てるてる坊主で勝とう!
「はーい、じゃあ目を瞑って机叩いてー」
みんなが言われた通り机を叩き始める。
さて、どうするか。てるてる坊主の勝利条件は殺されること。適度に目立たないといけない。
「えっと、占い師の人は真ん中の2枚か、誰かの1枚を見てねー。ごーお、よーん、さーん、にーい、いーち、ぜろー」
自分が占い師だと主張してみるか?でも占い師なら真ん中の2枚か誰かの1枚を当てないと…。いや整理するんだ。占い師に化ける時注意することは完全に当てず、疑われ、かといって怪しすぎないこと。確率的に誰か適当に市民って言うのが1番か?でも怖いのはこのパターン。
自分が市民だと言った人が本当に市民であり、さらに占い師が出てこず疑いが晴れる場合。
でもこのパターンはなかなか出にくい。それに占い師がいれば真っ先に疑われることができるだろう。逆に真ん中の2枚を適当に言うのはどうだ?いや、人狼でそれをやれば仲間が擁護してくれるだろうけど、てるてるは孤独な第三勢力、下手なことを言えば自分が役職持ちだと公言することに…。
「人狼の人は目を開けて仲間を確認しあってねー。ご、よん、さん、に、いち、ぜろ」
いや…それもありだ。自分が役職持ちだとわざとバラす。そうしたところで6人中人狼が2人いても3人には人狼かてるてる、という認識にとどまる。その後の展開によっては十分勝てる…。…その後の展開…か…。僕は圧倒的に経験が足りない。その後うまく立ち回れるか?いや無理だろう。
じゃあ怪盗に化けるのはどうだ?いや、これはほとんど占い師と同じだ。やっぱり占い師か怪盗、状況をみてどちらかだと言って誰かを市民だというのが1番なのか?
「怪盗の人は誰かのカードと自分のカードを入れ換えてねー。ごーお、よーん、さーん、にーい、いーち、ぜろー。はーい目開けていーよー」
どうしようまだ方向性が決まってない。大神先輩が5分に設定したタイマーをスタートしたその時、天野さんが真っ先に手を上げ言った。
「私怪盗なんですけど、ちょっと変に疑われるの嫌なんで皆藤先輩、せーので自分の役職言ってもらえますか?」
「え、え?」
驚く皆藤先輩。確かにこのタイミングは焦る。
「いきますよ?せーの」
「う、「占い師」」
天野さん、皆藤先輩がほぼ同時に言う。
「うわーこのタイミングは酷いねー。人狼てるてるが今頃泣いてるよー」
大神先輩の言う通りだ。一気に何をすればいいのかがわからなくなった。そして僕はもう一つ気になったことを聞く。
「あ、あのすいません。『変に疑われるの嫌だから』ってどういうことですか?」
「あー、新人君は人狼始めてだもんねー。えっとねー。例えば最初にみゆちゃんが占い師って言ってくるとするでしょ?他に占い師も出て来ないわけ。で、みんながみゆちゃんが本物の占い師だと信じたタイミングで私が『私怪盗だったんですけどー、みゆちゃんと換えて占い師でしたー』って言う。ちょっと怪しすぎるでしょ?」
「なるほど。人狼でもそのくらいどうとでも言える、ってことですか」
「そういうことー」
「ありがとうございます大神先輩」
「いやいや、今後もなんでも聞いてくれたまえ」
「じゃあみゆちゃん、占いの結果はどうやったん?」
市宮先輩が尋ねる。
「えっとですね。真ん中の2枚が人狼、市民でした」
「なるほどなーじゃあ残りは人狼1、てるてる1の市民2かー」
この時民倉先輩が動いた。
「待って。私が占い師。めぐちゃんが市民」
天野さんが嬉しそうに言った。
「役職持ち発見、ですね」
「ち、違う。私は占い師」
「まああたしは市民で間違いないよ」
市宮先輩ここぞとばかりに市民アピールしてるな。
「まあ、めぐみん、かおるん、私、新人君の中には市民、人狼、てるてるしかいないから誰を市民と言ったところで誰も否定しないだろうね」
なるほど、人狼、てるてる坊主は簡単には役職持ちだとは言えない。そうなると市民だと頷くしかないのか。
「まあどうとでも言える。ってことですね」
と天野さん。初対面の人、それも先輩とのゲームなのになかなか場慣れしてるな。
「新人君はてるてる坊主」
「ファっ?!民倉先輩なんですか?!そ、そそそ、そそんなわけな、なないじゃないですか」
「ただの鎌かけ。証拠は無い」
『てるてる坊主発見』そんな文字が僕以外の5人の頭上に見えた気がした。
「残り3分ですよ。まあここで一回整理しましょうよ。私は怪盗で、深雪先輩が占い師。深雪先輩は占い師で真ん中が人狼市民。こうなるとはるかちゃん達四人の中に人狼、てるてるが一人ずついる、と」
「二人殺しかなー?」
「そうなるかなー?あたしともう一人殺したら3分の1になるでー」
僕は尋ねた。
「二人殺し?なんですか?」
「この5分が終わった後に一斉に殺す人を指差すでしょう?その時に1番多い人が殺されてしまうんですが、あらかじめ相談しておいて票を3票3票に分けるんです。そうすれば3票入った2人を殺すことが出来るんですよ。これは偶然同数になった時も適用されます。ただし3人以上が同数の場合誰も死にません」
「なるほど、じゃあいつも二人殺しすればいいんじゃないですか?」
僕の問いに天野さんが答える。
「そうはいかないんだよ。あらかじめ分けておくって言ったよね?全員がそれを守る保証がどこにあるかな?」
我ながらかなり安直な問いだった。
「なるほど、てるてる坊主も人狼もいるもんな」
「そういうことだねー。人狼が二人の時は基本的に成り立たないだよー。でも今回は人狼は一人らしいし行けるんじゃないかなー」
「それはわからない。占い師は私」
そうだ。それに今回明らかに怪しい民倉先輩がいる。一人は民倉先輩になるとしてなんとかもう一人に入らなくては。
「薫ちゃんともう一人、になりそうですね」
「そうなるかなー」
「まあいい。私を指したら人狼はあと3分の1」
「私的にははるかちゃんだと思いまーす」
と天野さん。
「ほほー。なんでかなー?」
「なんとなくです!」
まあ確かにヒントは出尽くしたか。あとは『なんとなく』になるだろうな。
「まああたしとしては新人君はてるてるで間違いないやろうからハルちゃん推しかなー」
な?!
「まあそれは私にも言えることだねー。てことで私はめぐみん推しだねー」
あ、これダメなパターンですわ。
「私も春香ちゃんだと思います。めぐちゃんはさっき自分を指してもいいと言ってましたし」
ああ、せめて民倉先輩の鎌かけがなければ…。…ところで、なんで民倉先輩は『人狼』じゃなく『てるてる坊主』で鎌をかけてきたんだろう。占い師は人狼を探すのが仕事のはず。
「むむー。私じゃないよー。めぐみんだってー」
「あと30秒です。ハルちゃんと薫ちゃんはお互いを指してくださいね?私はハルちゃんを指します」
「じゃあ私は薫先輩を」
「あたしがハルちゃん指すから新人君は薫ちゃんな?」
「は、はい…」
もし民倉先輩が僕がてるてる坊主だと知っていたとしたら…?……そうか!このゲームはてるてる坊主の勝ち!
「ちょっと待って…」
その時タイマーがなる。
「新人君時間切れだよー。せーの!」
ピッとみんなが一斉に指を指す。
結果を見て大神先輩が口を開いた
「あれ?私2票?」
「え?じゃあ薫ちゃんが…4票?」
パチンッと天野さんと皆藤先輩の間でハイタッチが交わされる。
「やりましたね深雪先輩」
「照子ちゃん突然だからびっくりしたんですよー?」
「え、そこ2人が人狼なん?じゃあ薫ちゃんが本当の占い師?!」
…いや違う…。
「いえ、このゲームはてるてる坊主にまんまとやられたんですよ」
言いながら僕は真ん中の2枚を開ける。それを見た天野さんが驚いて言った。
「市民と…占い師…?」
「僕のカードが」
僕は自分のカードをめくる。そこには怪盗が不敵な笑みを浮かべていた。
「そう。私は占い師じゃない」
民倉先輩が自分のカードをめくる。
「私は元怪盗」
民倉先輩のカードは、てるてる坊主。
「…やられた」
みんなが一斉に言う。
「民倉先輩だけはカードの内訳が全部わかってたんですね?」
僕は尋ねた。
「うん。余りの2枚まで丸見え」
「今回民倉先輩の持っていた情報量は他の人には勝ち目の無い程だったわけですね」
民倉先輩は怪盗だった。そして僕のカードと換え、てるてる坊主になった。そしてその時天野さんと皆藤先輩が賭けに出た。この賭けは怪盗、占い師のどちらか一方がかけていれば絶大な効果を発揮する。そして天野さんたちは賭けにかった、かのように思えた。しかしこの行動は元怪盗の民倉先輩にすればとんでもない量の情報のプレゼントだった。自分は怪盗でてるてる。この時点で天野さんが怪盗な訳がない。人狼だ。それに口裏を合わせている皆藤先輩も人狼。さらに民倉先輩はラッキーだった。初心者の僕がいたんだ。僕が質問している間先輩はゆっくり観察し考える時間を得た。占い師が出て来ないことを悟った民倉先輩は怪盗ではなく占い師だと名乗った。怪盗と言えば人狼の二人に『自分が換えられているかも』と懸念を持たせるかもしれないから。かといってどちらも出て来なくても怪盗が人狼かてるてると換えたかもと思われるかもしれない。占い師だと主張することで民倉先輩はこの状況にリアリティを持たせたんだ。あとは初心者の僕に鎌かけと称して自白させれば自分がてるてると疑われることはない。人狼二人の票は自然と自分に集まる。
「いやー。やっぱ人狼ゲームでかおちゃんには勝てる気がしやんわー」
「本当ですね。人狼で珍しく勝ったと思いましたのに」
残念がる皆藤先輩。
「いや。今回は運が良かった」
「まさか私の作戦が仇となるとは…って感じですね」
「でも新人君も初心者にしてはなかなかの推理だよ。その考え方ができれば慣れればなかなかに強くなると思うよ」
「いや、そんなことありませんよ。結局は民倉先輩の一人勝ちですし」
「新人君が単純だから勝てた」
それは褒められているのか…?
そして民倉先輩は僕に尋ねた。
「新人君。名前は?」
「?浦内健翔ですけど」
「覚えとく」
え?
「へー浦内君やったかーあたしも覚えとくわー」
「私も覚えないとねー」
と市宮先輩に大神先輩。
「あ、そうだ。浦内君だやっと思い出した」
と天野さん。
え?ええ?!
皆藤先輩の方を見ると明らかに目をそらしている。
「ま、まさか名前覚えられてなかった感じですか?」
みんなが頷く。
「あなた達が無理やりこの部にいれたんでしょうがああぁぁ!」
「まあまあ浦内君落ち着きたまえよー。ほら、お菓子でも食べなって」
「だからそれは僕が持って来たお菓子です!」
「まあとりあえずまだまだ放課後は長いことやし、もう一戦行こかー」
「先輩、ここって何部なんですか?私も入っていいですか?」
「心理学部。もちろんいい。でも遊んでるだけ」
「さあハルちゃん浦内君座ってくださいねー」
僕たちの放課後はこうして流れて行く。
本当に楽しかったんですが自分の文章力のなさに驚愕するばかりでしたwww
大神先輩がメインヒロインのつもりだったんですが民倉先輩が一番好きになっちゃいましたw
キャラ達の描写がほとんど出来なかったので今度書く機会があれば書きたいと思います。