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新しい街と鍛治師と

「俺が死ぬと?」

このまま街に行っても無駄だとそう言っていた。

「あぁ。お前はその調子じゃ確実に死ぬ。計画性も無いし冒険者になるにしたってノウハウも全く知らねぇんじゃ飢えて死ぬが早いか、魔獣に遅れをとって死ぬかの違いだけだ。辛辣だって思うかもしれねぇが、これでも俺はお前の腕を買ってんだぜ?武装したゴブリン5匹相手に無傷で立ち回れる15歳のガキなんざそうそういねぇ」

でもな、と区切って苦い表情をしたまま続ける。

「それでもたかがゴブリンなのさ。それに、戦闘ごとに気絶してちゃ身体をももたねぇだろ。お前が俺に着いてくるってんなら狩りから単独戦闘、果ては集団戦闘のノウハウまで実地で教えてやれるし身分も保証してやれる。これでも一応名の売れた傭兵団だからな」

レオの言うことは理路整然としていて俺には反論の余地がないようだった。

しかし、俺が死ぬというのはほぼ有り得ない。

隠してるわけでははないが俺は恐らく魔人だ。

瘴気を扱う歩く天災なのだ。

レオの誘いに乗るメリットとデメリットを鑑みて乗った方が俺にとって都合がいいのは明白だった。

けれど、ハッキリさせておきたいことや気になることがあった。

「何でそんなに親切に色々と世話焼こうとしてくれるんだ?行き倒れたガキ1人相手にさ」

まぁ、別に利用したいとかならそれでもかまわない、と思っていたが帰ってきた理由は非常に意外なものだった。

「あー……笑ったり他の団員に言うんじゃねぇぞ?……俺も若い頃はお前みたいに1人で旅したりしてたんだが、この近くで同じように行き倒れてな。そんで、この傭兵団の2代前の団長に助けてもらってな。そんで、その、なんつーか、妙な親近感見てぇなものを感じた。そんだけだ」

なんじゃそりゃ、口に出してしまうくらいには抜けた理由だった。

「悪いかよ。俺はお前が警戒してそうなことやるのは苦手なんだよ。あと腹芸と掃除ができない女も苦手だ。それで、乗る?乗らない?どっちだ?」

矢継ぎ早に是非を問うてくるレオだが、それが照れ隠し出ることは先ほど出会ったばかりの俺でもわかるくらいあからさまだった。

俺は一応手を汚れたズボンで拭いてから

「よろしくお願いします。団長」

と答えるとレオはニカッといい笑顔で

「おうよ!」

と返したのだった。



翌朝、出立を前に傭兵団の面々が集められた。

「おうオメェら。今日は予定通りセルブールの街に入って装備点検だの依頼主に報告だの……まぁそれは俺だけの仕事だが、各々やることはわかってんな?久しぶりの拠点ホームだ。次の仕事間では1ヶ月くらいはあけるつもりだからゆっくりしてくれや」

どうやらセルブールを拠点ホームにしていたらしい。

拠点ホームとは文字通り拠点だ。

傭兵団は基本的に1箇所に留まる事は無いが、名の売れた傭兵団になると資金も潤沢になって予備の武装などを保管したり、武装の手入れをしてくれる鍛冶屋のいる街を拠点として決めるのだ。

そして、このセルブールの街は地価も比較的安そうだし納得だ。

そして、拠点ホームと言うからには何かしら家のような場所を持っているのだろうと、それに驚いた。

また随分といい所に拾ってもらったんだなぁ。

「それから、今日付けで昨日拾ったガキがこの傭兵団入りした。ノア、こっち来てとりあえず自己紹介な。別に礼儀云々ってのは気にするやつはこのなかにいねぇから緊張したりする必要はねぇぞ」

かなりラフな感じでレオに呼ばれ、レオの立っている所まで行き、傭兵団の面々を見る。

歓迎してくれているのが表情からわかった。

「今日からお世話になるノアです。よろしくお願いします」

挨拶した後頭を下げると拍手も貰った。

拍手が止むとレオから追加の話があった。

「俺達は5人1パーティの10パーティ1兵団だ。素人のお前はしばらく俺の班だな」

「わかりました」

「敬語なんてのは貴族みてぇな高貴気取ってお高く止まった奴らか役人、それか依頼主にだけ使ってりゃいいんだよ。俺達ははぐれ者の集まりだからな。集団行動において人との距離ってのは大事だが俺達の中ではそういうのは要らねぇもんだ。さっきも言ったがノアは素人だからお前らも色々教えてやってくれ。ないとは思うがつまんねぇ事するんじゃねぇぞ。分かったら荷物纏めて移動開始だ。んじゃ解散」

団員たちはうっす失礼致しまーすと緊張感の無い返事と共にバラバラに天幕に戻って荷物を纏めはじめた。


もともと荷物のない俺は手待ち無沙汰な状態で手近な馬車の近くで立っていると近寄ってくる人物がいた。

「よぉ。初めっからレオ団長の班なんて、お前ついてねぇなぁ」

ヘラヘラ〜っと声をかけてきたのは昨日俺が飛び起きた時に顔を見に来た男ーリーグだった。

「リーグさんか。これからよろしく。それで、レオと一緒でついてないってどういう意味だ?」

言葉の真意を計りかねて聞くと、ニヤッとイタズラ好きな子供みたいな笑みを浮かべて

「まぁその内身をもって味わうだろうから、頑張れよ」

ポン、と肩を叩いて近くにあった天幕に入ってしまった

流れるような動作であっという間に視界から消えてしまった。どれくらいあっという間かと言うと「あっおいちょっとまて」と口に出す暇すらなかった。

なんだったんだ……

俺の荷物は剣1本だけだし、このまま手待ち無沙汰にしてるのもなんなのでほかの人たちの手伝いを申し出るためリーグの入ったのとは違う天幕に入った。


昼過ぎに街に到着した。

ズラッと並ぶ平民側の門に対して閑散とした貴族側の門。

貴族側でも平民の審査してやればいいのに……。

俺達もこの無駄にながい平民側の門に並ぶのか。

うへぇ……と内心思っていると、馬車は貴族側に進んでいった。

……?確か俺が入ったのって傭兵団だよな?なんで貴族側に進んでるんだ?

「なぁ」

「ん?どうした?」

近くにいた団員に声をかけると疑問はすぐに解消した。

「そりゃお前。俺達は街の自警団も兼ねてるし、レオ団長は戦争で手柄立てて爵位持ってるからだよ。」

なんでもないように言うが初耳だぞ。

特にレオが爵位持ってるとか信じられん。

そうこうしているうちに身体検査や荷物検査が終わり

壁の内側に入る。

そこに広がっていたのは、大きな建物や馬車が何台も通れそうな広い道、それに沿うように開かれている出店だ。

この歳になるまで村を出たことがなかった俺はそれだけでテンションが上がってしまう。

「おおおおぉ……!!!都会だ!!!」

と子供っぽい感想を漏らすと、それを聞いた何人かが笑った。

「こんな程度で都会だとか言ってたら王都じゃどうなるかわかんねぇぞ。多分広さ的にはこの街の10倍くらいあるからな」

と俺の感想を聞いて笑った内1番若い奴が言った。

名前は憶えてない。人の名前覚えるの苦手なんだよな。特に関わりが薄いヤツ。

「オーリだって初めてこの街来た時は同じような反応してたじゃねぇか」

「すげーでけーってな!」

「あん時のお前の方が酷かったと思うぞ」

と次々暴露していく面々に赤くなりながら

「やめろぉ!その話はするんじゃねぇ!!」

先輩面したかったんだろうな。実際先輩だけど。

そうそう。オーリとか言ってた気がする。

もう忘れないようにせねば。

「何騒いでんのよ。さっさと端に寄りなさい。通行人の邪魔になってるでしょうが!」

と後ろから声をかけたのは恐らく30代の女性だ。

確か名前はナディア、と言ったはずだ。

「さぁーせんリーダー」

と端によるオーリ達。どうやらナディアは

このパーティのリーダーらしい。

「団長からの通達ね。まず、いつも通り装備は早めに整備しておいて非常時に備えとくこと。それから週1の定期集合にはちゃんと顔を出すこと。最後に私達の理念を声を合わせて。」

なんだそれ聞いてないぞ。

と困っている俺を他所目にそのまま始めてしまう。

「私達の理念は?」

「常にレオ傭兵団の団員として誇りある行動を!」

その声はピッタリ揃っていて、年季の入ったものだろうと感じた。

「よし。それじゃぁ解散。ノアはレオ団長が呼んでたわ。まだ審査場で手続きしてるはずよ。行ってきなさい 」

「わかった。」

先ほど通った審査場に行くと丁度レオが出てきた所だった。

「お、来たなノア。お前はこの街初めてだろ?案内してやるからよ。」

そんなに近寄ってた訳では無いのにすぐに俺に気がつてこの反応。

助かるが何とも言い難い気分だ。

それから冒険者ギルドや商業ギルド、鍛冶ギルドと周り、街の真ん中にある噴水広場にある案内図で更に詳しく教えてくれた。

このセルブールの街は大きな円の真ん中に小さな円の区画があって、そこから東西南北に4分されているらしい。

すべての区画に入場門が存在しているようだ。

俺達が入ったのは南区で東区は冒険者ギルド、北区は商業ギルド、西区は鍛冶ギルドがある、と描いてあった。

ちなみに小さな円の中は貴族街となっているらしい。

都会だ、と思ったが割と大きくは無いみたいだ。

「とりあえず案内は終わりだ。後はお前の武装整えなきゃな。今から行ってもいいがどうする?」

武装を整えてくれるならそれはそれで嬉しいんだが、

借りっぱなしってどうだろう。

冒険者ギルドに登録したら魔物や魔獣を狩る依頼も受けられるだろうし、それくらい自分ですべきじゃないだろうか。

「大方金の事気にしてたりするんだろうけどよ。安全な狩りは整えられた装備とノウハウがあってこそだぞ」

そういわれるともう頼むしかない。

「むぅ……わかった。とりあえず剣だけでも充分だから」

と返すと

「わかりゃそれでいいんだよ。ガキが変に気を使ってんじゃねぇ」

と満足げにうなづいている。

「そっか。ありがとう」

と感謝を伝えると頭を乱暴にわしゃわしゃされた。

「ほら行くぞ!」

と早足で歩き出したレオの後ろを遅れないようについて行った。


西区に着くとあちこちからカン、カン、カン、カン、と鉄を打つ音がしている。

「鍛治ギルドの剣は質もそこそこ、値段もそれなりって感じだ。オーダーメイドになると阿呆みたいに高くなるがな。今から行くのは店主の気は難しいが俺の行きつけの鍛治師んとこだから期待していいと思うぜ」

とドワーフが鍛治師の小槌スミス・ハンマーを抱えていい笑顔で笑っているのが印象的な店の前で足を止める。

「ここだ。」

店の中にはいると大小様々な剣や、魔剣に適性のある剣もあった。

「おっさーん!いるかー!!?」

と突然大声で声をかけるレオ。

「やかましーい!今鍛えとる途中なんじゃ!!!ちったぁ待たんか!!!」

とこちらも張った声で返してくる。

「ちっ……いつもじゃねぇかあの野郎。ノア、そこら辺に飾ってあんのもそこそこだが奥にあるやつの方が性能がいい。ちっと値は張るがね」

と言って店内をうろつくレオ。

レジの近くにはアクセサリーらしき小物も置いてあった。

「なぁ、これなんだ?」

とレオに聞いてみると

「そりゃあ魔法を記述して魔道具に出来るアクセサリーじゃ。待たせたの。」

とレオより先に答えたのはレオの腰あたりまでしか身長の無い髭の特徴的な男性。ドワーフだ。

「やかましいのが来たと思ったらレオじゃったか。それで?今日は何のようじゃ?冷やかしじゃったら貴様を新しく打った剣の試し斬りに使ってやるからな」

「安心しろ。冷やかしに来たわけじゃぇ。ノア、こいつは鍛治師のオグリー。オグリー、こいつは新入りのノアだ。オーダーメイドで要望聞いてやってくれ」

「ノアです。よろしくお願いします」

と挨拶すると品定めするような視線で俺を見てから

「なるほどなぁ。……ノアとか言ったか?とりあえず鍛冶場に来い。」

と言ったのだった。

次話から動き出します

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