が色んな場面で出るようになって、イベント終了時に好感度がまとめて上がるなんてのもあったな。

シャル兄はそれで一気に上がってびっくりした。

他には────




〈ルネールとの好感度が+5されました!〉




おっ、これでルネの好感度182か。

うんうん、最近のお前ら押しも押されぬ大親友って感じだもんな。



(全部お兄さんのお陰だよ!一年前にはルネとまたこんな風に笑い合えるようになるとは思わなかったもん。本当にありがとう!とっても嬉しいよ!)



いやぁ、そんなに喜んでもらえたら来た甲斐があるってもんだよ。

これなら俺がいつ元の世界に帰っても大丈夫だな。



(……そうだね、いつまでもお兄さんに甘えてちゃダメだよね。──よし。お兄さん、ボク決めたよ!今度はボクがお兄さんを助ける番だ!絶対お兄さんが無事に帰る方法を探して見せるからね!)




〈ルネールとの好感度が180を超えました!友情ルートと恋愛ルートが選択できます!〉



①《友情》ルネ、ルネはボクにとって一番の理解者で親友だよ。これからもずっと仲良くしようね!


②《恋愛》──ルネ、ルネはボクにとって大切な存在だ。これからもボクの傍にいて欲しい。




…………は?

友情ルートと恋愛ルート?

恋愛ってあれだよな?

男と女が落ちるやつだよな?

いや、同性同士でもあることは知ってるし、昔の日本もそういうのが嗜みだったっていうのも知ってるけど──



(ど、どうしようお兄さん!?)



10秒のカウントダウンが始まった。

9、8、──



視界が歪む。

体が何かに引っ張られる。

──あ、戻る。



(お、お兄さーん!)



シャルの叫びが遠のいていく。

あー、別れの挨拶もまともに出来なかった。



──ドンッ


尻に衝撃が走る。



「痛っ!」



人混みの階段。

どうやら時間差なしに戻れたみたいだ。

邪魔にならないよう慌てて立ち上がろうとするが足がもつれる。

自分の体なのに馴染んでいない妙な感覚に戸惑う俺に差し出される手。



「──大丈夫ですか?」



どこか聞き覚えのある声。

顔を上げると見覚えのある顔。

……マジか。

俺と同年代のルネそっくりさんが心配そうな顔でそこにいた。




〈白野海斗が手を差し出しています!〉



①…………余計なお世話だ。放っといてくれ。



②すみません、ありがとうございます。



③ありがとうございます。大丈夫です。




────は?

何これ?

選択肢?

え、マジで?

何で?



10、9、8、7──



減っていく数字。

この一年で染み付いた操作方法を無意識に行う俺の手。




「──すみません。ありがとうございます」



ありがたく手を借りながら立ち上がると二人ですぐにその場を離れる。

ここはある意味戦場の入り口だからな。

つーか冷や汗が止まらない。

選択肢ってマジかよ。

この世界もゲームに汚染されたのか?



「あの、大丈夫ですか?顔色が悪いです」



白野海斗さんらしい青年が心配そうに見てくる。

見れば見るほどルネそっくりだ。

否応なくシャルに突き付けられた選択肢を思い出す。


友情ルートと恋愛ルート。


もしかしてこのまま白野さん?と交流を続ける事になると、俺もいつかその選択肢を選ばなければならなくなんのか?

いやいや決めつけるのは早い。

さっきの選択肢はきっと見間違えだ。

そうに決まっている。

ステータスって言っても────マジか。




白野海斗(しらの かいと)


状態:心配


年齢:19


性別:男


職業:大学生


新密度:57/200



嘘だろ?

え、俺元の世界に戻って来たんじゃないの?

ここはパラレルワールドか?

いや、まさかな。

お、自販機あるじゃん。



「──いえ、大丈夫です!ご迷惑おかけしてすみません。そうだ、良ければ何か奢りますよ。お礼にしてはショボいですけど。どれにします?」



俺は──よし、シャルの世界にはなかった炭酸飲料にしよう。

これは決して現実逃避ではない。

助けてもらったお礼しなくちゃいけないだろ?

やたら喉も渇いてるし。


大丈夫。

きっと大丈夫だ。

俺はシャルじゃないしこの人もルネではない。

第一、友情ルート恋愛ルート云々以前にこのままおさらばの可能性大だ。



「いえ!お礼なんて!──その、時々同じ車両に乗る人だと思ったら体が動いて」



「同じ車両?」



「はい、いつも顔色が悪いなって。──あ、すみません!失礼な事を言って!」



「あ、いえいえ。見た目はこんなですけど体は丈夫なんですよ。今まで風邪もひいたことありませんし──」




〈白野海斗に飲み物を買いましょう!〉



①水


②お茶


③トマトジュース




は?

何でここで?

え、シャルのと仕様が違う感じ?


10、9、8、7──



「わ、悪い悪い。手元が狂った。トマトジュースとかなしだよなー」



ルネそっくりでもトマトジュースが好物なわけない。

ヤバい、何かまだ向こうに影響されまくっている。



「いえ、ありがたくいただきます。オレ、トマトジュース好きなんですよ。なかなか野菜がとれなくて飲み物で取ろうと思ってたらいつの間にか好物になってて──」




キラキラリンッ



〈白野海斗の好感度が+5されました!〉




白野さんの笑顔が眩しい。

ダメだ、これ見間違えじゃないわ。

シャルと同じ状況だわ。

だって大成功したときのキラキラ出たもん。



「──ええと、改めて自己紹介を。オレは白野海斗、もうすぐ二十歳です。実は同じ大学生に通ってます。調子悪そうなときとか話しかけようと思ったんですけど、なかなかタイミングが合わなくて」




〈白野海斗から自己紹介されました!〉



①え、マジ?すごい偶然だな。


②す、ストーカー予備軍?


③俺は七瀬世奈ななせ せな。今二十歳だからタメかな?




正解は③だろうけどここはあえての①!

これ以上好感度は上げん!



「え、マジ?すごい偶然だな。──あ、この話し方馴れ馴れしすぎる?ヤなら戻すけど」




キラキラリンッ



〈白野海斗の好感度が+4されました!〉




+4?

もしかして白野さん、かなり好感度上がりやすい?



「いや、そのままで。オレもそっちの方が話しやすい。──ところで具合は大丈夫か?結構な打ち方してたよな?オレ実家が薬局で薬学部通ってるから湿布とか常備薬とか持ち歩いてるんだ。良ければ使うか?」



キラキラと輝きながら差し出される湿布。



「あ、マジ?地味に痛いから助かる。後で金払うから」



「タダでいいよ、トマトジュースのお礼。今朝寝坊したせいで母が用意してくれてたの飲めなかったんだ。──あ、悪い!そろそろ時間がヤバいからオレ先行く。──またな、七瀬!」



あれ?

何で名前知ってるんだ?

俺、自己紹介してないよな?







******





〈白野海斗の好感度が180を超えました!友情ルートと恋愛ルートが選択できます!〉




「──ゆ、友情ルートでお願いします!!」



「ふはっ、世奈寝ぼけてんの?──友情ルートとか徹夜でゲームでもしたか?」



「──海斗?ああ、夢か。焦った~。おい、ゲームって馬鹿にすんなよ?こちとら人生がかかってるんだ」



ルネの時と違って海斗が好感度180を超えてもあの選択肢は出なかった。

というか海斗以外に選択肢が出ることはなく、今や好感度193の海斗にも最近とんと出なくなってホッとしている。

なのに何故あんな夢を見てしまったのか──



「別に馬鹿にしてないよ。そっか、謎が解けた。世奈はリアル人生ゲームやってるから恋人作らないのか~」




〈白野海斗の好感度が+5されました!〉




あれ?

選択肢出なかったのに上がった?




〈白野海斗の好感度が195を超えました!友情ルートと恋愛ルートが選択できます!〉



①《友情》違わい!俺だってチャンスさえあれば今すぐにでも欲しいし!──例えばさ、才女と名高い小早川さんとかいいよな。


②《恋愛》…………それもあるけど、お前といる方が楽しいからな。




え、えええええええええええええええっ!?

今!?

今これ出るの!?

つーか小早川さんって学部が違うから一度も話したことねーぞ!?

しかも好みとちょっと、いや、結構ずれてるし!

何でそのチョイス!?



10、9、8、7、6──



ヤバい!

どうする!?

俺が選ぶのは────






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