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魔法使いなら

作者: 小芙菜

家の前にある、昔から続いてるレールを辿って行ったその先は川べりの運動公園でした。


「ま、わかってたけどね・・・。」


歩いて20分とかからないその場所は、以前は国内最大級の工場だったそうだ。

まだ汽車が貨物を引いていた時代の話。

いつの話だよ!って誰かが突っ込みを入れるであろう、遠い遠い昔の話。


子供の頃はこの線路を辿っていくと、魔法の国に行けると信じていたんだ。

だから皆に言ったのだ、「魔法使いになる」と・・。


あの頃はよかったよなー・・。

男女関係なく遊んで、ご飯食べて寝れば良いだけだったのだから。


それが今はどうだ、只のしがないフリーターだ。

就職活動超氷河期世代はもう三十路ですよ。

スーパーのパートで月12万なんて、良いのか悪いのかすら分かりませんよ。

自立するにも家賃払ったら残らないような給金じゃ、実家暮らしが良いに決まっている。

親は誰が結婚しただの子供が出来ただの五月蝿いけれど、出会いもありませんよレジパートじゃぁネ!!


・・・いかん、愚痴しか出てこない。


草むらを掻き分けて、レールを辿ってきた運動公園は夕方の4時になるところ。

サッカーの試合も野球の試合もゴルフの素振りも、そろそろ終わりにして帰る時間だ。


チラチラ遠巻きにこちらを見ている人たちが居るのに気づく。

引き上げようとしている所に、ボサボサの女が草むらから出てきたのはかなりおかしな人に見られただろう。

そんなの今更どうでもいいけど、お巡りさんを呼ばれない内に帰らねば・・。


目の前の車止めに自分の終点を見た気がして、一つ溜息を溢す。


「魔法使いなんて居ないって判っていても、足掻いて見たくなるのは悪い事じゃないはずだ。」


「だったら、もう少し人生も足掻いてみたらどうだ。」


独り言に返事が帰ってきたのに驚いて声の方を見れば、そこには最近流行のイケメンと呼ばれる男が、不快そうな顔でこちらを見ている。

程よく引き締まった体つきに健康そうな肌が、私と正反対だと告げる。


「いい加減、前を見ろ。」


「聞こえません。」


「この歳で耳が悪いとは・・・、頭だけならまだしも絶望的だな。」


「早く帰って、テレビ見よう。」


先程まで何らかのスポーツをしていたであろう男は、ますます眉間に皺を寄せながら近づいてくる。

汗臭いので寄って来られるのは勘弁して欲しい。

あぁ、男の方が汗臭そうだ・・。


そういえばこの男、一部上場の企業に勤めるやり手のエリート(お母さん情報)だったな。

女の噂が絶えずあって、いまや地元のスーパースターだ。

そういやこの公園で地元の愉快な仲間達チームと練習しているとか何とか・・・、聞いたことがあったような無いような・・?


昔から顔はいいけど、青ハナ垂らしてカピカピになってた男を知っているだけに、もてるとかってありえない(失笑


「おい、何面白い顔してんだよ。」


進学校に行っても有名大学に行っても、腐れ縁だった男の親友から聞いたことがある。


「あいつ、もてる割りにいまだ童貞だよ。そのうち拗らせて魔法使いになるかもね。」


!!!


なんと!!


童貞拗らせると魔法使いになれるのか!!

これは良いことを思い出した。

あいつはもしかしたらもしかすると・・・私がなりたかった魔法使いになったのかも知れない。


動きを止めて何か考える様子の私を、訝しかった男が私の肩に手を置こうとしたした瞬間だった。


「あんた、どうてい?」


私の一言に手を止めた。


「は?」


「あんた、童貞なの?」


男の顔をようやく見た私は、カメラを持ってこなかったことに激しく後悔した。

イケメンは顔が崩れてもイケメンには変わりないが、あんな顔は見たことが無い。

男の顔が赤くなったり青くなったり、くるくる変わっていくのは面白い。


「童貞を拗らせると魔法使いになれるって知ってるよね?」


「はぁ?!」


お前いきなり何言い始めたんだと思われていても、私は止められない。


「大学の時、童貞だったってのは知ってるんだよ!! その顔で大学生年齢=彼女居ない暦なんだから今でも童貞だってわかるんだよ!!

さぁ、魔法を見せてみろ」


まったくもって訳分からない理屈で攻める私に、無駄にイケメン野郎はだんだん無表情になっていく。


「魔法か・・・、昔言ってたな、魔法使いになるって。ふーん・・そうかそうか・・」


最後の方は独り言に近い呟きで、男は考え始めている。

あいつの考える事は、いつだって凡人以下の私には理解できない。


「まぁいい、二ヶ月後にでも吃驚させてやるよ。」


にやりと笑った顔が、魔法使いよりも悪魔の方が近い邪悪な笑みだったのを、私は見逃さなかった。

かといって、だからどうしたって事もなく「じゃあ、二ヵ月後に楽しみにしているよ」なんて模範解答しか返せなかった私に非はなかったはずだ。



二ヶ月後、魔法使いはビックリどころか私を恐怖のどん底に落としたのだ。





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