暇つぶし短編③-1 暴力ミッキー (暴行編)
ミッキーだって怒るときはあるよ。
我慢の限界。いつも笑顔で温厚なミッキーが切れた。
今日はずっと不機嫌だった。
今朝、足立区保木間3丁目の築40年木造モルタル2階建て風呂無し1K家賃3万8000円礼金なし敷金1ヶ月の自宅アパートの玄関を出る際、隣に住む20代錦糸町風俗店勤務歴2週間未だ指名なし風の女から変な目で見られた。
浦安に向かう電車内では、頭頂部寂しくヨレヨレのスーツ姿で周囲に加齢臭を撒き散らし顰蹙をかっているのに何食わぬ顔でスマホゲームに熱中している中年男の3年前に東京靴流通センターのバーゲンセールでPayPay購入したと思しきビジネスシューズで思いっきり足を踏まれた。その男は何も言わずスマホに目をやったまま次の駅で降りた。
そんなこんなで朝からむしゃくしゃしていた。でも夢の国ではおどけなければならない。
仕方なく、不本意ながら、生きていくために止むなく、いつものようにニタニタ笑みを浮かべながら精一杯おちゃらけた。
お年寄りの一団が近づいてきた。今日は近くの老人ホーム「杉風苑」の遠足だった。車椅子に乗っている老人も何人かいる。それに付き添いの介助者男女が数名。
お年寄りの一人が言う。「ミッキーと言っても中にはむさ苦しい男がいるんじゃねえか」。
みな大笑いする。
「そんなことないわよ。夢の国でしょ。ミッキーの中は可愛い女の子よ」とおばあちゃまの声。
「今人手不足だろ。若い女の子はこんな低賃金バイトやらないよ。やってるのはだいたい木造アパートで一人暮らししているむさ苦しいおっさんだよ。なあミッキー」。
「夢を壊さないで。でも案外そうかもね」。
「ギャハハー」と高齢者のものとは思えない大爆笑が起きる。
「許せねえ」、堪忍袋の緒が切れた。
ミッキーは手当たり次第にお年寄りたちへ体当たりする。バタバタ倒れる高齢者たち。そこへ殴る、蹴る、踏みつける、おしっこかけるの暴行。現場は騒然とした雰囲気になる。騒ぎを聞きつけたミニーやグーフィーが止めに入るが興奮したミッキーの暴行は収まらない、どころかさらに激しくなる。いつものニヤけた表情でお年寄りへの暴行を繰り返す。まさに地獄絵図。恐怖に慄いた介助者男女は一目散に現場を離れる。取り残されたお年寄りは放心状態でされるがまま。「痛い」、「苦しい」、「助けて」、「やめてミッキー」、、
暴行は10分以上続いた。ようやく警察が到着。「ミッキー、14時53分、暴行罪の容疑で現行犯逮捕する」。手錠をかけられたミッキーが警察車両に向かう。いつものニタニタ笑いを浮かべながら。
奇しくもこの日は9月の第3月曜であった。
ミッキーの気持ちはわかるけれど、相手はお年寄り、手加減しないと。




