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【完結】断罪された悪役令嬢は、不貞腐れの貴族令息の幸せをつかむ  作者: ましろゆきな


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第3幕:ヴィンセントのお屋敷と卒業式

 1.囲い込みの提案と、クローゼットの狂気


「……いや。ルビーナを……娘を、頼む。どうか幸せにしてやってくれ」

「ありがとうございます。……我が命に代えても」


 ヴィンセントが恭しく頭を下げる。

 お父様からの正式な許可を得た彼は、ふと少しだけ困ったような、気遣わしげな顔を作った。


「閣下。厚かましいお願いではありますが……今の王都は、兄の起こした騒ぎで心無い噂が飛び交っています。ルビーナの心がこれ以上傷つく前に、卒業式までの数週間、彼女を僕の領地で休ませてあげたいのですが」


「おお、それはありがたい。確かに今の学園にルビーナを通わせるのは不憫だ。……ルビーナ、お言葉に甘えなさい」

「はい、お父様……」


 こうして私は、あれよあれよという間に馬車に乗せられ、王都から少し離れたヴィンセントの美しい領地へとやってきたのだ。


 案内された私室は、急な滞在とは思えないほど完璧に整えられていた。

 日当たりが良く、私の好きな意匠の家具が並んでいる。


「急なことだったから、お着替えも最小限しか持ってこられなかったわ……とりあえず、侍女に頼んで少し見繕ってもらわないと」


 そう思いながら、何気なく大きなクローゼットの扉を開けた瞬間。

 私はその場で固まった。


「え……?」


 そこには、私の髪色や瞳に最も映える色合いで作られた、最高級のドレスがぎっしりと並んでいたのだ。

 しかも、恐る恐る袖を通してみると、どれもこれも私の体型にミリ単位でぴったりと合っている。


(急な婚約だったのに、どうして私のサイズに合うドレスがこんなにあるの!? 偶然? それともヴィンスの目測が凄まじいの……!?)


「ルビーナ。お部屋は気に入っていただけましたか?」


 そこへ、彼がひょっこりと顔を出した。

 私は動揺を隠しきれないまま、クローゼットを指差す。


「ね、ねえヴィンス。お屋敷の準備、いくらなんでも手回しが良すぎないかしら? これ、全部私のサイズぴったりなんだけれど……」


 するとヴィンセントは、少しだけ肩をすくめ、美しい濃青の瞳を潤ませるように瞬きをした。


「準備、頑張ったんだよ?……ルビーナに喜んでもらいたくて」


「えっ」


「僕のような男のところへ来てくれた君に、少しでも不自由な思いをさせたくなくて……夜通し職人を手配して、無理を言いました。……引きましたか?」


 少し伏し目がちに、縋るように私を見つめるヴィンセント。

 その姿を見た瞬間、私の「手回しが良すぎる」という疑問は、見事に吹き飛んだ。


(私のために、そんなに無理をして準備してくれたのね……! 疑うなんて最低だわ、私!)


「ううん、引くわけないわ! とっても嬉しい。ありがとう、ヴィンス!」

「よかった……。君が喜んでくれて、本当に嬉しいです」


 ホッと胸を撫で下ろす彼を見て、私はますます「私がこの人を支えなきゃ」と決意を新たにしたのだ。

 彼が何年も前から、私の成長に合わせて特注の型紙を作らせ続けていたことなど、知る由もなく。


 ◇◇◇


 2.平和すぎる学園と、飛び級卒業式


 領地での穏やかな(そしてなぜか私の好物ばかりが食卓に並ぶ)数週間はあっという間に過ぎ、私は卒業式に出席するため、久しぶりに王都の学園へと足を踏み入れた。


(あんな騒ぎの直後だもの。きっと色々と言われるわよね……)


 憂鬱な気持ちで馬車を降りた私だったが、学園の様子は拍子抜けするほど静かだった。

 すれ違う生徒たちは、私を見るとサッと目を逸らすか、引きつった笑顔で会釈をしてそそくさと立ち去っていく。

 アーサーの姿はない。聞けば、領地に引きこもって謹慎しているらしい。マリエッタも孤立しているようで、私の視界には一切入ってこなかった。


「みんな、気を遣ってくれているのね……」


 私は安堵の溜息をつき、卒業式の会場である大講堂の席についた。


 厳かな雰囲気の中、式は滞りなく進んでいく。

 そして、卒業証書の授与が始まり、学園長が高らかに名前を呼び上げた時だった。


「――特別飛び級卒業生。ヴィンセント・フォン・ヴォルカリス」


(…………えっ?)


 私は自分の耳を疑った。

 静まり返った講堂に響く、優雅な足音。

 壇上に上がったのは、見間違えるはずもない、私の愛しい(少しどんくさいはずの)婚約者だった。

 彼は完璧な所作で証書を受け取ると、壇上からまっすぐに私を見つけ、優しく微笑んだ。


 式が終わった後、講堂の裏手で私を待っていた彼に、私は慌てて駆け寄った。


「ヴィンス! ど、どういうこと!? あなた、まだ卒業まで時間があったはずじゃ……!」


 私が問い詰めると、彼はコテンと首を傾げ、私の手を取って自分の頬にすりすりと擦り寄せた。


「ルビーナがいない学園に、僕が残る理由はありませんから。……少し、急ぎました」


「少し急いだレベルじゃないわよ!? 飛び級なんて、よっぽどの功績や単位がないと……!」

「君を一人で領地に残しておくなんて、心配で学業が手につきませんでした。……これでずっと、一緒にいられますね」


 またしても「君が心配で」と甘えてくる彼に、私は完全に絆されてしまった。

 彼が裏で王家直轄事業の権力を使い、さらにはアーサー派閥を徹底的に沈黙させるための交渉材料として学園側をねじ伏せた……という事実など、私が知るはずもなかった。


「もう……本当に無理ばかりするんだから。仕方ないわね、これからは私がずっと側でお世話してあげるわ」

「ええ。……永遠に、お願いしますね」


 彼の瞳の奥で、決して逃がさないという暗い執着の火が揺れたことに、私はやはり気づけなかったのだ。

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