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超豪華宇宙客船ヴァルキュリア - 戦乙女と異邦人 -  作者: Rihitone
第1章 俺はこうして捕まった
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第1話 目覚めは極上のベッドの上で

 2つ、並行に並んだベッド。

 天蓋こそ無いものの、その柔らかさは使用者の疲れを吹き飛ばし、快適な朝を迎えさせてくれること請け合いである。


 そこには今、1つの膨らみと1つの人影があった。

 それも1つのベッドの上にである。


 膨らみは、布団をかぶり仰向けに眠る黒髪の少年のもの。

 暗い部屋の中にあってもその存在が分かる、不思議な黒だった。

 日本人の特徴を持つ整った目鼻立ちは、可愛らしい少女と言われても疑いようがない。

 今の状況ならば10人いれば10人が性別を見誤るであろう。


 一方人影は、その膨らみの上に四つん這いでまたがっている。

 それは金髪の少女。

 長く垂れ下がった髪が邪魔で、その表情はよく伺えない。

 首筋から覗く白く透明な肌は、光源の殆ど無いこの部屋の中で穏やかに輝いているかのような錯覚を生んでいた。

 だが、その周囲の静けさに逆らうかのように少女の息は荒い。


 ハァ、ハァ、スゥ、ハァ、スゥ……


 そのリズムも、まるで少女の心の焦りを表したかのように不規則である。

 しばらくそうしていた少女だったが、やがてなにがしかの結論に達したらしい。

 四つん這いだった姿勢を起こし膝立ちになると、ゴクンと大きく唾を飲み込んだ。

 だらんと下げられていた両手をゆっくり、少年の首を包むように添えると、あたりを切り裂くような叫び声とともに力を込めた。


「オマエ ハ ダレダ!」


 疑問の声を、その容姿とは程遠い声で叫びあげた少女。

 勢いで顔が顕になる。

 食いしばられた歯は、ギリギリと音を立てるよう。

 筋の高い鼻は西洋系だが、そこまで堀は深くない。

 普通にしていればいくらかの幼さを感じさせるであろうその顔立ちも今は歪み、碧眼はギラついていた。

 その視線はベッドで眠る少年の顔へ、ほんの僅かな変化も見逃さないとばかりに注がれている。


 さて、至福の睡眠を堪能している人が首を突然絞められたとしたら、その人はどうするだろうか?

 答えはもちろん、「目を覚ます」である。

 よって、この首を絞められた少年もまた、この突然の命の危機に瀕してその意識を取り戻した。


「カハッ」


 所謂声にならない叫びを上げた少年は、その目を本能的に開き、そして襲撃者と目が合った。


 純粋に黒を湛えた瞳。

 淡い蒼穹の瞳。

 薄暗い中にあっても、不思議と良く見えた。


 被害者と加害者。

 二人はしばし、共に動かない。


 黒髪黒目の少年。その首に宛がわれた少女の細い腕、既に力は入っていなかった。


 お互いに固まったままのその状況も、しかし少年の一言により動き出す。


「えっと、君誰?」


 既に開かれた碧眼をもう一度広げようとするかのようにピクリと反応させた少女は、


「アッ……ウッ……」


息をつまらせながら体を起こし、そしてそのまま仰向けにベッドにひっくり返った。


 余りに意味不明なこの流れに驚いたのはもちろん少年の方である。

 絞められていた首を擦りながらゆっくりと身を起こし、恐る々といった調子で様子を伺う。


 少女は依然仰向けのまま、時々痙攣している。


「だ、大丈夫?」


 問いかける声は、男を感じさせない高い声。

 だが少女の反応は無い。


 仕方なく近寄ろうとしたところで少年は、自分が一糸纏わぬ姿であることに気がついた。


(えっ、何? 何で裸?)


 裸で寝た記憶など無かった。

 掛け布団をかき集めるようにして身を覆い、キョロキョロと辺を見る。


(そういえば、ここドコ?)


 照明がほとんど落とされた室内は薄暗い。

 それでもここが住み慣れた自室で無いことは明らかだった。


(広い、いや広すぎる…)


 少年は学生だった。

 大学2年の寮住まい。

 見た目は少年、中身は大学生。つまりそういう人間だった。

 数学の課題を適当に終わらせて、ベッドなのかソファなのか区別の付かないものの上に寝転んだのが最後の記憶だ。

 それが気がつけばこうである。


 何がしたかったのか分からなかったあの子も未だにピクピクしている。

 どうしていいのか分からなかった少年は、


「えっと、俺の名前は……」


 何故だか自己紹介を始めようとして、状況に混乱している自分に気づいた。


「ハァ…何やってん「ミカムラ」…ん?」


 小さく聞こえた声。


「ミカムラ、ミカ、ムラ……」


 繰り返される。

 少年の背筋は極度の緊張を帯びたように伸び、その目は大きく見開かれている。

 ミカムラ、それは少年の名字だった。


「ミカムラ、ミカムラ、ミカムラ」


 さらに繰り返されるその音は、間違いなく、ベッドにひっくり返っている少女から発せられたもの。

 やがてそこに変化が現れる。


「ミカムラ……ミカ…ユヅ…キ」


「えっ?」


 少女から発せられた新たな音「ユヅキ」。

 それは紛れもなく少年の名前であった。


 ミカムラユヅキ。少年の名を知っている少女。


 だがその様子はどう見ても普通ではない。

 未だに「ミカムラユヅキ」とそればかりを繰り返している。


(さすがに限界だよなぁ……)


 逃避を諦めた少年は、少女の様子を伺おうと、寝巻きでひっくり返ったその姿を、覆い被さるように覗き込んだ。


 部屋がいきなり明るくなり、女性の叫び声が響き渡ったのはその瞬間だった。


次回:ユヅキくん、強制わいせつ罪でタイーホ?



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