1章 転生者のもたらすもの 4
勢いで走り出してしまったが、やることは変わらない。後ろにレビンとコルダも着いて来ている。
修行に向かう予定だったこちらの武装は十分である。
たとえ異世界人が相手でも、まだ戦い慣れていないと言うのなら、一矢報いるたことは可能なはずだ。
一番前を走る自分に対してマークは自らの剣を正面構える。
だがその構えは戦闘に慣れていない、というかそもそも剣を振り慣れていないことが如実に表れていた。
まず先程からの立ち姿からにしてもそうであったが真っ直ぐ立てていない。左足に体重をかける癖でもあるのか、身体全体が左に傾いている。
加えて、剣を構えたことで若干前かがみになってしまっている。
こんな、型のなっていない奴は普段ならば相手にならない。それ程のものだ。
だが、相手は異世界人だ。油断は決して出来ない。
マークもこちらに向かって動き出した。型が甘いので、剣を右肩から振り下ろそうとしているのがはっきりわかる。
俺がマークの剣の間合いに入ると同時に剣は振り下ろされた。
「おせぇな!」
型は相変わらず酷かった。どうやら腕の力だけで振り回しているようである。
しかしその速度は尋常ではなかった。毎日戦い、相当に鍛えられた筈のレビンの振るう速度よりもこちらの方が速いほどだ。
咄嗟に盾を剣にあわせ、その直後盾を持つ腕に尋常でない衝撃が襲いかかる。
ガギィィン
「痛ってぇ!」
マークが吠える。剣と盾との衝撃が予想外だったようだ。本当に戦闘の素人だと実感する。
だが、その速度は本物だ。
速度もさることながら、剣自体の重さも相当なものらしい。
この重さの剣をあの速度で振り回すなど、簡単には想像出来ない。恐らく体重も入った一撃であったならば、盾ごと真っ二つであっただろう。
ただ、相手の動きは確実に予想できる。それだけでこの能力の差は覆せる。
剣を止められたことやその衝撃がかなり予想外だったらしく、マークは少しの間動きを止めていた。
そして剣を振るったことでさらに崩れた身体をすぐには戻せない。
それは、強力な攻撃を受け止めたこちらも同じではあるがこちらは攻撃するのは自分ではない。
「ウオォォッ!」
俺の後ろからレビンが躍り出て、その剣をマークのガラ空きの胴へと斬りつけようとする。
盾を持つ俺が相手の攻撃を止め、その隙を他の3人が攻撃する。強力な敵に対するいつもの戦法だ。
「マジかよっ!?」
マークはさすがの身体能力で咄嗟に地面を蹴り後方へと下がる。剣はそのまま空を斬ったが、そこにすかさずコルドが追い詰める。
限界まで気配を悟られまいと身体を低くしてからの、身体中の力を一気に放ったコルドの突きは一直線にマークの顔へと伸びていった。
「シッ!」
鋭い掛け声と共にコルドの槍が迫る。
先程までのふざけた様子が完全に消えたマークは必死にその顔を横へずらす。その反応速度は素晴らしいもので、槍の直撃はまぬがれたが、その頬には浅くない傷が刻まれ、赤い液体が流れ出ていた。
マークは続けてバックステップを行いこちらと距離をとる。
そこで始めて自らの頬を流れる血液に気がついたらしく、手でそれを拭い少しボゥとしている。
いけるかもしれない、そんな予感が俺の中には生まれた。