第2話 初手はタックル
パッといきなり、夜が昼へとひっくり返ったかのように、部屋の中が明るくなった。
ユヅキは思わず目を覆う。
それと同時に部屋の中に響きわたる女性の声。
「アシュリィーーーー!!!」
金切声と呼ばれる類いのそれを上げた存在は、メイド服特有の黒スカートを翻し急速に駆ける。
ベッドの渕で飛び上がるとそのまま、驚きと眩しさに固まったままのユヅキにタックルをかました。
クリティカルヒットを食らったユヅキは勢いそのままにベッドの上を転がり、俯せになった所を確保される。
上に乗られ、後ろ手に拘束されたユヅキは全く動くことができない。
「ちょっと、い、いきなり何ですか? あっ、イタッ!」
「黙れ変態、今アシュリーを襲おうとしてただろう! 私の目が誤魔化せると思ったのか! おまえどこの部署だ、顔見せろ」
器用にもユヅキを拘束したまま、顔を確認する女性。
ユヅキの視界に入ったのは、長く垂れ下がる銀髪と切れ長の瞳。
ちょっと、いやかなり怖いその表情に、ユヅキは小さく息を飲んだ。
「ん? 見たことのない顔だな……何者だ。今ここで答えるか、後で苦しみながら答えるか、さっさと選べ」
変態に加え、不審者認定されたらしい。
ユヅキを覗きこむその瞳がさらに細く引き絞られる。
襟周りにあしらわれている可愛らしいレースが強烈な違和感を発する鬼の形相に睨まれ、ユヅキは痛みも忘れてパニック状態になる。
自分が何者なのか? それを知りたいのはむしろユヅキ自身だ。
気がつけば見知らぬ寝室で女子に襲われ、そして今は拘束されている。
ここがどこなのかも分からない。
質問に対する答えを持ってはいなかった。
「チッ……あと5秒だ」
銀髪さんが始めるカウントダウン。
ユヅキの頭はもはや何も考えることができず、無意味な、意訳すれば「助けて」の嵐が思考を蹂躙していた。
しかしその状況で、ひとつの影が動き出す。
先程までユヅキの名を呟き続け、その結果ユヅキに襲われそうになった(?)少女。
アシュリーと呼ばれた、金髪碧眼の少女であった。
のそりと身を起こしたそれは、銀髪美女が黒髪少年を抑えこんでいる状況を認識すると、
「ユヅキーーー!!!」
耳がつんざかれるような叫び声を上げ、そして動いた。
曲げられた足に蓄えられたバネの力を完全解放したその動作は、あろうことか先程銀髪女性がユヅキに繰り出したタックルを凌ぐ速度を記録すると、驚愕の表情を浮かべた銀髪さんにクリーンヒットした。
衝突の勢いそのままに、2人はベッドの上を舞う。
しかしその勢いが殺される前に、ベッドの限界が訪れた。
ゴンッといういかにもな音を響かせて頭側の壁に激突した銀髪さんは、そのままピクリとも動かなくなってしまう。
一方見事なタックルにより何故かユヅキを救出した金髪少女アシュリー。
彼女はユヅキを振り返ると、モゾモゾとその横に並ぶように移動し、ユヅキの肩にもたれかかってきた。
そのままほっぺスリスリなどしている。
「えっと……どういう状況なんですかねこれ? ていうか彼女死んでませんよね?」
ユヅキの問に答えてくれる者はいなかった。
次回:ユヅキくんお姉さんに尋問される