1章 転生者のもたらすもの 6
申し訳ありません。
リアルが忙しくてかなり時間が空いてしまいました。
今回からは週に1から2回で更新していく予定です。
マークの構えがしっかりとしている。
一見、些細なことのように思えるがその重要性は高い。
左右どちらかに体重がかかっていれば、どうしても剣などの得物を振るう際にその威力は不安定になるし、相手の攻撃もしっかり受けられない。
さっきまでのマークもそうだった。
本来あの身体能力なら、今頃俺達が全員無事なんてことはありえないだろう。
それがありえているのはひとえに、その構えの崩れにある。
これの厄介なところがなかなか修正出来ないことだ。
日常的に染み付いた体の癖は常に意識して直していかなければならない。
それも1日2日ではなく、月もしくは年単位でだ。
実はこれが転生者の一つの弱点となっている。
彼らの前の世界はよっぽど平和だったのか、まともに胴を作れている者など滅多にいない。(「スポーツ」などという体を動かす遊びをやっていたと言う者は出来ている時もあるが)
これが、魔物との戦いを前提として生きているこちらの住民の数少ない優れている点だ。
まあ、それを覆す力を持っていたり戦いに慣れてしまうとそれは消えてしまうのだが・・・。
ともかく、少なくとも未だ戦い慣れておらず日常から体勢を崩しているマークにおいては、すぐには覆らずこちらの勝利につながる筈の重要なことだったのだ。
だが先程の打ち合いでそれがなくなってしまった。
これはマズイ。
何か手を考えなくては。
こちらが必死に考えていると、同じく構えの重要性を知っているレビンがマークへと問いかけた。
「おい、さっきまでのへなちょこな構えはどうした?まさかこっちをおちょくってやがったのか?」
成る程。その考えもあり得る。だが、先程のマークの余裕の無い表情も嘘とは思えない。
「いや、オレはずっとマジで戦っていたぜ。それは本当だ。」
マークが余裕な態度を取り戻し答える。だが、その構えは未だ揺らがない。
そんなマークにレビンが苛ついた様子で叫ぶ。
「ふざけるな!そんなにすぐ体の癖を直せる訳ないだろうが!」
「確かにそうだ。だが、敵にその理由を話すほど、オレもバカではないんだよ!」
そのまま手を抜いてたことにしておけばいいのに、それを否定して体勢の急な修正に何か訳があると言っている時点でこちらのヒントになっているのでマークのバカさには感謝しておこう。
そうなると、やはりさっきの打ち合いで全く手を出さず観察に徹していた事が怪しい。
何かがわかりそうな時マークが行動を開始した。
「さて、クサリには10分と言われたが多分そろそろ片付けないとだろう・・・。じゃあ殺すか」
次の瞬間マークが弾かれたように走りだした。その先にいたのは・・・
「コルド‼︎ 逃げろ!」
マークはコルドに向い一直線に走っている。
ずっとマークを警戒していたのにも関わらず、恐らく今までとは走り出しの速度が段違いだったからであろう、コルドは対応に遅れてしまった。
そんなコルドに対し、マークは剣を水平に振りかざす。
コルドは何とかその間に槍の柄を潜りこませる。
先程までの体重の乗っていないマークならば、防御には成功しただろう。だが今の状態では・・・
「駄目だ!!コルドー!」
誰かが叫ぶ。
だが、その叫びは意味をなすことはなくマークの剣は槍ごとコルドの体を切り落とした。
その剣の動きは本来よりとてもゆっくり見えていた。
コルドの上体がひどくゆっくりとずり落ちていく。
その瞳から徐々に光が失われて行く。
そんな瞳が確かに俺とレビンとリタの姿を捉え、少し細められた。
それは上体が完全に切り離され、地面に落ちても変わらない。俺達を見続ける。
その瞳の光が失われる直前、震える真っ青な唇が僅かに動く
・・・逃げて・・・生きて・・・
直後、体の切れ目から溢れでる今まで見たことない程真っ赤な血溜まりのなかで、その瞳は少し日に焼けて浅黒くなっている瞼によって優しくつつまれた・・・。
「あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
レビンの壊れたような叫びに時間の流れがもとに戻る。
マークはコルドの返り血を浴びたまま佇んで、どこか呆然としている。
何故かはわからない。わからないがそんな彼の姿にひどい憤りを覚える。
お前のせいでコルドは死んだ。その手に握った剣がコルドを真っ二つにしたんだ!!
もう、二度と話せない。そうしたのはお前なのに!!
なのにどうして・・・
そんな悲しそうな目をしているんだよ・・・。
「お前だ、お前らのせいで村のみんなやコルドがああああ!」
レビンが激昂しレビンへと迫る。
マークはゆっくりとレビンに向き直り構えをとる。
直後レビンの剣が真上から振り下ろされる。
間違いなく今日一番の力のこもった一撃だ。簡単には受けられないだろう。
対し、マークは軽くかつ体重はしっかり乗っている剣をレビンの剣に向い薙いだ。
それだけでレビンの剣はあっけなく二つに折れる。
レビンは驚いたのであろう、その体は硬直してしまう。
マークは剣を己の体に引き寄せ構え直し、そのまま突き出した。
マークの背中に一本の剣が生える。
それはそう、前からみればちょうど左胸の位置に・・・・
俺とリタが言葉を失うなかレビンの体が地面へと仰向けに放り出される。
見開かれた目は焦点を失い急速に乾いていき、その顔は驚愕を貼り付けたまま二度と変化することはなかった。
マークが一度悲し気な目でレビンを見た後頭を振り、強気のように見える表情でこちらをむき言葉を投げかけて来た。
「さぁ、次はお前らだ。」