第5話
この世界に飛ばされてからついに1ヶ月が経った。
俺のレベルも先日25になり、Cランク冒険者を名乗っても問題ないだろうということになり、ギルドの依頼なども受けるようになってきた。
みんなが夢見る冒険者生活の始まりである!
…と思うだろう。
だが、現実はこうである。
-ゴブリンがあらわれた-
俺「いけ、ナターシャ!」
ナターシャ「はい、ご主人様!」
ナターシャのこうげき、ゴブリンを瞬殺した。
ナターシャ「ご主人様、ヤリました!素材もバッチリ回収しました」
俺「よしよし、よくやった、ナターシャ」
なんか、ポ○モントレーナーの気分である。
これはこれで正しい奴隷-ご主人様像だと思うが、俺の夢描いていた冒険者生活とはなんか違う気がする。
でも、しょうがないのである、だって俺弱いんだもん。
Lv28になったのに、いまだにパラメータは全て100以下であり、この世界の平均にもなってないのである。
どうやら、運動不足の現代人にはファンタジーの世界はきびしいらしい。
ちなみに、Lv25で覚えたスキルは『スワップ-スキルLv2』だった。
『スワップ-スキルLv1』はPT内の人のスキルしか交換できなかったが、接触していれば大丈夫になったようである。
「よし、討伐依頼の分も終わったし、今日はこれくらいにしておこうか」
「はい、ご主人様」
「そうしましょう、わたしも早く宿にもどってシャワーを浴びたいわ」
今日のゴブリン討伐依頼も終わり、俺達は街に戻ることにした。
ゴブリンの討伐依頼の換金を行うため、ギルドにいくと、入り口には見慣れない貴族のお坊ちゃんらしき男と、メイドの大群がいた。
なんだろうと、思いつつギルドの中に入ろうとすると、声をかけられた、
「やっと、見つけたぜエリザベス姉ちゃん。」
「エミール、なんでアンタがこんなところにいるのよ。」
「そりゃ、もちろんエリザベス姉ちゃんを買うためだよ。お家取り潰しになったエリザベス姉ちゃんのことを俺の奴隷にしてあげようと思ったのに、すぐにどこかにいなくなっちゃうんだもん。とんだ計画倒れだよ。」
「計画倒れって、あんたまさか…。」
「おい、そこのお前。お前がエリザベスの持ち主のセイヤって冒険者か?」
「ああ、そうだが?」
「俺様がエリザベスを買ってやる、感謝しろ」
そういって、貴族の男性はメイドに命じて金貨の入っているとおぼしき大きな袋を持ってきた。
周辺のギャラリーがざわめいていることからして、相当の額なのだろう。
「断る。どんな大金を積まれてもエリザベスのことを手放すつもりはない。帰れ。」
「おい、貴族様の申し入れを断るつもりなのか」
「貴族だから誰だろうが断るといったら断る。」
「本当にそれで後悔しないのか?金で解決しないのであれば、実力行使で冒険者ギルドや宿連盟に圧力を掛けることだってできるんだぞ。」
「それは、面倒だな…。じゃあ、決闘で決めるというのはどうだ?お前が勝てばタダでエリザベスを譲る、その代わり負けたらエリザベスのことは諦めて罰ゲームを受けてもらうという感じだ。」
「それを俺が受けるとでも?」
「ハンデとして、お前は護衛のメイドたちと一緒で、俺はエリザベスとナターシャの3人で戦う。これならどうだ?」
「決闘の内容はどうする?」
「直接戦いところだが、貴族様を傷つけるとなると何かと面倒になりそうだ。なので、岩の迷宮という迷宮のボスを先に倒した方の勝ちというのはどうだろうか?」
「ふざけるな、そんなの冒険者のお前のほうが有利すぎだろ」
「まさか、元Aランク冒険者の護衛を連れてるのに勝てる自信がないとは、さすが屋敷育ちのひよっこだな」
「き、貴様…。そこまで言うならその決闘受けてやろう。ただし、準備もあるから決闘は明日の昼からだ。」
そして、冒険者ギルドの職員に見届け人になってもらい、正式に決闘を受けることになった。
貴族の男性は早速決闘のためにギルドの資料で情報収集しているようだったが、俺達は何度も通っているダンジョンなので、そのまま宿に戻ることにした。
「ふぅ、なんだか面倒なことになっちゃったな~」
「すみません、私のせいで…」
「そういや、あいつとは知り合いなのか?」
「ええ、私のお父様の領地のお隣が領地がエミールの父親の領地ですわ。なので、エミールとはパーティーなどでよくお会いしたものですわ。」
「計画倒れとか言っていたが、あれはどういうことだ?」
「私のお父様は何者かにハメられて殺さてたのですわ。国家機密を他所の国に流したとか密告があり、強制捜査されて、あるはずの証拠が次々と発見され、気づいた時には死刑・お家つぶしが決定されてましたわ。
でも、どう考えてもおかしいですの。あの優しいお父様が国家機密を流すなんてこと行う訳ありませんし、そもそも私達が住んでいたところは片田舎の農業地域で国家機密とは程遠いですわ。密告から処分までも早すぎますし、何者かにハメられたとしか思えないのですわ…。先ほどのエミールの口ぶりからして、エミールの父親が手を回していたのかもしれませんわね…」
「まあ、あの言い方からして、少なくとも無関係ではないだろうな」
「ご主人様、差し出がましいですがお願いがあります」
「なんだ」
「絶対勝ってください」
「ああ、言われなくてもそうするつもりだ」
そして、翌日。
俺達は岩のダンジョンの前に集まった。
「これより、エミール・ラン・シュライン氏とセイヤ氏の決闘を執り行う。先に迷宮のボスであるダイアモンドゴーレムを倒した方の勝ちとする。なお、夕刻6時までに倒せなかった場合には、より多くのダメージを与えた方の勝ちとする。また、両者ともに奴隷の随伴を許可するものとする。
エミール氏が買った場合にはセイヤ氏の所有する奴隷:エリザベスの所有権を譲り渡すこと、もし、セイヤ氏が買った場合にはエミール氏は奴隷:エリザベスのことを諦め、セイヤ氏の望む罰ゲームを受けること。
以上。
両者、異論はありませんか?」
「「ありません」」
「では、これより、決闘を開始します」
ギルド職員がそう言うやいなや、エミール達はダンジョンの中へと駆け出していった。
俺達も急いでダンジョンの中を急いで進んでいったが、俺の運動能力が低いせいもあり、すぐに引き離されてしまった。
ちなみに、エミールの奴は小柄なこともあり、護衛のメイドにおぶってもらいながら移動しているようだ。
いくらダンジョンの中で見ている人がほとんどいないとはいえ、よく恥ずかしくないな・・・
「ねえ、ご主人様、あたしもご主人様のことおぶりたいのですがダメでしょうか?」
「ダメに決まってるだろう。あんな羞恥プレイ俺には早過ぎる。」
「でも、この調子だと先にボスに到達されてしまうわね」
「まあ、大丈夫だろう。どうせ、ボス部屋に先についたからといって、1時間や2時間で倒せるボスではないからな」
30分ほどかけボス部屋に到達すると、案の定、エミール達はボスに苦戦していた。
それもそのはず、ダイアモンドゴーレムは非常に固く、魔法も効かないため、普通は4時刊以上の時間をかけ、じわじわとダメージを与えて倒すようなボスなのだ。
「くそー、急げ、早くしないとあいつらが来ちまうぞ。」
エミール達は攻撃重視で急いでいるようだが、どうやら最大HPの1割も削れてないようだ
「ご主人様、我々も行きますか?」
「いや、あいつらが離れるまで少し待っておこう。今行っても俺たちがトドメを刺せるとは限らない」
物陰に隠れエミールたちの様子を見ていると、エミールがしびれを切らして大規模呪文を発動させようとしているようである。
「いけ、『エターナルフォースブリザード』!」
厨二病全開の魔法はダイアモンドゴーレムに直撃するものの、ほとんど効いていない様子で、ゴレームはそのままエミールの方へと進んできた。
「ひぃ」
恐怖にのけぞるエミールであったが、大規模呪文を放った衝動でうまく体が動かない様子である。
メイドたちは慌ててエミールの元へ行き、エミールをおぶって一旦引いて安全を確保しようとしてるようだ。
これは、チャンスと思い、俺達は一斉に前に出た。
俺はせまりくるゴーレムの足にしがみつき、『スワップ-パラメータLv1』を発動させゴーレムの守備力と俺の守備力を交換した。
次の瞬間、エリザベスの斬撃によりゴーレムは真っ二つに割れ、決闘の勝敗がついた。
エミール達はあまりの出来事に信じられない様子で必死に不正だインチキだと訴えていたが、ギルドの職員の確認により、俺達の勝利は確定された。
さて、勝利が確定したところで罰ゲームのお時間である。
事前に魔力のこもった誓約書を書いていたので、強制履行させてもらうことにした。
ギルドの立会人達には、「部屋で一晩かけて恥ずかしい罰ゲームをさせる」とだけ言い、エミールとメイドの代表1人を防音施設のある宿の部屋へと連れ込んだ。
「貴様、こんなところに連れてきて何をするつもりだ。万が一、俺様に傷をつけてみろ、訴えてやるぞ」
「安心しろ、恥ずかしいかもしれないが傷をつけたりはしないから安心しろ。ところで、そこのメイドさんとお話したいんだが、お名前はなんて言うのかい?」
「私はレミアと言います」
「レミアさんはあの中でもずば抜けて強くてすごかったよ。さすが元Aランクなだけあるよね。他のメイドさんたちへの指示も的確だったし、本来ご主人様っていうのはこうあるべきだよね」
「貴様、何が言いたい!」
「いや、君みたいなゴミみたいなのが跡継ぎだと考えると、シュライン家も大変だろうなと思ってね。そこで、跡継ぎを変わってもらおうかなと思うんだよね」
そう言って、俺は二人に触れ、『スワップ-ポジションLv2』を発動させ、エミールの【貴族(跡継ぎ)】とレミアの【奴隷】を交換した。
次の瞬間、部屋の中に光があふれ視界が真っ白になった。
視界が戻ると、そこには執事服のようなものを着たエミールとお嬢様のような服を着たレミアの姿があった。
「こ、これは、一体何をしましたの・・?」
「貴様、一体何をした!」
「ゴミみたいな跡継ぎとメイドの立場を交換してあげたんだよ。でも、君たち思ったよりは似合ってないね。」
「そりゃそうだろ、俺様は貴族の方が似合ってるんだ、早く直せよ!」
「うーん、そうじゃなくてね…」
エミールは元々、童顔で体つきも華奢なのですらっとした執事服が似合ってないわけではないのだが、俺の中だと執事はデキる男的なイメージが有るのでなんか違う気がするのだ。
一方のレミアも凛としていて貴族の夫人としてはきれいなのだが、跡継ぎというとなんか違う気がするのだ。
「そうだ、ついでに性別も交換してみようか」
そう言い、俺は『スワップーポジションLv2』を発動させ、エミールの社会的立場の【男】とレミアの社会的立場の【女】を交換した。
また部屋が光りだし、それが収まると、そこには女装しメイド服を着たエミールの姿と、どこぞの歌劇団のように男装しだレミアの姿があった。
「うん、やっぱりこの方がお互い似合ってるよ、エミーちゃん♪」
「な、なんですの、これ。なんでわたくしこんな女みたいな格好していますの!?って、あれ、なんで、わたくし女みたいな言葉遣いになってますの?」
「それは、エミーちゃんは今は社会的には女の子だもん。女言葉でしゃべるのが当然でしょ。あ、ちなみに社会的な立場を変えただけだから、お○んちんはそのままだから安心してね」
「そ、そんなの信じられませんわ~」
あわてふためくエミール改めエミー。
「レミアもその格好似合ってるね」
「そうかい?そう言ってくれるとボクも嬉しいよ。ちょっとびっくりしちゃったけど、ボクとしてはこっちのほうが自分の本質に近い気がするんだよね。ボクってもとから男勝りなところがあったからね」
「男の俺からしても、十分美形な貴族の男子になってると思うよ」
「うん、ありがとう。ところで、罰ゲームはこれでおしまいかい?」
「いや、最後にメイドとしてのスキル交換してあげようかな。このままダメなメイドなのもかわいそうだしね」
そう言って、俺は『スワップ-スキルLv2』を発動させ、魔法などの戦闘系スキルや帝王学などの貴族系の知識スキルと、メイド系のスキルを交換した。
魔法や貴族としてのスキル・素養も失ったことを知ると、エミーは泣き崩れてしまった。
「これで、今度こそエミーちゃん完成かな」
「ありがとう、ボクもこんな可愛いメイドをもらえてうれしいよ」
「あ、そうだ、エミーちゃんにはまだ聞かないといけないことがあったんだ」
「ぐすん、なによ…」
「エリザベスの家の件なんだけどね。エリザベスの家をハメたのってエミーちゃんのお父さんだったりするの?」
「どうせ、気づいているようですから言いますけど、そうですわ。わたしがお父様にお願いしてエリザベス姉ちゃんの家をお家つぶしになるようにお願いしたんですわ。」
「そんな、エミール、なんであなたそんなことしようと思ったの?」
「だって、エリザベス姉ちゃん、いつも明るくて幸せそうで。わたしはそんなお姉ちゃんが羨ましくて妬ましくて、全てをぶち壊して私だけのお姉ちゃんにしたかったから…」
「そう、エミールがそんな風に私を思ってくれてたなんて…。そうね、これはお仕置きが必要なようね」
「えっ」
「ねえ、レミアさん、わたし、先輩奴隷としてエミーちゃんに教育的指導を行いたいんですけどいいかしら?」
「ああ、いいよ。ボクも教育的指導をしたかったところだから、一緒にどうかい?」
「あら、いいわね」
「え、そんな、冗談だよね、レミア、エリザベスお姉ちゃん」
「レミア様、エリザベスお姉さま、ね♪」
笑顔でせまりくる2人に、エミーはただ恐れに震えることしか出来ないようだった。
後日、エミーの調教はうまくいったようで、レミアの側には恥ずかしがりやでおとなしいメイドの姿があった。彼女(?)はメイドたちの中でもオモチャ扱いで、主に昼・夜問わず弄ばれているらしい。
エミールの実家からまた圧力をかけられても困るので、エミールの実家に出向き対策を打っておいた。
エミールの父親とスキルとその奴隷のスキルを交換し、奴隷のスキル:【正直者】をつけた上で密告しておいた。
【正直者】は嘘をつけなくなるスキルであり、数日後にはエミールの父親は多数の罪で捕まり、その後死刑となり処刑された。
自首であったことから減刑され、エミールの家は領地を縮小したもののお家つぶしにはならなかった。
当主の座には跡継ぎだったレミアがつくことになった。あのメイド達をうまくまとめていたレミアなら、当主もうまくやってくれるだろう。
そしてそれに伴い、エリザベスの家も復興することとなった。
当主はエリザベスが行うことになったのだが、それに先立ち、奴隷から開放して置いたほうがいいだろうということで、俺達は奴隷商のところへ行き、奴隷解放の手続きを行っていた。
「では、これでお客さんの奴隷解放手続きは終わりました」
「エリザベス、これまでご苦労様だったな」
「ええ、あなたの元で働くのは大変でしたわ」
そう言う、エリザベスはなにか寂しげだった。
「これからは、貴族として、ちゃんと家を復興するのをがんばれよ」
「…それなのですが。」
「ん?」
「あの…、その…、よければ私と結婚して、一緒に来てくださりませんか?」
「俺に何のメリットがあるっていうんだ?それに、俺は貴族的なしがらみとか領地管理とか面倒なことやるつもりはないぞ」
「貴族的なこととかはやらなくていいです、ただあなたに一緒に来て欲しいのですわ。そのためなら、三食昼寝付きの環境だって提供しますし、夜のご奉仕だってしますわ。」
「俺は、この通り気分屋だ。一箇所のところにずっといるつもりもないし、他の女や奴隷をつくるかもしれないぞ?」
「それも覚悟のうえですわ。ただ、旅からもどってくる家が私であれば問題ありませんわ」
「…ふぅ。女にそこまで言われたら断れないな。よし、結婚してやるよ。」
「あ、ありがとうございますわ」
こうして、俺達は結婚することになった。
そして、二人+奴隷とかは幸せに暮らしたのでした。(完)
…じゃないよ!
あと、ちょっとだけ続くよ!