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悠久の別れと、???

あれから、月日が流れた。


王立アルカディア魔法学校の講堂は、春の暖かな日差しと、別れを惜しむ生徒たちの涙、そして希望に満ちた笑顔で溢れていた。

今日は、彼らの『卒業式』である。


「……卒業生代表、レオンハルト・ヴァン・アークライト」

「はっ」


学園長から卒業証書を受け取ったレオンハルトの顔つきは、入学当初の傲慢さや、その後の胃痛に苦しむ姿からは想像もつかないほど、精悍で、気高い『大人の男』の顔になっていた。


あの大戦の後。

魔界の王であるヴラドとエリーゼ(セレスの両親)が人間界に「娘の友人への挨拶」という名目で降臨したことをきっかけに、人間と魔族の歴史は大きく動いた。

レオンハルトは、セレスという『最強のパイプ役』の存在を最大限に活かし、持ち前の頭脳と特級の政治力、そして己の魔法の実力を以て、長年争い続けていた人間界と魔界の間に、奇跡的な『不可侵および友好条約』を結ばせたのだ。


虚像の英雄ではない。彼は今や、帝国史上最年少で二つの世界に平和をもたらした『真の伝説の英雄』として、歴史にその名を刻んでいた。


式典の後。

中庭で空を見上げていたレオンハルトの背後に、厳格な父が歩み寄った。


「……見事な答辞だったぞ、レオンハルト」

「父上……」


かつて「アークライト家の恥だ」と息子を罵倒した父は、今、その威厳ある顔を穏やかに崩し、レオンハルトの肩に静かに手を置いた。


「魔族との和平。貴族の反発を抑え込み、己の力で全てをまとめ上げたその手腕……そして、誰よりも仲間を信じ抜いたその強さ。……お前はもう、私を超えた。アークライト家の真の誇りだ」

「……! ありがとうございます、父上」


レオンハルトは、かつてのように胃を痛めることも、虚勢を張ることもなく、ただ真っ直ぐに父の瞳を見返した。

己の弱さを認め、規格外のバケモノ(セレス)に振り回されながらも必死に足掻いた日々が、彼を本物の英雄へと育て上げたのだ。


◆ ◆ ◆


一方、校舎の裏手では。


「ソフィア殿。魔法陣の術式構築、および魔力充填は完了しましたか?」

「ええ、クロエさん。徹夜で古代魔法の禁書を解読した甲斐がありましたわ。座標の固定も完璧です」


そこには、騎士団からすでに特級騎士(最年少)としてのスカウトを受けているクロエと、帝国最高のサポート魔導師として名を馳せるようになったソフィアの姿があった。

二人は卒業の余韻に浸るどころか、地面に何やら禍々しくも複雑な巨大魔法陣を描き、真剣な顔で頷き合っていた。


「よろしい。私の盾と剣も、限界まで研ぎ澄まされています。いざ、参りましょうか」

「ええ。私たちの愛を、見せつけてやりますわ」


二人の乙女の瞳には、卒業の寂しさなど微塵もない。あるのは、ただ一つの狂気的とも言える『愛と執念』だけだった。


◆ ◆ ◆


——その頃。

人間界から遠く、遠く、気が遠くなるほど離れた別次元。

永遠の夜が続く魔界の最深部、ヴラド王の城のバルコニーにて。


「…………」


セレスは、豪奢な真紅のドレスに身を包み、手すりに寄りかかって夜空の紅い月を見上げていた。

人間界に平和が訪れた後、彼女は両親と共に、本来の故郷であるこの魔界へと帰還したのだ。


「もう、みんな卒業しちゃったんだなぁ……」


セレスの白い手のひらには、小さなガラスの小瓶が握られていた。

それはかつて、戦争へ向かう前に、ソフィアが「私の血が、セレスさんの力になりますわ」と言って渡してくれたもの。

セレスはその小瓶を、宝物のように大切に、愛おしそうに胸に抱いた。


吸血鬼の寿命は、悠久だ。

それに比べて、人間の命はあまりにも短く、儚い。


(レオン、すっごく立派になっただろうな。クロエちゃんも、きっとかっこいい騎士になってる。……ソフィアは、今日も可愛いんだろうな)


一緒に笑い合った学園での日々。

泥だらけになった武闘大会。夜のパジャマパーティー。

全てが、キラキラと輝く宝石のような思い出だ。


「……会いたいな」


セレスの紅い瞳から、ポロリと一粒の涙がこぼれ落ちた。

人間と魔族が和解したとはいえ、次元の壁を越えて人間界と魔界を行き来することは、そう簡単なことではない。

寿命の違う彼女たちとは、もしかしたら、もう二度と会えないかもしれない。


(でも、私……みんなのこと、何百年経っても、絶対に忘れないよ。ソフィアの温もりも、ずっと……)


頬を伝う涙を拭い、切なく、美しく、静かな余韻が夜風に溶けていく。

孤独な吸血鬼の少女が、大切な人間たちとの思い出を胸に、悠久の時を生きていく——。




美しくも悲しい、感動のエンディング。














……かと思いきや。


——ドゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!!!!


「…………え?」


感傷に浸っていたセレスの目の前で、魔界の王城の堅牢な城壁が、文字通り『大爆発』を起こして粉々に吹き飛んだ。


もうもうと立ち込める粉塵。

けたたましく鳴り響く魔界の警報。

「な、なんだ!? 敵襲か!?」と寝巻き姿で慌てて飛び出してくるヴラド王とエリーゼ王妃。


その、爆発の煙の向こう側から。


「——見つけましたわァァァァッ!! 私の、セレスさぁぁぁぁんッ!!!」

「お待たせいたしました、セレスお姉様ァァァッ!! 騎士クロエ、次元の壁を叩き割って推参いたしましたァァァッ!!」


「えええええええええええッ!?」

セレスの目が、点になった。


煙を切り裂いて飛び出してきたのは、純白のドレスを砂埃で真っ黒に汚したソフィアと、大盾を構えて息を荒らげているクロエだった。


「ソ、ソフィア!? クロエちゃん!? な、なんでここに!?」

「なんでって……セレスさんに会うために決まっていますわ!!」


ソフィアが、ものすごいスピードでバルコニーに飛び乗り、セレスの細い体をガシィィッ!と骨が軋むほどの力で抱きしめた。


「ちょっと! なんで人間が魔界にいるの!? ここ、次元が違うんだよ!?」

「ええ! ですから、セレスさんに渡した私の血。あれを『目印ビーコン』として、私が古代の禁忌である『次元跳躍魔法』を過剰な魔力で強引に発動させ、座標がズレて閉じかかった次元の隙間を、クロエさんが盾の物理攻撃でこじ開けましたの!!」

ソフィアの瞳は、次元を越えたことによる疲労など微塵もなく、セレスへの愛と執念でギラギラと輝いていた。


「物理で次元を!? むちゃくちゃだよ!!」


「愛の力に、次元の壁など関係ありませんわ!! 寿命が違う? 離れ離れ? 冗談ではありません! 私はセレスさんが死ぬまで……いいえ、セレスさんが不老不死なら、私もあらゆる手段を使って不老不死になって、永遠に貴女に付きまとってやりますからね!!」


ソフィアの、相変わらずの激重すぎる、そして次元すら物理で超越するほどの狂気的な愛の告白。

そこにクロエも「私もですお姉様! 共に永遠の騎士の誓いを!」と抱きついてくる。


「ひぃぃっ! 二人とも重い、重いよぉ!」


セレスは、涙も完全に引っ込み、二人の強すぎるハグにもみくちゃにされながら、幸せそうに(そして少し息苦しそうに)笑い声を上げた。


「……あの。エリーゼよ。なんか、城の壁に大穴が空いているのだが……」

「……ヴラド様。セレスのお友達ですもの。歓迎のチキンスープを準備しなくてはなりませんわね」


ポカーンとしている両親と、遠く離れた人間界で「あいつら、卒業式の後マジで次元跳躍しやがった……これなんて報告したらいいんだよ……僕の胃は永遠に休まらないのか」と頭を抱えているレオンハルトの姿を他所に。


規格外の吸血鬼少女と、次元をぶち壊して会いに来る激重な乙女たち。

彼女たちのハチャメチャで、尊くて、愛に溢れたドタバタな日々は、世界が変わっても、次元が変わっても——永遠に、終わることはないのだった。

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