クリスマスだしね
いつもとはいえすっきすきで、これ大丈夫なのかっていう店内は、時期もあって真っ暗になっている。
やっぱり、12月にもなると、日が落ちるのも早いらしい。
僕の残念姉妹も、カウンターに座って、うだうだしている。
・・・いや、この店、ほんと大丈夫なのか?
突然、部屋にカランカランというお客さんの入店を告げる鐘が響いた。
慌てて立ち上がる姉妹。慌ててぼんやりモードをやめる僕。
そして動じない姫川彼方氏。
入ってきた人は、いつもの常連の人たちじゃなくて、初めて見る顔だった。
真っ赤と真緑にいろどられた・・・ある意味いまの時期にふさわしい恰好の年若い少女。クリスマス。うん、クリスマス。それしか感想は思いつかない。
「あーそのう・・・明様、いらっしゃいます?」
控え目な声でぽつりとつぶやかれた名前は僕らの父親のもの。
・・・どうやら、まためんどくさい依頼が舞い込んだようだ。
「えっと・・・いません」
「なっ・・・も、もうだめだ・・・・」
目に見える勢いで目の前の少女が肩を落とす。
な、なんかごめんなさい・・・
「えー、あ、大丈夫ですよ、ここにいるまーくんが代わりになんとかしてくれるから」
さらりと笑顔でとんでもない爆弾をおとしていったのは我が姉梓。また恐ろしいことを・・・。
「ほ、本当ですかっ?!よ、よかった・・・」
目の前の少女の顔がぱああと効果音が聞こえてきそうなほどに一気に輝く。
・・・こ、これは裏切り辛い。
「え、えっと・・・僕でよかったら代わりに・・・」
・・・い、言ってしまった・・・。
こほんとひとつ咳払いをして、少女は口をひらいた。
「あ、あの・・・わたし、クリス・クリスマス、と言います。クリスマスの精霊です。ちょっと今、クリスマス業界では、困ったことがおきてまして」
・・・見た目を裏切らずクリスマスらしい。
「子供が全然サンタを信じてないんですう!!!」
「・・・え、でも、実際にそっちの業界にサンタいても、プレゼント配ってないし、そりゃ信じないよね?」
「えーうー、だって仕方ないじゃないですかあ・・・。そんなの今の時代家回ってプレゼントなんて配ったら、家宅侵入ですよ?!」
なんたる精霊。でもこれが今のメルヘンな人たちの現状である。べつにクリスマス業界だけじゃない。みんなほとんど人間と違いがわからないくらい馴染んじゃってるのである。
「でも、クリスマス業界の経営してる、ハッピートイズ、売上常に上々だし、知名度だって、ぜんぜんあるよね?」
それこそ、各業界の長老たちは、揃いも揃って大企業のオーナーで、精霊中心の社員をつかって、なかなかもうけてるのである。いやはや。
もはや、人との違いなんて、寿命が異常に長いのと、ちょっと特殊な力が使えること、それと、その存在を人間たちに信じられてないと存続できないことくらいである。
だから今回の依頼も、その存在を人間たちに信じさせてくれ、とかいう面倒なことと予想・・・。
「うううー!でもー!信じられないと、困るんですーーー!助けてくださいーー!」
・・・みごとにあたりだったわけだ。
「これは面倒なことになったねえ、お兄ちゃん?」
にやにや笑いの妹が結構うざい・・・
「あーーーうん、できるかはわからないけど、協力はするよ」
「ほ、ほんとですか?!サンタ・クリスマスも喜びますー!」
・・・どうやらまためんどうごとに巻き込まれたようだ。