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魔人と魔剣と強欲と

訂正。

1話〜3話で最寄りの街がジャーラハーフェンとなっていましたがすべてセルブールに変更しています。

「とりあえず鍛冶場に来い」

といきなり作業場に呼ばれる。

レオに視線を送ると行ってこい、と言っているように感じられた。

「ノアとか言ったかの。レオとはあいつがガキんときからの付き合いじゃがワシは気に入ったヤツの剣しか鍛えんし、気に入ったヤツにしか剣も売らん。あと見る目がないやつにも売らんし剣を大切に扱わんやつにもな。その腰の剣を寄越して、この中から気になる剣を1振り選んでみ。話はそれからじゃ」

と俺の剣をひったくって工房の中に置いてあった大きな樽をさして言うオーグリー。

「選ぶって、この樽の中からですか?」

「そうじゃ。入っとるのはいい剣が2振り、ダメな剣が7振り。それからいい剣なのじゃろうが使い手が見つからんかった剣が1振りじゃな」

つまりこの10振りのうちオーグリーがいい剣というものを引き当てろ、ということらしい。

手に取って眺めたり振ったりしてみる。

確かに7振り、刃が既に歪んでいたり重心が変なところにあって少し重かったりする剣があった。

しかしあからさまという訳ではなく、極々微小な差で誤差の範囲内と言っても過言ではないと思う出来だ。

残った3振りの剣。1振りは白く輝いているが装飾も過度ではなく実用的で聖騎士が使っていてもおかしくない程のものだ。

2振り目は恐らく魔剣だ。片刃で刃と反対側に反っているし何より刀身には美しい波が現れていた。

そして3振り目。これが問題だった。1目でピンときたのだが、刀身から柄まで真っ黒なのだ。刀身は透明感があり、角度によっては紫にも見える。

更に多分こちらも魔剣。くわえて多分迷宮産。

鞘も付いてるし。

この世界の魔剣はいくつかに分類される。

まず大きく分けて人工のものと迷宮産のもの。

人工のものは3つに分けられる。

1つは錬金術が織り交ぜてある魔剣。こちらは割と一般的で火の魔法や水の魔法などが刃や柄に付与してあり、使い勝手もいい。

2つ目は魔剣に適した金属で作るものだ。しかし、これがまた馬鹿みたいに高い。また非常に希少でもあるため持っているのは上位貴族くらいだ。

この魔剣は制作後に魔力を流し込むための魔石も必要なのだがこれもかなり高価だ。

かなり切れ味が高く刃もほとんど欠けないため一生モノなんだけどな。

そして3つ目。これは前者のいい所を鍛治師がかなり無茶をして作り上げた代物で持っているのは聖騎士しか存在しないのだが、魔石を使ってタダでさえ切れ味の高い剣に相性のいい錬金術を付与したものだ。

この世に切れないものは無いとまで言われたものらしい。

続いて迷宮産のもの。これは後者2つだ。

ただ付与してある魔法のレベルが桁違いだ。

迷宮産の剣の1振りで戦争を終わらせたという逸話まで残っている。本当かどうかは不明だけどな。

そしてそんな恐ろしいものに魔力を通してあるもの。

これは古い文献でのみ記述が見つかっているが本物の剣は見つかっていない。

いないのだが、多分、目の前にあるこの真っ黒な剣がそれな気がしている。

ちなみに魔石の話をすると、魔石は魔物から取れるものであり、魔物の宿す魔力や瘴気の塊だ。

魔物と魔獣の違いは単純に元が動物かどうかと魔石が取れるかどうか。

魔物は瘴気が作る次元の歪みから発生したと言われていて、魔獣は瘴気に侵された動物の突然変異体と言ったところだ。

「ノア、お主この剣使ったことないじゃろ」

とオーグリーから声をかけられ、目をそらす。

実際使っていない。魔物と戦ったのはゴブリン5匹だけだし……

「使ってないです」

「ふむ……まぁ、そこまでランクの高い剣でもないし、しっかり手入れはされとるようじゃったがのそれで?いい剣は見分けられたかの?」

判断を促してくる。

俺は例の剣を含む3振りを手に取って、

直感に従ってオーグリーに判断を伝える。

「うむ……いい目をもっとる。確かにレオが見込んだヤツじゃの。オーダーメイドって話じゃが、その黒いヤツならやってもええぞ?」

「は?」

おっと。いきなり失礼にもは?とか言ってしまった。

仕方ないだろう。迷宮産の魔剣をいきなり譲るとか言われたら誰だって多分同じ反応をする。

「その剣、この前近くの迷宮から出土したんじゃが、どんなに魔力流しても反応せんのじゃ。流しても流しても溜まらずダダ漏れ。刀身が魔力を纏うこともせんかったからの。因みにじゃが聖騎士でもダメじゃったぞ」

ええ……聖騎士でもダメとかこの国で使える人いないだろ。

剣を樽から抜き出し、刀身を見つめるとやはり錬金術式らしきものが書き込んであった。

「ま、それでもかなりいい剣なのじゃがの。どうじゃ?1万ネルでええぞ?」

「いちまっ……!?」

剣の相場など聞いたことはないがそれでも多分かなり高い。

「おいおい。ノアは一文無しだぞ。一応新入りだがそんな金は出せねぇし」

と助け舟をくれたのはレオだ。

今の俺にいくら何でも1万ネルは難しい。

「別に今すぐとは言っとらんわい。ローン組んでええぞ?10ヶ月で」

1月1000ネルなら払えそうだ。とホッとした時、

外から悲鳴が聞こえた。

「なんだ!?」

とレオが飛び出したので俺も工房から店に戻り大通りに飛び出す。

すると、上から馬車が吹っ飛んできたところだった。

「はぁ!?!?」

このままだと直撃する。あとどうやら中に人も乗っているみたいだ。

「クソッ……」

目立つことこの上ないが仕方ないだろう。今度は制御を失ったりしない。

出来るだけ引きつける。

「おいノア下がれ!叩き斬る!!」

「ダメだ!多分中に人がいる!!」

レオが物騒な事を言うが中に人がいることを伝えればスグにその選択肢を捨てた。

「何とか受け止めるけど、奥の手だから見なかったことにしてくれ!」

レオにだけ伝え、俺と馬車が追突する寸前。

右手を掲げ瘴気を発生させた。

魔人は瘴気を実体のある剣として扱ったり足場として扱うこともあるそうだ。

スールの村には魔人、魔物、魔剣などに関する本が多くあった。

ゴッと音がして馬車が止まり、反動で踏ん張っていたにも関わらず俺もかなり後ろに下がった。

が何とか受け止めきったので馬車を横に下ろす。

もちろん見た人間は最小限に抑えて、だ。

左に持った剣を鞘から抜き放ち、馬車が飛んできた方を見ると、人が1人だけ立っていた。

目にした瞬間俺の中の警鐘が鳴る。

頭を抑えて、苦しそうにしているがそれなりに離れている俺達のところにまで禍々しい魔力が漂ってきている。

「おいオーグリー。アレやべぇよな」

「あぁ、あればヤバい。間違いなく魔人化が進んどる。レオ、ノア、逃げるぞ。ワシらじゃ太刀打ちできん」

「なんでこんな街中の、しかも貴族街の、すぐそこで魔人が暴れてんだ」

レオとオーグリーは逃げる気みたいだが、俺はそんなことが出来るとは思えなかった。

「アイツ、多分逃がす気ないよ」

と向かい合った時だ。

人だったモノがどんどんと全身を魔力で覆われていき、赤黒い瘴気混じりの魔力を放出しながら頭を上げた。

手に力が入り、瘴気が剣に流れ込んだが、その瘴気を黒い剣が吸った気がした。

「グ、グォォォォォァァァァァァッッ!!!」

どうっと爆風が吹き荒れ、魔力が立ち上り、視線の先にいるのは魔人のみだった。

「レオ!オーグリー!避難!馬車の中の人も連れてけ!!!」

「バカ行ってんじゃねぇ!お前はどうするつもりだ!」

「俺か?俺はーーアイツの相手だよ」

そう言い残し、瘴気を全開にする。

全身に薄く広く伸ばし、右手の魔剣にも注ぎ込む。

すると、黒い剣は薄い瘴気の刃を纏った。

なるほど。ピンと来るわけだ。

恐らくだがこれは魔人専用武器ってやつだろう。

専用武器と言うか、魔人が使うことで本領が発揮されるタイプのもの。

オマケに、集中して繊細な操作をせずともとりあえず流し込んでおけば切れ味もしっかり増すらしい。

そこらへん不得手な俺としてはありがたい。

魔力が留まらなかったのも、流し込むのが瘴気ではなく魔力だったからだろう。

レオとオーグリーにはなんて説明すればいいかなどはとうに頭になく、目覚めたばかりの魔人に向かって距離を詰める。

右斬りおろし、返す刀で左斬りあげを繰り出すが当たったところで全然効いてはおらず、右手で頭を無造作に掴まれる。

「ぐっ……」

しかしすぐに俺の頭を掴んでいる手を半ばから切り落とし、距離をとる。

切り落とした腕はすでに再生していた。

「やっぱり化けモンだな……」

独り言は誰の耳にも届かず、再び戦闘が開始される。

今度は瘴気を使って立体戦闘だ。

まっすぐ突っ込んで魔人に攻撃される直前で瘴気を足場にして上に飛び背後をとって切りつける。

がそれも効いておらず切りつけた所から尻尾みたいなものが生えてきて、それでぶん殴られた。

「ガッ!?」

不意打ちだったため吹き飛ばされ、貴族街の門に激突、破壊してしまう。

そんなもの気にしている暇はなく、追撃を貰う。

とてもじゃないが瘴気弾、瘴気を纏った尻尾、オマケにタガの外れた両手両足から繰り出される連撃は片手剣1本で捌ききるはずも無く、貴族街に侵入してしまう。

「ガ、ガァァァァァァァッッ!!!!」

魔人は瓦礫に埋もれた俺を足で踏みつけ、両手で巨大な瘴気弾を作り出した。

既に身体中の骨は折れており動ける状態ではない。

頭の中の警鐘は鳴り止まない。

遠くから、レオとオーグリーが俺を呼んでいる声がした。

ふっと意識が刈り取られる。




上下左右もわからず自分がどこにいるのかも分からない場所にいた。

記憶は魔人に殺されかけているところで途切れている。

どうなったのか、気になるが恐らく大丈夫だろうとも思った。

その時だ。

『求めよ。されば与えられん』

と、声が聞こえた。

求めよ、か。

ならば俺は力が欲しい。

魔人にも、魔物にも、魔獣にも、邪龍にさえ負けない力が、欲しい。

俺の大切なものをすべて守りきる力が欲しい。

すべてを救う力が欲しい。

俺の中で、ナニカが笑った。

意識が、覚醒する。


俺は未だに魔人の足の下にいた。

瘴気弾ももうこれ以上大きくはなるまい、と言うほど大きくなっている。

が、それは全て無駄に終わる。

俺は俺を踏みつけている足を手でつかむ。あとは

求めるだけだ。

「吸え。奪え」

すぐに変化は訪れる。

魔人を覆っていた瘴気がすべて俺の中に流れ込んできた。

瘴気弾も無くなっている。

魔人と化していた人物は人に戻っていた。



こうして俺は

『強欲』の魔人として目覚めたのだった。

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