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カーボンナノチューブの冒険

作者: 星井湾

 僕のご主人が4ボルトの電圧をかけたとき、僕たち家族はちりぢりになってしまった。たった4ボルトの電圧でも、ね。僕たちは弱いんだ。本当は、0.4ボルトの電圧をかけるはずだったんだけど、そのときご主人はとても疲れていたみたい。4ボルトの電圧がかかるとすぐに、僕たちの周りはすごく熱くなって、そうするとあいつらがやってきて、僕の家族たちを次々に空中に連れ去ってしまったんだ。僕のところにもすぐに、二人組がやってきて、僕の両肩をぐっとつかんで、そいつらに空中に連れていかれた。地面から離れていくとき、僕のいた場所には、焦げカスになって残った家族と、パラジウムさんが点々と残っているのが見えた。パラジウムさんはとてもめずらしくて、人間の世界ではとても値段が高いらしいんだ。僕はパラジウムさんに手を振ったけど、向こうは気がつかなかったみたい。


 二人組の名前はオクスとジェン。始めはちょっと乱暴だったけど、一緒にいるうちにいい奴らだと思えるようになってきた。僕たち三人ははじめ、ご主人のいる部屋の中をぷかぷか浮かんでいたんだけど、そのうち窓から外に出て、大きな空をただようことになった。外の世界は初めてだったよ。ご主人のいる、大学っていう場所は、とても広くて、いろんな形の建物がならんでいた。


 空を漂っている途中に、いろんな人に出会ったよ。その中でも、特にすごかったのは、僕と同じ見た目をしたおじいさんの話。おじいさんは、何万年か、もっと長い時間、地下深くで眠ってたんだって。その前は、植物の一部だったらしい。『恐竜』っていうものを見たことがあるって、自慢してた。おじいさんは最近、人間の手で地中から掘り出されたらしい。そのあと、いろいろあったらしいけど、最後は『エンジン』っていうところで燃やされて、今は空をただよってるんだって。燃やされたのは僕と同じですね、っていったら、おじいさんはちょっとむっとした様子だったなあ。


 そのあと、僕たちは風にながされて、ある田舎までやってきた。オクスとジェンが、向こうに見える葉っぱのところまで行こう、面白いものが見れるぜ、といったから、僕たちはその葉っぱの中に入っていったんだ。おどろいたよ、葉っぱの中には工場あったんだ。たしか、『クロロプラスト』っていう名前の工場だった。『クロロプラスト』の中では、マグネシウムさんが中心になって、いろいろな人たちがあわただしく働いていた。なんでも、この工場は、光を集めて、そのエネルギーで動いているらしい。そこで僕はマグネシウムさんに、ここに住まないか、ってきかれたんだ。そろそろ空を飛ぶのにも飽きてきていたし、オクスとジェンとはここでお別れして、僕は植物の一部になることにした。それに、そうすればもしかしたら、『恐竜』が見られるかもしれないと思ったからね。


 僕にはあたらしい家族ができた。僕の最初の家族は『カーボンナノチューブ』。今度の家族は『グルコース』。なんだかちょっとむずかしいね。植物の中には、本当にいろんな種類の人がいて、おもしろかった。パラジウムさんはいなかったけどね。そのあと僕は何ヶ月か、植物の中にいたんだけど、あるとき人間が、僕らの住む植物を刈り取って、どこか遠くへ運んで行ってしまったんだ。今度は家族とは一緒だったけど、僕たちがどこに連れて行かれるのか、不安でしようがなかったよ。


 僕たちが連れて行かれた先には、機械がたくさんおいてあった。僕が大学で見たどの機械よりも、ずっと大きくて、それがひっきりなしに動いていた。僕たちはそこで、砕かれたり、かきまわされたりして、最後には200℃くらいの温度をかけられた。200℃はかなり熱かったけど、今度は燃やされずにすんだよ。それから、僕たちは透明なふくろに詰められて、またどこかに運ばれていったんだ。


 着いた先はなんと、ご主人がいる大学だったんだ。これってすごい偶然だよね。僕も信じられなかった。今僕は、その大学の中にある、小さいコンビニみたいなところに売られている。もしご主人がここにきたら、僕を買ってくれるかな。それもすごい偶然だけどね。まあいいや。こうやってパンになって、誰かに食べられるっていうだけでも、何かの自慢にはなりそうだもんね。


<補足>

カーボンナノチューブ・・・炭素からなる小さなチューブ

クロロプラスト・・・葉緑体

グルコース・・・ブドウ糖

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