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不格好な泥柱と、分断の戦術

『学園対抗武闘大会』も、いよいよ準決勝。

すり鉢状の闘技場は、立錐の余地もないほどの観客で埋め尽くされ、異様な熱気と歓声に包まれていた。


「さてさて! 激戦を勝ち抜いてきた王立アルカディア代表チーム! 迎え撃つは、質実剛健を地で行く武闘派校『鋼獅子はがねじし塾』だァァッ!」


実況の声が響き渡る中、闘技場の中央で両校の代表チームが向かい合う。

アルカディア側の陣形は、前衛にクロエとガレス、後衛にレオンハルトとセレスという基本の布陣。

対する鋼獅子塾のチーム構成は、筋骨隆々の前衛戦士が3人、そして後方支援の魔法使いが1人という、極端なまでに物理攻撃に特化した攻撃的な布陣だった。


「アルカディアチームめ。前回の試合は偶然の風で勝てたようだが、我々鋼獅子の『三連牙』の陣形は、そんじょそこらの風では崩れんぞ!」

鋼獅子塾のリーダー格である巨漢の戦士が、巨大な戦槌を肩に担いでニヤリと笑う。

彼らの強みは、3人の前衛戦士が阿吽の呼吸で放つ、一糸乱れぬ完璧な連携攻撃だった。


「ふん、前回の俺は不覚を取ったが、今回は一味違うぞ! バルバロスの剛力、存分に味わわせてやる!」

ガレスが巨大な戦斧を構え、やる気に満ちた声を上げる。前回の試合でただ一人、セレスの暴風に吹き飛ばされて目を回していた彼は、今回こそいいところを見せようと鼻息を荒くしていた。


「ガレス殿! 頼りにしていますよ!」

クロエも白銀の剣と盾を構え、爽やかに笑う。その後ろでは、レオンハルトがすでに胃薬を噛み砕きながら杖を握りしめていた。


そして、ただ一人。

「わぁ、相手の人たち、すっごく筋肉ムキムキだね! 強そう!」

セレスだけが、まるで動物園で珍しい猛獣でも見ているかのような、呑気な感想を漏らしていた。


「……試合開始ッ!!」

審判の銅鑼が鳴り響いた、その瞬間。


「いくぞ! 散開!!」

鋼獅子塾のリーダーの号令と共に、3人の前衛戦士が爆発的な脚力で闘技場を蹴り、左右に大きく広がった。

彼らの狙いは明確だった。盾となるクロエとガレスを左右から回り込むように躱し、後衛の要であるレオンハルトを『完璧なタイミングの挟み撃ち』で仕留めること。

お互いの視線を交わし、呼吸を合わせ、1フレームのズレもない完璧な連携。


「くっ、速い! 左右から同時に来るぞ!」

レオンハルトが迎撃の魔法を練ろうとするが、相手の戦士3人は見事に散開しており、範囲魔法では捉えきれない。


「わわっ、なんかすごい勢いでこっちに向かってきてる!」

標的のすぐ隣にいたセレスは、戦士たちのものすごい形相に思わずビクッと肩を揺らした。


(あんなムキムキの人が突っ込んできたら、ぺちゃんこにされちゃう! 私も早く隠れる場所、作らなきゃ!)


セレスはギュッと目をつむり、両手を地面に向けた。

ダンジョンで教わった『魔力を練る』感覚。それを土属性の魔法に応用し、自分の目の前に「ちょっとした土の壁」を作ろうとしたのだ。


(小さく、優しく、私の前に、ぽこんっと……!)

「えいっ!」


——ボゴォォォォォォォォォォォォンッ!!!!!


闘技場に、地盤沈下でも起きたかのような凄まじい地鳴りが響き渡った。


「な、なんだぁぁぁっ!?」

実況が絶叫する。


セレスが「えいっ」と魔法を放った瞬間。

彼女の目の前……ではなく、なぜか闘技場の『ど真ん中』の石畳が爆発するように隆起した。

そして、そこから生え出たのは、美しい防壁などではない。

まるで巨大なキノコと抽象芸術を混ぜ合わせたような、ボコボコと捻じ曲がった『超絶不格好な巨大な土の柱』だった。


「あーあ、また力の加減間違えちゃった。変な形だし、全然違うところに生えちゃったよ……」

セレスは自分の生み出した前衛的なオブジェを見上げて、「失敗したなぁ」と呑気にため息をついた。


しかし。

その『失敗』が、闘技場に奇跡的な戦局の変化をもたらした。


「い、勢いが止まらん! このまま突っ込めェェッ……って、うおおおっ!?」

左右から完璧な挟み撃ちを仕掛けようとしていた鋼獅子塾の戦士たち。

彼らの突進の『動線ルート』のド真ん中に、突如としてその不格好な柱がボコンッ!と生え上がったのだ。


「ぐはぁっ!?」

右から回り込もうとしていた戦士の一人が、避けきれずに土の柱のいびつな出っ張りに顔面から激突し、白目を剥いて倒れ込んだ。


さらに致命的だったのは、その柱が残りの戦士たちと、後衛の魔法使いの『視線』を完全に遮断してしまったことだ。


「なっ……!? 視界が! リーダー、どこですか! 合わせのタイミングが分かりません!」

「くそっ、この柱のせいで射線が通らん! 支援魔法が撃てないぞ!」


阿吽の呼吸とアイコンタクトに依存していた完璧な連携は、闘技場の中央を分断する不格好な柱によって、完全に機能不全に陥ってしまったのだ。


「……見事なタクティクスです、セレスお姉様!!」


その混乱を、観察眼に優れたクロエが見逃すはずがなかった。


「敵の陣形が分断されました! 孤立した右翼の戦士、私がやります!」

クロエは地を蹴り、柱の陰で状況が掴めず立ち止まっていた敵の戦士の懐へ、一瞬にして潜り込んだ。

「なっ、アルカディアの騎士……!」

「遅いっ!!」


ガギィィィッ!

クロエのラウンドシールドが戦士の顎を的確に打ち上げ、脳を揺らされた敵が崩れ落ちる。一瞬での各個撃破。


「おのれぇっ! よくも仲間を!!」

柱の反対側から駆けつけた敵のリーダーが、怒り狂って巨大な戦槌をクロエに向かって振り下ろそうとした。

しかし、その動きを、クロエの後方からすかさずカバーする大きな影があった。


「俺を忘れんなァァッ!!」


ガレスだった。

彼は巨大な戦斧を両手で握り締め、筋骨隆々の体をバネにして跳躍した。


「バルバロス家の剛力、見せてやる!」

ガァァァァンッ!!!

ガレスの戦斧と、敵リーダーの戦槌が真正面から激突する。闘技場に火花が散り、強烈な衝撃波が巻き起こる。


「ぐぬぅっ……! な、なんという腕力だ……!」

「へっ! 前回の試合で嵐に揉まれた俺に比べれば、お前のハンマーなんてそよ風みたいなもんよ!」

ガレスはニヤリと笑い、持ち前のパワーで敵リーダーの戦槌を力任せに弾き飛ばした。


「クロエ!!」

「はいっ!!」

体勢を崩した敵リーダーの胴体に、クロエの白銀の長剣(峰打ち)が容赦なく一閃される。


「ごふっ……!」

これで、鋼獅子塾が誇る3人の前衛戦士は、完全に沈黙した。


残るは、最後方にぽつんと取り残された敵の魔法使いのみ。

柱の陰から慌てて顔を出した彼は、仲間が全滅している光景を見て悲鳴を上げた。

「ひっ……! バ、バカな! 我々の完璧な連携が、あの醜い土の柱一本で完全に崩壊するなんて……!」


「……醜いとは失礼な。あれはうちのチームの『計算し尽くされた完璧な分断魔法』だ」


冷ややかな声と共に、柱の上にいつの間にか飛び乗っていたレオンハルトが、杖を敵の魔法使いへと突きつけていた。

(本当はただの失敗作だろうし形も超絶ダサいけど、相手が勝手に深読みしてくれているなら乗っかるしかない……!)


「灰燼に帰せ、『爆炎槍』!!」

レオンハルトの放った炎の槍が、敵の魔法使いの足元に着弾し、爆風で彼を闘技場の場外へと吹き飛ばした。


「し、勝負ありぃぃぃっ!! 勝者、王立アルカディア代表チーム!!」

審判の絶叫と共に、観客席からは再び割れんばかりの大歓声が巻き起こった。


「すげぇ! 相手の完璧な連携を、たった一本の柱を生やしただけで完全に封殺したぞ!」

「セレスとかいうあの少女、前回の『物理弾き』といい、どれだけ規格外の戦術眼を持っているんだ!」


熱狂する観客たち。彼らの目には、セレスが『戦局を完全に支配する冷徹な軍師』として映っていた。


「わぁーっ! みんなすっごいかっこよかった! ガレス君も斧がドカーンってなっててすごかったよ!」

当のセレスは、自分の生み出した不格好な泥柱の横で、呑気にパチパチと拍手をしている。


「ふはははっ! 見たかセレス、これがバルバロス家の力だ!」

ガレスは鼻高々に胸を張り、クロエも「お姉様の完璧な分断のおかげです!」と嬉しそうに駆け寄ってきた。


その後ろで。

「……今回も、僕は何の役にも立っていない気がする……」

レオンハルトは、セレスの『無自覚な奇跡』に振り回され続ける己の運命を呪いながら、崩れゆく不格好な泥柱を空虚な瞳で見つめるのだった。




試合後。

控室に戻ってきた代表チームを、ソフィアが出迎えた。


「セレスさん! 準決勝突破、おめでとうございます!」

ソフィアがすかさずセレスに駆け寄り、よく冷えた手ぬぐいで彼女の首筋の汗を優しく拭う。


「うん! クロエちゃんとガレス君がすっごく頑張ってくれたの! 私は変な泥んこ遊びしちゃって、全然役に立たなかったんだけどね」

「そんなことありません。セレスさんがご無事だったなら、それが最高の結果ですわ」


ソフィアはニコッと微笑みながら、セレスの腕に自分の腕を絡ませた。

そして、その後ろから意気揚々と戻ってきたクロエに向かって、チラリと視線を送る。


「クロエさん。ガレスさん。……セレスさんをお守りいただき、感謝します」

ソフィアの言葉には、確かな敬意が込められていた。


「ふふん! 騎士の誓い、しっかりと果たしましたよ! ガレス殿のサポートも見事でした!」

クロエが胸を張ると、ガレスも「おう! 俺の背中は岩より硬いからな!」と豪快に笑う。


「……ええ。ですが、次はいよいよ決勝戦。相手もただ者ではないはずです」

ソフィアの瞳の奥に、スッと冷たい光が宿った。

「もし、決勝戦でセレスさんに少しでも危ない橋を渡らせたら……」

「わかってますよ、ソフィア殿! 呪われる前に、私が敵を全員薙ぎ払ってみせます!」


「あはは、二人ともまた火花散らしてる! 仲良しだねぇ」


セレスの呑気な笑い声が控室に響く中、アルカディア代表チームは、いよいよ『学園対抗武闘大会』の頂点を決める決勝戦へと駒を進めるのだった。

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