第7話
俺とエリザベスの新婚生活が始まってから一ヶ月が経とうとしていた。
この1ヶ月の間、俺が何をしていたかというと、ほとんどダラダラしていた。
というのも、エリザベスは実家の再建で忙しく、そちらに関して俺から手伝えることは少ないので、見守ってやることくらいしか出来なかった。
レベル上の方はナターシャと一緒にやっているものの、ナターシャ1人だけではあまり無理をするわけにも行かないので、近場の比較的安全なダンジョンで肩慣らしする程度である。
そもそもな話、最初の頃は生活するためのお金を稼ぐためや、Cランク冒険者を名乗っても違和感のないレベルになるためなどの目標ありきで頑張ってきたのだが、ここ最近は生活も安定し特に目標もない。
本格的にエリザベスのヒモになってニート生活を送るのも悪く無いと思えているぐらいである。
とは言え、この世界に一生生活していくにしても、元の世界に1度くらいは里帰りしたいので、それが最近の目標といえば目標なのだが、手がかりがなんにもないので動けてない状況である。
ちなみにレベルだが、かろうじてLv30に上がり、『スワップ-パラメータLv2』というスキルを覚えた。
『スワップ-パラメータLv1』では1つのパラメータしか交換できず、交換するためには相手に触っている必要があったのだが、『スワップ-パラメータLv2』では視認しているあいてのパラメータと任意個交換できるようになった。
ただ正直なところ、最近はスキルを本気で使わないといけないような危ないシチュエーションは無く、このスキルの出番もいつになるかわからないところである。
そんなどうでもいいことを思いつつ、部屋でのんびりしていると慌てた様子でエリザベスが入ってきた。
「あなた、大変ですわ。今朝、勇者らしき人物からの領主の私へ面会の申し入れがありましたわ」
「へえ、そういえば、この世界って勇者が実在するのか」
「はいですわ。しかも、今回の勇者は黒髪の女性で、ここ最近急激に力をつけている冒険者のようですわ」
「ほほぉ。ということは、俺と同じく異世界トリッパーの可能性があるのか」
「ええ、そうですわ。面会は午後からになりそうのですが、セイヤも一緒してもらえますか?」
「ああ、俺も興味があるしな」
そして、午後、件の冒険者がやってきた。
冒険者は二人組で、1人が黒髪の女冒険者、もう1人が獣耳のショタっ子だった。
黒髪の女性は髪や顔立ちの感じから日本人ぽい雰囲気も感じるものの、日本人ばなれしたモデル体型や筋肉の付き方であるので、本当に日本人なのかは微妙なところである。
ショタっ子のほうは狼系の獣人の子供のようで、歳は小学校を出るかどうかといったところだろうか。あまり旅慣れていないのかひ弱な印象を受けた。
「ようこそ、わが領地へ。私、エリザベス・フランソワですわ。で、こちらが夫のセイヤですわ。勇者さまの噂はかねがね聞いておりますので、こうやって会えて光栄ですわ。」
「勇者のまゆみです。こちらこそ、エリザベス様のような素敵な女性に会えて光栄ですわ」
それから勇者とは無難な話が続いた。
勇者は現在、魔王を倒すために修行の身であるとか、今まで回ってきた街での武勇伝だとか、そういったものだった。
「それにしても、エリザベス様はお美しいですね。私は何人もの領主さまやそのご婦人とお会いしてきましたが、その中でもエリザベス様は特に美しいです」
「そ、そんなことないですわよ」
「いやいや、そのふくよかな胸は男女ともに憧れるものがありますよ」
「そこですか!?」
「私はこの通りスレンダーですので、エリザベス様のような体型は特に羨ましいのですよ。良ければ、さわってみてもいいでしょうか?女の子同士ですし。」
「さ、さわるだけならいいですわよ」
「では、お言葉に甘えさせて」
そういうと、まゆみはエリザベスの胸をさわり始めた。というか、思いっきり揉み始めた。
「ぁん、勇者様、さわるだといったのに」
「ふふ、エリザベス様のおっぱいのもみ心地がいいのが悪いのですわ。」
エリザベスはすっかり頬を赤く染め、息も荒くしている。
あの勇者、どうやらなかなかの指使いのようである。
「やはり、このハリ、モミごたえ最高です。私のおっぱいにふわさしいですね」
次の瞬間、何かのスキルが発動したのを感じた。
「えっ」
何やら戸惑っている様子のエリザベスを見ると、先程まで勇者がもんでいた2つの山は跡形もなく消え、更地のようになってしまっている。
そして、隣を見るとスレンダーだったはずの勇者の胸は、先ほど前のエリザベスのようなたわわな感じになっていた。
「あ、あなた、何をしましたの!?」
「あなたのおっぱいが素晴らしかったのでもらっただけですわ」
「勝手に人のおっぱいを盗らないでくださいまして?訴えますわよ」
「ふふ、あなたおっぱいを盗られたといって本気で信じてくれる人がどれだけいると思いますの?」
「あっ…」
「それに、私は勇者ですよ。勇者の言葉と田舎の貴族の言葉、どちらが信じてもらえるんでしょうね」
「う、うぅ…」
涙目で今にも泣き出しそうな感じのエリザベス。
自らのアイデンティティである胸を奪われたショックは大きく、とても見ていられなかった。
というか、俺のおっぱいを勝手に盗んだやつを見逃して入られなかった。
「おい、そこの勇者。よくも俺の女のおっぱいを奪いやがったな」
「あら、あなた。そんな勇者に対してそんな口の聞き方で大丈夫だと思うの?」
「勇者だろうと魔王だろうと関係ない、俺はお前に文句を言ってるんだ。その胸返しやがれ」
「それは聞けない相談ですね。私はこのおっぱい気に入ってますし、そもそも戻す方法なんて知りませんしね」
「なら、力ずくで返させてもらうまでだ」
「勇者に力ずくで挑むとは愚かですね。いいでしょう、受けて立ちましょう」
そういうと、勇者は勇者の剣を取り出し、何か呪文を詠唱し始めた。
俺は、すぐさま『スワップ-パラメータLv2』を発動させ、俺のパラメータと勇者のパラメータを交換した。
「風の精霊よ、かの者たちを拘束せよ『ウインドバインド』!」
俺の少ないMPでかろうじて発動した勇者の拘束呪文だったが、勇者のパラメータを手にした俺を拘束するには力不足ですぐにに霧散していった。
「な、拘束呪文が…。それにこの頭痛…、まさかMP枯渇!あなた、何をしたの!」
「俺の貧弱なパラメータと勇者様の優秀なパラメータを交換してもらっただけだよ」
「くっ、卑怯な。しかし、甘い…!」
そう言うと、勇者は素早い動きでこちらへ切りつけてきた。
「勇者は勇者ってだけでパラメータに10倍の補正がかかるのよ。元があなたの貧弱なパラメータとはいえ、10倍の補正があればわけないのよ!」
「ふぅーん。じゃあ、今度は勇者の称号をもらってあげるよ」
そう言い、俺は『スワップ-スキルLv2』を発動させ、勇者の持っていたスキル『勇者の証』と適当なスキルを交換した。
次の瞬間、先ほどまで軽々と振るっていた勇者の剣の輝きが消え、地面へと落ちてしまったようだ。
勇者は必死に拾おうとしているようだが、重くて拾えないようである。
俺は、必死に剣を拾おうとしている勇者の元へいき、軽々とその剣を拾ってみせた。
「なるほど、これが勇者の剣か、いい剣だな。」
「あなた、なんでそれを持てるの…。まさか…、無い!私の『勇者の証』スキルが無いわ!まさか、あなたが盗ったの?」
「ああ、そうだ、元勇者さん♪あとは、この『マスターシーフ』ってスキルを取り上げればおっぱいも元通りになったりするのかな」
「や、やめて!」
俺のスキルの恐ろしさに絶望し、懇願してくる元勇者であったが、俺は構わず『スワップ-スキルLv2』を発動させ、『マスターシーフ』スキルを取り上げた。
その瞬間、元勇者の体が光りだし、その体から、世界中へと光が飛び出していった。
飛び出していった光の一つはエリザベスの胸へと向かい、エリザベスの胸が元のふくよかな胸にもどった。
また、ショタっ子へも大きな光が飛び出して行き、ショタっ子の体が光りだし収まるとそこには銀髪のイケメンの姿があった。
そして、元勇者の体の光が収まると、そこには小柄で日本人らしい体型の女性が座っていた。
「あぁ、全て無くなっちゃったのね…。もう、なにもかもおしまいだわ」
元勇者はそんな風にうわ言をつぶやいていた。
かわいそうにも思えたが、俺としてはおっぱいの恨みをこれ程度で済ませるつもりはなかったので、俺は笑顔で近づきこう言った、
「さぁて、おとなしくなったところで罰ゲームタイムに入ろうか♪」
「ひっ」
怯える元勇者だったが、その前に立ち俺を邪魔するものがいた、先ほどのイケメンである。
「待ってくれ、確かにまゆみは許されないことをしたが、全て元に戻ったんだしもう十分だろ、許してくれ」
そう言って、イケメンは頭を下げてきた。
「いやだ。確かに元にはもどったかもしれないが、俺の気が済んでない。第一、お前はそれでいいのか?あいつの持っていた『マスターシーフ』の能力はいつでも盗んだものを持ち主に返せたはずだぞ。お前は自分の力を奪って返さずにいたアイツをかばうのか?」
「ああ、そうだ。俺はまゆみのことが好きだ!それは能力を奪われる前も奪われた後も変わらない。だから、まゆみに罰を与えるというなら代わりに俺にやってくれ!」
なんというイケメン的発想。こいつのほうが勇者とか主人公とかに向いてるんじゃないのか?
「よし、わかった、こうしよう」
そう言って、俺は勇者の剣をイケメンに握らせ、『スワップ-スキルLv2』を発動させ『勇者の証』スキルをイケメンに手渡した。
「こ、これは、どういう…」
「罰ゲームとして、お前が代わりに勇者をしろ」
「そんな、お前、勇者の座に興味はないのか?冒険者なら誰もが憧れるだろうに?」
「ああ、無い。てか、勇者になったら色んなところに目をつけられるし、ボランティア的活動をしなきゃいけなくなるだろうし面倒なことしかないだろう。だから、お前が代わりに勇者をして魔王を倒せ」
「わかった、それでまゆみが許されるというなら俺がやる」
さすがイケメン、快く引き受けてくれた。
「ありがとう、そして、ごめんなさい、シン。私のわがままのせいで…」
「惚れた女のために体を張るのは当たり前だろ」
「シン…」
こうして、エリザベスのおっぱい消失騒動は幕を閉じたのであった。
ちなみに、その夜はいつも以上におっぱいを堪能した。
失ってわかるありがたみというやつか、いつもより愛おしく思えたのだ。




