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聖像

作者: 青井 蝶

ただ生きちまったもんだ

てっぺん取ったことなんて当然ないね

まあ

並みの人生ってところさ


悪くは無かったさ

好き勝手やらせてもらった


かみさんと娘かい?

しばらく前に逃げられた


そうそう、俺

一か月持たないらしい

医者にさっき言われた

あっさりしたもんだな


家族?

合わせるツラがねえさ

帰る家もねぇ


シケるなよ、今死ぬわけじゃねえんだ

一杯おごれよ

別れ酒だぞ、ははは!


冗談さ


ねぐらに帰る



路上

彼の定位置には、その晩

偶然にも先客がいたのだ


いつもの彼ならば機嫌を損ね、殴り合いでも始めたのだろう

しかし

今日の彼は、力の抜けた笑を浮かべ

むしろ快活に歩き出した


目的地など無かったが

そのブロック唯一の石造りの教会に辿り着いた

このご時世に珍しく、こんな時間でも開いている


冬のこの街は冷たい

風だけでも凌げればと聖堂へ忍び込む



神様がもしいるなら、どうして俺をこんなみじめにしておくんだ

あんなことさえ、あんなひどいことさえ無けりゃ、俺はあんたの存在を純粋に信じてただろうに

ああ、やっぱり、神様なんていないんだ

もしいても、俺は捨てられた人間なんだ


男は惨めに、しゃくりあげ、泣いていた



随分経ったようだ


ステンドグラスから朝日が差し込む

男はいつの間にか、泣きながら眠ってしまっていた



神父が介抱しようと抱き起こすと

男には既に息は無かった

そして

その顔は教会の、どの聖像よりも清らかだった




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